第4話 みなと祭
お祭の当日、悠太は目一杯張り切っていた。バスターミナルまで坂道を300m程下ってゆく。悠太は紗彩の前を、一歩一歩確かめながら歩いた。凸凹やグレーチング、その他障害となりそうなところはではきちんと声を掛け、紗彩が無事に超えるのを確認する。
大丈夫だよ、紗彩は笑ったが、何かあってからでは遅い、悠太は緊張した。通常、5分もあれば歩けるところ、10分以上をかけて二人はターミナルへやって来た。張り出された時刻表を数人が覗き込んでいる。悠太はバスの時刻はすっかり暗記していた。
「紗彩、ちょっと待ってて。座るところ探してくる」
水色のワンピースと首にはブルーのネッカチーフを巻き、白い帽子を被った紗彩は、人々の目を惹き付けた。ターミナルの建物の一番海寄りにようやく空いているベンチを見つけた悠太は、そこにハンカチを敷くと、紗彩の所へ戻って来た。人々の中に紗彩が立っている。ルノワールの絵みたいだ。悠太は一瞬立ち止まって見入ってしまった。すると脇から
「悠太、あの美少女は誰?一緒に入って来なかった?」
釣具屋の親父が悠太に声を掛けた。
「あ、はい。従姉です。今、丁度家に来てるんで、みなと祭に行くんです」
「ほーお、ここら辺じゃ見かけんタイプやもんなあ。悠太、責任重大だぜ。祭には変な奴集まって来るから、速攻ナンパされそうじゃけ」
そうだ。そうだった。すっかり頭から抜けていた。確かにミニバイクとかでブイブイやって来る。守らねば。
「はい。気をつけます」
「ま、河野の大将の所にくっついときゃ安全だけどな」
「いや、それはちょっと」
「あはは。そうや。そら止めた方がええ。柚ちゃん焼きもち焼いて大変だわ。まあ、しっかりやんな」
「有難うございます」
悠太は紗彩の元へ歩いて行く。たくさんの目に注目されている気がする。周りの男たちが全部、紗彩を狙う敵に見える。悠太、油断するな。自分に言い聞かせながら悠太は歩いた。悠太が戻って来て、紗彩は少しほっとしたようだった。
「紗彩、こっち、奥にベンチあるから」
「うん」
悠太は再び紗彩を先導する。やはり、周囲は敵ばかりに見える。前後左右、ちらちら確認しながら悠太は歩く。ハンカチを敷いたベンチに辿り着いた時には、悠太は緊張の汗、びっしょりだった。
「え?これ悠太の?」
「うん。大丈夫。何枚も持ってるから。その上に座って」
「有難う。何だかお姫様扱いね。悪くない気分だけど」
その通りだ、紗彩。今日は紗彩が姫君で、俺は、えっと、ボディガードの、ほら、昔の映画でやってた、ケブン・・・、違う、ケビンだ。ケビン・コスナー。姫君に嫌われても守り通すんだ。
バスがやって来た。並んでいる人、待合所で待っていた人たちが列を作って乗っていく。
「悠太、乗らないの?」
「うん。1本後にする。そうすると座れるから」
「そう。ごめんね。足手纏いだよね」
「そんなことない。俺が言い出した話だし、それにバスは10分おきに来るんだ」
バスが発車しガランとした待合所で、悠太と紗彩は前の方のベンチに移動した。その直後からまた人がやって来るが、さっきほどの人数ではない。やがて次のバスが入って来た。
「紗彩、乗るよ」
「うん」
悠太は二人分の運賃を払って、バスの奥の方の席に紗彩を座らせ、自分も隣に腰かけた。間もなくバスは発車し、午後の県道をのんびり走る。島を渡る橋を通り、対岸に入る頃からバスはしばしば止まるようになってきた。
『今日はみなと祭なんであちこちで渋滞してまーす、お急ぎの所、すみませーん』
運転士のアナウンスが入った。車窓からも連なる車が確認できる。紗彩は珍しそうに港町をキョロキョロ見ている。
「ね、悠太。彼女がいるってホント?」
それは突然のパンチだった。
「え?なんで?誰に聞いたの?」
「お婆ちゃんだけど。ウチ以外の人、私、知らないし」
そりゃそうだ。婆ちゃん・・・口、軽い。悠太は頭を抱えたくなったが、事実なんだから仕方ない。
「うん、いるよ」
「今日、一緒じゃなくて良かったの?」
「今日はイベントに出るんだよ。だから一緒に行けないんだ。あ、紗彩が代わりって訳じゃないよ。紗彩は連れて行ってあげたいって前から思ってたし」
紗彩はくすくす笑った。人魚姫も笑うんだ。柚の笑い方とは全然違うけど。
「可愛い子なんだってね。お婆ちゃん言ってたよ、なんて名前だっけな。可愛い名前だった」
「柚」
「そうそう柚ちゃん。会ってみたいなあ」
「今日見れるよ。海に潜るんだ。海女の恰好をして」
「なにそれ」
柚は『みなと祭』のメインイベントの一つである『海女の幸せつかみ』に出場が決まっていた。『海女の幸せつかみ』は海女の衣装を身に着けた泳ぎ達者な女性たちが、海中からLEDが仕込まれた様々な色のボールを拾うと言うもので、ボールの中に一つだけ虹色に光るものがあり、それを拾った海女が、その年の幸運の海女になる。ボールはどういう仕組みか、拾って海上に持ち出して初めて光り始めるので、海中で拾った時点では判らないのがミソだった。その海女に柚は初めて抜擢されたのだ。水泳部のエースである柚は最年少の参加者として注目されていた。
悠太はそういうあらましを紗彩に説明した。
「ふうん。泳ぐのが得意なんだ」
「うん。大きな漁師の家の娘だし、小さい頃から船にも乗ってる。だから色は真っ黒」
「駄目だよ、そんな風に言っちゃ。女の子は誰でも日焼けは気になるものなの。デリカシーないって嫌われちゃうよ」
紗彩はまた笑った。
『長らくご乗車お疲れ様でしたー。みなと祭会場前でーす。お忘れ物ないようにお降りくださーい』
ようやくバスは会場に到着した。周囲は既に祭のアナウンスで騒がしい。悠太は紗彩を誘導してバスを降りる。目の前の漁協の建物が今日の観覧席だ。3階建ての建物の屋上に、悠太は席を取っていた。屋内の方が良いのは判っていたが、そんな都合よい場所はない。敢えて言うと漁協2階の会議室は唯一、屋内の観覧席だが、そこは市長や市議会議長等、お偉い大人の指定席になっていて、祖父の孝もその中に入っているものの、中学生の悠太には手が出せない。仕方なく漁協でも有力な漁師である河野の大将こと、柚の父親である河野拓に柚から頼んでもらったのだ。勿論名目は『柚の海女を見る』ためだ。
悠太はゆっくりと階段を上がった。エレベータは来賓専用で使えなくなっていた。ようやく辿り付いた二人はパイプ椅子に座る事が出来た。紗彩はほっとしたが流石に疲れ気味だった。しかし口には出せない。悠太の緊張と気遣いを感じていたからだ。少し動悸が速い。だが緊急用に処方されている『ベータブロッカー』と呼ばれる薬の服用は止めておいた。柚ちゃんを見なくちゃ。そっちの方が優先だもん。それに座ってれば落ち着いてくる筈。紗彩は自分に言い聞かせた。
既に海女たちの紹介は終わっているようで、今は海中でウォーミングアップのように好き好きに泳いでいる。
『さあ、それではいよいよ ”海女の幸せつかみ” スタートです』
アナウンスが叫ぶ。漁船が大きな汽笛を鳴らした。
海女たちは次々に潜ってゆく。素手素足で華麗に潜る彼女たちは、すぐにボールを掴んで浮き上がり、自分の籠に入れていく。籠の中のボールは様々な色に点滅していて、その明かりが黄昏時の海面を照らし、錦があたり一面に流されたようで幻想的だ。歓声やら拍手やら笛の音やらが賑やかに聞こえる。
「悠太、柚ちゃんってどこ?」
「うーん、全然判らん。背中の番号が見えたら判るんだけど」
「何番?」
「7番だって。一番小さい筈だから、今右の方で潜った子かなあ」
紗彩の動悸は次第に収まって来たが、今度は柚の潜りにドキドキしていた。
海女たちは既に10分位、潜ったり浮き上がったりを繰り返している。体力的には大変な筈だ。紗彩は最年少の柚を思いやった。海面は次第に暗くなってきて、海中のボールを探すのも難しくなってきている。残り時間はあと5分とアナウンスが入った。
今年は幸運の海女、出ないかなあ、周囲の誰かが口に出したその時、小柄な海女が水中から差し出した手に握られたボールが、虹色に発光し出した。まるでクリスマスイルミネーションのようだ。
周囲から歓声と拍手が沸き起こる。アナウンスがまた叫んだ。
『今年の幸運の海女は、7番の 河野 柚さん!』
拍手が更に大きくなる。紗彩と悠太は思わず顔を見合わせた。
「やったね!悠太。悠太の彼女、幸運の彼女だよ!」
悠太は表情に困った。嬉しいのは嬉しい。プールで練習していた柚を思い起こすと、よく頑張ったと言ってやりたい。でもあからさまに喜ぶのもどうだ、とブレーキを踏む悠太も自分の中にいた。そんな心境が悠太に照れ笑いをさせた。
海女たちは全員岸に上がり、手にタオルを取って、観覧席に手を振ったり、互いにはしゃぎ合ったりしている。
やがて表彰式になった。柚が名前を呼ばれて漁協の理事長とやらから小さなプレートを貰っている。湧き上がる大拍手。柚はプレートを両手に持って左右に揺らした。
「悠太、大きな声、掛けてあげなよ。大好きだよーとか」
「冗談じゃないよ。大将に怒られるし、後で柚にも恥ずかしかったーとか怒られるよ」
「そうかなあ。大好きって言われて嫌な女の子は一人もいないよ」
紗彩も誰かに言われたことあるんだろうか。悠太は目の端に柚の姿を留めながらふと思った。
次のイベント、花火までは少々時間がある。紗彩は肩から掛けたトートバックからタッパウェアと小さなペットボトルを2本を出した。
「悠太、クッキー食べる?」
「あ、ありがと。こんな重いの持ってたんだ」
「重いってほどじゃないけどね。このクッキー、ミカンの香りがするんだよ。知ってた?」
「いや、え、そうだっけ。細田さんのとこのクッキーだよね」
「あー 良く知らない。お婆ちゃんの知ってる人」
「前から時々貰ってた。ミカンの香りには気づかなかった」
「すぐムシャムシャ食べちゃうからでしょ。一つ一つ作ってるんだから味わって食べるものよ」
悠太は気まずい顔をした。確かに、その通りだけど…。
会場ではMC役が行ったり来たりしている。間もなく花火が始まるようだ。その時、後ろが騒がしくなった。大将、おめでとうございますの声が聞こえる。悠太は突然肩を掴まれ、太い声が降って来た。
「悠太!どうじゃった?見たか?取った瞬間」
慌てて悠太が振り返ると、大将こと河野拓が立っていた。
「わ、大将、びっくりした」
「ははは。柚もやってくれるわ。ワシもびっくりしたわ」
後からその当人、柚が顔を出した。
「悠太。ほれ、これだよー、幸せのボール。ちょっとだけ触らせたげる」
小柄で快活そうな少女が手を差し出した。
「あ、ああ、柚、おめでとう」
悠太は恐る恐るボールに手を触れる。ボールはまだ虹色に光っている。それを見ていた拓がふと視線を上げ、悠太の隣席を見やった。紗彩は頭を下げる。
「おえ?悠太、婆さんと一緒じゃなかったのか?あれ、婆さん若返ったか?」
周囲の大人たちが笑っている。柚も紗彩を見つめた。
「いや、あの、こっちは従姉で、たまたま今来てるんで連れてきたんです」
柚が拓を突っつく。
「病気の療養中なんだって」
拓も紗彩を凝視する。
「はあ、療養中の美少女さんか。柚の元気をちょっと持ってって欲しい位やな。なあ、悠太」
柚が拓の背中に小さなパンチを当てた。紗彩は少し腰を浮かせ、小さく頭を下げた。
「いつも悠太がお世話になってます。そちらが柚ちゃんね。きれいに潜ってたね。おめでとうございます」
紗彩は拓にも臆することなく言った。柚は戸惑ったように小さく頷く。
「ま、ほんじゃ最後までよう見てってくれや。花火もド迫力やからな。悠太、柚はあちこち引っ張りだこでなあ、今日は置いとけん、悪いな」
「は、はい。大丈夫です」
拓は周囲を見渡すと
「どちらさんも有難うございました」
と叫ぶと、柚を連れて戻って行った。柚はちらちら悠太を振り返りながら連れられてゆく。悠太は椅子から腰を浮かすと小さく手を振った。
拓と柚が見えなくなると悠太は大きなため息をついた。
「あーびっくりした」
「可愛いお嬢さんね、柚ちゃん」
「え?ああ、まあ」
「でも悠太大変そうねえ、お父さん公認だと」
「う、うん」
「跡継ぎにされちゃうよ」
「いや、そんな事ないって。柚には兄貴いるし、そもそも俺、泳げないし」
「あら、まだ泳げないんだ」
「そう。だから陸上部」
悠太は紗彩に浮輪を引っ張って貰った頃から、ついに何の上達もなかったのだ。
その時、港の防波堤から大きな音が聞こえ、暮れなずむ空に大輪が咲いた。
『花火の始まりでーす!』
MCが大声で叫んでいる。二人は空へ目をやる。打ち上げられた花火は海と島々を背景に次々に咲いてゆく。悠太もペットボトルを握りしめながら目が空に釘付けになった。紗彩も隣で目を大きく見開き、小さな歓声を上げている。
中盤から水上花火になった。小舟から放射状に光が走る。海上は金色に染められている。うわっ、すげえ、悠太はいちいち声が漏れた。周囲の人たちも拍手と歓声で文字通りお祭り騒ぎだ。そんな状況だから、悠太は隣で紗彩が身を折っているのに気付かなった。
悠太は後の観客から肩を叩かれ、振り返ったら紗彩が椅子の足元に崩れ落ちるところだったのだ。
「あれ、紗彩!大丈夫?」
慌てて紗彩を抱き起そうとするが、後ろの客が叫んだ。
「動かすな!救急呼べ!」
悠太はどうしていいか判らない。紗彩!と叫ぶばかりだ。後ろの観客が呼んでくれた救急隊が人ごみを掻き分けて入ってくる。救急隊員は紗彩をゆすって
「もしもーし!聞こえる?」
と大声で叫ぶ。微かに紗彩が頷く。紗彩は胸に手を当てたままだ。隊員が二人掛かりで手際よくストレッチャーに紗彩を乗せた。
「キミが同伴者か?」
悠太は狼狽え気味に頷く。
「おし!じゃ、一緒に来てくれ」
慌てて悠太は隊員たちについてゆく。ストレッチャーは慎重に運ばれた。エレベータが小さくて使えず、隊員は二人掛かりでストレッチャーを水平に保つ。時々、ちょっとそっち、支えて!と悠太に指示が飛ぶ。
救急車はすぐ近くの市民病院に着けられた。ストレッチャーは慌ただしく運ばれ、残された悠太が病院の事務係員に住所や名前を聞かれている所に孝が到着した。
「お、悠太!紗彩ちゃんはどこだ?」
病院の係員が代わりに答える。
「今、ICUに入ってるけん、前で待ってて下さい。3階です。救急隊員がカバン見させてもろて、持ってる薬見つけたんで、ドクターも見当ついたみたいです。多分、不整脈やろ言うて」
「すみません、ご面倒お掛けして。ウチに療養で来てる孫なんです」
孝が名刺を差し出し、事務員に事情を話する。
「やっぱりね。ドクターの見立て通りですね。じゃ、上へお願いします」
孝と悠太はエレベータに乗った。その時になって初めて悠太は婆ちゃんの携帯を持っている事に気づいた。着信履歴が並んでいる。しまった…、俺、何もできんかった。みんな周りの大人たちがやってくれて、俺、紗彩のこと、守ってやれんかった。悠太はこみ上げる悔し涙を手で拭いた。孝が悠太の肩に手を乗せる。
「ご苦労だったな。びっくりしただろ」
悠太は声もなく頷く。二人はICUの扉の前の長椅子に座った。
「今日はここも大繁盛だってさ。酔っ払いや怪我人で大変だって。海女さんも一人運ばれたみたいだ。大会本部の人が言ってたよ」
「海女さんって出てた人のこと?」
悠太は紗彩のことが聞きたかったが、大丈夫だろうって聞きたかったが、自分からは聞けず、心配の周囲をウロウロした。
「うん。表彰式終わってからめまいがして倒れちゃったんだって。やっぱハードだなあ、あれは」
その割に柚は元気だった。悠太は父親の後から顔を出した時の柚の表情を思い出した。本人は笑ったつもりだったろうがひきつってたよな。紗彩がいたからだろうか。紗彩が思った以上に美しかったからだろうか。
ICUから一人の看護師が出てきた。
「一条さん ですか?」
孝が腰を上げる。
「はい。大丈夫でしょうか?」
「ええ、もう意識も戻ってらっしゃるので、一時的な不整脈で苦しかったんだと思います。持っていらっしゃった薬と同じような薬を点滴してますから、不整脈は治まって来ています。ただ、念のため、一晩は見させてもらった方がいいんじゃないかと思いますので、申し訳ありませんが1階で入院手続きして頂けますか? えっと、お祖父さまですね」
「はい、そうです。親がヨーロッパにいるもんで親代わりです。面会はできますか?」
「ええ、あ、でもICUなので面会はご両親か、祖父母だけなんですね。だからお祖父さまは行けるんですけど」
看護師は悠太の方をちらっと見た。孝は悠太の頭をさらっと撫でる。
「悠太、ちょっとここで待ってろ。そうだ、婆ちゃんに取り敢えず大丈夫そうだって電話しといてくれ」
「うん」
悠太は不本意ながらうなずいた。イトコが面会できないってどんな病院だよ。ぶつぶつ言いながら悠太は廊下の端っこで景子に電話を掛けた。電話の向こうで景子は心底、胸を撫で下ろしていた。待つこと5分、孝が出て来た。
「どうだった?」
「ん、ま、大丈夫だろ。しばらく様子見て一般病室に移すそうだ。このままだと明日には退院できそうだって」
「そっか」
「うん、取り敢えず悠太は今日は帰れ。爺ちゃんが一晩付き添って明日連れて帰る」
「俺もいるよ。俺が連れ出したんだから」
「それとこれは関係ないよ。花火に興奮してたら苦しくなったって言ってた。でも花火綺麗だったって。見れて良かったって。紗彩ちゃん、悠太が落ち込まないように謝っといてくれって」
「そんな・・・」
「これまでもこう言うことはあったそうだ。向こうの病院に照会してくれたんだ。特別な事じゃないって医者も言ってるし、もう大丈夫だよ。悠太、明日学校だろ」
「そうだけど」
「柚ちゃんに何かしてあげなきゃいけないんじゃないか?あれだけ頑張ったんだから」
「うん」
「ま、そう言う事だから、まだバスあるからな」
「うん」
帰りのバスは永遠に着かないかと思うほど長かった。