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学校の人






””この世界は綺麗になんてできていない””









どうして学校の先生は、最も大切なこの世界の真実を、僕に教えてはくれなかったのだろうか?



そんなことを・・・ふと思った。



そっと見上げたその窓の外は、こちらをあざ笑うみたいに今日も青一色だ。


そして・・・この教室の学友は・・・その色を綺麗な青色だと・・・信じて疑わないのだろう。


視線を戻すと、教壇の上で今日も先生が規則正しく黒板の上でチョークを躍らせている。





・・・・・・





きっと学校は、生きていくためのすべを学ぶところに違いない。

学歴社会で生き抜くためにさまざまな学問を教えてくれる。

学友とコミュニケーションをとり、人との関わるすべを教えてくれる。

何をやって良くて、何をしてはならないのか、人間社会で生きていくためのマナーを教えてくれる。

でも、


この真実だけは・・・どの教師も・・・教えてはしない・・・。



――ひそひそ――


でもみんな・・・心のどこかで・・・気付くのだろう・・・


――ひそひそ――


決して口にしてはならないその真実を。


――ひそひそ――


反抗期なんかで紛らわせながらも、皆いつかはその真実に身をゆだねていく・・・


――ひそひそ――


きっとそれは、パンドラの箱なのだ。


――ひそひそ――


開けなければ、偽りで彩られた綺麗な世界で生きていけるはずだから・・・


――ひそひそ――


だから僕もまた、それをしようとして・・・


――ひそひそ――


でも・・・・


――hisohiso――


なんだかそれが嫌になった・・・


――・・・・・――







その子のいじめが発覚したのは一昨日・・・








その子は、僕が親友だと思っていた男の子。


その子は、気まずそうに・・・でもどこか助けを求めるかのように・・・僕を見た。


僕は、驚きに目を見開きながらも・・・



見て見ぬふりをした。



そう、






弱い僕は逃げたのだ。









親友だったはずのその子は、きっとにそうなる未来を想定していたようで、


謝るように


でもどこか寂し気に




「ごめん」





悲しそうに笑った。


それ以降、僕には話しかけないようになった。


きっと、僕を見限ったからじゃない。


その子は、火の粉が、僕に降りかかるのを恐れたのだ。


その子は優しくて・・・強い子だったから


だから・・・


一人、皆と距離をとることにしたのだ。






きっと、学歴社会で生きていくすべを学んだって

きっと、人とのコミュニケーション能力を磨いたって

きっと、人間社会で生きていくマナーを身につけたって


この世界が綺麗になることなんて・・・ありはしない。






ー数日後ー



黒板いっぱいに親友だったはずの子の悪口が書かれていた。


クスクスと教室の一角で笑い声がともっている。


大多数の人間は、笑ってる人間も笑っていない人間も、どちらも見ないようにしていた。


もしもこれが道徳の授業だったら、皆どのように動くのだろうか?


悪い子に、悪いっていうのだろうか・・・?


自分が次にいじめのターゲットにされると分かっていても・・・?


教室内に、そんなヒーローみたいなことできる人間はいなかった。


僕はそこまでヒーローにはなれそうになかった。


だから僕もまた、見て見ぬふりを・・・した。









――数日後――


その子の机が校庭のど真ん中に放り投げられていた。


またクスクスと誰かが笑っていた。何だかその笑いは、心の底から笑っているというよりも、笑わないといけないから笑っている、自分の立場を誇張するために笑ってる・・・そう思えて仕方なかった。


親友だった子は、泣きも声を荒げることもなく、ただ淡々とその机を取りに向かった。


彼は誰の助けも借りようとはしなかった。


ただそれでも・・・


その行為ははあまりにも、あからさまだった。


学校側が無視できないほどに・・・。


それを目にした担任は、そのことを問題だとして、緊急HRを開いた。


沈黙が流れる教室内で、教師もまた真剣そうな表情で、教壇で頬杖をついていた。





まるで、めんどくさい時間なんて早く終わってほしいとでもいうように・・・




僕はふと思った。


どうして人間は、命を大切にしないといけないよと言いながら、他の生き物の命を奪い生きているのだろう?

どうして、努力は裏切らないと言いながら、いつまでも夢を追うなというのだろう?

どうして、立派な人間になりなさいと言いながら、立派な人間になんてなれないように世界はできているのだろう?




まるで綺麗ごとは、醜い世界を覆い隠すために、あるんだと言わんばかりに・・・。




そして醜いことを直視する勇気のない僕は、ついに綺麗なものを見るのも嫌になった。

親友を見捨てた僕に、そんな居場所なんてあってはならない気がした。




偽りで彩られた虚構の輝きの中で笑っていられるほど・・・僕の心は鋼でできてはいなかったのだ。




だから僕は、今日もただ一人で・・・ただただ空を見上げていた。


もう僕には、その色がきれいなのか、醜いのか・・・どうでもよくなっていた。


そう、僕は、生きているのが・・・いや、この世界をこれ以上みているのが・・・イヤになったのだ。






























気づくと真夜中の校舎の屋上に立っていた。









でも、何がしたいのか、ぼんやりながら分かっている。

僕はカバンから紙を取り出すと、




「見て見ぬふりをしてごめん。」




そう書いて手すりにに括り付けた。

何もない学校の屋上。

何もありはしないこの世界のこの場所で

何もかも放り捨てようとしている僕は


綺麗な星空を眺めながら、ふぅっと、一息ついた。

別段寒い季節というわけでもないのに、口から出たい気は白く、その白色がぼんやり空に向かっていくのを眺めていた。



そうしていると、



何故か無性に、人の声が聞きたくなった。

それも、テレビとかネットとかで流れるようなにぎやかな声じゃなくて、大人しく、穏やかな・・・そんな声が・・・。

取り出したスマートフォンが指し示していた時刻は11時59分。

僕は、無意識に今まで一度も使ったことのないそのアプリをクリックした。


聞こえてくるものは砂嵐ばかりだった、使い方もろくに分かりはしなかった僕は、手動でチャンネルを合わせていく。

いくら動かしても聞こえるのは砂嵐だけ。


それはまるで、この世界みたいだ。


いくら手を尽くそうとも・・・それは変わらない。



まるで、人生みたいだ。


何も変わらない・・・


何も変えることなんてできない・・・


僕たちにできるのは、操り人形みたいに、ただ決められたことに従うことだけ・・・





でも・・・


それを違うという人間もいる。


ボクが親友だと思っていたあの子みたいに。




そうしていくうちに、

だんだんと


そう、


だんだんと


砂嵐は去っていき・・・



その声が・・・聞こえたんだ。



「・・・・・ぃうことで、今回も始まりました!クロとシロの境界線ラジオ!パーソナリティは、私クロと、」




「・・・シロが・・・お送りします。」


少々落胆を覚えてしまうような、その陽気な声は・・・


明るいからこそ、その奥底には、暗い深淵があるようにも思える。


どうやら、どこかのラジオ放送の電波を、このラジオはキャッチしたらしい。


陽気な声は続く。


その人たちがかわす言葉は、何でもないようなありふれた話題ばかりで、

人によってはもしかすると、それをつまらないと思ってしまうような当たり前さなのだけど、今の僕にとってはなんだか、遠い遠い幻のように思えた。




そう、あの子と過ごしていたあの日々のように・・・






思い出した・・・。







あの日あの時、あの子が笑っていた・・・その姿を・・・。


何で笑っていたのかは思い出せない。


でも、あの時、僕たちはきっと、屈託のない笑顔で・・・笑いあうことができていた。


このラジオから聞こえてくる二人の声のように・・・


ラジオには、音しかない。


僕たちには、記憶しかない。


だから、もっとその音を聞きたくて、もっとあの思い出したくて・・・




僕は目をつむった。




少しずつ浮かび上がってくる、あの日君と過ごした思い出の数々。


きっとそれは、他の人にとってどうでもいいようなちっぽけなものなのだろうけど、僕にとっては、世界で最も大切な、僕だけの宝物。


そんな瞬間瞬間が、涙となってぽろぽろと零れ落ちていく。


地面に落ちて、輝きを失ってしまう。


僕は手を伸ばさなかったから・・・




だから・・・




その時、


「ここで、このコーナーをやっていきましょう、今日の死にたがり屋さんを止めよう。のコーナー」


「はじまってしまったー(棒読み)」




「ここでは、目の前のあなた、自殺志願者、元道かなたさんのためのコーナーとなっております。」






僕の・・・名前・・・






「初めに言っておきます。」


一拍


「最後に決めるのはあなたです。私たちにあなたの意志を強行する権利はありません。」


「無理強いは・・・ダメ」


一拍


「でも・・・少なくとも世界に三人は・・・・・あなたの死を・・・悲しむ人がいる・・・・」


「私たちはあなたには生きてほしいと思う。だから、この物語の禁忌を破って、あなたのために魔法を使います。」


「もしかすると、ただの気休め・・・・。」


一拍


「それでも、あなたにしか紡げない物語が・・・きっとある。」


一拍


「シロ、お願い。」


「んっ。」




―瞬間ー






突然僕の体が青白く光りだした。別に熱を発しているわけではないのだけど、僕の何かが抜け出すような・・・そんな感覚。







光は、数秒すると、収まった。








パーソナリティが話す。








「きっと君は、優しい人間なんだね。」



なんて的外れな解答なのだろうか・・・



僕は・・・ただの臆病者だ。


でも、その人は・・・






「君がその優しさを忘れてしまわぬように」







「君が大事にしているものを失わないように。」







・・・・






・・・・






体が淡く赤く光りだす







「君がちょっとだけ・・・」






・・・






「強くなれる魔法をかけました。」






・・・






「君が死ぬかどうかどうか決めるのは・・・」






・・・






「君が勇者になれるかどうか知った後でも、遅くはない・・・」






その魔法はきっと、人を勇者に変えてしまうような、そんなチートのようなものではない。


少しだけ・・・少しだけ勇気をくれる・・・そんな魔法。


別にこの力で、全ての悪者を懲らしめらるというわけでも、世界のヒーローになれるというものでもない、ただただ、僕のことを少しだけ好きなれるような・・・そんな魔法。


でも・・・きっと僕にはそれだけで十分だったのだろう。


気付いた。僕には、その友情さえあれば、きっとほかには何もいらないってこと・・・


涙は乾いて、うるんだ視界の先を鮮明に僕に伝える。


僕はきっと・・・




そして、次の日が来た。











次の日から、いじめられっ子が一人から二人に増えた。


きっとそれは、世間一般で言うと、悲しいことなのだろうけど。


僕たち二人は、きっと昔と同じように笑え会えるようになったんじゃないかぁと、僕は思うわけだ。


きっと、人が優しくなるには・・・この日本という国はあまりにも恵まれすぎてしまっているから、だから僕たち人間は、その大切な感情を、どこか遠い場所に捨ててしまったのだろう。



でも・・・




ふと、空を見た。


きっとその色は純粋無垢なんかじゃない。


でも、


やっぱりその色は綺麗なんだなぁと僕は改めて思った。




””世界は綺麗にはできていない・・・でもそれに抗って生きていく人間の姿は、きっと美しいと思うから””


だから僕はきっと・・・



おしまい






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