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食事のお誘い

「彦坂先生、やけに気持ち悪かったわね。どうかしたのかしら」

 鷹司はばっさりと切り捨てた。それきりもうあの男に対する関心は失ったみたいに、竜仁に親しげな微笑を向ける。


「ありがとう。武大くんのおかげで助かったわ」

「いえ僕は別に何もしてないです。たまたま近くにいたっていうだけで」

 なので竜仁を逆恨みなどしないように、と彦坂には要求したい。鷹司は頷いた。


「確かにね。本当はもう少し話を合わせるなりしてほしかったわね。俺の大事な人に手を出すな、ぐらい言ってくれても良かったのに」

「や、でも、僕達全然そんな関係じゃないですし、とてもそんな大それたことは……」


「今はね。でもいつかそうなるかもしれないわ。それとも可能性は皆無かしら」

「それは分らない、ですけど。一寸先は闇って言いますし……いやそれは意味が違うか、ただもし一パーセントでも希望があるなら、追い求めるのも吝かではないというか」

 竜仁は小声で言った。鷹司は表情を変えない。 


「ところで今日はユリアちゃんは一緒じゃないの?」

 急所に刺さった。

「なっ、なんで急にあいつの話が出っ、ガハッ、って、ゲヘッ、ゴホッ」


「大丈夫? 落ち着いて。深呼吸するといいわ。はい、スー、ハー」

「スーハー、スーハー」

 凛子が背中をさすってくれる。おざなりではない丁寧な手つきに、じんわりと癒やされる心地がする。


「すいません、もう大丈夫です……その、鷹司さんって親切ですよね。そんなに美人なのに」

「ありがとう。ユリアちゃんみたいなすごい美少女とおつき合いしてる人に認めてもらえて光栄だわ」

「僕とユリアはそういう関係じゃないです」

「一緒に寝てるのに?」


「なんで知って!? んんっ、いや、違うんです。確かに寝てますけど、文字通りただ寝てるってだけで、全然淫行とかじゃないですから。僕はまだ童貞です」

「あら、そうだったの」

 鷹司は薄く笑った。竜仁は地底に埋まりたくなった。

「純真なのね。私はいいと思うわ。今度ゆっくりお話してみたいから、お食事にお誘いしてもいい?」


 からかわれている、とは思わなかった。

 きっとこれまで鷹司の周りには、遊び慣れたお洒落なイケメンばかりが集まっていたのだろう。だから竜仁のように地味で不器用な人間が、かえって新鮮に感じられる。いかにもありそうな話だった。

 たぶん好意というよりは、好奇心に近いのかもしれない。けれど最初のきっかけなんてどうでもいい。大切なのは次へと繋げることだ。


「はい、喜んで。僕からも是非お願いしたいです」

 竜仁はしっかりと頷いた。鷹司の唇が花が咲くようにほころんだ。今ここに新しい絆が結ばれたのだと、竜仁は確かに感じた。


「ありがとう、武大くん。じゃあユリアちゃんにはあなたから伝えておいてね。都合のいい日時を聞いたら連絡をお願い。お店は私の方で予約するから」

 鷹司はショルダーバッグからスマートフォンを取り出した。

「これが私のメッセージIDね。武大くんのも教えて……武大くん? どうかした?」


「……はっ、すいません、ちょっと頭が混乱してしまって。一応確認したいんですけど、鷹司さんが誘いたいのってユリア、ですか?」

「もちろん。武大くんの知り合いで他に私が会ったことあるのってゼミの人達だけでしょう。そっちはあなたに紹介してもらう必要なんてないし」


「ですよねー、あははは……はぁ。分りました。聞いておきます。これ僕のIDです。それともう一個確認なんですけど、ユリアだけ、ですか? 僕はいなくてもいいのかなー、なんて」

「そうね。特にいてほしいわけではないけれど、いきなり私と二人きりだとユリアちゃんが人見知りするかもしれないわね。武大くんも来ていいわよ。もし逆に男性一人だと肩身が狭いっていうなら、私の方で適当にお友達を連れていくから。それでどう?」


「いいです。僕とユリアと鷹司さんの三人ってことにしてください。帰ったらすぐにユリアに言って日にちを決めますから」

「ありがとう。よろしくね。楽しみにしてるわ」

「りょうかいです」

 竜仁はうなだれて答えた。

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