懺悔室の神父さんⅡ
懺悔とは、過去の過ちに気が付いた者が神仏に告白する行為。
私は約四十年間、ここで様々な懺悔を聞いてきた。だが……あんな懺悔はもう勘弁してほしい、と心から思っている。
それは何かと言われれば、先日来訪した神様とサラスティア姫君の事だ。現在、サラスティア姫君は、前世の親友であった後藤……いや、この町に住んでいた好青年と共に旅に出ている。小太りなハムスターとなってしまったザスタリス王国の第一王女、アーライア姫君をダイエットの旅に連れる為、護衛役をしているのだ。
正直、そんなのはサラスティア姫君だけで十分では? とも思ったが、どうやら今のこの世界は多少の変化を迎えている為、何が起きても不思議ではないらしい。
その変化とは、例の適当すぎる神様が齎した物だ。こことは別の世界の学び舎に隕石を落とし、三千人もの若者の犠牲を出した。その代謝として、神様はその全ての若者を望む姿でこちらの世界に転生させたわけだが……それが十八年前の話。
そう、彼ら約三千人の転生者は十八を迎えている。彼らの居た世界ではどうか分からないが、この世界では十六で成人を迎える。つまり彼らは既に独り立ちしている者が大半なのだ。
そして恐らくはその転生者の手によるものであろう変化が、ゆるやかに世界へと浸透している。その一つが……服だ。
この港町はサラスティア姫君の資金援助と口利きにより、人が集まり以前よりも活発な街になった。そしてその人々の中には見た事のない服装の者もいる。だが転生者では無い。明らかに年齢が十八よりも上の者がチラホラと変わった服を着ているのだ。
派手では無いが、細かな色使いの模様が施された物。
“着物”と呼ばれる民族衣装のような物。
はたまた“Tシャツ”と呼ばれる涼し気な服装は、港町の漁師達にも人気だ。
その他にも、噂が風にのってやってくる。
どこぞの国の若者が、次々と今までにない発明をしただの、狂暴な誰にも手が付けられなかった魔物を退治しただの、若き天才王が誕生しただの……これらすべて、若干十八歳だという。
あの適当な神様は本当に適当だが、転生した若者達はこの世界へ恩恵を齎してくれているようだ。
だが決していい話ばかりでは無い。当然のように悪い噂も耳に届いてくる。
恐らくサラスティア姫君が警戒しているのも、その辺りなのだろう。
この世界のみならば間違いなく姫君は最強だが、相手が同じ転生者ならば分からない。何故ならあの適当な神様が転生させたのだから、どんな若者が生まれているのか分からないからだ。
そんな事を想いつつ、教会内で祈りを捧げていると……来訪者が現れた。
女性だ。ちょうど十八くらいの……。いやいや、何を考えている。十八だからと言って転生者とは限らない。この世界に十八の若者は三千人どころではないのだ。
その女性は深々と頭を下げ、まるで祈るように胸の前で手を組みながら私の前に。
「失礼致します。懺悔室は……開いていますか?」
「はい、勿論です。どうぞ」
よくよく見れば女性も変わった服を着ていた。
“着物”と呼ばれる物に似ているが、少し違うような気もする。
「失礼ですが、その服装はどのような……ああ、いえ、決して悪い意味では無く、あまりに珍しく綺麗なもので……」
女性は私の発言に頬を緩ませ「ありがとうございます」と軽く会釈。
「この服は、チベットの民族衣装で……チュバともうします」
チベット……? 聞いたことのない単語だ。何処かの地域だろうか。
しかし世界は広い。私も世界の半分もこの目で見ていない、ただの人なのだ。知らない大地があっても何ら不思議では無い。
そのまま女性を懺悔室へと通し、私はいつのも定位置へと。
そしてお決まりのセリフを、薄い壁一枚隔てた向こう側にいる女性へ。
「では迷える子羊よ、罪を告白なさい」
女性は少し躊躇いがちに間を置いて、まずは自分の素性を明かした。
「……私はグランドレア公国から参りました。今の親から頂いた名前はエンリ……それと、前世の親から頂いた名前は……梓と……」
……前世?
ちょっと待て、なんだか聞き覚えのあるフレーズだ……
「神父様……私は醜い生き物です。もう……自分自身を消してやり程、自分の醜さに吐き気がします……」
「一体……どうされたのですか?」
「はい……私は前の人生では、一人の何の変哲もない女子高生でした……」
前の人生? やはり、まさかとは思ったが……この女性もサラスティア姫君と同じく、あの適当な神によって転生させられた若者? 女子高生……というのが何なのか良く分からないが、恐らく身分を表す物だろう。
「私は前世の学校では、服飾デザイン科に在籍していました。ぁ、えっと……服を作ったりするのを勉強する所なんですが……」
彼女は、恐らく私は分からないだろうと噛み砕いて解説してくれる。今の時点では気遣いの出来る優しい娘にしか見えないが……。醜いとはどういう事だろうか。
「そこでは、大半の生徒が女子でした。クラスの中に男子は五名程しか居なくて、正直浮いていました。男子がもう少し……社交的ならあんな事は起きなかったと思うのですが……」
「……何が起きたのですか?」
「……虐めです。パッとしない男子達を標的に、女子達は様々な嫌がらせをして遊び出したのです。……私も……当時はお遊び感覚で一緒に……それが酷い事だと意識する事もなく、ただ面白いからと男子に嫌がらせを……」
成程。彼女は前世での記憶が残っている。そして生まれ変わって違う生活を始めた際、その過去の罪に気づいたようだ。
正直私はホっとしてしまう。何せ前世だの転生だの……サラスティア姫君のようなハチャメチャな内容では無かったからだ。
彼女はあくまで過去に犯した罪に気づき、この懺悔室へとやってきた。まともだ。まともな懺悔をしにきてくれたのだ。
「貴方の過去の過ち、罪は決して消える事はありません。償いとは……」
「ぁ、いえ、神父様……まだ続きがあるのです」
な、なんだと。少々フライングしてしまったか。
「実は……その五人の男子達も転生して、こちらの世界にやってきたのですが……私は偶然、その男子達と出会ってしまいました。最初は転生者だなんて気づかなかったんです。気づかぬまま……私はその五人に惹かれていきました。私は今、こちらの世界では服を作って生計を立てています。前世で勉強した知識を生かし、様々な服を作っている内に自然と人気が出て……今では何件かお店を任せて頂いてます」
「なるほど。確かその五人も……貴方と同じ……」
「はい、服飾デザイン科の生徒です。最初は私のお店で働かせて欲しいとやってきて、妙に手慣れているとは思いました。ただ要領がいいだけ……だと思っていましたが、五人に惹かれる内に……疑惑は確信に変わりました」
「五人が転生者だと、気づいたわけですな」
頷く女性。そのまま核心の部分を話し出した。
「私は浅はかにも……仕事のできるその五人に恋をしてしまいました……。上手くいけば逆ハーレムいけるんじゃね? とか思ってしまいました。でも五人はある日……新しい服の提案をしてきました。その服には……どう見ても、某ロボットアニメの主人公専用機にしか見えないのが印刷されていて! そこで私は初めてその五人が転生者だと気づき、恐る恐る前世の名前を尋ねました……」
成程……大体話が読めてきた。つまりは、かつて嫌がらせをしていた相手に恋をしてしまい……この女性は過去の過ちがありながら、浅はかにもその感情に流されてしまった事を悔いているのだ。
「私は……自分勝手で醜い生き物です……。あんな酷い事をした相手に、図々しく恋をして……あまつさえ、逆ハーレムとか考えて……消えたいと思いつつも、本当に消えてしまう勇気さえ無くて……」
「その五人は……あなたの事に気が付いているのですか?」
「はい……私も自分の名前を明かしました。でも五人は大して驚きもせず……むしろ知っている人間で良かったと喜んでて……。それが余計に……私、辛くて……もっと罵倒してくれれば楽だったのに……」
顔を両手で覆い、泣き出す女性。
良かった、本当に良かった。もっと世界を巻き込みかねない内容だったらどうしようかと思ったが……。
私は一度深呼吸し、女性へと言葉を授ける。
「貴方は、その五人に出会う事で大変に貴重な財産を手にしました。それは今貴方が抱いている後悔です。貴方は人の痛みが分かる人間だ。今のその気持ちを忘れてはいけませんぞ」
「はい……はい……」
「過去の過ちは消える事はありません。償うという行為は、罪人の罪の意識を和らげるだけの自己満足なのかもしれない。しかし貴方は幸いにも、償うべき相手が目の前にいる。あとは……どうすればいいのか分かりますな」
「……はい、神父様……私はこれから五人に尽くします。あの五人が笑顔でこの人生を謳歌出来るように……全てをかけて……」
そのまま女性は懺悔室を出て、深々と教会へ頭を下げ去っていく。
一時はヒヤっとしたが……あぁ、転生者の中にもあんな普通の人間も居るのだな。本当に良かった。
※
しばらくした後、再び懺悔室へと迷える子羊が。
というか、この世界の神様だ。また来たのか。
「失礼……懺悔室は……」
「開いてますとも。今日はどうされました? また手に負えない転生者が?」
「うっ……胃が……胃がキリキリと……」
懺悔室は胃痛の薬ではないのだが。
まあ神の御来訪だ。教会がそれを断っては本末転倒も良い所だ。
神様を懺悔室へと通し、私も定位置へと。
「で? どうされました」
「え?! あ、あの……お決まりのセリフは無いのですか? 迷える子羊と……」
神様に対して子羊は無いだろう。
まあ、私は貴方を神とは認めたが、決して私が信仰してきた神とは全くの別物だからな。
「はぅぅぅぅ、胃が……胃がぁ……」
「いいから、どうされたのですか」
「ぁ、ハイ……え、えっとその……グランドレア公国という国はご存知かと思いますが……」
あぁ、先程来た女性もグランドレア公国から来たと言っていたな。
ちなみにその国は同じ大陸にある。ここから少し北上し、山を二つ三つ越えた先がグランドレアだ。
「その国に……厄介な五人組が揃っている事に気付きましてな。どうしたものかと……」
「……五人?」
嫌な予感がした。先程懺悔に来た女性も、五人の男性のことについて話していたのだ。
そしてこの神様の適当さも相まって、私の嫌な予感は勝手に信憑性を帯びていく。
「実はその五人……前の世界でも同じ学び舎の同じ部屋で勉学に励んでおりまして……。しかし同じクラスの女子達に虐められていたようで……」
確定だ。その五人とは、先程来た女性が言っていた五人だ。
しかし厄介とは……
「五人が希望した転生した後の姿は……すべての女性に愛される男になりたい、との事で……」
「ちょっと待てコラ、まさかそんな条件を飲んだのですか?!」
「ひぃ! 神父様怖いぃ!」
「やかましい! それで……“厄介”とは……?」
この神様の事だ。恐らく厄介という言葉の意味はそれだけでは無いのだろう。
全ての女性に愛される。それだけは男子にとって夢であろう。だが神父として、そんな与えられた力で愛だの恋だの……認めるわけには行かない。ましてや、あの懺悔しにきた女性が今、まさにその五人に尽くすと言って帰ってしまったのだ。
「そ、その……五人の内の一人が、こう付け足したのです。同じクラスの転生した女子に限る……と」
「……で?」
いい加減、この神様をぶん殴りたくなってきた。
いや、待て落ち着け。仮にも神様だ。仮にも……
「その時は超忙しかったので、そのまま鵜呑みにして転生させましたが……よくよく考えたら少し変だと思い……ちょっと調べてみたら……」
「どう考えても変でしょうに! その五人は同じ学び舎で過ごした女子達の事を恨んでいて、復讐する気なのでは?!」
「え?! さ、流石は神父様……全てお見通しとは……その新通力、感服いたしますぞ」
「んな事言っとる場合か!」
私は懺悔室を飛び出し、女性が向かった方へと走る。
しかし老体ゆえ、すぐに息が切れてしまう。
早く、早くあの女性を止めねば。
このままでは……
「神父様? そんなに急いで……如何なされました?」
「……! き、君は……」
そんな私の目の前に、旅に出たはずの……魔王へと転生した彼が。
「な、何故ここに? サラスティア姫君は……」
「あぁ、少し忘れ物をして……瞬間移動で戻ってきました。それより如何なされました? 随分お急ぎの様ですが……」
瞬間移動?! そんな事まで出来るとは……流石魔王。
というか、あの神様より……余程こちらの青年の方が頼りになる。
「じ、実は……」
私は彼へと事情を話した。先程懺悔しに来た女性は転生者で、さらにその彼女へ復讐を企てる五人組が居る事を。
「……成程。しかし神父様、一つお尋ねしますが……それは因果応報という物では? 復讐されるような事をその女生徒はしたのです。それに神父様のお話だと、その女生徒はむしろ……復讐された方が本望だと感じましたが」
「……それは違いますぞ。彼女は己の罪を認め、私の元へ懺悔しにきたのです。彼女は過去の過ちを悔いているのです。彼女は言っていました、消えてしまいたい程だと……。そんな彼女に、更に追いうちを掛けるように復讐など……私は到底……認められません。これは神父としてではなく、一人の人間……いえ、男としてです。同情と受け取って頂いて構いません。貴方のいう事も一理あるでしょう。しかし……彼女はそこまでの罪を犯しましたか? 愛というかけがえのない物を利用されてまで、復讐されるような罪を……犯したのでしょうか?」
つい、私は熱弁してしまう。
彼女がどうやって、五人組へ嫌がらせをしていたのかは分からない。
だが、彼女は涙を流してまで己の罪を悔いていたのだ。自決を候補に選ぶ程に、罪に苦しんでいたのだ。
「神父様……先程の浅はかな私の発言をお許しください。まあ、最近の女子高生はエグいですからね……結構酷い事したかもしれませんが……確かに神父様の言う通りです。愛を利用して復讐するなど、男としてクズの極み。同じ男して見過ごせません。どうかここは私にお任せを」
その瞬間、彼は私の視界から消え去り、再び戻ってきた時……その傍らには先程の彼女が。
「え? え? 何?」
あぁ、良かった……よし、彼女に事情を説明して……
「梓ちゃーん! いや、エンリちゃん!」
その時、何やら大声で彼女の名前を叫ぶ男達が。
例の五人組か。不味い、奴らまでこの港町にきていたのか。
彼女は目を丸くし、突然連れ去られた事でまだ混乱している。
とりあえずは彼女の目を覚まさなくては。今抱いている愛は偽りの物だと……
「それは私にお任せを、神父様」
すると突然神様まで、いつのまにかこの場に!
「何せ神ですからな。魔王に出来て神に出来ぬ事はありません。さあ、少女よ。呪縛から解き放たれよ」
呪縛言うたな。
言っとくけど、それはアンタが余計な能力をあの五人に付与したからであって……
「神父様、だんだん手厳しく……あぁ、でもいいですぞ。今の私には、貴方のような存在が必要不可欠なので……」
「そうですか……出来れば懺悔室出禁にしたいのですが」
「それはあんまりのお言葉……」
すると女性は一瞬ふら付き……そのまま眠ってしまう。
魔王である彼は彼女を抱きかかえ、そっと神様へと託した。神様は足腰をプルプルさせながら、必死に少女を抱きかかえている。
「おい、お前等。服飾デザイン科の男子五人衆だな。念のために聞いとくが……女子にどうやって虐められた」
「な、なんだお前……いきなり……」
五人はうろたえながらも、神様の姿を確認して大体の事情を察したようだ。
自分達へ付加された力が、いかなる力で……それをどう使おうとしていたのかがバレていると。
「いいだろう……なら聞かせてやる。俺達が……あの地獄で何をされたのかを!」
男五人は語る。女子達にいかなる方法で嫌がらせされたのかを。
「まず俺は……消しゴムを隠された……隠し場所は灯台下暗し……俺の制服のポケットだった!」
「次に俺は……目の前で太ももを見せつけられた! その先は何も無かった!」
「俺は……教室に持ちこんだエロ本を焼却炉に放り込まれた……」
「俺は特に何も……」
「最後に俺は……女子のロッカーを漁ってただけで、フルボッコにされた! 俺、まだ何もしてなかったのに!」
最悪だ……ここまで最悪だとは思わなかった……。
魔王である彼も私と同じ想いなのか、握りしめた拳が震えている。そして念のため……と、最後に一つだけを尋ねた。
「ちなみにだが……この子はお前等に何を?」
「え? 梓ちゃん? 梓ちゃんは別に何も……。でも見て見ぬフリも……立派な虐めさね!」
ぁ、魔王がキレた。
私は神様と共に数歩下がり、男達が半殺し程度で済むように祈る。
殺してしまっては、再び苦しむかもしれない。今神様が必至に抱きかかえている少女が。
「っていうか、お前何様?! さっきから偉そうにふんぞり返って……」
「俺は……魔王様だ。言っとくが……お前等のされた事は虐めでも何でもねえ! 消しゴム隠された?! だからどうした! ちゃんとポケットの中に入ってるじゃねえか!」
「いや、だからそれは……灯台下暗し的な隠し場所に隠された的な……」
「おだまり! それと次にお前! 太もも見せつけられた?! ただのラッキースケベだろうが! むしろ感謝すべきだゴラぁ!」
「な、なんだと! 男の純情を弄ぶ、最悪の行為なり!」
「やかましいわ! んで……女子が大半の教室にエロ本持ってきた奴、お前は同情に値する。そしてその勇気に敬服する」
「あざす……」
「だが許さん。それで……君は何もされなかったのか。まあいいや。で、最後に……ロッカー荒らしてフルボッコにされた奴、前に出よ」
「お、俺っすか」
魔王である彼は深呼吸。その瞬間、サラスティア姫君が剣を振るった時のように、町に一瞬衝撃が走る!
「お前は絶対に許さん。同じ男として……いや、人間として史上最悪だ。フルボッコにされて当たり前だ! っていうかそれでどうして復讐なんて逆ギレ出来るんだ!」
「だ、だ、だって! 痛かったなり!」
「俺の拳はもっと痛いぞ」
我々の目の前から魔王が消えた。
そして……再び私達が魔王を視認した時、その場から前に出た男の姿が消えた。
男達は何をされたのか、一瞬分からず混乱する。
しかし目の前の魔王に消されたのだ……と察したのか、全身を震わせ怯えるように腰を抜かし座り込んでいく。
「い、命だけは……助けて……」
「なんでもします……! ほ、ほんとうになんでも……」
「下僕になりますから……ほんとです!」
「服とかならどれだけでも作ります! もうタダ働きでかまいません!」
「本当?」
その時、いつのまにか目を覚ましていたのか、神様に抱きかかえられていた彼女がそう言い放った。
目を見れば分かる。彼女は男達の呪縛から逃れている。
「途中から話聞いてたけど……ふぅーん……私に復讐とか考えてたんだ……」
「いや! 考えてナイッス! むしろ梓ちゃんは天使っていうか……」
「そ、そう! 俺にシャープペンの芯くれたし! バレンタインデーに百円チョコくれたし……!」
「た、助けて下せえ!」
「……俺は得に何も……」
彼女は腰を抜かす男達と目線を合わせるようにしながら、地面へと座る。
そして……
「……五人共……いや、今は四人だけど……その、ごめんなさい……。女子達だって、本当は……仲良くなりたくて……今何言っても言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、ごめんなさい……」
そのまま深く地面へと頭を擦り付けるように謝る彼女。
いや、正直……彼女がそこまで謝るような事は無いのでは……。マジで。
「あ、梓ちゃん……」
男達も次々と頭を下げ、同じように彼女へと謝っていった。
そして最後に彼女は、謝る男達へと……
「……それで、服ならいくらでも……作るんだよね?」
「えっ、も、もちろんさぁ!」
「タダ働きで?」
「ぁっ、そ、それは……」
「冗談だよ……それで、その……これからも、私のお店手伝ってくれると……助かるんだけど……」
男達は涙目になりつつ、再び彼女へと頭を下げる。
そのまま私達へも頭を下げ、暫くした後……お騒がせしました、と言い残し去っていった。
彼女は……もう大丈夫だろう。彼らと共に、これからも新しい服を作り続けるのだろう。
そういえば……あの消された男はどうなったのだろうか。
私は恐る恐る、魔王である彼へと尋ねてみた。
「あぁ……ちょうど人手が欲しいって奴がいたんで。そこに送りました」
※
《某国 とある悪役令嬢……に転生した生徒の屋敷の地下室》
「イーヒッヒッヒ! 随分男前になったなぁ、お前……服飾デザイン科の阿部だろぅ? イイネイイネ、十分な素質だ……あの冴えない男が、こんな男前になってくれるとはなぁ!」
「ひ、ひぃ! あんた誰っすか!」
「んなもんどうでもいいんじゃぁ……。このままじゃあ俺……いや、ワタクシは結婚破棄された後に国外追放さぁ! その前に……あのテンプレ貴族男に、女装させたお前を嫁がせてやるわぁ!」
「ギャー! ムリムリムリムリ! なんで! 絶対バレるって!」
「大丈夫だって! 結婚披露宴さえ越えたら……『実は嫁は男でしたー』なんてカミングアウトできるか?! あの絵にかいたようなテンプレ貴族男なら、メンツを優先するに決まってる! お前はどうなるか分からんけど」
「ちょぉぉっ! まって! まじで! やめてぇ!」
「悪いなぁ……俺は……いや、ワタクシは……悪役令嬢なんだぁ……イーヒッヒッヒッヒ!」
「間違えてる! 絶対キャラ作り間違えてるから! それ! たすけてえー!」
読んで下さりありがとうございました。
乙女ゲーム系小説……勉強しなおしてきます……(((*'▽')