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これから

 竜仁は意識して肩の力を抜いた。とりあえず重過ぎる空気をどうにかしたい。

「そんな気にすることないって。誰にだって失敗はあるし、いつもは僕の方がフォローされてばっかりなんだし。それに結果的にはかえって良かったかもよ。ほら僕、あの時花見沢さんとホテルに行ってただろ、もし鷹司さんからユリアが危ないって連絡もらわなかったら、たぶん流されて最後までしちゃってただろうし、そしたらユリアにばれるのが恐ろしくてきっと胃に穴が開きそうな思いを……」

 ユリアが静かに面を上げる。竜仁の舌先は凍りついた。うかつにもほどがある。火を消そうとしてガソリンを注いでしまったみたいなものだ。


「竜仁様、私は……」

 しかしユリアは怒ってはいなかった。頼りなく震える声を途切れさせ、立ち上がる。

「……すいません、なんでもありません。失礼します」

「待って」

 竜仁はユリアの手を掴んだ。


「まさかこのままどこかに行ったりなんかしないよね?」

 ユリアは途方に暮れた迷子のような顔をした。

「もちろん、です。カナミ・ユリアは我が君のしもべです。魂の契りに誓い、許可なくお傍を離れるようなことはありません」

「ユリア」

 掴んだ手を引き寄せる。ユリアは微かに抗ったが、竜仁は離さなかった。


「しもべなんかじゃなくて、僕は君に傍にいてほしいんだよ。それはさ、タツヒトみたいなすごい奴と比べたら、僕なんてカスみたいなものかもしれないけど……努力するから。君にふさわしい相手になれるように、本当に頑張る。だって僕はユリアのことが――」

「暫し、竜仁様、暫しお待ちを!」

 ユリアが瑠璃色の瞳をいっぱいに瞠っていた。竜仁は我に返った。己の顔が急速に赤くなっていくのを意識する。


「もしも勘違いでなければ、竜仁様は私のことを、しもべとしてではなく、一人の女子として、好……」

「ま、まずは落ち着こうか! 大事なことだし、お互い冷静になろう、うん。つまりさ、今のはただちょっと本心が洩れそうになっただけで、だから他に深い意味とかは全然……あ」

 いたたまれない沈黙が落ちかかる。


「……あの、何か言ってほしいんだけど」

「……その、何か言ってほしいのですが」

 苦し紛れの丸投げさえかち合って、もはや為す術なしである。

 ユリアの手がやたらと熱い。このまま握っていても平気だろうか。もし発火とかしたらやばいし、いったん離した方がいいのではないのか。


「竜仁様」

 竜仁が戦略的撤退を図ったのを見透かしたかのごとく、ユリアが手を握り返した。みしりと骨が軋んだのはきっと気のせいではないだろう。いかに見た目が華奢だろうと、ユリアは尋常ならざる力を備えた剣士である。


「私は悪しき竜を滅ぼす使命を負ってこの世界に転生した者です。だからあなたのしもべとなりました。その事実は動きません」

「うん。僕だって忘れてない。ちゃんと理解してるから」

 ユリアが竜仁に引かれたのは、あくまで元の世界のマスターの魂のかけらが含まれていたからだ。この世界の竜仁に一目惚れしたとかでは全くない。


「だから使命を果たすまでは僕と一緒にいる、ってことか」

「仰せの通りです」

 ユリアはきっぱりと頷いた。


「ただ……」

 直後に面を伏せてしまう。よほど言いにくいことがあるらしい。

 竜仁は気を落ち着かせるべく努力した。ユリアと共にいるためなら、どれだけ厳しいことだろうと受け入れる。

 ユリアは竜仁と目を合わせないまま、告げた。


「……使命を果たした暁にも、私はあなたのお傍にいたいと思います。そして傍にいてほしいとあなたに思ってもらいたい」

 竜仁はぽかんと口を開けてユリアを見つめた。少女の頬は鮮やかな朱に染まっていた。けれど怒っているわけではないだろう。たぶん。


「あり、ありがとう。うれ、嬉しいよ、すごく。ほんとに」

「わ、私も、です」

 すぐ傍の相手にだけどうにか届く、小さく頼りない言葉を交わす。

 それが二人の始まりだった。

(了)

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