僕たちは、世の中を良くする事が出来るのかな
世の中の順調な人生から、あぶれた僕ら、
でも、仲間がいるから乗り越えられる。
2007年の冬。
木枯らしの吹きすさぶ公園の午後、
今日はありがたい豚汁の炊き出しが、
あるらしいと聞いて、
コウジは並んで待っていた。
心もとないし、恥ずかしい。
男が炊き出しの行列に並ぶ人の中から、
誰かを、ピックアップしようとしていた。
「地方へ、出稼ぎに行きたくはないかね?
一日5000円の研修をしてもらって、
賛同してからの話だが…」
声が小さい。
コウジは、思わず手を挙げた。
「研修で一体、何を得られるのですか?」
と聞いた。
5000円では有り金全部を叩いてしまう。
男は一瞬、沈黙した。
そして、考え込んで笑い出した。
「失礼!一日、研修を受けてもらって
5000円を差し上げよう」
しかし、その申し出に素直に乗る人間は
いなかった。
炊き出しの鍋がもう底をつき、
お腹が暖まった人たちは
安心したようにてんでに散って行った。
ボランティアの人たちも、
手際よくさっさと片付け、
車に荷物を押し込んでいく。
男は絶句して空を見上げた。
コウジは、ずっと立ったままそこから動けない。
「俺、いいかな〜?」
「え? あぁ…」
男は、つま先から頭まで見上げて、ため息をついた。
「痩せてるなぁ、君」
(ナンダヨー、痩せてて、悪かったな)
家が貧乏で、アルバイトの明け暮れて
就職戦線に落ちこぼれ。
運の悪い見本のような人生だ。
だんだん、
自己主張ができなくなってきている自分がいる。
しかし、まだ人間は腐っちゃあ〜いない。
「あと、数人いないかな? 君、
お友達紹介してよ」
「インターネットカフェ仲間ならいるけど…成っちゃん、春ちゃん、スンちゃん、ゴロスケ、あと歌手志望の雪ネェ」
「雪ネェって女なのか?」
「そうだけど、一番元気だけど…」
「大丈夫かな?」
(それはこっちのセリフダヨ)
「失礼、晩めしあぶれただろ、おごるよ」
コウジは、見知らぬ男に、
ノコノコついて行く事にした。
腹の虫がグ~と鳴った。
怪しげな男の口車に乗って、
男女6人が、行方不明になるなんて、
新手の事件に巻き込まれる可能性だってあるじゃんか。
自分の責任で申し訳ないって想像して、悲しくなった。
「おい!」
「ハイ?」
「それで、仲間とはいつ会えるのかな?」
「ハハハ…、ラインですぐ集合かけれるよ」
「じゃあ、今夜の7時、池袋南口の東京芸術劇場の前の広場で待ってて」と、名刺を渡された。
森のキャラバン
大下 友造
「たいした ゆーぞー 森のキャラバン?」
「一応、おおした ゆうぞうと読むんだ。じゃあな」
男は、ソソクサと、立ち去ろうとした。一歩進んだところで、振り向いた。
「ああ、これ」と、言って、封筒を渡された。
中を調べると、5000円札が6枚入っている。
気前がいいな、前払いだ。
このまま僕らがトンズラしたらどうすんだ?
「ふー」
ため息が出た。
だが、もしもだよ。たかが5000円で、命を奪われるってこともあり得る。
そのたいしたゆーぞーってやつ、
ネットで調べてもいいかもな。
しかし、検索には何も出なかった。
ラインで仲間と、相談だ。しかし、指は慣れた手つきで、
『バイトの口あり、今夜7時、池袋の東京芸術劇場前広場に、全員集合!』
度、メールを打っていた。
こんな命捨てたっていいや。
あの人は悪い人じゃない。
そんな匂いがした。
今まで、散々な目にあってきた。
悪いヤツは、どこか軽くて調子がいい。
そういえば、バイトって、どんな仕事だ、まさか、オレオレの手先?
これに乗るヤツは、相当なバカだ。
そして、それで仲間を危ない目に遭わせるヤツは、コウジは、独り言を言った。
「大バカ野郎だ」
小さな活動が、やがて世の中を感動の渦に巻き込んで行く、たぶん。