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六人の仲間の話2

 ともかくアスランのおかしな宣伝の甲斐もあってか、『遺産』を見つけたアルマ達の名はさらに広まった。


 そしてそれから、変にそういうものを見つけることが増えた。

 縁があったというより、偶然だろう。六人で行動することになって、より先に進めたり、周りを見渡す余裕ができたりした、というのも理由の一つかもしれない。ただ評判になるような大発見はなかったため、誰もそこまで気にしなかった。

 使えるものがあれば、自分たちで消費した。大体は価値の分かる者に売ったり、譲ったりした。

 そうしていると、国に目を付けられた。


「率直に言ってやばい」


 砕けた言葉を好かないイータが『やばい』なんて言うのだから相当にやばい。

 ジュースを懸命にすするウリララを除いた全員が、これはやばい、と息を飲んで彼の言葉を待つ。


「まず先日帝王が即位したのは、さすがに皆が知るところだと思う」

「……ちょっとアルマ、なんでいきなり首傾げてるの?」

「オイ待て正気かお前」


 アルマは皆から、帝王即位の式典もあった、祭りにだって参加したじゃないかと言われた(怒鳴られた)が、あれを王だかなんだかの式典だなんて意識をしていなかったと答えた。参加する祭りの意味なんて考えたこともない。

 なんだ皆して大げさだなとアルマは思っていたが、イータの「アスランのダンスよりやばい」との言葉に認識を改めた。アスランは泣いてウリララに慰められていた。


 改めて耳を傾けたイータの説明によるとこうだ。

 兄弟王のうち、弟が兄の援助を受け、帝王として即位した。文盲の男だが、兄と揃って戦が上手い。

 そして彼らの国から敵が消えた。内乱は収まり、好き勝手していた『東の蛮族』は追い払われている。国で一、二の権力者は当の兄弟王で、その仲は睦まじい。

 中外に敵がいない今、彼らは国の形をより良い方向へ整えていこうとしている。


「だが彼らには敵が必要だ。彼らは国こそ上手く建てたが、それを続けるための、政の才に欠けるところがある。そのための敵だ」

「それが俺達……か?」

「国相手にそんなはずないだろ馬鹿かお前は黙っていろ」

「すまない」


 アルマは黙った。


「あと彼らは権威も必要としている。この国はまだ出来たばかりで不安定だ。それを落ち着けるための政治にも不安がある。兄弟二人が揃っているのも問題だろう。二人がどれほど仲良くても、人々の目に映る権威がブレている。この国は普通長男が家督を継ぐし、内乱を収めた手柄は明らかに兄にある」


 皆が苦い顔をしたり、重い溜め息を吐いたりするなか、ウリララはこっそりと隣のアルマに囁いた。


「ね、どゆこと? ウリララ、よく分かんない」

「大丈夫だ。俺もよく分からない」


 アルマ(恐らく二十歳超)がそう言って力強く頷いたので、ウリララ(恐らく十歳程度)も力強く頷き返した。

 イータがそれから帝国貴族の宗教構造に言及しかけたところで、アルマは彼を止めた。内容が分からなかったからではなく、イータの話がいちいち長くややこしくなることを知っていたためだ。こういうときは、さっさと区切らせて結論に入らせる必要がある。


「――つまり、国に利用される恐れがある。内容は不明だ。権威付けに利用される、と見たほうがいい」

「よし、倒――」


 と言いかけたアルマに、カッと目を剥くクレメンスとアスランの痛いまでの視線。

 彼らはどちらも、兄弟王という勝ち馬にうまく乗った家の出身だ。

 アルマは口を噤んだ。


「……そもそも、なんでボク達が目を付けられたんだろう? ただの冒険者六人だよね? まあ、メンバーは個性的だけど」

「『遺産』を発見したからだろうな。この国が出来てから、恐らくウチが一番『遺産』を見つけている。自分で言うのもなんだが、素行も悪くないしな」

「いやいや、国が出来てからって、一年も経ってないじゃん……」


 使ったり売ったり譲ったりした『遺産』の数々。アスランのブーツも含めて、十も満たないくらいだろうか。数もそう多くないうえに、どれも大した発見ではないため、あまり気にしていなかったが……。

 さてどうしたものか、と頭を捻ったところで、そうそういいアイデアなんて浮かんでこない。

 あれよあれよと言う間に時は動く。

 国の動きは早かった。アルマたちは王に会い、いくらか言葉を交わす。ただの冒険者とは言い辛くなるほど、人々からの視線が変わる。


 気づけば、ただの田舎出身の男、剣士アルマは『勇者アルマ』となった。他の五人は、勇者アルマの『五人の仲間』となっていた。


 これが分からない。

 アルマは適当な男だった。リーダーらしく皆を率いたこともないし、そう動いてみせたこともない。そういうのはイータが得意だ。

 また、放任主義なので仲間たちの調整役でもない。実はクレメンスなんかが得意だ。

 仕事を最終的に決めるのは、だいたいは勘が異様に優れたゾーイだ。

 人前に出る必要があれば、アスランが出た。

 一番強いのは、たぶんウリララとドラゴンだろう。


「むしろ俺が成したことの方が少ないのでは……? 俺がしたことって……?」

「ボク達を結びつける役?」


 ゾーイが首を傾げる。


「重要な役だ」


 アスランが頷く。

 クレメンスなんかは気に入らないみたいで、食ってかかってきた。


「これじゃ俺たちがお前のおまけだ!!」

「うん、俺もそう思う」

「肯定すんな!! お前がリーダーだなんて認めねえからな!!」

「――まあ馬鹿は置いといて。分かりやすく言うと、お前以外は皆都合が悪い」


 菓子をつまみながら、イータが説明する。


「この国の、人間たちの英雄だろ? まず『海の者』なんて以ての外。異国の小娘もアウト。一介の貴族に権力を与えたくない。孤児で、かつドラゴンライダーなんて訳分からんのもダメ。で、残るはお前だ。お前だけ。なんとでもできるような、ただの田舎の剣士の男」


 アルマは「なるほど」と頷く。勉強になった。


「それに、なんというか、理屈じゃないってところもある」

「なにが?」

「この中の誰よりも、お前がリーダーだということが、私達にはしっくりくる」


 そうか? と訝しんで振り返れば、皆うんうんと頷いている。渋い顔したクレメンスでさえ「他の奴よりはな」と頷いている。

 アルマは眉の辺りを掻いた。

 よく分からんが、まあいいかと思った。



 アルマたちは冒険を続ける。位の高い人間からの依頼が増えた。

 国を象徴する色が青色になった。アルマの髪目の色かもしれない。


「さすが武断に優れた帝王、行動が早い」

「そんなこと言ってる場合?」


 関心するイータにゾーイがため息をつく。



 正直何度か「逃げよう」とアルマは思った。

 この国は嫌いではないが、面倒事に関ろうとするほど浸ってはいない。生まれ故郷ではあるが、アルマが生まれた当時はこの帝国なんてものはなかったし、今までそれを意識したこともない。

 しかしクレメンスとアスランがいる。彼らがここから逃げるはずもない。ゾーイだってそうだ。彼女はなんだかんだ言いつつ、結局クレメンスについて行くだろうから。

 結局アルマはどこにも逃げなかった。クレメンスもアスランも、ひどく複雑そうにしていた。


 アスランはその後、アルマに捧げる詫びの創作ダンスを練習していて、ひどく腰を痛めて家に帰った。――というより、強制的に帰らせた。本当に、ネタにしかならない男だ。


 クレメンスはというと、またアルマに吠えて、突っかかってくるようになった。


「なんだよお前、そうやってこの国に残ってみせて、俺に恩でも売ってるつもりか?」

「そんなつもりは」

「さっさと何処へでも行っちまえばいいだろ!? 『勇者』様の部下みたいな扱いされて、いい迷惑なんだよこっちは!」

「気にするな」

「ああ!?」

「俺のことは、気にしなくていい」

「……」


 しばらく黙っていた後、舌打ちをしてクレメンスは去っていった。影でこそこそしていたゾーイに、アルマは「追え」と顎で促す。

 頷くゾーイが去るのを見送り、アルマは溜息を吐いた。

 アスランの謎ダンスとともに、二人のいっちゃいっちゃもしばらくは見納めだろう。


(ウーン、全然寂しくないな……!)

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