表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
15/53

その頃、大下さんと成っちゃんは

そこは、想定外の世界だった。

その頃、大下さんと成っちゃんは、電車を乗り継いで、

山奥のO市の警察へ寄った。その現場の山林へ行って、花束を飾った。

最期の写真を見せてもらった。春ちゃんは、ほほ笑んで眠っていた。


もう一人の男性の車に、ガムテープが内側に貼ってあったのと、

練炭入りの七輪があったので、

「おおかた、ネットで知って集まったんだろう」

と捜査は15分くらいで、片付けられた。


男性の身元はすぐわかって、

家族の元へ戻り、葬儀はとっくに終わっていた。


その女の子のご両親にも会って、

少し話した。


人目を避けるように、

遺体は、実家には帰らず、弔うようだ。


「すげえ、きれいな娘だな~」


「春ちゃんは、きっとその娘のことが好きだったんだ」


成っちゃんは、残念としか思えなかった。


死神の手にかかったものは、あざやかに去っていった。


「思い出に・・・」

「え?」

「人間は、愛した人の記憶をとどめて置きたいから、写真とか、その昔は、肖像画とかを描いて大事にしていたんだ、きっと」


大下さんは、彼女の遺族に頼んで、スナップ写真を一枚貰った。


「ほい」

成っちゃんは受け取った。


「生きたいと、思わなかったんだろうか?」


「最期に、何を思ったんだろうね、あの娘は・・・」


泣いているのは、成っちゃんだけで、大下さんは、肩を叩いた。


死んでいった春ちゃんは、優しすぎて、残された家族は、感情を表さず語るまいとしていた。


「帰ろう」


「うん」

と頷いた。



みんなのいる、キャンピングカーへ。


「春ちゃんは、両親が早くに死んで、親戚をたらい回しだったみたいだな~」

大下さんが言った。


途方にくれた春ちゃんの姿が、脳裏に浮かんだ。


白い布の包みを抱いた、成っちゃんの目から、涙がこぼれて、後から後から流れてきた。


「春ちゃん、ボクは春ちゃんのこと、友達として永遠に忘れないよ。そして、ネットカフェ仲間の飲み会で、撮った春ちゃんの写真。彼女の写真も、一緒に。彼女として覚えておくよ」

小さな写真2枚。

胸ポケットにそっと忍ばせた。


納得がいかない顔で、大下さんが言った。


「それにしても、あの遺族は何か妙だったな~」


戸惑ったような、自殺してしまうようなそんな娘は、うちの家族じゃありませんみたいに。



成っちゃんが、大事そうに骨壷を大下さんに渡した。


「あ~っ、リック忘れた」


リュックを取りに戻ろうとして、ガラスの重たいドアを開けた。


「散骨にしたいんです!」


あちらのお母さんの怒ったような声が、聞こえた。


成っちゃんも大下さんの方を振り向いた。


(そんなのできるんだ~)

二人とも同時にこう思った。


大下さんは、春ちゃんには悪いが、骨壷をどこに置こうか迷っていた。


春ちゃんの遠い親戚筋には頼れない。

だって、たらい回しにされたと聞いていたから。

かといって、キャンピングカーに乗せて運ぶ訳には行かない。

あの大金持ちのスポンサーのご夫人にでも預かって貰おうかとしか、

思い浮かばなかった。


「何で、私の所?」

そう言われれば、諦めるしかない。

彼女が良くても、息子さん家族が黙っていないだろう。


火葬場の人に聞くと、『粉砕機』があるらしい。

想像するに、時間はかからない。


「じゃあ~、これもお願いします」

こう言うのも妙だった。


「はい、分かりました」

係りの人が、神妙な面持ちで応えた。


待合室で、またお母さんが叫んでいる。

「あの子、まだ私のことを恨んでるのよ・・・。死んでも!」


「まあまあ」

家族の人にたしなめられていた。


怯えた声が大きくて、別室でも聞こえるのだ。


「家族に見捨てられたかで、恨んで死んだのかな?」


「可哀想だね」


「あのおじさんがいなければ、二人の心中だけどね」


「いや、あのおじさんと出会わなければ、死ななかった」


春ちゃんは、車を持ってないからこんなとこまでドライブは、できなかった。


成っちゃんは、あのひょうきんな春ちゃんが、好きだった娘らしい写真を見ていた。



二人は、沈黙の長い時間を過ごした。

夕日が傾いた頃、4やっと係りの人が、粉砕したのを持って来てくれた。


大下さんが、ふと立ち上がって向こうの部屋に行った。

暫くすると、骨壷をもう一つ抱えて帰ってきた。


「何するんですか~!」

成っちゃんが驚いた。


「何か訳ありだからね、『うちの春ちゃんと、ご縁があったみたいだから、一緒に散骨しましょうか?』

って言ったら、お願いしますだってよ」

と自分で言いつつ、呆れている。

なんて家族だ。


「へぇ~」

成っちゃんは、大下さんの寛容さに感心した。


「その入れ物で行くんですか?」

「大きいか?」


「だって、骨を撒いたあと、それってゴミになるでしょ?」


「そりゃ、まぁそうだけど」


丈夫なビニール袋に入れ直して、大下さんのリックに入れようとした。


「僕が持っててもいいですか?」

その時、珍しく成っちゃんが聞いた。


大下さんは、その袋を渡し、白い容器を係りの人に渡して、そこを後にした。


インギンな儀式なんかはしないつもりだ。


「散骨は、海か、山にするんだって」


「ふ~ん、やっぱり海だよね」


「そうか、じゃ海にしよう!」


成っちゃんは、船をチャーターして、袋から撒く自分たちを想像した。


「散骨って、本人の希望かと思ってた~」


「遺族の希望でいいんだそうだ~」


「じゃあ、墓地なんか買わなくてもいいね」


「そうだな、山も削らなくていいしな」


「山に木がなかったら、土砂崩れが起こるし・・・」


「立派なお墓あっても、成仏するとは限らないし、高い戒名貰っても、天国へ行けるとは思えん人もいるしな~」


「第一、インド語が日本人に分かるとは、思えないし。英語もろくすっぽできないのにさ」


「言えてる。インド語じゃなくてそりゃ、サンスクリット語だろう」


「春ちゃんが、そのサンスクリット語を分かるとは思えんな」

ホッとしたのか、二人は、身体をもたれかけ、満足そうな笑みを浮かべた。


「散骨…」


「春ちゃんは、きっとみんながやってくれたら、嬉しいと言うと思うよ」

「心を込めてな、みんなでやろう。雪ネェに歌ってもらおう…」

「いいね、それ」


外はもう、真っ暗だった。

散骨って何だか不思議。

色んな家族があるのよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ