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紅の救世主  作者: メアー
1章.宇宙の再構築
4/51

4.紅の救世主




一方その頃、警報の鐘によって

村人達は全員中央貯蔵庫へと避難していた。



賊は12人、それに対峙するはひとりの老人であった。


「収穫期を狙っての略奪だな。お目当ての物はこの中にあるが、お前らの様なゴミ屑にくれてやるものなど麦粒一つありはしない。失せろ」


啖呵を切ったのはこの村一番の腕利き、ウォージィであった。その瞳は隻眼であったが、猛獣をも退ける程に鋭い眼光が、略奪者を捕らえている。



「大した自信じゃねぇか耄碌ジジイの分際で!テメェを痛めつけてから、じっくりとその麦を堪能してやる……!おい、やれ!」


略奪者の頭首が部下に合図を送るが、全員がウォージィの眼光に竦んでいる。


「親分!あの隻眼と顔の傷、イグレジアス国退役軍人のウォージィです!かなりの手練れですよ!俺らには無理だ!!」


「ごちゃごちゃ言ってねぇで行け!!」


打診した部下の背中を殴り飛ばし、ウォージィの間合いへと入った。その瞬間


「カヒュッ……!」


ウォージィの繰り出した剣の鋭い突きが略奪者の首を的確に貫いた。


「ほほぅ……!現役を退いて尚その腕前……!どうやら本当に……雑魚では勝てん様だな」


「ボス!だから言ったのに!!いてっ!!」


部下のひとりが小言を放つと、すかさず鉄拳の制裁が下される。


「生意気吐かすな!どれだけ強かろうが複数で掛かれば良いんだ!畳みかけろ!!」


如何にウォージィが達人であろうとも大盾を構えた賊が四方から囲えば一瞬でも動きが止まる。


「ぐうっ!!」


大人四人から繰り出される大盾の突進はウォージィの動きを止めた。その一瞬を逃さず、ボスと呼ばれた大男が、巨体を揺らしながら俊敏な動きで距離を縮めた。


「ふぅぅぅんっっ!!!」


豪快な掛け声と共に、部下が押さえ付けた大盾の上から大金槌を叩きつける。


それは大盾を粉砕しても尚、有り余る威力を見せた。ウォージィは咄嗟に防御したが、衝撃自体を相殺する事は叶わなかった。


フルスイングによってウォージィが吹き飛んだ事で大盾の拘束は解かれたが、たった一撃によって芳しく無い負傷を残した。


「その老いた身体で何が出来る!お前の時代はもう終わってるんだよ!」


ボスによる追撃が繰り出されるも、ウォージィは寸前のところで攻撃を見切り、皮一枚の所で回避している。


「ははは!もがけ!苦しめ!元イグレジアス兵如きがなんだというのだ!俺は北部戦争で生き残った歴戦の強者!巨鎚のバルガス!負ける訳がないんだ!」



「おしゃべりが過ぎるぞ若造、傭兵あがりの野盗崩れが」


「死にやがれぇぇ!!!」


相手の怒りを買ったウォージィは、放たれたその大振りを見逃さなかった。


回り込み、鎧の隙間、脇の死角を狙った刺突

弱点を明確に捉えた一撃ではあったが、僅かに浅く、金属の感触が剣に伝わる。



(ぬぅ……!鎖帷子か……!)


「老体ではこの隙間を貫く事は出来ねぇ、技のキレは抜群だが歳には勝てねぇみたいだな……!」


剣を脇の下に拘束され、ウォージィは反撃を余儀なくされた。巨体の拳は重く、形勢は難なく崩された。


「ぐぉっ……!!」


顔面で鉄甲の拳を受けた事でウォージィは怯み、地面は飛び散った鮮血に染まる。



インパクトの瞬間、顔を逸らす事で致命傷を避けたにも関わらず、額からは大量の血が流れ出た。


「このジジイを吊るせ!!俺たちに逆らった見せしめだ!!」


野盗数人がかりでのしかかり、ウォージィは拘束された。












———————————————


大声を張り上げ、先に戦線離脱を試みた。

やはり、積荷やミセリコルデを守りながら

残り3人の野盗を相手するのは不利と感じたからだろう。


「レフ!行くぞ!」


「おうよ!俺たちの真髄!野盗共に死ぬ程後悔させてやるぜ!!」


こうして、野盗によって分断された豊たちは

ライとレフの想いを受け、戦線を離脱した。




武器を構え、野盗へ殴り込む警備兵ふたりを他所に

牛車のふたりは、ボルドールを制御し切れずにいた。


「うぉぉぉぉぉ!!」


戦線離脱を目的としていたつもりだったが

ボルドールの暴走により、牛車は止まらず

ヤットコ村の入り口まで辿り着いてしまう。



村の入り口では、別の野盗がふたりを待ち構えていた。



「来やがった!アイツだ!俺らの装備を引っぺがした奴は!!」


「止まりやがれぇ!」


手持ちの武器を振り回し、がなり声を上げた野盗の2人組を

ボルドールの牛車は勢い良く跳ね飛ばした。


【ズドン】という鈍くて重い衝撃音が響く。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


跳ね飛ばされた衝撃で、空中回転した後

頭から落下した野盗は、そのまま白目を向いて気絶。

グシャリと痛々しい音が鳴った。


「あ、頭から逝ったぞ……!」


野盗ふたりを跳ね飛ばし、ようやくボルドールは落ち着きを取り戻すと

ミセリコルデの言う事に従って、ゆっくりと静止した。



途端、ボルドール目掛けて矢が放たれた。

すかさず反応した豊は、壊によって矢を破壊する。


「よくもオレ様の部下を!ぶっ殺してやる!」


村の要である中央保管庫前に陣取り

多数の部下を従え、弩を構えた大男。

厚い鉄の鎧と肉食獣の毛皮を纏い

頭はスキンヘッドという風貌

野盗頭、バルガスである。



「ミセリ、ボルドールを連れて逃げろ。ここは僕が何とかする」


「は、はい!」


「逃すかぁ!お前ら撃てぇ!!」



合図により一斉に矢が放たれるが、それを豊は一呼吸もせぬ間に全て打ち落とした。


人間に可能な動きではない。


この瞬間に野盗は直接的な略奪と蹂躙を諦めた。


「トマホォークブーメランッ!!」


絞首台へと吊るされたウォージィとそれを下で支えるジャックを見た豊は【超重厚戦斧・壊】を投擲すると、鋭く弧を描いてロープを切断し、手元へと戻った。




「お前らぁ!!!!」


豊の咆哮は大気を巻き起こし、大地を震撼させる。重々しく歩を進め、その重圧によって野盗供を恐怖に震わせた。



近づくに連れて圧力は高まる。

人間との対峙では感じえない圧倒的な重圧。

空気が重くなり、体が冷え、急激に喉が渇く。

野盗頭バルガスは我に返り、がなりあげる。


「野郎っ!!そこで止まれ!!人質が目にはいらねぇのか!!」


保管庫前には老人と女子供が集められ、人質となっていた。周囲の賊は10名からなり、それぞれがクロスボウや弓矢を構えている。



「……何故こんな非道が出来る……!ただ奪うだけのみならず、人の命を弄ぶなんて許されることでは無い!!」



「うるせえ!大人しく武器を捨てろ!!」


「…………」



豊は超重厚戦斧・壊を放り投げ、深々と地面に突き刺した。

それを嬉々として見ていた野盗のひとりが、壊を持ち上げようと試みる。


「ひひっ、凄え戦斧だ!こんなのお目にかかった事はないぜ……!城が買えるんじゃねぇのか!?」


しかし、戦斧は持ち上がらない。

その重量は、同質量の鉛、数十倍に匹敵し

持ち主と決めた者にしか力を示さないのだ。



「馬鹿野郎!もたもたしてんじゃねぇ!!」


部下に指示をして3人がかり、ようやく壊は引き摺る程度の動きを示した。


「アホらしい!こんなもん使えねえ!!もう放っておけ!!」


己には使えない武器を前に、実力差を見せつけられ、人質を取らねば勝ち目すら見えない現状が、野盗頭の自尊心を著しく損ねた。



「これでお前の悲鳴を聴くのもいいだろう。部下の装備と舐められた礼をしないとな……!」


取り出されたのは厚手の革で作られた鞭。

肌より伝わる痛覚は、人間である異常、易々と耐えられるものではない。



人質の数と距離、条件が芳しくなかった。

己の速度を時魔術で上げて救おうにも

その場には縄で縛られ、クロスボウで狙われている村人が複数人いる。


これらを全て、無事に助ける手段が豊には無かった。

人質の全てが女子供と老人であり、少しでも手順や加減を間違え

野盗を仕留め損ねる事があれば、村人には避けられない死が待っている。






「気の済むまでやるといい。ただ、お前の気が済んだら人質は無事に返してもらう」


豊の毅然とした様子に、野盗頭は益々苛立ちと怒りを募らせる。

ここで引けば示しがつかず、部下への面子が保てない。

悪行におけるカリスマ性とはそういうものなのだ。



「やってやらぁ!!オレが鞭打をやめたら人質は無事に離してやる!!だが、その前に死にやがれ!!!」


しなりと腕力によって鞭は、人間の反応速度を超え

痛々しい鞭打の高い音が村へと響く。

その残酷さには人質を含め、野盗の一員すらも目を逸らす。


それ程までに鞭での攻撃は、人の痛みに直接働きかける恐怖を持っているのだ。


「…………!」


豊はじっと耐えている。

悲鳴どころか声ひとつ上げずに鞭打を受けている。


「ユタカ!ワシらの事はいい!戦ってくれ!!」


「そうだよユタカ!戦って!!」



村人は、自分たちの為に傷付く青年の姿を見ていられなかった。

しかし、救世主はどんな時も諦めない。


「みんな!必ず助ける!待ってろ!!」


その言葉を聴いて、野盗頭の鞭には更に力がこもった。

鋭い鞭は皮を削ぎ、肉を抉る。

豊はその場に留まり頭部を両腕で守った。



「泣け!叫べ!命乞いをしろぉぉぉ!」



普通の人間ならば、鞭の痛みに心と身体は屈するだろう。

だが、救世主は容赦なく襲いくる鋭い痛みを堪え、

好機が訪れるのをひたすら待った。



血が滴り、皮は剥がれ、筋肉が露出する。

村人達は泣きながらやめるよう懇願するも、聞き入れられる訳もない。


幾度となく鞭が振るわれ、日が高くなった頃。

息も絶え絶えな野盗頭のもとへ

村の略奪をしていた野盗の2人組が、あるものを運んできた。


「兄貴ぃ!これはかなりの値打ち物ですぜぇ!!」

運ばれてきたのは紅の鎧、グルカニンブル。

ミセリコルデの納屋に隠されていたものだ。


全てのパーツが見事に組み合わさり

ひとつの集合体となったグルカニンブルは、まるで【聖なる衣】


煌々とした紅の光を放ち、芸術作品の様であった。それは、一目でこの場の人々の目を奪った。



「こんな村には似つかわしくねぇ代物だ……。おそらくは……。」



野盗頭は豊の方に睨みを利かせる。

しかし、威嚇の相手を間違えていた。


頭部を守りながらも鞭に耐え

腕の隙間から覗かせるその男の目は



【一寸たりとも曇っていなかった】からだ。


「どうした……?手が止まった様だが……?」




「……ぐぅ……!こ、コイツ……!まだ鞭が欲しいみてぇだなぁ!!!」



目が合った瞬間に萎縮してしまった事実は、人間としての器に違いを明らかにし、再び野盗頭の自尊心を傷付け

引き返す事が不可能な境界線を超えてしまったのである。



「おい!鎧はそこに置け!コイツの処刑が済んだら潰して売り飛ばしてやる!」


「へ、へい!」


ふたりの部下は、指示通りグルカニンブルを置いた。

位置は人質と野盗達の丁度、中心あたりである。



好機であった。



「その鎧は一品ものなんだ……。潰されるのは困る。……弾けろ!グルカニンブル!!」



「な、なんだ!?!?」



豊が鎧の名前を叫んだ瞬間。

合体していた紅の鎧が弾け飛んだ。

胸部、胴部、肩当て、肘当て、小手、脚部など

複数の構成部位が爆発したかの様に吹き飛んだのである。


それらはすべて、人質を取っていた野盗たち全ての顔面や急所へ、的確にめり込んだ。


その結果、各自が持っていたクロスボウは辺りに散らばり、人質が野盗に撃たれる可能性は消えた。


「な!なにぃ!?」


驚くのも無理はない。この世界における理解の範疇を大幅に超える機能が、紅の鎧には備わっているのだ。

グルカニンブルは有効範囲内であれば、豊の思うがままの動きを操作可能であり


「自動装着も可能だ!!」


野盗頭以外の全ての悪党が倒れた。

豊は即座に飛び出し、瞬く間にグルカニンブルを装着。

超重厚戦斧・壊を手に取って思いっきり振り抜いた。


「砕けろっ!!」


跳躍を加えた壊の一撃は、相手の左肩から袈裟斬りと抜け

砲撃の様な爆音と共に、野盗頭の図体が地面へとめり込む。

衝撃で大地は抉れ、着込んでいた鉄の装備はすべて粉々に砕け散る。


全身の肉と骨が、メキメキと激しい炸裂音を立てて破壊され

野盗頭は膝から崩れ落ち、大きな音を立てて、前のめりに倒れた。



野盗頭を倒したが、豊の身体もまた

酷い傷を負ってしまった。

なんとか呼吸を整えるが、血は流れ続け

脈拍に合わせて痛みが鋭く走る。



「おーい!無事かー!?」

遅れてやってきた警備隊2人組、その様子はボロボロであり

戦いの激しさを物語っていた。彼らもまた、満身創痍である。



「……またしばらくミセリには厄介になりそうだな……。」


鎧の上から傷を抑え、息を荒げながら人質の方へと向かう豊。


「よし、みんな、今縄を解いて……!」






気が緩んだ。







「ユタカ!!危ない!!」

皆を安心させようと笑顔を見せた瞬間。



誰かが、叫んだ。


咄嗟に反応を示すが、蓄積した傷と疲労で足が縺れ、術の発動に必要な言葉がかすれる。


野盗頭は死んではいなかった。

這いつくばった状態で、部下のクロスボウを拾い、最後の力で引き金を引いたのだ。

それは意地、執念。身を支えて来た、小さな自尊心からくる

今わの際での行動。



そして、皆が震撼する。



放たれた太く鋭い矢は、豊ではなく



彼を庇ったミセリコルデの腹部に深々と



突き刺さっていたのだった。



「ミセリッ!!!!!!!!」




ミセリコルデは力なく




その場に倒れた。







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