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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
20/53

やった! 正社員の証、健康保険証がもらえた。

今まで、どこに送ればいいかわからなかったらしい。

キャラバン隊だから、こんなこともある。

「ハイハイ~、もしもし~、あ、はい、分かりました。すぐ伺います~」

雪ネェが、大下さんの方をキッと向いて、言った。

「みくにのおばさんの所に、私たち宛ての荷物が届いたんだって! 戻ろう」

「え~」

車は、Uターンして、また『みくに』に引き返した。


食堂は、トン汁定食をテーブル席で食べているお客さんが数人いた。


「ちょうど今、荷物が届いたの、良かった~、間に合って!」


みくにのおばさんは、お客さんがいても、気にしない大きな声でしゃべっていた。


A4のコピー用紙500枚の箱ぐらいのダンボールが、大下さん宛てに届いていた。

開けると、それぞれの名前入りの白い封筒が六通、別便の茶封筒には、それぞれ六人の健康保険被保険者証のカードがあった。


「つまり、二ヶ月の試用期間が終わり、正社員として採用な訳? 」


「お~、初めて手にする、自分の健康保険証だ~、こんなカードなのか?」


「俺たちの現住所は、東京の田園調布だって、そんな高級なとこ、僕行ったことないなぁ~」


それぞれ、手にして喜んでいる。で、もう一つの白い封筒の方は、恐る恐る開けた。

「それ、一人ずつあるの私からのプレゼント。瞑想する時にカード持って、魔除けよ」

と言って、みくにのおばさんは人差し指で上を指した。

みんなは、天井を見つめた。


「ハァ?」


みくにのおばさんは、一度やって見せてくれた。

「こうやって、カード持って座って光の中へいるイメージして瞑想して欲しい。毎日」


ゴロスケが目を閉じて、エレベーターガールが浮かんだらしい。

「上へ、参りまぁ~す」

とおどけて見せた。


「うん、そのイメージいいかもね」

おばさんはケラケラ笑った。


「それに、なぜか聖書」

「キリスト文明の終わりだから読むんだ~」

雪ネェが言った。


「そうね、早く理解できた人が、分からない人を教えてあげてね。コレだけは言ってあげられる。あなた方は、とてもラッキーな人ね。

『現住所が大田区田園調布』なのは、その東京の田園調布のご夫人預かりのようね」


「…」


どういう意味が分からないコウジたちを、みくにのおばさんが分かり易く言った。

「たとえ、志半なかばで死んでも、社会的地位は保障されている、心配しなくていいからね」

成っちゃんが、ぼんやりと考えた。

野垂れ死にしても、骨は預かるねってことかと。


「なるほど~つまり、そういうことか~」


そうして、分厚い聖書を開けた。

「おお、細かい字で、びっしり書いてある~、すげぇ~文字数だなぁ~」

これを、コウジたちは、『聖書の終わりに時代とは、何ぞや』の勉強するのか?


「こんなぶ厚い本、読み終えたためしがないや~」


「研修の一環として、やらなきゃ~なんない? これはスポンサー命令だからな」

大下さんは、にやにやした。

しかし、大下さんも内心変わった形の研修だな…と、思っていた。


「道中長いから、人生同様、山のような学びだな~」


コウジも急に、億劫になって来た。

研修が難し過ぎて、挫折してしまわないだろうか心配だ。

が、元のネット難民にはなりたくない。


「で? 瞑想したり、すっかり学んだら、みんな霊能者になれんの? 分かんない? 」


「そしたら、こんな楽しい研修はないね~邪馬台国がどこにあったか? 真実が解明できるかもだよ」

スンちゃんが、澄ました顔で言った。


「それはないな」


「ないな」


「ない」


「やっぱりね」


「なんだ。ないのか」


「ご馳走さん~」


お客さんが、食べ終えてお金を置いて、出て行った。

すっかり忘れていたけど、一般のお客さんもいたのだ。


「ありがとうございました~、またのお越しを~」

おばさんは、テーブル席のお膳を片付け始めた。


「手紙があったぞ~。田園調布のマダムから。みなさん、私は『あなた方のブログ』を拝読することに、人生最大の目標を見つけました。この上ない喜びです。みなみな様もご精進なさって、できれば、『そちらのご活躍』をアップして下さい。楽しみにしています。御国が…来ますように…」


大下さんは、新しいもの好きのスポンサーのマダムに、たじろいだ。


「活躍~?」

「僕たちが?」

自分のことを指した。

「大変だ~、ブログだって~!」


みんなは、顔を見合わせた。


「何かビジュアル的にこう~」

大下さんは黙った。何も案がない。

聖地までは、ほど遠~い。


「安心して下さい、ブログのホームページなら、何とか立ち上げちゃいますから~」

スンちゃんが、メインになって、そちらの方は、やることになった。


「しかし、何を載せるんだろうね?」

人ごとのようにつぶやいた。

それからが何にもない。


「しまった。もう一度、白ヒゲのおじさんとこの畑へ行って、写真撮る?」


「アハハ・・・それいいかも…」

一同こんな(*^。^*)になった。


しかし、無情にも大下さんがこう、断言した。


「駄目だ。インディゴ・ブルーのおじさんのブログを見て・・・そんな便利なものがあるんかと、ブログと言うものを初めて知ったらしい~」

だから、同じ写真を出したら、バレバレだよ~」

ニヤニヤして言った。

「ブログって、芸能人でなくとも、誰でもできるのね~」

と言ってたってさ。


「あちゃー」

しおれた。


今一歩を、踏み出せないでいるみんなに、みくにのおばさんは、コーヒーをサービスしてくれた。

まだ、みくに食堂から出られない。


「そう言えば~、埼玉のO川町に有機栽培の在来種の国産大豆を作っている農家がいて、遺伝子組み換え大豆ではありませんという正真正銘の大豆って~、高値で買い取ってくれるから充分農家で暮らして行けるんだってさ、全国のシュアの半分ぐらいだっけか?」

さり気なく言うには、長過ぎるセリフだったけど、みくにのおばさんのヒントに感謝した。

「そこの豆腐が、これまた美味しいらしいわよ~」


「よし!それだ~」


ナビをインターネットで調べて、ここに決定した。


「便利な、頭のいい機械やね~、インターネットもナビも…」

という訳で、これが本当の最後の最後のお別れをした。


運転しながら、大下さんがつぶやいた。


「あっ、カメラ持ってたのにな~、みくに食堂写せば良かったな~」


「大下さん、デジカメ持ってたんですか? じゃあ、ブログにアップできますよ!」


心強い、スンちゃんの声が響いた。


FMラジオをつけて、キャンピングカー

『森のキャラバン号』は走る、走る。


「これから、色んなことを学ばねばなりませんよ~」

雪ネェが言った。


「スンちゃんには、キャンピングカーの運転も身体で学んでもらわなきゃ~な」

一同ウケた。


コウジは、釈迦が菩提樹の近くで、瞑想するのを想像した。

あと座禅かな?

みんなオウム事件のことは知っているけれど、あんな線の細い人たちと丸っきり違う。

たった一人の変人が何をやっても妄信する呪縛があるみたいなのではなく、

白ヒゲのおじさんも、光介君も、みくにのおばさんも極めて常識的で、個人々々が独立している。既成概念を打ち砕き、世の中を善くすることを目指していた。

お金儲け主義では、絶対になかった。畑を愛する平和な人たちで、新しい価値観を作ろうとしていた。

自分たちも新しいことに、挑戦しているんだ。

少し恐い。

「でも、みんなでやれば、恐くない…だな」


どういう訳か? さっき瞑想したせいか、運転手以外、みんな寝ていた。


「荒川の上流は、こんなきれいな清流だったのか~」

そう言う、大下さんの声で目が覚めた。


森のキャラバン号は、100円ショップの駐車場に停まっていた。


「スンちゃん、たまには、運転代われよな。俺だって、勉強しなきゃ~な」

この度の瞑想に、大下さんは少し、あせりを感じたらしかった。


「はい、そうします」


しかし、みんなは、何でここに停まるのか分からない。

「みくにのおばさんが、首からつるすカードケース、ここで売っているって言ったから、買おうぜ!」

「ああ~、そう言えば・・・」

そう言えば、みくにのおばさんが、そんなことを言っていた。お守りのように、オフダをみんな持っていた。

「縦タイプがいいって」紐は、細い方がいいそうだ。それぞれのケースの区別を付けるために、好みのプチシールを選んだ。「聖書も、透明のブックカバーにしていたぞ」

なぜか、大下さんは、トレードマークがカニ。雪ネェはウサギ。スンちゃんは、天使。成っちゃんは、ハート。ゴロスケは、太陽。そしてコウジは、魚のプチシールをそれぞれ貼った。


遅いお昼は、みくにで頂いたチラシ寿司を食べた。


ナビのテレビが、ニュースを告げた。

「硫化水素で若い女性が自殺して、有毒ガスが発生して、付近の住民が避難しました」

「それにしても、自分のことしか考えてない人だな~」


大下さんが、憮然と言った。大下さんは、テレビに話しかける癖がある。


「ワーキングプアーの間で、小林多喜二の『蟹工船』と言う本を読むのが流行っているそうですよ~」

とニュースキャスターが、面白そうに告げた。


「『蟹工船』って、読んだことある?」


スンちゃんが、前を向いたまま、聞いた。


「うん、昔ね~。劣悪な環境下で、働かされるんだよね。読むだけで、映像が浮かぶようだった~。プロレタリア文学だね~」


雪ネェが、後の座席から声をかけた。


「プロレタリア文学って、何?」

ゴロスケが聞いた。


「貧乏な人の文学、つまり、ワーキングプアー文学だよ」


「あ~あ」

みんなが、納得した。


「スタインベックの『怒りの葡萄』もそうだよ~。大恐慌で貧しい人々が、西へ行けば、豊かになれるって、西へ西へと移動するの。オクラホマだから、オーキーだっけ?でもやっぱり、みんなが餓えるの、最後に怒りに変わって、赤ん坊を死なせた女性が餓えた人に、お乳をふくませるのだったっけ?重かった~。確か、両方映画になったよ、レンタルショップにあるんじゃない?」


しかし、レンタルショップに行ったが、『蟹工船』は、レンタル中という札が下がっていた。


「何か社会現象として、変わりそうな気がするな~」

コウジが言った。


しかし、テレビは、引き続き、非情な数字を告げた。


「今、ワーキングプアーで、秋田県などは去年6,000戸の農家が、農業を辞めたそうですよ~」

みんなは、自分の土地を持っている人が、働いても食えないっていうのが、信じられなかった。持たざる人が食えないのは、分かる。

北国の冬は、雪で閉ざされるから、出稼ぎが多いというのは、聞いているけど・・・。

「現在、非正社員の数は千六百万人だそうです。ということは~、働いている人の三人に一人が非正社員であるということですね~」


アナウンサーがのん気に、しゃべっている。

そら、あんたは、安定した会社にいて良かったね~。

としか、言えない。


数字が分かったとしても、改善策はない。

ガソリン代が上がれば、町工場なんかは、大打撃だ。

やって行けない。

食えないんなら、後継者もいない。


バタバタと倒産して、国はどうやって、税収を増やす気でいるんだろう?

あまねく徴収するしかないではないか。

「こんな時、徳川の埋蔵金出てこないかなぁ~」

と、甘い考えが出てくる。


「だからこそ、食える農家を見学に行こう!」

と決めたのだ。


リーダー格の、ホームページを見つけて、雪ネェが携帯で電話を掛けてみた。


「一応、アポイントを取って、取材の許可を得るのよ」

しかし、繋がらない。


スンちゃんの運転は、大下さんが注意して見ていた。

これじゃ~、勉強どころか・・・、気が気じゃない。


「まあ、そのうち一人でも、大丈夫になるって!」

大下さんは、気長なのだ。


「おかしいな、忙しいのかな?」

雪ネェが、何回か掛けてみて、やっと繋がった。


「田植えと葬式がいっしょになって、忙しくて、応対できないから、今回はご勘弁を・・・だってさ~、残念!じゃあ、どうする~?」

と、携帯を切った。


「あ~!!」


スンちゃんが、すっとんきょうな声をあげた。危険なことがあったのかと思って、一同ドキリとした。


「何、どうした!」

「せっかく、O川町の人口がいくら、面積がいくらって、書き始めたのにさ~」


「え~、行ってもないのに、もう~?」

一同、呆れた。


「お前、この中では、一番ユニークな存在だな」

大下さんが、笑った。


「何ですか、もう・・・」


スンちゃんは、前を見ながら運転している。

しかも、少しでも、よく見ようと、前のめりになって、硬直して。

だが、ここで怒らすと、みんなの命が危ない。


「分かった、分かった。悪かった、ごめん、一生懸命やってくれたんだよな、ありがとう」

大下さんが急になだめにかかる。


「もう、いいですよ」

スンちゃんは、すぐ、スネちゃんになるのだ。

コウジは思った。


「どうでもいいから、車を停めろ」

鶴の一声である。


「はい、分かりました」

すぐスピードを落として、車を路肩に停めた。

そう言うのは、素直に従う。

彼にとっては、重荷なのだ。

やっぱり。

だいたい、車を停める前に、左にウインカーを出すのだが、その余裕も見られなかった。


「じゃあ、どうするのさ!」


「…」


一分ぐらい、沈黙した。

「あの~」

成っちゃんが、自信なさ気に切り出した。

「心当たりが、一つだけある~」

「どこよ!」

みんなが、同時に叫んだ。


当たらなミッションが始まった。

瞑想をするんだってさ。

瞑想? 春ちゃんの導きかなぁ?

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