その頃、大下さんと成っちゃんは
そこは、想定外の世界だった。
その頃、大下さんと成っちゃんは、電車を乗り継いで、
山奥のO市の警察へ寄った。その現場の山林へ行って、花束を飾った。
最期の写真を見せてもらった。春ちゃんは、ほほ笑んで眠っていた。
もう一人の男性の車に、ガムテープが内側に貼ってあったのと、
練炭入りの七輪があったので、
「おおかた、ネットで知って集まったんだろう」
と捜査は15分くらいで、片付けられた。
男性の身元はすぐわかって、
家族の元へ戻り、葬儀はとっくに終わっていた。
その女の子のご両親にも会って、
少し話した。
人目を避けるように、
遺体は、実家には帰らず、弔うようだ。
「すげえ、きれいな娘だな~」
「春ちゃんは、きっとその娘のことが好きだったんだ」
成っちゃんは、残念としか思えなかった。
死神の手にかかったものは、あざやかに去っていった。
「思い出に・・・」
「え?」
「人間は、愛した人の記憶をとどめて置きたいから、写真とか、その昔は、肖像画とかを描いて大事にしていたんだ、きっと」
大下さんは、彼女の遺族に頼んで、スナップ写真を一枚貰った。
「ほい」
成っちゃんは受け取った。
「生きたいと、思わなかったんだろうか?」
「最期に、何を思ったんだろうね、あの娘は・・・」
泣いているのは、成っちゃんだけで、大下さんは、肩を叩いた。
死んでいった春ちゃんは、優しすぎて、残された家族は、感情を表さず語るまいとしていた。
「帰ろう」
「うん」
と頷いた。
みんなのいる、キャンピングカーへ。
「春ちゃんは、両親が早くに死んで、親戚をたらい回しだったみたいだな~」
大下さんが言った。
途方にくれた春ちゃんの姿が、脳裏に浮かんだ。
白い布の包みを抱いた、成っちゃんの目から、涙がこぼれて、後から後から流れてきた。
「春ちゃん、ボクは春ちゃんのこと、友達として永遠に忘れないよ。そして、ネットカフェ仲間の飲み会で、撮った春ちゃんの写真。彼女の写真も、一緒に。彼女として覚えておくよ」
小さな写真2枚。
胸ポケットにそっと忍ばせた。
納得がいかない顔で、大下さんが言った。
「それにしても、あの遺族は何か妙だったな~」
戸惑ったような、自殺してしまうようなそんな娘は、うちの家族じゃありませんみたいに。
成っちゃんが、大事そうに骨壷を大下さんに渡した。
「あ~っ、リック忘れた」
リュックを取りに戻ろうとして、ガラスの重たいドアを開けた。
「散骨にしたいんです!」
あちらのお母さんの怒ったような声が、聞こえた。
成っちゃんも大下さんの方を振り向いた。
(そんなのできるんだ~)
二人とも同時にこう思った。
大下さんは、春ちゃんには悪いが、骨壷をどこに置こうか迷っていた。
春ちゃんの遠い親戚筋には頼れない。
だって、たらい回しにされたと聞いていたから。
かといって、キャンピングカーに乗せて運ぶ訳には行かない。
あの大金持ちのスポンサーのご夫人にでも預かって貰おうかとしか、
思い浮かばなかった。
「何で、私の所?」
そう言われれば、諦めるしかない。
彼女が良くても、息子さん家族が黙っていないだろう。
火葬場の人に聞くと、『粉砕機』があるらしい。
想像するに、時間はかからない。
「じゃあ~、これもお願いします」
こう言うのも妙だった。
「はい、分かりました」
係りの人が、神妙な面持ちで応えた。
待合室で、またお母さんが叫んでいる。
「あの子、まだ私のことを恨んでるのよ・・・。死んでも!」
「まあまあ」
家族の人にたしなめられていた。
怯えた声が大きくて、別室でも聞こえるのだ。
「家族に見捨てられたかで、恨んで死んだのかな?」
「可哀想だね」
「あのおじさんがいなければ、二人の心中だけどね」
「いや、あのおじさんと出会わなければ、死ななかった」
春ちゃんは、車を持ってないからこんなとこまでドライブは、できなかった。
成っちゃんは、あのひょうきんな春ちゃんが、好きだった娘らしい写真を見ていた。
二人は、沈黙の長い時間を過ごした。
夕日が傾いた頃、4やっと係りの人が、粉砕したのを持って来てくれた。
大下さんが、ふと立ち上がって向こうの部屋に行った。
暫くすると、骨壷をもう一つ抱えて帰ってきた。
「何するんですか~!」
成っちゃんが驚いた。
「何か訳ありだからね、『うちの春ちゃんと、ご縁があったみたいだから、一緒に散骨しましょうか?』
って言ったら、お願いしますだってよ」
と自分で言いつつ、呆れている。
なんて家族だ。
「へぇ~」
成っちゃんは、大下さんの寛容さに感心した。
「その入れ物で行くんですか?」
「大きいか?」
「だって、骨を撒いたあと、それってゴミになるでしょ?」
「そりゃ、まぁそうだけど」
丈夫なビニール袋に入れ直して、大下さんのリックに入れようとした。
「僕が持っててもいいですか?」
その時、珍しく成っちゃんが聞いた。
大下さんは、その袋を渡し、白い容器を係りの人に渡して、そこを後にした。
インギンな儀式なんかはしないつもりだ。
「散骨は、海か、山にするんだって」
「ふ~ん、やっぱり海だよね」
「そうか、じゃ海にしよう!」
成っちゃんは、船をチャーターして、袋から撒く自分たちを想像した。
「散骨って、本人の希望かと思ってた~」
「遺族の希望でいいんだそうだ~」
「じゃあ、墓地なんか買わなくてもいいね」
「そうだな、山も削らなくていいしな」
「山に木がなかったら、土砂崩れが起こるし・・・」
「立派なお墓あっても、成仏するとは限らないし、高い戒名貰っても、天国へ行けるとは思えん人もいるしな~」
「第一、インド語が日本人に分かるとは、思えないし。英語もろくすっぽできないのにさ」
「言えてる。インド語じゃなくてそりゃ、サンスクリット語だろう」
「春ちゃんが、そのサンスクリット語を分かるとは思えんな」
ホッとしたのか、二人は、身体をもたれかけ、満足そうな笑みを浮かべた。
「散骨…」
「春ちゃんは、きっとみんながやってくれたら、嬉しいと言うと思うよ」
「心を込めてな、みんなでやろう。雪ネェに歌ってもらおう…」
「いいね、それ」
外はもう、真っ暗だった。
散骨って何だか不思議。
色んな家族があるのよね。




