元気な田舎って、どうして?
思いつくまま、旅に出た。
そう、行き当たりばったり。
今回は、どこに流れ着いたやら
成っちゃんが告げたのは、Y県M町だ。
「めっちゃ、近いじゃん!」
M町役場にナビを設定して、再び向かった。
途中、新しい道の駅で食事をした。
ドライブしていると、廃業した個人のレストランが目立つ。
一時期流行った、パステルカラーが、薄汚れている。
ワーキングプアーだったから、実現はしなかったけど、「自然のいっぱいある所へ行こうよ」って、彼女とデートしていたら、こんな建物が、真新しかった頃だろう・・・。
独立心いっぱいの個人経営者が、割りを食う。
そうして、繁盛しているのが、古民家風大きな複合商業施設。
「古そうに造って、実は新しい。最先端のノウハウの結晶だね~」
「あれで?」
「そうよ」
雪ネェが言った。
「やっぱり、日本人は木造の古い家がとっても懐かしいのよね~」
観光客、目当てに産直市場の、手ごろな値段の新鮮野菜売り場がメインだ。
それを目当てに、近隣からわんさと人が来るから、高級レストランを作ったところで、客は行かない。
安いレストランに長蛇の列ができ、それを諦めた人が、焼きそばとかソフトクリームをスタンドで摂る。
お祭りの屋台みたいに、庶民はそれで十分に幸せだ。
コウジたちも「たまには、こういうのもいい」と焼きそばを食べた。
コウジは思った。
昭和三十年代は、永遠のいい時代なのだ。
東京タワーができて、一万円札が発行されて、新幹線が走り、高速道路ができ、大阪万博や、オリンピックが開かれ、便利な電気製品が普及した。
国民は豊かを享受して・・・でも、どこかがおかしかったのだ。
日本人は、便利さと引き換えに、「心」を置き去りにした。
テレビでやる高級店で、「このお味で、このお値段は、リーズナブルですね~」と言う。
金を持たねば、人に非ずという風潮? 吉兆で出された料理に、自称食通は、騙された。
「お金があっても、本物が分からない」という証明だ。
テレビの世界と、庶民の感覚は、カイ離している。それをもうみんな、気づき始めているから、これで幸せと主張する。
幼子は親が苦心して、ディズニーランドへ連れて行ったとしても、喜ばない。
近くの野っ原にピクニックの方が、子供はよっぽど喜ぶ。
「おい、コウジ。 行くぞ」
見上げると、大下さんだ。
「そんなに、その本、難しいか?」
ベンチで『新約聖書』のぶ厚い本を広げていた。
「うん、読もうと思って・・・」
開いたまま、頭に入って来ない。
思考は、一人旅だ・・・、こりゃ、大変だ。
大下さんが、こっそり言った。
「俺は、こういうのどうも苦手でな、こっそり教えてくれよな」
「はい! 」
コウジは笑った。
そうだろうな、全員が好きとは思えない。
大下さんは、とにかく屁理屈を言わないで、身体を動かす派だ。
スンちゃんの対極にいる。
「大下さんは、神さまは好きですか?」
「好きだよ、当たり前だろ!」
「なら、大丈夫ですよ、きっと!」
「そうか~」
車は、走り易い道路で、スンちゃんに任せた。
山道になったら、大下さんが運転する。
山のところどころで、富士山が顔を出している。
スンちゃんが、相当頑張ったところで、大下さんにバトンタッチした。
そうして、小一時間過ぎる頃、町中から、山道に入った。
こんな山道に民家があるんかといぶかる頃、小川のせせらぎならぬ、用水路の水音が激しく聞こえて来た。
「ほらね!」
成っちゃんが嬉しそうに叫んだ。
「うわっ!」
「棚田だ~」
思わず、道端に車を停めて、全員飛び出した。
「しかも、富士山が見えるぜ!」
何ていう、風景だろう。これぞ、日本人の憧憬に違いない!
白の軽トラックを停めて、農作業をしている地元の住民を発見した。
「棚田に水を張って、もうすぐ田植えが始まるんですか? 」
「そうだよ~」
道路に矢印と、『ふるさと自然塾』 と書いた看板があった。
「あれって、農業とかを体験できるところですか?」
雪ネェが、物怖じしないで聞いた。
「そう、あっちね」
おじさんが、指差す方向に進むことになった。
「ありがとうございました~」
「成っちゃん、面白くなりそうだね」
成っちゃんは、うんと、うなづく。
急な坂をどんどん行くけど、杉林以外見えないから、こっちの道であってるのか心配になってくる。
途中、陶芸塾のようなものを見つけた。
美大生の乗りで、入り口に大きな謎のオブジェがあり、小屋の壁には、一面に前衛芸術のペイントがある。
「誰も、いないみたいだ」
薪が高く積み上げられていて、一年分の燃料もこれで安心て感じだ。
人がいないので、また車で坂を登る。
よく手入れの行き届いた杉林があって、少し行くと、広い駐車場と大きな建物があった。
「人がいるのかな~?」
「まぁ、いいや。行くだけ行ってみる」
車を降りて、元気な雪ネェと、失言の少ないコウジが、大下さんのデジカメを借りて、取材に入った。
こういうヒマそうなところは、大人数で入ると、パニックになるだろうし、入場料が高かったらどうする?になるからだ。
「すいませ~ん、中見せて貰ってもいいですか~?」
「ハィ、どうぞ~」
職員が何人か常駐していた。
お客さんはいない。
入館料は?
要らない、タダだ。
この辺に生息する、小動物のはく製だの、昆虫だのが展示されていた。
「きっと、親子連れで昆虫採集とか、工作教室とかがあるのよ」
「そうだね~」
コウジの中では、ありがとうございました~。
と言って礼儀正しく帰る予定でいた。
「あっ、パンフレットがある!」
雪ネェが、受付で色々選んでいた。
「あの~、このパンフ貰えますか?」
「一部500円です」
「はい」
お金を渡しついでに、雪ネェが、2、3質問する。
「この村(失言)いや町は、道路をどんどん登って行くと、
民家があったからびっくりした(失言)んですけど~、
こんな山なのに(失言)なんでこんなに元気なんですか?
地場産業は何なんですか?」
「・・・」
職員は、絶句しながらも笑顔を絶やさない。
「私たちは、市の職員なんですよ、ふるさと再生事業で、県と市で助成金をいただきましてね。
もともとここに公園を作る計画はあったんですけどね~」
「あの、町おこしの一億円?」
コウジは町おこしと聞けば、なぜか、三億円の金塊が浮かんでしまう。
せっかく展示して、ちゃっかり泥棒に持って行かれる地方自治体もあったっけ。
「いや、そうじゃないです、・・・あの湖は春先にだけ出現する幻の湖だったんですけどね、
最近、整備しました」
雪ネェは、納得いかない様子で、なお食い下がった。
「何で、こんなに活気があるの? 日本の田舎って、消え入りそうなくらい元気がないのに。
ここって、元気じゃないですか! 富士山が見えるからですか? 棚田は、人手が掛かるでしょう?」
そう、雪ネェは今のブームになるまでに、生きながらえて来た生活の糧の秘密があると感じたのだ。
「産業は林業とトマトです。昔から盛んでして・・・」
林業だって、普通のところは元気じゃないよな~。
とコウジは思った。
「そら、正直申し上げますと、過疎で高齢化はご多分に漏れず、若者はいなくなってますよ~」
そうだろうな~と感じる。
しかし、職員はきっぱりと言い切った。
「高速使って、東京から車で三時間で来れるんですよ~。
つまり、日帰りで田植えと稲刈りができるという~」
強力な、売りがあったのだ。
「日帰りで、稲刈りですか!」
「都会の人たちが、喜んで、農業して、帰ります!」
「なるほど~」
雪ネェは、いたく感心して帰った。
忘れそうになりながら、
「ありがとうございました~」
と最後に叫んだ。
「『やまなし森つくりコミッション』のパンフもあるよ」
コウジが見つけて、貰って帰った。
パラパラとめくって見ると、ボランティアしたい人は、ここに連絡すればできる体制ができているのだ。
「なんだか、すっかり確立されているね」
知らないうちに、地方も頑張っているんだね~。
「山梨のポスターで、こんなのがあったよ
『週末は山梨にいます』」
「富士山の写真撮りに来る、カメラマンと釣り客と、ぶどう狩りに桃狩り、ワインにテレビの大河ドラマで名所めぐり」
「それに、水晶が採れたんだ」
「リッチな田舎だな~」
それも、都心に近い田舎という地の利があったのだ。
みんなは、とっくに車を降りて、湖で寛いでいた。
澄んだ水だ。
「本当に、手入れが行き届いているな~」
大下さんも、感心した。
「癒される~」
「ほら、ネットで検索すると、出てきたよ!」
平成二十年 棚田オーナー募集。
超具体的だ。システムが確立している。
つまり、僕たちに出番がない。
これを勉強すれば、かなり参考になる。
「富士山が見える「平林の棚田」で、おいしいお米を栽培してみませんか?だって。それと、里山農園オーナー制度。農業体験プログラム。自分で作る安心・安全な野菜美しい自然の中で富士山を眺めながらの農業体験」
「農泊だな。 グリーンツーリズム」
「ノウハク?」
「安い宿に泊まりながら、農業体験するんだ。
つまり地元のみなさんと仲良く親戚づき合いをしながら、米さ作るべな」
「ふ~ん、いいねぇ」
なるほど、物語って、中へ入らなければわからない。
人との心の交流って、意外とアウトサイダーが向いてるかもね?
そう思う今日この頃でした。




