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紅の救世主  作者: メアー
1章.宇宙の再構築
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5.冥王のたまご



野盗頭の最後の一撃は

不幸にも幼い少女へと突き刺さった。

例え庇わなくとも、矢によって紅の鎧が貫かれる事はなかった。

だが、そんな事は彼女が知る由もない。



「何故庇った!!ミセリ!!」


「ユタカ……。よかった……。」



「良くない!待ってろ!今治療する!」

豊はすぐ様、刺さった矢に手をかけた。


「ボルト矢を抜くな!この深さで抜けば、その娘の死を早める!」

駆け付けたレフは豊の手を即座に阻止した。

使い手である彼ならではの冷静な判断だろう。



クロスボウの矢はミセリコルデの内臓に達していた。

このまま引き抜けば大量出血は避けられない。


かと言って豊に外科としての知識や技術がある訳でもない。



「とりあえず止血だ。」

雑嚢から清潔な布を取り出し、腹部を縛り付けて押さえる。



ライとレフに拘束を解かれて解放された村人も続々と寄ってくる。



「この村に医者はいないのか!?」

ライは村人に尋ねるが小さな村にボルト矢傷の治療を行える医者は存在しない。

例え場所がヨーキタだったとしても、この深さでは匙を投げてしまうだろう。



「誰か!!大きなテーブルと大きな布を持ってきてくれ!!急いで!!ミセリを死なせる訳にはいかないんだ!!」



「わ、分かった!!」

ジャックを筆頭に女子供、老人も一心になってミセリコルデを救おうと動いた。


熱処理した布で傷口を抑える事しか出来ず

時間は刻々と過ぎてゆく。


「いけるか……。清潔な糸と針。消毒液……。時魔術のリミッター……。どうしたらいい……!」



時魔術で自身を早くし、外科手術を試みるか

しかし、この環境下で矢を抜いて患部を判断し

負傷箇所を手術するなど、素人には不可能と言える。


例え、彼女に対して紅玉の純粋なエネルギーを注いだとしても

破壊された内臓部分が、自然治癒力によって治る事はない。


具現能力は封じられ、手術器具を作る事も出来ない。


「諦めるものか……!諦めてたまるか……!」


村人に運ばれ、大きなテーブル上に移動したミセリコルデに対し、豊は止血を続ける事しか出来なかった。


頭では分かっている。しかし……。


「【時間跳躍】……!」

時を巻き戻せないかも視野に入れたが、現在のエネルギーでは数秒戻る事すら不可能だった。


助けたい……。命を救ってくれた少女を。

しかし、自分の力では何も出来ない。



「……ダメだ……。なにも……思い付かない……。」



焦りが思考と判断を鈍らせる。

悔しくて、不甲斐なくて。情けなく思う。


勇者、英雄、救世主などと呼ばれ

数多くの命と星を救っても



今この瞬間、ひとりの少女を救えないでいる



誰か……この娘を……!救ってくれ!


頼む!神でも悪魔でも構わない!


この心優しい娘を死なせないでくれ!!

願い、祈った。



豊の表情、言動から周りも希望を失っていた。

ジャックも子供達も皆涙を流し、途方に暮れていた。


「なかないで……。ユタカ……。」


この期に及んでもなお、ミセリコルデは豊を気にかけている。

顔が青ざめ、血液が不足しているのがわかる。



「せめて血が……。止まりさえすれば……。」


行動を起こしても少女の死は着実に迫っていた。


不条理な選択を迫られ喉が渇く。


全ての案が潰え、希望を失おうとした時。




「な、なんだ!?」


突如として、グルカニンブルの紅玉が光を放った。



『……救世主、我に任せよ。』


脳内に声が響く。後頭部が引っ張られる様な感覚が襲い

その瞬間、世界の色は失われ

気が付けば周りの時間が停止していた。



「コレは……。幻惑結界……!しかし、システム・ヴラヌスは今眠っているはず!一体誰が!」



紅玉は眩い光を放ち、結界内で力が具現化されてゆく。



「この波動……。威圧感。もしや……!」



現れたその姿は、本来よりも遥かに小さく

不形態の体に黒い体に、特徴的な7つの瞳が紫に光っていた。



『我は……無限冥王カイパー。』






「冥王カイパー!何故ここに!」



『力を解放し、世界線が再構築された際、個体へと戻った我を誤って紅玉が吸収したのだ。我は元々、純エーテル体であり、確かな実体を持たぬが故、エネルギーと間違えられたのだろう。』



「【残存した時間軸】の反動で次元跳躍が起きた際に、純エーテルの塊であるカイパーが紅玉の性質によって取り込まれたのか……。」



『取り込まれてからの月日、我は紅玉の機能と自身の能力を結合させ、力を蓄積していたのだ。そして、紅玉との合体を経て安定化し、装備したお主に交信を試みたのだ。』



「色々いいたい事は有るだろうが、今はミセリを救うのが先決だ!力を貸してくれ冥王!」



『良いだろう。しかし、それには条件がある……。』


「……いいだろう!魂だろうがなんだろうがくれてやる!」



『……。折角時を止めているのに即決とはな……。何、お主の様な救世主には朝飯前の条件だろう。小娘を救う方法はひとつだ。耳を貸せ。』



ミセリコルデの破壊された内臓に対し

冥王の遺伝子、つまりは【純単多細胞】を移植するというものであった。


これは様々な用途や箇所に合わせて変化する万能細胞であり、iPS細胞。

所謂、【人工多能性幹細胞】によく似た性質を備えている。


異なるのは、修復力の的確な性質及び、その速さとエネルギー消費率。

そして、ひとつひとつの細胞が、冥王の意志を持っているという事だ。



例えるならば、SFにおける独立寄生型のナノマシンである。

宿主を生かす為に独自で判断し、患部を直接縫合、治療、再生促進をするという。


それと高性能であるが故に、傷の修復には莫大なエネルギーが必要となる点だ。


冥王は個人の持つ性質【吸収&増殖】によって

外部から取り入れた力を増幅させ、エネルギー問題を解決している。



「拒否反応は出ないのか?」


『問題はない。特出して、しばらく腹が減り続ける症状が出るが、食って傷が塞がり安定化すれば食欲も本来の程度に戻る。その後に細胞を回収すれば良いのだ。』


「やるしかないか……。」


『刺さっている矢はそのままでいい。我の細胞が異物と認識して排除してくれる。』


「わかった。やろう。」


『手順を説明する……。』







話し合いが終わり、結界が解除される。

「みんな、離れて!」



「ユタカ、どうするつもりだ!?まさか一か八かで腹を開けるつもりか!?」


ライとレフはミセリコルデに起きた重傷がどの程度の大事おおごとなのかは理解している。

素人でどうにかなるものではない事もだ。


「大丈夫、そこまで乱暴じゃない。ただ、この奥の手で僕が倒れた時はよろしく頼む。」



豊は説明された手順で事を進めた。


まずは取り外した紅玉を幹部にあてがい、そのまま冥王の細胞を付着させる。

付着したら即座に細胞の再生が始まるので、グルカニンブルの力を使ってエネルギーを分け与えるというものだ。


『傷が治癒すれば後は細胞が適切に処置してくれる。お主はエネルギーを注げばよい。』



「頼んだ!」


ミセリコルデの負った傷は、細胞の付着と同時にみるみる再生、治癒してゆく。

読み通り、ナノマシンの様に、適切な縫合手術を冥王の細胞が行なっているからだ。

刺さっていた矢は自然と抜け落ち、傷一つ無く治ってゆく。


その代償として紅玉は物凄い勢いで、内部のエネルギーを消費していた。


「うおおおぉ!!!エネルギーの減りが尋常じゃないっ!」


『足りない分は貸してやる。ドンドン注げ』


「ああああぁぁぁ!!」


豊の叫びが次第に大きくなり、周りの人々も心配の眼差しで見つめている。

理屈はわからないが、若者が少女を救うために命をかけており、

それによってミセリコルデの傷が塞がっている事は直感で皆理解できた。




「ああぁぁぁ!!グルカニンブルのエネルギーも抜けていくぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


『すまん。全然足りなかったわ。』



「あぁぁぁぁぁあ!!」


地獄の様な悲鳴が続き、陽がすっかり沈む頃、ようやくミセリコルデの治療は完了した。



目を覚まし、何事もなかったかの様に起き上がる少女を前に

喜びを爆発させた村人は、一斉に歓声を上げた。


「やったぞ!!ミセリが生き返った!!」


「奇跡だ!!奇跡の力だ!!」


「バンザーイ!バンザーイ!!」



村人とは対照に、少女を救った英雄は

気力と体力を失い、しわしわのヨレヨレになってしまった。

「ぐふっ……!」


起き上がったミセリコルデはすぐ様起き上がり

変わり果てた救世主の顔を見て叫ぶ。


「きゃー!!ユタカー!!ユタカ!!しっかりしてくださいー!!きゃー!凄く細くなってる!!」


「ユタカ!大丈夫か!?うわっ!軽いっ!!何か!食い物と飲み物を!」


「急いで安全な場所へ運ぶんだ!!ライ!そっちを持て!せーのっ!!」



消えゆく意識の中、目を覚まし、顔を覗き込んでいるミセリコルデの様子を確認した豊は、胸を撫で下ろし

「よかった……」と口にした後

全ての力を出し尽くし、倒れた。


その顔は疲労でいっぱいだが、少女を救えた喜びに満ちていたという。



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