春ちゃんをお見送りして
気がかりだった春ちゃんを見送ることになった。
それから先は、どうなっていくのだろうね?
ボクたちの『森のキャラバン』は。
ある晴れた日の早朝だった。
白ヒゲのおじさんの知り合いで、モーター付きの小型船をチャーターして、船のオーナーさんがうんと遠洋の相模湾に出た。
なぜなら、漁場で撒くのは、うんと漁師さんが、嫌がるからなのだ。
それでも、島根のどこかの島で、海の散骨を公式にやってくれるところがあるらしい。
少し、風があるせいか、白波が立っていた。
大下さんと成っちゃん、スンちゃん、ゴロスケ、雪ネエ、光介クン、コウジと乗り込んで、心を込めて散骨をした。
白く細かくなった骨は、海に撒いたとたん、真っすぐに落ちて行った。緑色に見える波間に揺られながら、魚がするりと、泳いでいるのも見えたけど、自然というものは、すべてを受け入れて。
さすが、懐がでかいなと感じた。
小一時間ほど、波間に漂っていただろうか。
例えば、太平洋戦争の時に、海の藻屑と消えたゼロ戦の乗組員たちは、遺骨を拾って欲しかっただろうに、遺族は、骨を返して欲しがっていただろうに。
あれだけこだわったのは、地域があって、一族があって、お墓があって、家族というしっかりした基盤があったからだ。
海に骨を撒くだなんて、時代は変化してゆくものだ。
「春ちゃ~ん、さようなら~」
「リサちゃんちゃん、さようなら~」
薔薇の花束を二つ、できるだけ遠くへ投げて、みんなで手を合わせた。
魂は、たぶん救えた。骨もねんごろに祀った。
でも、魂の拠りどころがなかった。
それで、調べたら、死んだ人のお墓の代わりに、木を植えようというの新しい方法があった。。
そのお墓にかける費用の何分の一かで、自然が整備できるシステムだ。
「第一霊界は消滅したらしいから」
とは、みくにのおばさん情報だ。
死んだ人にお金をかけるより、生きている人間の生活が優先されるのだと、納得した。
白ヒゲのおじさんの畑は、4人共同の借りものだそうだ。
みくに食堂に、畑の持ち主がやって来て、事情を説明すると、
魂の拠りどころとして、お墓のかわりの木を植えてもいいと許可をくれた。
「まぁな~、お茶の木だったら、いいべさ~」
「お茶ですかぁ~」
「そうさ、そんなに大木になんないで、お茶っ葉も採れる。
三本あっても、邪魔にはなんない。なあに、遠慮はなしだ」
「あのさ~、枯れちゃわない?」
「枯れない、ここは温暖な気候だからな。
海が見下ろせて~、一等地だぁな」
のほほんとした考えに、コウジたちは、ホッとした。
「どうする~?」
と考えるまでもなく、
「じゃ、お願いします~」
雪ネェが愛想よく応えていた。
「じゃ、明日にでも、苗を探しに行くべ!やぶ北と朝露の交配で、『さえ緑』というのがあるさ。それに、みかんも一本植えよう。早生でおいしいから、これが人気さね」
畑の持ち主は、ニンマリ笑って言った。
「『さえ緑』の葉が採れるようになったら、お茶にして送るべ。みかんもな」
「あ・ありがとうございます~」
物語は、意外な方向に展開して行く。
「いつか、ここの近くに来た時に、また寄ればいい」
人との出会いって、不思議だ。
あの日、公園の炊き出しに出かけなければ、大下さんに出会わなかった。
大下さんもまた、コウジたちにであわなかった。
そうして、森のキャラバンも始まらなかった。
光介君は、帰って行った。
みくにのおばさんに、朝食をご馳走になった。
アジの干物を焼いたのと、海苔と味噌汁と焚きたてのごはん。
「よその家の人が作る家庭の味は、どうしてこんなに美味しいんだろうね~?」
キャンピングカーの中で作る、大下さんや、雪ネェの料理が下手だという意味ではない。
時間をかけただけ、好意的な善意が、込められている。
もう一つの味がある。
座敷の部屋で畳の上で座るというのが、これまたノスタルジーだ。
いつもイスの生活をしていると、畳がいとおしくなる。
四角い木のテーブルを囲んで、食べていると家族って気になる。
テレビがあると、家庭だな~と思う。
ニュースの時間に、都内のインターネットカフェに寝泊りする人は、二千人というのが流れた。
また、北九州や、東海地方に、一年ほどの契約社員として、出稼ぎに来てその土地に、住民税を払わないという問題が起きている。
会社は、過去一年のその契約社員の収入を調べて、払ってられないというのだ。
何せ働いてたり、働いてなかったりとヤヤコシイから。
「この人たち、何とかならないんだろうかね~。可哀想だよ~」
みくにのおばさんが、コウジたちのちょっと前の境遇を、知らないけど、同情していた。
そんなニュースを観て、コウジたちは気持ちが沈んでしまった。
食うや食わずのぎりぎりの生活をしていた、あの頃。
今の自分たちはラッキーだと思うし、大した働きがなくて、申し訳なく思う。
「フォークシンガーの『南ソノ節』が、ホームレスの人たちを過疎の村に誘致したらいいって、言ってたけどね。私も賛成だよ。ただ土地を持っている人が明け渡すかどうかだね。自分で世話できないんだったら、あっさりお願いすればいいのさ。土地は神様のもんだ」
そんなことをテレビで言っていたのを、コウジたちは知らなかった。
「ダンボールで、家を作るんだから、丸太を切り倒して、家も作れるんじゃないかい? 野山を駆けずり回って、食料も調達できるんじゃないかい? 便利に道具も作って、やってけれるんじゃないかい?」
みくにのおばさんの考えも、すごく分かる。
「そう簡単にならないのが世の中で、土地を手放す人は、お金に困った農家なんだそうで、売るには、インフラが整い、仕事があり、適度に人口がいないとね」
大下さんが、考えうる懸念を述べた。
「でも、そんな世の中になれるといいですね~」
最後にこう締めくくった。
みくにのおばさんは、うんうんと何度も頷いていた。
すっかりお世話になって、ここの人たちに、何かお礼しようと相談した。
白ヒゲのおじさんの畑で何か手伝いをと思ったけど、自然農だから、手間が要らない。
ヒノキがそびえる一角に、ビニールテープで囲いがしてあった。
ツリーハウスを作るんだそうだ。
建築現場の元足場に使った、廃材も集まった。
今は、アルミ製の板を使わないといけなくなったのだそうだ。
「でも、そうやって、あの太い木を持ち上げるのだろうね?」
それは、残念ながら、想像できなかった。
のんびりと自分たちの手で、ツリーハウスを作る様子は、
『私の神話』のホームページで覗かせて貰うことになった。
白ヒゲのおじさんたちの夢が…、実現するのだ。
「メールでやり取りもできるから、また知らせて下さいな」
「色々、お世話になりました」
「ありがとうございました」
コウジたちは口々に、心からの感謝の言葉を述べた。
みくに食堂は、改装ってほどでもないにしても、ボロ家なので、あちこち傷んでいた。
コウジたちは、大工のまねごとをした。
玄関の戸の建てつけが悪く、ガタピシしているから、その戸を外して、木を継ぎ足した。
ついでに、トイレの洗面台の木が腐っていたので、それも新しい板に付け替えた。
古い四角い鏡を新しく、大きくて丸いのに換えた。
さて、用は済んだので、次のどこかに移動しなければならない。
「何せ、『森のキャラバン』という看板を背負って立つんだからね…」
気丈に雪ネェが振舞った。
みくにのおばさんは、名残惜しそうに頷いた。
「あのさ、徳島県の上勝町って知ってるかい?」
「ああ、何か聞いたことがある」
と、スンちゃんが答えた。
「T氏や、コピーライターのI氏など、タレントがよく訪問したり、
彩り産業で、二億五千万円の売り上げのでしょ…」
インターネットで調べると、ゴミ回収車が来ないことを知った。
世間のごみ袋有料化で、騒いでいる場合じゃない。
「上勝町では、2003年に『ごみゼロ(ゼロウェイスト)宣言』を実施、2020年のごみゼロを掲げ活動をしているんだって」
「自分で持って行かなければ、ゴミは、溜まる一方だからゴミ屋敷になるってさ!」
「すげ~」
「ただで、回収する都会でも、ゴミ屋敷になるのにね」
自分で持って行くのが面倒だから、出来るだけ、買う時にも、誇大包装やかさ張るものは買わないだろうし。
使い捨てもゴミになる。
「しかも、持って行って、自分で34分別に分けるんだせ~」
自分で持って行けない、お年寄りは自治体がなんとかしてくれる。
「あっと、『くるくるショップ』といって、使える要らない物を置いておくと、欲しい人がタダで持って帰れるお店があるって」
「すげ~。確かに使えるのに、捨ててしまうとゴミになるよな。
上手く使うと家財道具まるまるだもんな」
「確か、ダイオキシンが発生するようなプラスチックゴミは、よその地域にお金を払って処分して貰うって言ってたな~」
「過疎で廃校になった校舎を、改造して、共同住宅にしているのも、頭がいい」
自治体自体が、世の中が良くなる方法を考えて、さっさと行動して行く。
そこに、民の暮らしをより良くする以外、何の邪心もない。
これこそが、理想の自治体だろう。
「その町の見学ツアーもあるから、新しい観光地の形にもなるね」
それに、ダイオキシンの煙の出ない所なら、大気もキレイだし…。
『彩り』といって、料理の添え物に使う葉っぱを採りに山へ分け入るから、山は適度に整備されるし、お年寄りは歩き回るし元気。
経済的に潤う。
これこそ、究極の循環型だ。
「昔に学んだのは、生ゴミはコンポストで、やがて土に還るし、」
「未来の日本のヒントはここにあるんじゃないかい?」
「行こうよ、行こう!」
「じゃぁ、上勝町を聖地としよう! 聖地目指して頑張るぞ~!」
「お~!」
道のりはえらく遠いのだ。
「みくにのおばさん。色々、お世話になったけど、そろそろお暇しなければなりません」
大下さんが、とうとう切り出した。
みくにのおばさんは、清香ちゃんに指示して、
二人で、具だくさんのチラシ寿司を作ってくれた。
お腹いっぱい食べて、タッパーに六人分詰めると、寿司桶はきれいに空になった。
もう一度畑に行って、海を眺めながらの、挽きたての豆でサイフォンコーヒーをご馳走になった。
「私たちも、楽しかったですよ」
白ヒゲのおじさんもニコニコ笑った。
「また、『ツリーハウス作り』をアップしますから、ブログをちょくちょく見て下さい。
これね、少しばかりだけど、夏みかん。
みなさんで食べて下さい。無農薬ですよ」
大きな夏みかんを袋にいっぱい、お土産にと貰った。
「もう、新緑の季節になったんだな~」
コウジがつぶやいた。
あの時は、寒かったよな~。こんな展開になるとはね…。
地方って、お金はないけれど、人間の繋がりや懐が深いのだ。
一人一人にハグをして、泣きながらお互いの健闘を祈った。
ナビを、『上勝町の町役所』に設定して、西の方に向かって出発だ。
みくにのおばさんの食堂の前で、クラクションを鳴らして挨拶をした。
出て行く時は、あわただしい。
「みくにのおばさん、『伊豆の踊り子』のワンシーンみたいに、大きく手を振ってるよ」
雪ネェが言った。
「ん? でも何だか、こっち、こっちって、言ってる風にも・・・見て取れる」
「さようなら~、お世話になり~、ありがとうございました~」
みんなは、大声で、手を振ってサヨナラした。
その時、運転している大下さんの携帯の着メロが、鳴った。
♪もろびと~こぞりて~
雪ネェが、大下さんの携帯を受け取り聞いた。
一つの出来事を終えて、次の扉が開いた。
これから先、何が来るのか?




