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23・免許皆伝

「ティラミス、それぐらいにしておけ。村人が怯えている」


 私はメレンゲ様の声でふと我に返りました。見渡すと、周囲には村人達が大勢集まってきていました。皆の手には『イケイケそんちょー』や『ワサビさま♡』と書かれた団扇や、『戦う神官ワラビ!』と記された横断幕まであり、総じて表情を曇らせてガクブルしています。ん? ワラビじゃなくて、ワサビでしたわよね?皆、この石像はカカオお兄様ではなくワサビ様だと信じて、制作過程を見守ってくださっていたのでしょうか。それにしても、村長信仰や洗脳はなかなかに進んでいるようですね。がっかりさせたことは申し訳ないとしても、これは由々しき事態。今後はカカオお兄様を讃え崇めるように『教え』を広めていかねばなりません。


「皆様、これは美の聖人カカオ様の像です! 今日からは、最低一日三回は石像に向かってお祈りしてください! もしそれを欠かすとまたドラゴンがやってきますよ!」


 隣ではメレンゲ様が「ホラを吹くではない!」とお怒りですが、同時に「これを観光資源にすると村を発展させられるかもしれぬ」という皮算用らしき呟きも聞こえてきましたので、お咎めは無いのでしょう。ラッキーです!


 すると、近くでひっくり返っていたワサビ様がようやく起き出してまいりました。


「ワサビ様、これで修行は終わりでしょうか?」

「そうじゃのぉ。ここまでの巨大で精巧な芸術品を魔力コントロールのみで作れるとなると、もうワシにできることは何もない。大変くやしいが……免許皆伝じゃ!!」


 ばんざーい!!

 って、あら? まさか免許って、彫刻師のことではありませんわよね?



 その後は村を上げてのパーティー。夜になると広場では大きな篝火が明明と灯り、村人達は輪になってこの地域に伝わる伝統的なフォークダンスを踊ります。それを王都にある『ジューシー』のねぐらから空飛ぶ絨毯で持ち出してきたソファに座って鑑賞します。当初は私もダンスに交ざろうかとも考えておりましたが、想像していた以上に男性の村人がイケメンからかけ離れていたので、なんとなく心が萎えて大人しくしておりました。出されたケーキなどのスイーツは安定の美味しさでしたわよ?


 そして翌朝。旅立ちの時。


「メレンゲ様。あのお約束、覚えてらっしゃいます?」


 前夜のパーティーでもメレンゲ様は何も言ってくださらないものですから、心配になったのです。


「覚えておるよ。さ、よく聞くがいい」


 私は、すっと真面目な表情になったメレンゲ様を見つめます。


「パーフェ領には、とある分野で有名な賢者と呼ばれる者がおる。かつて私がワサビと出会う前に各地を放浪しておった頃の仲間でな」

「賢者? 所謂、学術を極めている知識が豊富なお方ということでしょうか?」

「もちろん。あやつは生ける辞書だと思って良い。だが、ティラミスに引き合わせたいと思ったのはそれが理由ではないな」


 まさか、また変態か変人の知り合いが増えてしまうのでしょうか。私のように、もっとマトモなご令嬢にも出会いたいものですわ。


 しかし、その後メレンゲ様から聞いた賢者についての事実は、腰を抜かすほど驚くべき内容だったのです。私はそのありがたすぎる情報に、重ね重ねメレンゲ様に礼を言って村から飛び立ったのでした。


















(ママ。魔力不足大丈夫?)

「大丈夫よ。皆さんにはお世話になったもの」


 さて、村人達と村長夫妻に見送られた私は現在空の上。旅立ちの直前に、村人達へタダで魔力提供してきたので少しぐったりしています。滞在期間中は、村人達が金欠のか弱い伯爵令嬢である私に、何かと美味しいスイーツを差し入れをしてくれました。ですから、心ばかりのお礼をしたのです。


 私はモモちゃんの背中に跨り、猛スピードで流れる眼下の景色を楽しんでいます。この調子ですと、本日のお夕食はパーフェ領の屋敷でいただくことができそうですね!


 けれど、せっかく冒険者登録したのです。少しは冒険者らしいこともしながら道中を楽しみましょう。


 空からは様々な魔物を発見することができます。皆、こんな高くから人間に狙われているとは気づいていないらしく、のほほんと生活しています。


 しめしめ。


 私は自分でも悪い笑みを浮かべているのが自覚できました。修行を終えた私は、例え魔力が少なくなった状態でもゴブリンの群れの一つや二つ、簡単に殲滅できるにちがいありません。それにこういった移動などというスキマ時間に経験を積んでおけば、冒険者ランクのアップはさらに拍車がかかることでしょう。


 まずは、右手の人差し指をピンと立てます。そしてその指先に『集まれ!』と念じながら、全身の魔力を集中させます。そして少し熱くなってきた頃を見計らって……


「夕凪のような静けさで忍び寄り、飢えた獣のように喰らい尽くせ!不死鳥の狂飆(フェニックスストーム)!!」


 瞬時に指先から飛び出た紅蓮の矢は、見る見るうちにその威力を拡大し。やがては獲物ターゲット近辺を森の木々ごと容赦なく焼き付くし、誰がどう見ても跡形なく全てが灰になったその地に生き物の影は残っておりませんでした。慌てて、森林火災の拡大を防ぐため、続けざまに第二波をぶっぱなします。


「セイレーンの歌声を天から注ごう!全てを清めよ大魔滝(ウォーターフォール)


ちなみに、こういった呪文らしきものは必ずしも必要ではありません。いつか言ってみたかったので言っているだけです。


あ、まだ運良く逃げおおせていたゴブリンが見えました。私はもう一度人差し指をピンと立てて、ゴブリンに照準を合わせます。


「キミのハートをズッキューンっ!」


呪文のネタが尽きて変な言葉になりましたが、小さな炎の矢は真っ直ぐに森の中へと吸い込まれ、無事に命中。ゴブリンはバタリと倒れて動かなくなりました。それにしても、ゴブリンって美しくありませんわね。屋敷で見た図鑑の中の絵図以上に醜悪で、目が腐りそうです。


「モモちゃん。そう言えば私、パーフェ領の屋敷へ持っていくお土産をまだ調達しておりませんでしたわ。私の威光を示せるような物を持っていきたいのですけれど、ちょうど良いのはないかしら?」

(んっとね、後もう少し飛んだらママが気に入りそうなのがあるよ!)

「それは良いわね! すぐに案内してちょうだい」

(任せて!)


 こうして私は、魔物狩りをしながらパーフェ領へ向けて順調な旅を続けたのです。




ティラミスが旅立った後、残された村人の会話。


「よく食べる貴族だったべな」

「甘いもんばっかり食べとったなぁ」

「それにしても、村長って結局何も教えとらんかったのぉ?」

「だべだべ。別に村長がいなくてもあの女っ子は勝手に成長しとったぞ。村長は張り切ってたのに、全部奥さんに止められとったからのぉ」

「やっぱりこれからは、あの貴族さんが言う新しい神様、カカオ様を崇めた方が良いかもしれない」

「そうだなぁ。村長よりもティラミスさんの方が頼りになりそうだからなぁ。言いつけはきちんと守った方がご利益があるよ」

「そうだべ!そうだべ!」


そして、ナトー渓谷はカカオ教に染まっていくのでした。




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