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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
24/53

消え入りそうな入り婿

大下さんの機転で、地元の農家の人と知り合いになった。

外からじゃわからない、色んな事情を垣間見てしまった。

「どうか、されたんですか~?」

「ああ、良かった、助かった!」

その人は松野さんといって、ガソリンが値上がったので、ケチって買わないでいたら、とうとうガス欠になったのだった。

さっき、大下さんも入れたが、今度ガソリンスタンドが見つかるまでは、ほど遠い。

「じゃあ、少しお分けしましょうか?でも、どうやって?ポンプがないしな~」

「すんませんな~、灯油用の手動のポンプならありますで、これで~、ちょっとばかり…」

軽トラの後に衣装ケースぐらいの大きな道具箱があって、パカッとフタを開けると、いろんな農作業用の道具が入っていた。

農作業用のホースに大きなゴミ袋。

四角いバケツには、スポンジ、タワシ、洗剤、雑巾。それによく見ると、モップ?デッキブラシ…?


「本当に農家なの?」

「うんにゃ、農家じゃ食えないから、清掃のアルバイトしてるよ」

「どうだね~、ガソリン貰ったから、お礼に夏みかんあげるよ、野菜もあるし、家に来ない?」


大下さんは、シメタ~と思いましたが、顔には出さず、腕組みをして考えた、振りをした。

「じゃ、お言葉に甘えて、頂きますとするか!」

コウジは、車の中にいて、大下さんのやり取りを感心して聞いていた。


「何これ?キャンピングカーなの? 中のぞいてもいい?」

やっぱり興味しんしんの様子だ。松野さんと目が合って、ペコリとお辞儀をした。


スンちゃんは、ここが聞かせどころかのように、熱弁を振るった。

話の腰は折れない。

「時間ってさ、ボ~としてたら、あっという間で終わっちゃうけど、使えば使うほど、たくさんのことができると思うのは、私だけだろうか?」

「ふむ」

「だからさ、お金も使えば使うほど、値打ちが上がると思うんだよね~。

千円が、一日でいろんな人の手に渡って循環するみたいに。

本もボロボロになるまで読まれるのと同じ。

そう、ボロ雑巾になるまで使われるってことだよ」

「お金に鮮度があって、生ものみたいに、新しいうちにお使い下さいって、賞味期限があれば、溜め込む人はいなくなるよね。急いで使わなきゃ~って」


松野さんは、あわてて顔を引っ込めてた。

「何か、難しいこと話してるね~」

「いや、お構いなく。セオリーは立派なんだけどね」

「へぇ~セオリ、俺セロリなら知ってるいけんどもよ」

「食えるだけ、セロリがマシだよ」

大下さんは、笑った。


白い軽トラックは、前をしばらく走って、水を張った田んぼが広がる農道を進み、一軒の農家に着いた。

大きな構えの日本家屋だった。

キャンピングカーは、エンジンを止め、みんなはぞろぞろと降りた。

「でかい家だな~」

「趣があるね」

大下さんが、感嘆とも、おべんちゃらとも取れる褒め言葉を連発した。

「でも、奥さんと二人っきりだよ」


「勿体ない」

それは、みんなも同感だった。

四角いゲージの中に、鶏がいた。

「庭には、二羽、鶏がいる」

ゴロスケが、さっそく駄洒落を言った。

「四羽じゃね~か」

自分で突っ込む。


裏には、畑があって、色んな苗を植えてある。

「きゅうり、トマト、なす、トウモロコシ、スイカ、ジャガイモ…色々あるよ。ほら、夏みかんの木もある」

「わは~、畑だ!農家だ、農家だ~」

みんなは、やっと農家に受け入れて貰えた気がして嬉しかった。

「みかんもあるよ。まだ早いけどね~」

「無農薬ですか?」

「まさか~、無農薬は難しいよ~。病気になっちゃって」

「やっぱり?」

「農協はね、毎年、違う薬売りつけるの、高いよ~。これぐらいの瓶が」、手でこれぐらいとして見せた。

「三千円する。千倍に薄めるけんどもよ~。俺は、買わない。もっと安いの使う」

「農協か~」

「農協で、無農薬の農法とか指導すればいいのに~」

「それだったら、農薬売れないからする訳ないよ。農協は、今はお金持ちしか、相手しないの。金融業だかんね。俺たち、貧乏人には知らん顔してるよ~」

「ふ~ん」

「キューバみたいに、国ごと全部が、無農薬の作物にならないかしらね~」

「…」

松野さんは、考えられないらしくて、黙っている。


「松野さん、大豆は、作ってます?」

「ああ、大豆ね~、畑がいっぱいになったから、植えるとこなくなっちゃった~」

「S県O川町では、無農薬の在来種の大豆が、高値で売れて、農業だけで、生活できているんだって~」

「うちは、もう売れるほどは作んないから、野菜は、みんなにくれちゃう。すいかなんか、二百個ぐらいできるけど、一個は、仏壇に飾って、あとはくれちゃう」

「二百個!」

「どうして、売らないの?」

「売るの、トレーサ何とかって、すんごい面倒臭いの。やってられないよ~」

「トレーサビリテー」

道の駅とかで、最近多くなった、産直の野菜コーナーだ。熱心な農家の人は、頻繁に出荷している。

「出したからって、全部売れるとは、限らない。また、引き取りに行くんだ~」

「やっぱり、上手に作らないと売れないからね」

そうなんだ。

とびっきり美味しかったら、引く手あまたなんだ。それは、何にでも言えることだ。


雪ネェが、キャンピングカーのキッチンで、コーヒーを淹れた。

それをみんなに配った。

そして、コウジは、一日一回、メールをチェックする、その合間にネットで、色々調べた。

「狂牛病の病気になった廃棄肉やその肉骨粉の配合飼料の指導したのは、農協でしょ?」

狂牛病を調べていると、ペットフードも危険なことを知った。

「だから、犬の病が増えていんのかな?」

コウジが独り言を言った。


「農協の巨大な組織も、生き残りをかけて大変だね~」

雪ネェが、言う。

「 見て!」

コウジに代わって、スンちゃんが色々調べて分かった。こういうのが出てきた。


「農協観光だって、グリーンツーリズム。ほら既に、こんなにあるよ」

なるほど、地方発、日本の改革だ。

地方は中央に頼っちゃらんないとばかりに、色々と知恵を絞って、独自路線を歩み始めた。インターネットがない時代には、考えられないことだ。


「植え付けと収穫、二回セットで、大人8,900円、子供7,900円だって~」

ターゲットは、都会に住んでいる、自然に触れ合いたい親子だ。人間は、土に触れないとどうも、おかしくなるのを、本能的に知っているんじゃないだろうか?


「日本国中、都会と田舎の関係が親密になれば、経済の格差も埋まるんじゃないかい?」

「そもそも、都会って集中しているから経済が成り立っている気がする~」

「全国にバラバラに、散らばれば、何もかんも、良くねぇ~?」

それで国が機能するんだろうか?


「でもさ、日本国中の人間が、例えば、一戸建ての家に住むとしたら、自然が破壊されるだろ? だから、都会に集中して住んで貰った方が環境の破壊が少しで済むと言える~」

成っちゃんの言葉に、目からウロコ、みんな黙った。


「まあ~っ、それは、そうだわね~。でも、一極集中のやり過ぎなんだよね。既に、都市機能は幾度もマヒしてるし~」


電車が停まり、線路を歩く通勤客の映像がよく流れる。

信号が停まったの、電気系統の故障だの多かった。


「あ、奥さんが来た」

松野さんが急に、落ち着きがなくなった。


松野さんは、さっきまでの天真爛漫さが、消え、無口になった。


 スッタ スッタ スッタ


六十過ぎの、日焼けした太った奥さんが、サンダルをつっかけて出てきた。

コウジたちのギャラリーが大人数だったけど、遠慮なく雷を落とした。


「あんた!また、どこをほっつき歩いてんの~」

その言葉に、トゲがあった。


「はい~」

消え入りそうな声。


(軽トラの運転じゃん)ゴロスケがささやいた。


松野さんは、しゅんとして、頬を指で掻いている。

そのうち足で、地面に字を書き出した。

奥さんは、ブスッとしたまま、こちらを見向きもしないで、回れ右をしてまた、家に入った。


 スッタ スッタ スッタ


 ガタピシッ


戸を思いっきり閉めた音が、聞こえた。


松野さんは、何か言われても、言われっ放し。

言い返せない。

これには、みんな同情した。

派遣先でも、似たようなものだったから。

仕事を教えて貰うから、自然と低姿勢になる。

気に入られるかどうかも心配だし。


コウジは、小声で成功体験を一つ伝授した。

「派遣先の朝の挨拶で、いつもこちらのあいさつを無視する先輩に、言い返したよ。『あいさつぐらいして下さいって』、気持ち良かった。その日は、缶ビールを買って、一人祝い酒に酔いしれたよ」

「だって俺、四男だし、入り婿だもん。気に入らなきゃ~、おん出されちゃうよ。知り合いなんか、子供出来たら、離婚されちゃったんだよ」


「何で?」


「だって、もう跡継ぎが出来たんだから用なしさ~」

一瞬、どうしてそうなのか分からなかった。


「またすぐ、嫁さんを見つけちゃったけどな」

「じゃあ、一人っ子同士の結婚も、大変かも知れないな~」

俺たちは、結婚以前の課題があったが。


「しかし、最後まで耐え忍ぶ者は、救われる」

雪ネェがポツリとつぶやいた。


「え~、婿というのは、そんなに弱いポジションなのか?」

みんなの、ショックは計り知れなかった。


「そんだよ~、自分がここに根付くかは、耐え忍んでやっと得られるからね」

みんなは、松野さんに、どうか自信を取り戻して欲しいと願った。

松野さんが、また無口になった。


 スッタ スッタ スッタ



やがて奥さんがサンダルを履いて、やって来た。

気配で分かるのか?

みんなをじろりと、睨んだ。

これには、みんなも身のすくむ思いがした。


「それで、祝い酒か」


奥さんが、そう、一言いうと、また奥へ引っ込んだ。


 スッタ スッタ スッタ


 ガタピシッ


小雨が降り出した。梅雨が始まったのだ。


「とりあえず~、車に戻るとするか~」

大下さんも、自分の過去とダブり、対処のしようがない。

沈んだ心を変えようと、雪ネェが久し振りにギターを取り出した。


♪ジャカジャン


井上陽水の心もようだ。

続いて、みんなが一緒に歌いだした頃。


キッ バターン


前触れもなく、キャンピングカーのドアを開けられて、一同、心臓が止まるかと思った。

奥さんが、憮然として、傘をさして突っ立っていた。


「酒の肴、作ったから…」


また、くるりと向きを変えて帰って行った。


「…」

毒を食べさせられそうで、恐かった。


しかし、奥さんの意図するものに逆らうと、松野さんへの待遇が悪化するかも知れない。


「奥さんに恥かかす訳にはいかないから~、みなさん、来てよ」


こういい残すと、男、松野世平は、覚悟を決めて、雨の中歩いて行った。

身をちぢこませて・・・。


ちょっと間をおいてから、大下さんが立ち上がった。

「Let's roll 」

9.11の再現映画化にもなった、あのセリフをゴロスケが言うと、みんなも続いた。



とっかかりは、驚くことばっかりだ。

でも、視点を変えると色んなアイディアが出るもんだ。

そして、お互いウインウインの交流は続く。

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