きっこう苑とインディゴブルーのおじさんたち
必死の思いで、おじさんの畑へ、
もう一方も大下さんと成っちゃんは、春ちゃんのお骨を引き取りに…
M駅には、十時半頃着いて、ロータリーに駐車した。
「スンちゃん、バッチリじゃん」
「ああ・・・まあね」
スンちゃんはじっとり、汗をかいていた。
しばらくすると、青い四駆の軽乗用車が止まって、
見覚えのある白いヒゲのおじさんがいた。
ブティックの経営者だけに、ハンチング帽を被ってる、おしゃれだ。
「やぁ、あと、I県からね、若い有能な・・・方がね、見えるの」
若い有能なで、雪ネェが上機嫌だ。
悪かったね~僕ら無能で・・・。
しばしそんな雰囲気だった。
ローカル線は、本数がビックリするほど少ない。
待つ間、コウジがおじさんに畑の話を聞いていた。
「なんか、広大な畑じゃ~、なさそう」
気弱に報告した。
僕らを使って貰うには人数が多過ぎ。
「そうだなぁ、海につき出た岬じゃぁ、土地も狭かろう」
それぞれ、バイトでも探さなきゃ。
「改札口から、人が出て来だした。列車が着いたらしいよ~」
そして、彼らしい人が登場した。
本当に、若い。
有能なとは言え、どう見ても学生…に見えた。
雪ネェは押し黙っている。
「紹介しよう~、こちら、治療師でもある光介君」
iPodで音楽を聴いていて、イヤホンを外した。
「初めまして~」
「そして、こちらキャンピングカーで、全国を周っている旅人集団の雪ネェ・・・たち」
「どうぞ、よろしく~」
雪ネェが、愛嬌を振りまく。
「その他大勢です、よろしくお願いしまぁす~♪」
ゴロスケがへこまずに言った。
光介君は、キャンピングカーに釘付けになった。
魅せられたようだ。
「へ~、これで 寝てんの? 」
「けど、背中痛いよ」
ゴロスケが率直に感想を述べた。
「一晩、ここで寝ていい?」
「いいよ~、どうぞ~。入りなよ」
ゴロスケがドアを開けると、光介君が駆け上がった。
「へ~、トイレもシャワーもあるんだ~」
「緊急な時以外、使ってないけどね」
「何で?」
「満タン寸前で、使った者が、洗うルールだから・・・」
「なぁるほど~」
「運転してみる~?」
「え! いいの?」
光介君が喜んだ。
と言うことで、光介君がハンドルを握り、ゴロスケが手でバッチリのポーズを作った。
これで運転手が確保できた。
「それじゃぁ、行きましょうか? 」
白ヒゲのおじさんの車について行く。
急な坂、ヘヤピンカーブを、どんどん走って行き、僕らは余裕で窓からの景色に見入った。
石屋さんが目立った。
海の見える高台、絶景のポイントに畑があった。
それもすごい急斜面。
車を停めて、畑に向かった。
きっこう苑と木の看板が立ててある。
「う~ん、ここじゃ、ペンキが斜めに垂れる」
雪ネェがぶつぶつ独り言を言う。
コンテナを運ぶ、プチモノレールのレールがさび付いていて、農家が、昔は盛んだったみかん作りを手放して、長い時間が過ぎたのだった。
そのレールをまたいで、カラスノエンドウの茂った畑に着いた。
「これはね、湯がいてお浸しにして、食べれるんだよ」
「へぇ~」
雪ネェがちぎって食べてみる。
「ん~、ルッコラに味が似てる~」
「ルッコラって何?」
ゴロスケがコウジに訊く。
「さ~、ハーブの一種か?」
ツボスミレ、タンポポ、ヒヨコ草、土筆、ぺんぺん草、フキ、
オオイヌフグリ、それになぜか、アップルミント。
「雨水をここに貯めて」
と古いユニットバスを指した。
「中に金魚を飼って、ボウフラがわいたら食べて貰う・・・、毒が入ったら金魚が死ぬから分かるしね」
お茶を飲むのは、ペットボトル入りの水を買って来て、ガスコンロで沸かすらしい。
「ふ~ん」
雪ネェが感心している。
スチール製の物置を開けて、座布団を出してイスの上に敷いてくれた。
スンちゃんは、光介君を見た。
さっきからずっと、眩しげに海を眺めている。
色白で黒曜石のような真っ黒い瞳だ。
「君は、畑には、興味はないの?」
光介君は、肩をすくめた。
「僕はド田舎に住んでるんだぜ、畑と田んぼばっかりさ」
「そっか!」
「でも、海は珍しい。海なし県だからさ。きれいな青だな」
スンちゃんも、海を眺めた。
「同感!」
そうっと、聞いてみた、
「さっき何の音楽聴いてたの?」
「ああ、これ?」
イヤホンを貸してくれたので、聞いてみた。
「ああ、これ?懐かしいな~一時期、流行っもんね。『ジンギスカン』・・・」
スンちゃんが笑顔になった。
白ヒゲのおじさんが、向こうでしゃべってる。
「まだ、みかんが成っているんだよ。あっ、鳥が食ってる。これも駄目か、ああこれはいける。無農薬だから、この前来た娘が、八朔の皮を刻んで、漬物の彩りに入れてるって。みかんは、実が少なくなってきたから、味が濃いんだよ~」
確かに、潮風に当たる場所のみかんは甘くて美味しいのだ。
高枝バサミを持ってきて、高い木のみかんを切った。
みかんは、ポトンと落ちて、斜面をバウンドして、転がり落ちた。
「あ~あ、行っちゃった。じゃあ~僕が坂の下で受け止めるよ」
ゴロスケが下に回った。
斜面のみかん畑での、みかん狩りは、何と二人掛かりだ。
一人が木に登って、左手でつかまって、右手でハサミで切る。もう一人が、下で待ち構えてキャッチしてカゴに入れる。
「昔の人は、木のソリみたいな『 木馬 』で駆け下りて運んだ。
そう、それでみんなが、農業で食べて行けた時代にはね~」
そうして、食えなくなって、放置した。
その土地に、興味を持った、都会から来た人が素人的にやってみた。プロの農家は農薬を使う。
隣に農薬を使っていると、こちらにも農薬が掛かる。
こちらが農薬を使わないでいると、虫がわくと言われるので、仕方なく使う。
隣接していると、わずらわしい。
ここは、放置されていたから、農薬を使わないグループばっかりの4人ほどがやっている。
「あと一人欲しいな~手が回らないよ」
いえ、いえ一人と言わず、何人でも・・・。
「農薬って、本当は、薬じゃないよね。消毒っていうけど、消すんじゃなくって、撒く毒だよね~。字で誤魔化されてる気がするなぁ~。九州の水俣病は、窒素の肥料を作るのになんで、そんなに体に悪いものが出るのだろうと不思議だったなぁ~」
雪ネェが言った。
窒素、カリウム、リンこの三つで植物を育てる養分はまかなえると教えられた。
しかし、いろいろと不具合が生まれた。
病気や、害虫が発生し、消毒薬を撒いた。
すると、それに耐えうる害虫が生まれた。
農家は自分たち家族が食べる野菜は農薬をあまり使わず、出荷用の野菜には、農薬を結構使う。
消費者が、本当にいい物を作る農家を支えて、賢い選択して行くという変革がの時代だ。
新しく農業をやりたい人は、リタイヤ組みがほとんどだ。
オープンエアーの手作りの応接セットがあり、テーブルを囲んで、畑仲間と語らい、ビールを飲み、バーベキューパーティーもできる。『こころまい広場』と看板があった。
夏は、はるか向こうの花火大会が見える。
「昔は、ハンモックも吊って寝たりしたんだけど、蚊にいっぱい刺されてね~」
おじさんが言った。
「女性陣は、寒いから畑に出て来ないんだよ。今はホッタラカシ状態だな」
だから、アップルミントがあるんだ。
白ヒゲのおじさんは、斜面を指差して言った。
「畑の上の方にジャガイモを植えたんだ」
「へぇ~」
雪ネェがドンドン登って行く。
「土がふっか ふか~」
何度も踏みしめた。
「あっ、そこにジャガイモ植えたんだ」
「ひゃぁ~」
雪ネェは、慌てて、飛びのいた。
ゴロスケが、その上を指差した。
「すっげぇ~、荒れ野だなぁ~」
「あの荒地、開拓しませんか?」
コウジが切り出した。
「ああ、あれはね~、自然農といって、無耕作農法を実験的にやってるんだ。何年か放っとくと、いい土になる。これでもれっきとした畑なんだよ」
「へぇ~! あれが、畑」
よく見ると、境界線に自然農と書いた木の札があった。
「じゃぁ、僕らは用なしだね」
コウジは、雪ネェに言った。
「ここじゃ、ペイントは無理だし。第一、平行線が引けない」
雪ネェは、軽く笑った。
「じゃぁ畑は、この辺にして、パノラマでも見ましょうか?」
僕らは、畑を後にして、また移動した。
☆☆☆
一方は、世間体を気にし、散骨にしたい家族。
もう一方は、仲間から心を込めて見送られようとする散骨。




