死の淵で聞いた声
どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
お人好しだから? それともこれが運命だから?
だったら、どうしようもないな。
少年は薄れゆく意識の中で、ただその神の像を見つめていた。
「神……さ、ま……」
少年の背には三本の矢が刺さっている。
こみ上げてくる熱を咳とともに吐き出すと、そこには赤い水溜まりができた。
「せめて……仲間が無事に……」
――逃げられますように。
「そうして……母……が……」
――元気になりますように。
少年は父を亡くした10年前から、ただ当たり前を生きようとしてきた。
母子仲良く支え合う、質素ながらも穏やかな生活を。
だが神は、運命は、それすらも許してなどくれなかった。
――そんな薄情な神に、本当は祈りたくなんかないけれど。
【ハッ。死に瀕してまで、他がために祈るか……お人好しなのか、バカなのか、それとも――】
少年は最初、自分に語りかけてくるその声を幻聴だと思った。
死の間際に陥る、錯覚か何かだと。
あるいは、冥界から自分を迎えに来た犬神の鳴き声だと。
だが、どれも違った。
【ククク……よぉ、死にかけのニンゲン】
男の声が、確かに嗤う。
【力を、貸してやろうか……?】