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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
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君とどこまでも一緒だよ

高速に乗る一歩手前でキャラバンから降りた春っちゃんのその後は…。

その晩、地元の人たちが、飲み会を開いてくれた。

この辺りに住む住人たちが、ささやかなお礼の気持ちとして。


刺身の舟盛りが出て、お母さんらの手作りの手巻き寿司とお稲荷、

お新香、唐揚げ、アジ干物を焼いたもの、フキのトウのてんぷら、

モンゴウイカのゲソのバター焼き、みかんもてんこ盛り、お酒も勧められ、適当に酔っ払った。


雪ネェがビートルズのナンバー『ノルウェーの森』をギターで歌い始めた。

続いて、『if the world had a song』 繰り返し歌う。

もと歌は、バッハで、パイプオルガンの曲、みんなの心が一つになる歌だ。


きれいな澄んだ声だった。

キャラバンのメンバーもおじさんたちも、酔いしれていた。


ところで、雪ネェのその声にうっとりと酔いしれている人がもう一人いた。

高速の手前で、キャンピングカーを降りてしまった春ちゃんだった。



そして、なぜこうなったのか、

春ちゃんは、いきさつを思い出していた。



おぼろげながら…別の森の中を、ドライブする男女がいた。


一人は春ちゃん、若くて色白のきれいな娘、春ちゃんのガールフレンド梨沙ちゃんだ。

キャバンの連中と出稼ぎに行くか、東京に残るか?

とっさに、春ちゃんは、梨沙ちゃんに連絡をとってギリギリで合流した。

ガールフレンドが、どこに何をしに行くのか、聞いていなかった。


運転しているのは、一人のくたびれた感じの中年男性だった。

名前は、松井さん。


松井さんは、以前、会社を経営していた。

バブルの前に自社ビルを買っていて、このまま順調に業績が伸びるだろうと思われた。

しかし、不景気になって、仕事が来なくなった。

自社ビルを売ろうにも、値が下がっていてローンははらいつづけなければならない。

買い手も付かない。

バタバタと取引先が倒産し、安い仕事をしても利益が出ない。


借金は増える一方、矢のような催促。

従業員の給料を待って貰うにも、限度があった。

自分の命にかえてでも、家族や自分を信じてついて来た従業員の生活を守らなければならない。

生命保険の保険金。

それしか浮かばなかった。


気が付いたら、どす黒い闇の中にいた。

自分だけが悪いんじゃない。

でも、一人で死ぬ気になれかった。道連れを見つけてさそって、車で長距離ドライブしていた。


「これ以外にも、何かいい方法はあったんだろうか?」


いっそ、止めようか? 分からない。

考え抜いても、いい考えは出なかった。

誰か、一人でもいい、この中の誰か、自分を止めてくれと願った。


若い梨沙ちゃんも、どうしようもない苦悩を抱えていた。

家族の留守中、義理の兄に性的暴行を受けたのだ。


「あんたが、黙ってさえいれば、丸くおさまる。みんなが平穏でいられるから・・・」


愛されて、保護して貰うべき家族に我慢を押し付けられた。

女性のお母さんは、最善で最悪の方法を選んだ。


「今、収入がないと大変なんだよ、家のローンだってあるし・・・これから子供だって産まれるし」


妊娠中の姉ちゃんの夫が、家族の留守中にしでかしたことには、おトガメなし。

夫婦間でギクシャクしても、年月が解決してくれるはずだと。


「私の気持ちはどうなってもいいの?」


「…」


「被害者である娘の傷ついた心より、世間体や生活を取るの?」


ダンマリを決め込む母親。

悲しげな父親。

そして、実の姉さんからも、怒りの目を向けられた。

「まるで、私が悪いみたいじゃないの」


どうしようもない怒りと、憎しみで、正義のカケラもない家庭を飛び出した。

家族は、正直、ホッとしているのだろう。

インターネット・カフェで寝泊りして、ゲームで時間を潰した。


あるサイトが、頭から離れない。

画面をジッとを見つめた。

もう、どうだっていい。投げやりなまま、通りを歩いた。

春ちゃんは、梨沙ちゃんの美しい横顔を見て、息を呑んだ。


真っ黒なきれいな瞳で、サラサラのセミロングヘアー。

一点を睨んで、思いつめていた。

見ているこっちのココロが痛くなる程、絶望していた。

コウジや、成っちゃんに梨沙ちゃんのことを紹介すれば、自分よりイケているから取られてしまうかもと思った。

自分に自信がなかった。

だから、黙っていた。

だから、東京を離れられないと思った。


「君といっしょにいたい」


「私の正体を知れば、そんなこと言わないよ」

自分の黒歴史を、知り合ったばかりの男性に、打ち明ける気にはなれなかった。


「梨沙ちゃんといっしょに居たいんだ」


じっと見つめられると、息が苦しくなった。


「ウソ、口先ばっかり」


「僕を、信じて」


それでも、あの事を言えば、純粋そうな人間だけに、態度が変わるのだろう。


春っちゃんは、いっしょに居たいという言葉に、嘘はないから最期まで付き合った。

信じてもらいたいばっかりに。

男性の車に用意してあったものは、隠してあったが、ガムテープとまたしても七輪だった。

缶ビールを渡され、みんなで乾杯した。


言葉は、なし。

無言の盃を飲み干した…。


コウジたちは、今頃何しているんだろう? 

そんなことを思って、気がついた。


暗い森の中を誰かが、彷徨っていた。


「成っちゃん?」


春ちゃんは、知らない場所なのに、なぜか道が分かったのだ。


あの娘も説得して、『森のキャラバン』に一緒に参加させたかった。

でも、もう遅いや。


あの娘は、近くにいなかった。

暗闇のみの世界。


ただ、成っちゃんの意識の中に暫く同居させて貰った・・・。


キャラバンは楽しかった。


もし、生きていれば、こんな事をして楽しめたのに。


酒も飲めたし、陽気に笑えたのに。

残念、無念。

闇の中で、落ち込んだ。


雪ネェの歌を聞いた。いい声だ。

ココロが癒されていくのが分かった。

ココロが癒されると、少しずつ、前向きに考えられた。


春ちゃんは、思った。

自分は何のために生きたかというと、何もしないまま終わったな~。

「もしも、体無しで、自分にできることがあれば、神様・・・」


成っちゃんが、酒をクビッと飲んだ。

今日は、酔わなかった。酒に強いのは春ちゃんの方だったから。


「何か、このボクにもお手伝いさせて下さい」

春ちゃんは、祈っていた。


人生には、いくつもの道があって、それぞれの大事な役割がある。

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