大下さんはひたすら運転手。後ろで経済問題をかく語りぬ。
決して悪い子じゃないんだけど、頭でっかちの子らは、自分の意見を言える場が大好きです。
テレビじゃあ、政治評論家や、国際政治評論家にしか言わせない。
ぼくたちだって、語らせて下さい。
「明日の日本を」
「不法侵入で思い出だしたんだけど、山って、こういう農家や、林業の元気な所は荒れてないけど、自然豊かな観光地で、農家があんまりいない所って、荒れてなかったかい?」
大下さんが切り出した。
「そうだっけ?」
「見た目は、とても緑がイキイキしているんだけどな。そこに住んでいる人は、観光産業の従事者が多いから、出稼ぎから移り住んで、でも個人の旅館で働いていた人やなんかは、年金はかけて貰えなかったりして、生活保護の人が多いって聞いたよ。個人の旅館自体もつぶれちゃってね。それが市の財政を圧迫しているって聞いた」
当然、不動産やなんか持ってないよね。
広い土地はみんな他人の物で、昔は、他人の土地でも平気で採りに行っていたけど、今は、山菜も採りに入れなくなったって。
タケノコ掘りもその土地の所有者でしか入れないから、高齢になったら、採りに行けない。すご~く、竹やぶが荒れていたよな。
誰でもある程度入れるようにしたら、山は荒れないで済むはずだよ」
「だから、竹炭作ろうとしたじゃん!」
「それが、残念ながら竹灰・バイになったけど」
「僕らは、たまたまスポンサーがいるけど、ただ働きじゃあ、割が合わないから、システムを作れない。お互いウィンウィンの方法があればいいんだけど・・・な」
「例えば、観光産業の従事者だって、一年中忙しい訳はない。暇な時は、お金も入らないから、その時の仕事として市から、賃金を払って貰って環境の整備するとか?」
「グリーンツーリズムってあるけど、エコツーリズムってものあるんだぜ!」
「環境を整備するボランティアやります! だけど、泊まる所と食べ物は半分サービスしてよ、とか?」
「例えば、キャンピングカー同士で、連携して、『今日は、関東地区のどこどこ町に集合して、山の整備をしましょう!』って呼びかけると集まるとか!」
「楽しい人生をエンジョイしているんだから、そんなの嫌だよって言われればそれまでだけど」
「お金払って、大自然を体験してみました! って言うのも良いけど、自分が力を貸して、こんなに良くなりましたって方が、本当は充実感があるはずだよ」
「プロの農業だって、忙しい時とヒマな時があって、忙しい時、キャラバンみたいに南から順に小作人が移動したりしてね」
車で、改めて見て周ると、特にプロの農家が少ない所は、山が荒れているのが良く分かった。
荒れた山っていうのは、密生している。
杉の植林をして、安い海外の木材に押されて、林業が成りたたなくなったから、山を放置。
でも木は生長を続けるから、か細く伸びる。
間伐をしないといけないのに、生活のため収入を得るためによそで働き、余裕がないのだ。
杉の植林した森では、キノコや山菜も生えない。
動物たちも腹ペコだ。下草も陽が当たらない。
高層の木だけ、日光浴ができるが、それ以外はおこぼれもない。
育たない。
何か人間社会と同じだね。
森もさ、多種多様の木々が育ってる所は、元気なんだよな。
一種類だけはおかしくなる。
奈良の吉野のソメイヨシノも土が湿り過ぎちゃってて、キノコの菌に侵されてあと、五年て聞いた。
観光のために、人間がしたことが不自然なのだ。
荒地に色んな種類の桜を植えたある町でも、台風で大きな桜の木が、根こそぎひっくり返ったって、意外なほど根が浅かったって。
根っこの浅い山肌は、大雨で崩れる。
甚大な被害と、補修事業にかかる費用を考えたら、間伐の方がずっと安上がりな気がする。
それにガソリンが値上がりして、去年の北海道だって、石油が高いから、薪ストーブがよく利用された。
新聞紙をレンガみたいに固めて、燃やしている人もいた。
大勢の人手が入って、森を間伐すれば、一年分の薪だって、国内だけでまかなえるだろうに。
二酸化炭素がなんだって言うんだ。
森が元気になれば、酸素も供給できるじゃないの?
国産の木を使えば、輸送コスト時の二酸化炭素だって、削減じゃ~ん。
「だいたいさ~、僕、発展途上国の通貨レートがあんなに安いの? あ~ゆ~の嫌いなんだよ。まるで、俺たちと同じじゃん。同じ働いてんのに、生活できないの」
コウジが言うと、みんなはいなかった。
とっくに、ナビのテレビに釘付けだった。
「大変だ、ミャンマーでサイクロンがあって、すごい被害だぞ!」
ミャンマーで発生したサイクロン「ナルギス」、四川大地震は、M8。この世の終わりかという大惨事だった。
とりあえず、車を市街地に移動して、郵便局へ行って、全員が寄付金を振り込んだ。
明日をも知れない、その日暮らしの僕たちが、寄付できるほどのゆとりが出来たのも、みんなみんな田園調布のスポンサーのお陰で、それを実行した大下さんのお陰で、公園の炊き出しで出会った、コウジのお陰で、だ。芋づる式に連なったみんなも、人格者になること…。
「だったら当然、寄付でしょ!」
となったのだ。
「一同、黙祷!」
車に戻ると、大下さんの号令で、黙祷した。
右肩あがりだった、日本の経済がおかしくなったのは、阪神大震災からだった。
あんな小雪のちらつく冬に、瓦礫の中をさまようなんて、平和な日本では、考えられないことだった。
中国は、五輪オリンピックで、経済大国として仲間入りしようとしていた矢先だ、これから長期に渡り、混迷を続けることになる。
みんなが泣いたのは、このニュースだった。
地震発生翌日の昼、建物の崩壊現場で女性がひざまずいた状態で発見された。
捜索にあたった隊員が死亡を確認し別の場所へ移ろうとした時、声が聞こえた気がした。
「赤ちゃんもいるぞ。まだ生きてる!」
助け出された男の赤ちゃんは生後3、4カ月ほど。母親が覆いかぶさっていたおかげで無傷で、すやすやと眠っていた。
赤ちゃんをくるんでいた毛布から携帯電話がこぼれ出た。
画面には「いとしい赤ちゃん。もし生き延びられたら、お母さんがあなたを愛していたことを覚えていてね」の文字。
「その人間の最期の生き様は、どうだったのか?」
って、問われているような気がする。
ますます世の中が荒れてくるから、上昇が必要だ。
白ヒゲのおじさんの紹介してくれた、新約聖書の『最後の審判』と言う言葉がよく出てくる。
「この先、日本はどうなるの?」
「さぁ~、僕に聞かれても~」
コウジは、頭をポリポリと掻いた。
コウジの肩を成っちゃんが叩いた。
「あのさ~、さっきの瞑想の時にさ~、みんなに何考えたか聞いていたじゃん!」
「うん」
「僕だけまだ、言ってないんだけど~」
「あ~、そうだっけ?」
「で、何考えたのさ」
「あのね、キリスト教の人間は、イエスキリストだけが神の子で、ってウソでしょ」
「うっ、そうだっけ」
「みんな神の子で、日本では、人間は神のわけみたまだから…。でも、悪いやつも生まれるし、天使みたいないい人も生きている」
「ほお~、それで?」
大下さん身を乗り出して、すっかりマジです。
「昔、メンデルの法則ってあったでしょ?」
「メンデル? そんな法則 あったっけ?」
大下さんは、学校を卒業してかなり久しい。それに、実社会で役に立ったためしは、全くなかったと断言できる。
「…あの、えんどう豆の?」
スンちゃんが思い出した。
「いいのと、悪いの、光と闇を掛け合わせると、いろんないいのと悪いのができる。幾世代も幾世代もかけて、究極のいい遺伝子のえんどう豆を作るの、これの人間版じゃない?」
「確かに、よい種をどこに撒いたかって、聖書のたとえにあったわね~」
雪ネェは、とっても聖書が好きみたいだ。
「よいえんどう豆は、遺伝子と環境で育つ、その育つって言う部分が、魂の情報ってゆうか~」
「つまり、本当の創造主は、えんどう豆をいろんなところに撒いて、いっぱい増やして、最後にほんの一握りのお気に入りを選ぶというのか?」
「うん、それの人間バージョン!」
「俺は、それの方が分かりやすいけどね~、そんなことを瞑想で考えたのか? へぇ~」
大下さんは、えらく感心していた。
「でね、ネットで調べたら、こういうのがあった。…一つの染色体から他の染色体に移動して、その場所の遺伝子作用を調節することを見いだし、遺伝子が単独で、一つの染色体から他の染色体に移動することがあることがわかった。このような遺伝子はトランスポゾン (動く遺伝子) といわれ、…」
「え?」
「遺伝子でない変化も起こるってことでしょ…、こういうのを突然変異っていうのかな? 運命が変わるっていうのかな?」
「さぁ~、」
「…」
雪ネェは、成っちゃんにまた何かが憑いたのかと思ったらしくて、こう言った。
「成っちゃん、あなた優しいから、霊なんかに頼りにされるんだよ! こうイメージしなよ! 紫色の光になって、闇が襲って来たら、光でバチバチッとやっつけな~!」
コウジとゴロスケは、その紫色の光を想像してみた。
「それって、蛾退治の蛍光灯じゃん!…その誘蛾灯とか、電撃殺虫器とか言う」
「ああ、それいいかもね~、ありがとう~♪」
成っちゃんは、急にニコニコした。その点で、密かに悩んでいたらしいのだ。
『森のキャラバン』号は、進路をもう一度S県O川町に向けて、動き出した。山の上の初夏の風は、涼しかったが、盆地になるとどんと暑くなって来た。
「暑っ~い」
「まるで、真夏だね~」
「あのさ、ここのところの何で、バチカンとサブプライムローンが関係するのさ?」
「そもそもバチカンて何?」
「あ~、キリスト教のカトリックの総本山がバチカン、ローマの中にある独立国家なの」
「ものすご~い、お金が集まるところ」
雪ネェとスンちゃんが交互に説明する。
スンちゃんは教師向きだと思う。
「で、さん然と飾り立てたバチカンのルネッサンス文化っちゅ~のは、スポンサーのメディチ家のお陰で~」
「メディチ家って、薬屋さんね!」
「銀行マネーの仕組みを作った所で、銀行にお金を借りたり預けたりすると、なぜか十倍に銀行は運用できる仕組みがあるの」
「そのカラクリは、どう考えても分からんけどね~」
「で、貧乏人はお金を借りて家を建てる、ローンの返済で奴隷になる。下手したら、ローンの返済が滞り、家も失う。借金だけが残る」
「ふ~ん」
「『ネバーエンディングストーリー』や『モモ』を作った、エンデっていう作家は、『時間どろぼう』っていう灰色の男たちの正体を利子と言ったのよ」
「利子?」
「ってか、『モモ』知らない。
『モモ』って何? 桃? じゃないよね」
雪ネェが話しに詰まって、うっとなった。
が気を取り直して、懇切丁寧に教えた。
「児童文学で、童話風に人を不幸にするものは何かと、何気に暗示したのよ」
間髪入れず、本題に戻った。
「で、お金の利子がなければ、そんなにガツガツ働かなくてもいいはずでしょ」
「旧約聖書には、金を貸しても、利子を取るべからずとあるんだって、どこだか探せないけど」
「家を買って、大金を借りた分だけ、返せばいいのであれば貧乏人はかなり減るけどね。実際は借りた金額の倍を働いて払う」
「ローン組んで、耐震偽装で住めないマンションを買っちゃった人は、悲劇だよね~」
「七日目を安息日とするって書いてあるけど、世の中は、だんだん休めないで働いている人が増えているのは、矛盾してるよね」
「その利子とかの性で…」
「借金してまで、家買わないほうがいいよね」
「うん、買えないけどね」
「アパート、借りるのもなかなか大変だったもんね」
「うん」
「切ないよね、政府もさ~、必死で頑張っている人を先に助けるべきだよね~、あともうちょっと、いい仕事があればウツになる人減るよね~、あともうちょっと将来が明るければ、頑張れるって人いっぱいいるよね~。そういう人を奈落の底に突き落とす法律の改正ばっかしてさ~」
「冷たいよな~」
大下さんは、黙って聞いて運転していた。
頭もいいし~、いい子たちばっかりだし~、ただ運がなかった。
それだけだろうか? と。
たった一人雪ネェ以外は、引っ込み思案の性格ばっかり。
ゼロ戦で消えた命から、六十年後のこれが…日本男児かと悲しくなる。
社会に出て、積極的に生きる何かが欠けていた。
バイタリティーのなさ、誰かが何かしてくれるのを待っている受け身な性格。
引きこもりがちなキャラ。
「う~ん」
こじゃあまるで、『森のキャラバン』ならぬ『引きこもりのキャラ』じゃないかと。
一人で、ウケた。
とくにスンちゃんは、理論は立派で、正義感は強い…、しかし、臆病なのだ。
仲間うちだけで話して、終わりなのだ。
その日大下さんは、らしからぬことをした。
いつもだったら、道端に白の軽トラックがSOSっぽく停まっていても、素通りをするところだった。
たとえ農家のおじさんらしき人が、親指を立てて、ヒッチハイクを希望していたとしてもだ。
地元の農家の人と交流してみるのも、一つの手かな? と思った大下さんは、ウインカーを出して、森のキャラバン号を停めて降りた。
大下さんは、現場主義。
あの子たちが、もうちょっといいポジションで仕事をさせてもらえたら、
本当に、この国は変わると思うよ。




