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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
16/53

山の畑で合流できた

その当時、まだ珍しかった散骨、

果たしてうまく、やり遂げられるのか?

僕たちは、M駅前のロータリーで、やっと合流した。

大下さんたちは、二週間ぐらい居なかっただろうか。


春ちゃんのことで、みんなは沈黙の海に沈んだ。


キャンピングカーは、白地にモスグリーンのPOP調の文字で、

『森のキャラバン』と書かれた。

下には、色とりどりの可愛い花があしらわれた。

遠くに山や海が見える高台の岬、こんなイラストが添えられた。


大下さんの感想は、

「何だか、テレビの中継車みたいで、恥ずかしい~な」

である。


「誰? 描いたの」

成っちゃんが聞いた。


「雪ネェがメインだよ。あとはアゴでこき使われた」

コウジが応えた。


「らしいよな~」

スンちゃんが笑った。


「ボディが、微妙にボコボコしていて、塗りにくかったぜ」

ゴロスケも得意気だ。

そういう時、ゴロスケはきっと褒めてもらいだいんだ。


人っ気のない高台の公園で、密かにブルーシートを敷いて、

インディゴ・ブルー白ヒゲのおじさんの知り合いの、工務店のコンプレッサーを借りて白地を霧状に吹いたし、文字は、白ヒゲのおじさんの知り合いの看板屋さんに頼んだ。

おまけに、残ったペンキの缶は引き取って貰った。

あれを積んだまま、旅はできない。シンナー中毒になる。


「問題なのは、そのボランティア価格でやって貰ったにもかかわらず、誰かさんが、アゴで使ったことだよ。あとで謝ったよ」

ゴロスケが言うと、雪ネェがゴロスケの首に腕を回した。


「サービスで歌ったわよ!喜んで帰ったわ~」

追体験をしているように、うっとりとしている。


これで全国行脚の、何だか…準備ができた気がする。


あの時、花見で貰った名刺がなければ、こういう発展はなかった。

しかも、商売を長くやっている人だったので、顔が利く。

そのキッカケが、成っちゃんが妙に、酔っ払ったせいだ。


大下さんが、白ヒゲのおじさんと深刻に話をしていた。

大下さんがいない間、スンちゃんが車の運転をしていたのも気が付かない。


スンちゃんは、運転でやや自信がついたのか、少し陰気さが薄れたような気がする。

前は、理屈っぽさが目立ってたけど、今は物知りだなと感じる程度になった。



「せっかくの合流なのだから、みんなで畑に集まって、バーベキューパーティーやろうってさ。すごいんだぜ~海が見えるんだぜ~」

ゴロスケが陽気に言った。


「そらここじゃ~、見えるだろう。そんなに海が近いのか?」


「うん、畑で転んだら海まで転がっていくんじゃないかって~ぐらい」

「…」

「じょ・冗談です~」


大下さんが、散骨を考えていたことをみんなはまだ、知らなかった。

普通は、家族の手できちんと葬られたと思うだろう。


白ヒゲのおじさんの車に続き、いつものように、大下さんが運転をして、

畑に着くと、やたらと人が動いていた。


麦藁帽子に日本手ぬぐいを被り、もんぺにゴム長、畑を耕すためか、鍬を手に腰の曲がったおばさんが機嫌よく歌っていた。


 

♪空がとっても青いから~、ほっかむりして …出よう~


雪ネェが、固まった。


「誰、あのおばさん、共同で畑をしている人?」

明らかに妙にテンションが高い。


「いや、私の家内でね・・・」

「ウソ~」


ウソでない証拠に、車のキーを受け取ると、その女性は上体をゆっくりと伸ばした。

トントンと腰を叩いて伸びをした。


ゴム長の土を払い、顔を背けるように、さっさと車に乗ると、運転して行ってしまった。


「あの・・・その・・・」


雪ネェはしどろもどろになり、白ヒゲのおじさんは、何事もなかったかのように、ニコニコしている。

この雰囲気、コウジがゴロスケの脇を(何か言えよと)ひじでつついた。


「どうして、奥さんと今まで一度も会わなかったのかな~?」


話題を変えて欲しかったのに、ゴロスケのやつ、真っ向勝負で、そらしゃ~しない。


「いやね、家内はブティックに行ってたのでね…」


そうか、あんまり優雅そうなので、人を雇っているのかと思った。


僕たちは、経済的に独立しているような人、自営業者ってあまりお目にかかったことがなかったから。


「ほぉ~、ここで、バーベキューが食べられるんだな」


大下さんは、嬉しそうだ。


海の見える高台の急斜面の畑まで登った。

辺りに民家がないから、どんなに騒いでも、クレームが来ない場所。

ちょっとした広場になっていて、当たり前だが、オープンエアー。

白ヒゲのおじさんは、ここを『こころまい広場』と名づけた。

心が舞うほど楽しいからだそうだ。

本当は、やっぱり騒げる居場所って感じでつけた気がする。



「生ビールのジョッキと、いきたいもんだ」


「ふふふ」

コウジたちは笑った。


「我が家の女性陣は、買出しに行きましたから、どうですか? 一つ名所をお見せしましょう!」


白ヒゲのおじさんの案内で、緑深い木々のトンネルを、車で走った。


「御林といって、江戸時代からある松の林があります。つまり、木を植えて魚を育てるという発想は、昔から日本にはあったんですね」


大きな幹の赤松、黒松が天までそびえている。

それが、結構広くて、奥行きのある自然の佇まいがそこにあった。

高い木々と下草の笹や中くらいのアオキが心地よさ気に風に揺れている。

木漏れ日がレースのカーテンのように筋になって白けている。

そこから、ふいに野生動物に遭遇しそうな森である。


海岸までは、なだらかな下りの散歩コースになっている。


「ホラ、見て!」


見ると、『落枝注意』の看板がある。

突然五十メートル上から、落ちてくる可能性もある訳だ。


「上見りゃいいの~? 足元見ながらが、いいの~?」


「さぁ~」


「その人の運だよな」


「うん、運」


「江戸城の築城の際、石を伊豆や、この辺の海岸で切り出してね、

大田道灌もここへ足を運んだ」


きちんと人が住まう処には、きちんと歴史的な遺物が残され、その時のエピソードが語り継がれて行く。


「あの竹藪も、自分たちの話が語り継がれて行けばいいねぇ~」


「どんな話よ!」


「そんで、成っちゃんが迷子になって、鳥小屋で泊まった話?」


「そうじゃなくって、ここで、旅の若者が竹を切って整備してくれた話

『竹炭ならずの園』なんてのはどう!」


「アハハ、百年後にはそんな名前がついてたりしてね~」


「荒れた竹林をね、ただで整備するから、筍を掘らしてくれって契約して行く、人たちがいるんですよ」

白ヒゲのおじさんが言った。


「へ~、物好き!」


「ところが、それが利益に繋がるんでね。今、中国産の筍は安いけど、みんな大丈夫かって思ってるでしょ!」


「うん」


「だけど、国産のはうんと高い! 小さいのが皮付きで500円もする。

その中間の値段で筍を、その会社は売れるんですよ。

元手がタダだから・・・竹林の持ち主も何の手間もなく、その筍を貰える」


「へ~、頭いい!じゃあ、その整備する人件費だけか~」


「自然保護と、お互いの利益と、運送コストがかからない方法、頭をひねれば、もしかして色んな方法が出てくるかもしれない」


地球の気候がおかしくなって、旱魃と大洪水の二極化が進んでいる。

日本だって、自給自足を今から始めないと、土は簡単にできない。


海まで降りると、海岸で岩海苔を採っている人たちがいた。

岩場に鮮やかな緑色の海苔がついている。

それを手でつまんで採って行く。


「昔はね、天然の海苔を時間かけて採ったものだが、何せ手間がかかるもんでね」


「海に山に空に、自然は惜しみなく人類に愛を与えてくれているのにね~」


それを無残に刈り採るのが、人類の仕打ちか、そのうちしっぺ返しが来るだろう。

自分たちの子供の時代に、ちゃんとした環境を残してあげられるか?問題だ。


「さあ、どうする? って突きつけられているね、これからが正念場だ」


下りは良かったけど、また駐車場まで、ひいこら汗だくで登った。

知らずに結構な距離を歩いているものだ。


車で行くと、漁港が見えた。


「ねぇ、大下さん!ここで、チャーターできるね」

成っちゃんが、大下さんに言った。


「ここは何でも、便利に揃ってるもんだ!」


「何のこと?」


「これ!」

成っちゃんがリックを探して、差し出した。

ビニールに白い粉が入っている。


「春ちゃんだよ」

成っちゃんは、その袋をぶら~んとさせた。


「え~」


脳裏に、戸惑ったような春ちゃんの姿が浮かんだ。


「それに、多分、春ちゃんの彼女のも」

ビニール袋は二つあった。


「え~」


コウジたちは、何で陽気にそんな大事な物を持ち歩いていられるのか、

分からなかった。


事情の分からない筈の、白ヒゲのおじさんが言った。


「私のいつも食べに行く、割烹料理屋のお兄さんが漁師をやっているそうで、船を借りられるかどうか、聞いて見ましょう」


雪ネェが頭の回転を巡らして、叫んだ。

「散骨するんだ~。ひゃ~、驚き~」


「それについてもね、ただ骨を海に撒けばいいってもんじゃないんですよ…ただ」


白ヒゲのおじさんはできるだけ丁寧に言った。


「戒名は、坊さんに頼むとか?」


雪ネェがせっかちにその先を読んだ。


「戒名なんてね、ソフトが六万円で、売ってますからね…」


「え~。坊さんが考えて付けてくれるんじゃないの~」

雪ネェがまるで、ジェットコースターに乗って叫んでいるぐらいの声で言った。


「百二十万円とかするって、聞いたよ~」


「その、坊さんがそのソフトを使っているらしいんですよ」


「坊さんの、暴利だ~」


そう思いっきり叫んだのは、スンちゃんだった。

え? みんなは、顔をまじまじと見た。

今まで閉じ込めていた自我を開放させたかのか。


白ヒゲのおじさんは、何かを言いたげに口をパクパクさせていた。

しかし、そんな話はみんなの耳にはいらなくって、春ちゃんの彼女(もうその頃は、皆の確信に至っていた)の写真に魅入っていた。


「超キレイ」


「べっぴんさんやね~」


「この娘何歳?」


「何か、妖精みたいな娘…でも、何で私たちの手でやるの? この娘のご両親は?」


「何か、訳ありみたいなんだよ」

大下さんが、運転しなから応えた。



「自殺してしまったのだけじゃなく、語りたくない何か。死んだ娘が恨んでいるって…普通~母親が言うか?」


「言わな~い」


「家族の犠牲になっていたみたいなんだ。だから、一緒に弔ってあげようって思ったのさ」


「その件に関しては、光介君にお願いしよう!」


白ヒゲのおじさんがきっぱりと言い切った。


「光介君って誰?」

成っちゃんが聞いた。


都会暮らしの若いボクらは、自然の中でうんと癒された。

春ちゃんの魂も、安らかに眠ってくれればいいのだけれど。

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