松野家の事情は…
かかあ天下の家の中を、上がるのはちょっと気が引けるけど
いつもは何とかなったキャラバンのメンバー
はてさて…
雨は、しとしと降っている。
灯りのついている玄関まで、小走りに行く。引き戸を開けると、敷居が高く、跨いだ。
八畳ほどの長細い土間になっていて、なぜか、奥には埃にまみれた土…。
雪ネェは、大下さんの方をちらりと見た。
大下さんは、すっかりご機嫌になっていた。酔うとライオンから、猫になる。
「この家構えと、この料理、・・・」
バターン
その刹那、大音響とともに、松野さんの奥さんが襖と、一緒に倒れこんだ。みんなは、凍りついた。
「おお、奥さん大丈夫か?」
松野さんが、駆け寄った。奥さんも、聞き耳を立てていたみたいだ。建てつけが古いから、外れたらしい。
「・・・何とか」
奥さんは、襖から起き上がると、入念に傷はないかと襖をチェックした。
無事のようだ。
少なからず、埃が舞い上がり、みんなは、一メートルは、遠のきに見ていた。
「松野さん、ファックス付きの電話あるもんね?」
「うん」
「ちなみに、パソコンは、ないよね」
「ある」
奥さんが代わりに返事した。
「え~」
驚いてばっかりもいられない、気を取り直すと、雪ネェは指示した。
「じゃあ、スンちゃん、ホームページ開設して!」
「はいよ!」
「それから、許可申請の手続き、つーか町役場と相談だ。連携プレーだから」
それは、コウジと大下さんになるだろう。
「私たちは、とにかく徹底的にこの家を掃除する!」
「掃除?こんなボロ家?お客さんを招くの?」
「このボロが、いいんだから~」
「これが?改装するには、金がないし、ボロは嫌だろ?暗くて」
雪ネェは、ゆっくり首を横に振った。
「で、雪ネェ、何企んでるのさ?」
「へへへ」
「分かった、農泊だ!」
「そう、正解!グリーンツーリズム」」
「農業の仕方も変えないとね。みくにのおばさんが薦めてくれたサイトで、『炭素循環農法』があるから、今までの考えを大転換して、農薬を一切使わない畑を試みるの。試みるだけでいいからさ」
「え~、農薬使わないの?」
「そう」
「全く使わないのは、育たないよ~。毎年、農協さんが、違う薬売りつけられて、だんだん値段も上がって、でもだんだん虫強くなるの、増えるばっかりだよ~」
「あんた、作物作るの、下手なんだから」
奥さんの言葉が、バッサリと斬った。
「グビッ」
「田んぼは、合鴨農法とかさ」
「田んぼはね、ちょっと伸びてきたら、除草剤撒いてるよ。稲が枯れない程度のね、量。そうでなかったら、人手が足りないよ~」
「急には、合鴨できるかな?どうかな~?」
「ってゆうか、いっぱい米ぬかを撒くって書いてあったな~」
「で、あんたたち、実績はあるんですか?」
奥さんが尋ねた。
「ない」
「ああ~、そう~」
その声には、大地から湧き出すような声で、不機嫌さが込められていた。松野さんに、これを毎日やられていたら、身体壊しそうだ。
「ねぇ、松野さんって、パソコンいじれると思う?」
雪ネェが聞いた。
「ああ、そうか」
「ところで、松野さん、パソコン大丈夫?」
「いや、駄目」
「奥さんは、どうだろう?」
スンちゃんは、真っ直ぐに奥さんの顔を見つめた。すると奥さんは、気弱に顔を背けた。
「前に通販で買って、組み立てようとして、止めた。押入れにある」
奥さんが、押入れを指さした。押入れがいっぱいあり過ぎて、どの押入れかわからない。
「ここ?」
「違う」
「ここ?」
「違う。その隣」
「そこに、あるのか!」
松野さんが急いで、かけよって襖を開けると、座布団が崩れ落ちた。
その上段の奥に大きな木の茶箱があった。
ダンボールは一度開けた形跡があったが、それまでだった。
そこから、面倒で嫌気がさしたのだろう。
成っちゃんとスンちゃんが、電気屋さんみたいに、デスクトップ型のパソコンを取り出して、モデムや、電話機、ハードの裏のコードを繋ぎ、テレビのある居間の机の上に、使えるように置いた。インターネットを開通させるのに、少々日数がかかるのだ。
「松野さん、立ち上げ方を教えるからね」
「まず、電源を入れて、立ち上げて…」
松野さんは、素直に反応して立ち上がった。
「パソコンのそこ押して…」
予想通り、松野さんは画面を手の平で、押した。スンちゃんは、見なかったことにして、マウスを移動させた。
「松野さん、右手でこれ持って! ほら、見て、マウスの動きに合わせて、画面の矢印も移動してるでしょ~」
「あ~、本当だ! 矢印が動いてる~。すんごいっ!」
その感動的な歓声に、テレビの画面とパソコンの画面とが、ゴッチャになっているんだな~? と、スンちゃんは理解した。
「あんた、すごいね、パソコン動かしてる~」
奥さんが、ダンボールを片付けながら、遠くから絶賛した。
褒めてくれたのは、結婚して初めてのことだったらしくて、嬉しかったと、松野さんが後で教えてくれた。
「何か、いい予感がするな~」
コウジたちは、もう遅いので、押入れから、布団を取り出した。
大下さんが寝ているので、布団を掛けた。
奥さんが、お風呂を用意してくれたので、順番に入った。
この松野さんの初体験と同じに、僕たちの試みも確かな手ごたえを感じていた。
「これだったら、ブログに出せそうな…仕事だね」
みんなは、顔を見合わせ、ほほ笑んだ。
俺たちの考えがあり、何か手伝えることはないかなと思っていると、
ある一つのアイディアが浮かんだのだ。




