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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
27/53

事件について思いを話す

たった二人暮らしの松野さんの家に、ボクたちキャラバンの連中が加わって、集落のお爺さんたちも加わって、何やら宴会が始まった。



「近頃の若いもんは、何考えているか分かんねぇからな~」

爺さんは、秋葉原の事件で、何気に僕らを見る。

僕たちは、どう映っているのだろう。ちょっと緊張した。


「この人たちは、この家を宿屋にしようと、いろいろ手伝ってくれているんだ」

松野さんが、僕たちを庇った。


「宿屋?」

「そうです! 農業を体験できる宿屋を作るんです!」

爺さんたちは、考え込んだ。


「んだ。奥さんの料理の腕を見込んでのことだけど」

奥さんはとっくに、奥に引っ込んでて、顔も見せない。


「そうさな~、ここの料理美味しいもんな、なかなか…いないよな。ここまで出せる人は」

「んだとも、下手な居酒屋より、うんとうんめぇ」

「宿屋なら、流行るな、建物も今時の人に受けるもんな」

「うちらの、オンボロなだけの家じゃ~な」

「でも、農業下手だっぺ?」

「うぐぅ…」

松野さんは、うな垂れてしまった。


「農業指導なら、善三さんがよかっぺ」

「んだとも」

んだんだと爺さんたちが頷いた。


「てゆーかー、一軒だけじゃなくって、地域全体でやった方がいいんですよ、こうゆうのは。役場が一体何のためにあるというの?」

雪ネェが、提案をした。

一人勝ちでは、周りが面白くないから、そのうちコケる。

みんなの協力がなければ、成功もおぼつかない。


「何軒かで…」

そのうち、地区長会議のようになって来た。

ま、結局結論は出なかったにせよ。

爺さんたちが色めき立ったのは、感じた。

そして、機嫌よく帰って行った。

玄関までみんなでお見送りをしてから、ホッとした。

みんなは、内心思った。さすが雪ネェ。大下さんは、お酒に酔って寝てるし。


☆☆☆

何日かすると、秋葉原の事件の犯人の心境の解明が進むにつれて、僕らは他人ごとじゃなくなって来た。

「前の僕らよりも条件が良かったじゃん」


「君たちも、派遣社員だったの?」

松野さんも驚いた。


「そうだよ。僕らは元々ネット難民なんだから」

「ネット難民…」

スンちゃんが構わず言った。


「僕らは、住むアパートもなかった。ちゃんと、寮もあって、月収三十万円もあったら、おんの字じゃん」

「お金の話の本でね、もう金がなくなったと絶望的な人が相談に来て、著者がびっくりしたらしいんだけどね。”あと三億円しかないからどうしましょう”なんだって」


「僕らの感覚からいえば、何人もが一生遊んで暮らせる額じゃん!」

「僕らは金をばら撒いて、遊ばないと思うけどね」

「そう、就職の氷河期に企業回りしていたから、特に何も持たない世代でもある」

「あまりにも、金がなさ過ぎて、所有欲が育たなかったな。ハハッ」

「その彼もさ、貯金もあったろうに、それで絶望的になるの?僕らから見たら、それでもまだ羨ましかったりしてね」

「彼女ない」

「それは、同じ」

「仕事がクビ?」

「俺たちだって、分かんないよね?」


「“おれのツナギがないぞ”でも、そういう憂き目って僕たちも結構遭って来たよね?」

「もちろん誰かが、からかってか、嫌がらせかで隠したと思うよ。よくある話さ」

「仕事は、正社員が続かないような、単調過ぎるのだったり、真夜中に身体にきつかったり、これ一生やってたら、シンナーで頭おかしくなりそうな、内装のやっつけ工事とかね。真面目にやり遂げたとしても、明日がない。だから遅かれ悲劇が起きる」

「世界中の労働者がストライキやっているよね。石油の高騰が原因なんだけどさ。

トラックの運ちゃん、漁業の人、一部のお金持ちの先物取引や、マネーゲームのために、汗水垂らして、働いている連中が食えないなんて、そんな可笑しな世の中、転覆するよ。歴史が変わると思うよ。

僕らすごい時代の生き証人だぜ!!」

松野さんも、うんうんと頷く。


「昔の終身雇用制って、素晴らしい時代だよな。護送船団方式も一時悪く言われていたけど何でかなって思うよ」

「もうすぐ、もっと凄い世の中になるらしいよ、光の経済なんだって」

「光の経済?ふ~ん何かよさそうだね」

「多分、世界中の人が飢えることもなく、戦争もない世界だよ」

「信じられないけど、そんなになるならぜひ、長生きして見てみたいもんだ」

「だから、自殺なんか考えずに、やけになって何人も道連れにしないで生きようよって、犯人に言いたいよね」


「まっ、そのためには僕らの世代がこの地球上での苦しみとか、悲しみとか解決するまで、頑張るしかないけどさ。とにかく、その時代に僕らは生きている、生きている~♪」

成っちゃんが絶好調で、最後歌っちゃった。


カサカサと音がして、雪ネェが何やら、紙にメモ書きしていた。


「“午後 2時42分 人間と話すのって、いいね”ってさ、人恋しいのにさ、何で?やっちゃうの」

「“中学時代までは幸せだった”ってさ、その幸せって本当の幸せじゃなかったんだよ。きっと、本当の幸せは何度思い返しても幸せなんだ。不幸が押し寄せても堪えれる心が育つんだ。本当は犯人、不幸だったのに気づかなかったかも知れないよね。条件付けの幸せって、ありえないよ」


「勉強、勉強の詰め込み主義に明け暮れて、考える脳が育たなかったのかもね。無邪気な子供時代を過ごさなかったとか」

「親の意向に沿って生きて、自我が育たなかったのかな?」

「K容疑者は調べに素直に応じ、留置場でも正座するなどして“うそをつくつもりはありません”と話しているんだって」

「ここの辺が、変わってる。よくある凶悪事件を起す人なら、弁護士つけて、言い逃れして、精神的に変な人の振りするよね~」


「助けてって、小さな子供が叫んでるみたいな」


「両親の愛情が、成績が悪くなったら弟に行っちゃったんだろ?丸っきり来なくなったんだろ?」


「うん、それは、両親への思慕と、復讐だよね。ほら、あなたのお子さんがこんなことをしでかしたよ。ってさ」 


「両親にあれだけ、繊細に愛を求めて、過去の栄光と今を比べて、傷つき易いのは分かるけど、赤の他人の命は、ど~うだっていいみたいな。不思議な頭の構造。それってちゃんと愛のある生活をしている人から、愛を奪うことなんだけど、貰っていないから本物の愛がわからないんだ」


「自分と他人、親、兄弟の関係があって、他人と他人の家族や、友達の関係は、想像すらできないのは、何?」

「そこが丸っきり分かんないよ」


「確かに絶望の中であがいてる若者は多い。だけど、僕たちは絶対に加害者側にならないと言い切れる! 何でかっていうと~」

成っちゃんが次の言葉を捜していた。


すると、みんなの話しを黙って聞いていた松野さんがそっと言った。


「昔、円谷っていうマラソン選手がいたんだけんども。知ってる?」


「知らない。円谷プロの、ウルトラマンだったら知ってる」


ゴロスケが即答した。ほぼ若い世代は知らない。でも、大下さんとか、雪ネェは本で知っていた。

「銅メダル取って、ケガでマラソンできなくなって、自殺したんだ」


「“男は後ろを振り向いてはいけない”って父親の戒めを守って、振り向かなかったから、すぐ後の選手に気がつかなかった。それで銅メダルになった。親の期待のみで、一生懸命走ってた。走れなくなったら、自分に価値を見出せなかったんだ」

「オリンピック選手じゃ、国民の期待っていう、重圧もあった」


「今も凄いあると思うけど、昔は国民全部が期待したからな」

「あの時代は“それでもいいじゃん”って言ってくれる人がいなかったんだよね~」

「その、走れない体でも十分に価値がある筈なんだ。もう一つ別な生き方を模索して欲しかったな」

「あの時代は、純粋にそう生きて、”でも待てよって”、クールに自分を見つめる目がなかったってゆうか~」

「幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました”って遺言、あるけんどもさ~、悲しいだよね」


「自分の本当の気持ち、出せない」


「無理して生きてる人間がいかに多いかってことで、その自分が壊れる限度も気がつかない」

「それが、毎年三万人っていう数字に出ているね」

「私たちと秋葉原の無差別殺人の彼が、どう根本的に違うかっていうと、人生の指針というもの?人生の羅針盤がなかったのよね」


「規範意識?」

「うん、もっと分かり易く言うと、良心かな」

突然、珍し~く黙っていた雪ネェの目が輝き出した。


みんなは、予見した、マシンガントークが来るぞ!!と。


大自然の恵みの中。

ここは誰も自分を傷つけない場所、そして仲間たち。

だから、安心して本音が言える。


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