1.VS無限冥王カイパー
人類が重力の呪縛から解き放たれ、
月へと進出し、第二の母星を求めて躍進する時代。
宇宙の果てに突如として、超規模な磁場の崩壊と次元の亀裂が発生した。
その余波によって、偶発的に次元の歪みが生まれ、
アメリ空域を飛行していた大型旅客機が一機、行方不明となる。
この事件きっかけに、ある男の人生は大きな転機を迎える事となった。
【英雄】それは偉業を成し遂げた者に贈られる、畏敬、讃美の言葉である。
数多くの冒険を経て、ひとつの世界を救い、人々を導いた男は、
その功績を讃えられ、神と呼ばれる上位の存在から大いなる祝福を受けた。
それが全ての間違いであった。
様々な犠牲と葛藤、長き戦いの末、宇宙の覇王と称される存在、【無限冥王カイパー】との死闘が幕を開けようとしている。金属とも生物とも判別出来ない、不可思議な居城の奥底には、数十メートルにも及ぶ超巨大な扉が、来訪者を待ち構えていた。
重厚な扉を開け放つと、そこには暗黒の重圧が渦巻く、謁見の間があった。
無限にも思える程高く積まれた金銀財宝に、所々に乱雑する、歴戦の戦士達の砕けた石像。それは戦いに敗れた者達の、無残な末路であった。
数多くの死によって紡がれた、亡骸の玉座には、星の命をも悠々と呑み込む強大な厄災が鎮座しており、時をも凍らせる冷たい瞳で来訪者を見下す。
大凡、人間の五倍はある巨躯と、六本の腕。七つの瞳に鋼の様な肉体。八つの心臓と、九つの脳を持つという逸話がある。
無限冥王と称され、宇宙を喰らうもの。幾多数多の英雄を絶望の淵へと誘い、貪る事で、増長と増幅を繰り返す。それが彼の者、冥王カイパーである。
『神の啓示により出でし異世界の救世主よ。よくぞ我が前に姿を現した』
心よりの賛辞と拍手が贈られる。強者との対峙。彼の者にとって、この瞬間は筆舌に尽くし難い喜びである。
『長き歴史の中、ここまで辿り着けた者は稀有……。その才を讃え、存分にもてなしてくれよう』
「最早交わす言葉はあるまい。ゆくぞ!」
『朽ち果てるがよい、幾重の勇者を屠ってきた我が手の中で!!』
火花が弾けるが如く、冥王が指を鳴らす。この空間は冥王の支配下にあり、環境を変化させるなど、赤子の手を捻る様に容易い。空間ががらりと変質し、謁見の間は壮大な宇宙へと変わった。
美しく神秘的な半透明の足場と、立体的に交差する無数の階段。大陸が産声を上げ、海が命を育み、無数の星々が燃えて煌めく、次元の最果てである。冥王の力で構成されたこの空間は、覇者としての強さの象徴であり、抗う強敵を倒して取り込む度に、より果てなく広がってゆくのだ。
「……!?」
この時点で救世主側は、己の身に訪れた状態の変化に気が付いた。展開された【固有の閉鎖空間】では、現実に干渉する【具象能力】が封じられる。
自分自身に作用する能力は使用可能だが、それ以外。【時を駆ける創造】【鉄巨人召喚】【具現結晶】に制限が掛けられた。最早、肉体を以て戦う以外の選択肢を【たった一手】で殺されたのである。
「我が無限回廊へ良くぞ参られた。死力を尽くして戦いに臨むがよい!!!」
先ほどまで漂っていた暗黒の闘気が、渦を巻き濃度を増してゆく。常人ではその重圧に呼吸すら出来ないであろう。しかし、対峙する二つの力は異なりながらも異様な程に強大な力を放ち、互いを牽制している。
『眉ひとつ動かさぬか……。面白い』
「【ヘイスト!】」
先に飛び出したのは、救世主と呼ばれし者。彼が唱えた魔術は、自身の速度を加速させる世界の禁術。何かしらの代償なしでは唱えられるものでは無い。
『ほう……』
空間が歪んだ。魔術が時間に干渉し、次元に差異が発生した為だ。
冥王は救世主の動きに反応し、懐に忍ばせた禍々しい剣を翻した。
【暗黒無限刀】
多くの骸と血肉を糧とし、鍛え上げられた名刀、犠牲となった者達の悲鳴が聞こえて来るかの様な錯覚が呼び起こされる。その円を描く軌道は攻撃を弾き、いなし、無効化する働きがあった。
しかし――
『ぬぅっ……!』
それを上回ったのは救世主。【超重厚戦斧・壊】による攻撃は単発ではなく、多面、多次元に及んでいた。異なる場所、時間からほぼ同時に繰り出される攻撃は見事、冥王の虚をついたのだ。
『光さえ凌ぐ我が反応をよくぞ超えた!』
滲み出たのは歓喜、絶対的な自信を持つ防御術を破られて尚、冥王の顔から喜びと余裕は消えなかったのである。
「壊ッ!!」
先程、多次元攻撃命中した部位が、救世主が放った合図と共に、爆音を響かせて炸裂、破壊されてゆく。破砕箇所からは、コールタールの様な重く鈍い液体が飛び散り、辺りを染め上げ支配する。
『ふはははははっ!!』
冥王の空間は意のままに操作される。振り上げた手を救世主へと翳すと、空間内に滞在するあらゆる事象が悪意となって襲い掛かった。
「そうは行かないッッ!」
岩石や雹、水や鎌鼬、火球に放電。その悉くを弾き飛ばし、破壊する。
『破壊の力を秘めし戦斧と戦鉈。異世界より投じられた異質なる力か……。理を覆し、結果を創り出す。それは呪いか祝福か……。』
冥王は一振りで、救世主の持つ武器の特性を見抜いた。これこそが強者たる所以、培った経験と知識により裏打ちされる、全てを見通す観察眼と言えるだろう。
「【破壊】ッッ!!」
荒れ狂う攻撃を掻い潜り、冥王の本体へと猛攻を仕掛ける。
しかし、大地を砕き空を貫く程の力は、軽々しく受け止められる。
「せいやぁッッ!!」
二刀流から放たれた連撃から、体術により追撃、常人であれば瞬きすら許さずに命中を余儀なくされ、致命傷を負うであろう流星の如き蹴り。
『愉悦……!至極……!』
猛撃のそれらは完全に弄ばれている。如何に、幾多の魔獣を仕留め、勇者として申し分ない実力を発揮している救世主でも、冥王に備わった強大な戦闘力の前では、有効手段には至らない。
「むぅ……!!」
戦いの中で戦局は刻々と動いている。互いの実力や思考、あらゆる要素が加味されながら、死闘は続いていった。
「(弱点はないのか……!)」
冥王を無敵に至らしめているのは、展開されている固有領域であった。自身に有利な戦局へと持ち込むのは強者の常。如何にして有利に戦うかが戦略の要と言えよう。
『さぁ。足掻いてみせろ……!』
更なる冥王の攻撃。暗黒無限刀から繰り出される鋭き死の予感。それは、ゆっくりと振り下ろされ、的確に対象へと流れてゆく。まるで水が引力で滴る様に、淀みなく。自然の摂理であるかの様に、救世主へと襲い掛かる
「【クイックアクセル】!!」
己が反射速度を上昇させる術により、冥王の一太刀は空を斬った。
無限回廊の果てなき地平は空間と共に圧縮され、存在そのものを無かったことにする。
抉り取られた箇所は、次元の修復力によって元へと戻るが、その皺寄せはこの宇宙の何処かに慈悲なく降り注ぐ事だろう。
『【存在否定斬】の本質を即座に感じ取り、防御ではなく回避を選択したか……。これまでの英雄とは秘めているモノが異なる……!』
たった一巡の攻防を繰り広げただけだが、当人、特に救世主側へ与えられる肉体と精神へと負担は計り知れない。その中で、冥王カイパーは強敵との対峙に心を揺さぶられている。
「……やるしかないか」
救世主は背負った武装を解凍し、ひとつの武器へと変形させた。その様子を嬉々として眺める宇宙の厄災。
『見せてもらおう、【神殺し】が如何なるものなのかをな……!』
幾度も窮地を乗り越え強敵を屠ってきた。
【超重厚電動鋸・神殺し】
超高速で回転する無数の刃、これらひとつひとつに付与された破壊の力は、全ての物質と概念に介入し、絶対無敵の力すら突破する代物であり、切り札であった。
「むんっ!!」
掛け声よりも早く、物質は動いた。流れ落ちる彗星の如く、美しい軌跡を描き、対象の左肩から袈裟斬りに閃光は走る。その速さ、純粋さに、冥王も歓喜した。
『好奇心というのは……!厄介なものよ。初めて受ける攻撃というものを遂、この身で確かめようとしてしまう。例えそれが自身の存在をも覆す【必殺の一撃】だったとしてもな……!』
「やはりか……!」
神殺しでの攻撃に確かな手応えはあった。しかし、物質を断ち切ったとは違う。ぬるりとした粘液によって回転攻刃は絡め取られ、その動きを止めたのだ。
回転攻刃であったとしても、冥王の身体は破壊されず、一向に崩れない。何故なのか
「……まさか……!」
これまでの長い戦いの中で、この現象に適う存在を救世主は知っていた。
それは、宇宙の歴史を記す黙示録の中にあった。誰もなし得ることが不可能とされた机上。
「【完璧細胞】……!純単多細胞生物、……!」
『そうだ……もっとも、我の概念で言えば【並列情報統合思念体】と定義するがな……!』
宇宙の果てに、この冥王だけが確立し、備えた機能。一にして全、全にして一。
身体を構成する全ての細胞が冥王なのだ。奴は自身を構成する全ての要素を極限にまで強化し、細胞ひとつだけで星を掌握する強さを持ち、それらはすべて独立していて、統合された意思を持っている。
【多重に存在している生命体】なのだ。厳密に言えば破壊は出来ている。しかし、その破壊すべき対象が多過ぎる故に存在を消し切れないのだ。
『神の理に我を当てはめる事はできぬ』
「概念を崩そうにも物理的な壁が厚くて届かないか……!」
『そうだ、例え我が身ひとりの【純単多細胞】を破壊しようとも、その数は認識の域を既に超越している』
いくら神殺しが、一撃で冥王を数体倒したとしても、その代替はほぼ無限に残されている。アリが海の水を飲み干す様な規模の話である。いっそのこと、海ならばまだ可能性はあったかもしれない。
相手は数多の命を喰らい膨張を続けた、大いなる宇宙なのだ。
『我は己が野望を果たさんとし、幾多の意志と相対した。そして、この力を手にしたのだ』
「お前の身勝手な欲望が、罪なき数多くの星と命を呑み込んだ! 今ここでお前の命運を絶つ!」
『やってみるがよい、出来るものならば……』
救世主が持つ唯一の優位性は、僅かな時の操作にある。冥王が如何に生命として強靭だとしても停止した時の中で行動する事は許されない。
しかし、時に逆らう禁忌もまた、無限ではない。高い代償のもとに許された勇者の特権なだけで、根本的な物量を覆す要素には到らないのだ。
『ふははは……! 気が付けば身体の一部が崩壊している。まさに禁断の力……! 理に逆らい、神をも恐れぬ冒涜の力……! これならば、貴様ならば我を倒し得る存在となるだろう……! しかし、届くか……?我が無限に……!』
「はぁ……はぁ……!」
圧縮した時の流れを掻き分け行動するこの禁じ手は、壮大なエネルギーを必要とする。
それに加え、神殺しを動かす力も同等に消費し続けるため、救世主の体力は、この短い時間でかなりの消耗を余儀なくされたのであった。
「こんな事なら、救済要請を受ける前まで時を戻したいくらいだ……」
この泣き言に過ぎない一言が、この極地に活路を見出すきっかけとなった。
『誰もが我が能力の真意に辿り着き、絶望をした。そして命を賭して最後の一撃を繰り出すのだ』
「……嘸かし無念だっただろうさ、だが俺は諦めない。命を賭けるほど、今回の救済、報酬を貰ってないからな!!」
救世主は己が泣き言から着想を経て、敵の持つ無限に対する無限の攻略にひとつの可能性を見出していた。数多くの試練を乗り越え、力と知識を蓄えた救世主にとって、時間の操作は何も【時を進める】だけに留まらないのだ。
「俺の無限がお前を超えれば勝ち! 出来なければ俺の負けだ!」
『よかろう!互いの禁忌、どちらが勝つのか試してみるがよい!!我が生命は無限!滅ぼす事は不可能なり!!!!』
「禁術中の禁術! 反則の中の反則! お前が無限ならば、俺は無限の無限乗になるまで!」
救世主が身に纏った紅の鎧【グルカニンブル】胸に搭載された紅玉には、絶大なエネルギーが蓄積されており、必要に応じて吸収を解放を行う事が可能とされている。
救世主は、先程の禁術で失ったエネルギーを紅玉から取り出し、自らに還元。一瞬にして気力と体力を取り戻したのである。
その間、冥王は救世主への期待を胸に、その秘策が明らかになるのを心待ちにしていた。
『見せてみよ! 我が無限を超える無限の力とやらを!!』
「【時間跳躍】!!」
次の瞬間、冥王の数少ない死角から渾身の一撃が放たれる。目の前にいる救世主からではない、【何処からか現れた別個体の救世主】それが冥王へと攻撃を仕掛けたのだ。
「冥王、よもや卑怯とは言うまいな」
確かに冥王の目の前には救世主が存在している。ならばこの【二人目の救世主】は何者なのか、文字通り常識の範疇を超え、救世主は増えたのだ。多重時空間存在、多次元空間存在。それらは合わせ鏡の様に増えてゆく。
『こ、これは……! 我と同じ存在になったという訳か……! くはははは!! 良くぞやった!! 人の身でありながら、この領域に足を踏み入れるとは!! 天晴れ! これで無限に貴様との戦いが楽しめるという事か!! 嬉しいぞ救世主よ!!!!』
「驚くにはまだ早いぞ」
渾身の二撃目、それは目の前でも死角でもない、冥王の頭上から放たれた。三人目の登場である。
『くはははは! その分身! まだ増えるか!! 一体どれ程の精神力を隠し持っていたのだ!! 喰らい続けて増えるのか!! さぁ! 来い! 我が無限の身体と戦おうぞ!!!』
「慌てるな、まだ増える」
足元、真後ろ、三歩先、懐、計7人の連撃が冥王に襲い掛かる。
『うぉおおぉおおおぉおお!!!』
「僕は、まだ増えるぞ。冥王」
そして気の遠くなる様な時間が経過した。最早、描写出来ないほどの救世主による増殖。これは一体どうなっているのか。視界の端から端まで、認識の果てから果てへ、全てが救世主で満たされ、その猛撃は100や200では留まらない。
『まだか! まだ増えるのか!! どういう事だ! 我と同じく【純単多細胞生物】、【並列情報統合思念体】となったのではないのか!!』
「否と言えるだろう」
『不可能だ! 貴様は一体何をしている! 何処にこれだけの精神力が存在しているというのだ!!』
「これは無限に分割された別時間軸の自分を呼び込む【残存した時間軸】を延々と呼び出しているんだ」
『【残存した時間軸】だと……! まさか、異なる時間を分割し、停止した時間の差異から生まれる別個体を存在させ、時間跳躍を行った個体を増やしているのか……! なんという発想力! 馬鹿げている! そんな精神力、貴様の何処に存在しているというのだ!!』
「増えた僕自身の力を、別の個体が補っていてそれを鏡合わせの様に増やしているのさ。だからこの試みに果てはない。無限に分割した停止世界をタイムトラベルする事で残存させ、多重存在を可能にしているからね」
『根本的に我が無限と異なる……! 異質! 異次元!! 生命の頂きと概念の外側! この無限回廊を有限に落とすに足り得る奇想天外な現状…………そして、我が身に訪れる得体のしれない負担……まさか……!!』
説明しよう。【残存した時間軸】とは、時間跳躍、つまりタイムトラベル、タイムスリップを行う事で成立する【擬似ドッペルゲンガー現象】である。
例えば、救世主が1秒前の自分の目の前にタイムスリップを行う事でほぼ同じ時間軸の自分を同時に存在させるという荒技である。1秒後の未来は確定していない為、この現象は【起こる】のだ。
本来ならば、時間の逆行には、途方もないエネルギーを必要とする。発動の起因である初回は、ほんの小数点以下マイクロ秒遡るだけで、省エネ化し、成立させたのだ。
エネルギーは、グルカニンブルの紅玉に備わる【吸収と増幅】及び、タイムパラドックスで発生する時間軸の歪みが、戻ろうとする余波に起因する、エネルギーを変換して使用している。
しかし、それでは修正の際、時間軸の歪みにより【被害を被った箇所】が発生してしまう。そのとばっちりを受けているのが、冥王が発生させているこの理不尽な空間。【無限回廊】なのだ。
更に、この空間は隔離されている為、外の宇宙と時間に影響を受けない。故に、通常では不可能な時間の逆行が成立している。
相手を陥れ、弱体化させる手段として用いられた固有閉鎖空間【無限回廊】は、意図せずして救世主の手助けをしてしまったのだった。
通常であれば無限回廊を維持した状態で戦う事は、冥王にとって造作もない事だ、しかし、僅かであれど冥王の体に傷をつける存在が際限なく増え続け、あろうことか一瞬の猶予もなく渾身の攻撃を繰り出してくる。
10だった攻撃が20となり、次の瞬間には40になる。これでは如何に冥王であったとしても窮地に立たされるのは必然。今では数千数万の攻撃が暴風雨の様に降り注ぎ続けている。
「悪いが、禁忌の負債をお前に背負ってもらう」
『馬鹿な……! 無限回廊が縮小しているだと……! この空間における時空連続体が破壊される!!』
その実、【無限回廊】は無限ではない。無限に近しい性質を備えているだけである。妙な言い回しであるが、限界が目に見えていないだけで、存在はしているのだ。
『ならば、この閉鎖空間を解除し現界へと戻れば、貴様の増殖は防げる筈だ……!!』
「残念だがそれは出来ない。解除に必要なエネルギーも、前借りの負債としてなすり付けさせてもらった。既にお前は破産するしかないんだ。今まで奪い、蓄積してきた無限にあったはずの力を吐き出してな」
『抑えきれぬ……! よもやこの我が、これほどの窮地に追いやられるとは……!』
空間の維持と止まる事を知らない猛攻、これらを同時に処理することなど、この世に存在するものなどいない。救世主が増えた分、【修正力】の負債をこの空間で払わなければならない。冥王の抵抗も虚しく、無限回廊は空間維持における負債を払いきれずに崩壊した。
そして次の瞬間、救世主の誰かが放った致命的な一撃が、冥王の肉体へ深々と突き刺さり、【破壊】の力によって崩れ落ちてゆく。
異なる無限の性質勝負は多次元的、多重時空間的に救世主が勝利したのであった。【無限回廊】が破られ、形成されていた時空連続体が崩壊し、これ以上の戦いは全てを無に帰す。
冥王の最初にして最大の能力【無限回廊」が破られた時点で勝負は決した。空間は破壊され、修正力の支払いは終わりを迎えたが、【無限回廊】における、時空連続体崩壊による負債を払い続ける為、冥王は自分自身の力を返済に入れるしかなくなり、詰みの状態になってしまったのだ。
しかし、戦って見事に敗北を知った冥王の顔は、不思議と清々しさすら漂わせている。
『よくぞ我が力を打ち破った。見事だ救世主よ。貴様に敗れ、閉じていた視界が開けた様な感覚を覚えた』
「搦手が過ぎたとは思うが、正面から戦って勝てるものではないと悟った」
『我が積み重ねてきた大罪を、我が身を持って償おうと思う。我が身を個に戻し、その全ての精神力を解放して、これまで奪い、喰らった宇宙と星を再生させよう』
「そんな事が可能なのか?」
『並列情報統合思念体が観測した事象は、全てに及んでいる。再現が可能な筈だ。我が身がその体内に力を取り込む以前の姿になるだろう』
「アンタが倒してきた勇者達も生き返るのか?」
『厳密に言えば【再構成】となるだろうが、我に倒される直前の記憶まで元通りになる手筈だ。問題なかろう』
「それならいいか」
『救世主よ。我を倒してくれて感謝する。無限冥王と呼ばれ、この世全てに絶望した我すらも救ってくれた。貴様は真の救世主だ』
「そう言ってもらえると報われるよ」
『しかし、貴殿。報酬がどうとか言っていたが、この救済行為には如何程の見返りがあるのだ。銀河系数千の支配か?』
『いや、トイレットペーパー1個、ダブルのね』