1
難波綾人は、駄目な男だ。
難波を知っている人間はもちろんだが、彼を一目見ただけの人間も、きっと彼を駄目な奴だと言うだろう。
見るからに駄目な男で、その見た目の通り、金にも時間にもルーズで頭が悪い。
善悪の判断ができず、常識なんてものは皆無。
顔は整っているが、見るからに頭のイカれた感じの短いピンクの髪と大量のピアス。
セフレは中学の時から切れたことがないけれども、難波に彼女はいたことがない。
人付き合いはいい難波だけれども、みな一時的なもので、本当に友達と呼べるのは小学園校からの付き合いの俺くらいだろう。
だから親にも見放された難波は、本当に困るといつも俺に頼ってきた。
俺はいつも仕方ないなって笑いながら難波に金を貸し、家に泊め、警察に迎えに行った。
この関係はずっと続くのだろう。
そう思っていたのに変化は突然起きた。
きっかけは、難波に二週間前に彼女ができたこと。
難波は彼女ができたことを俺に隠していた。
難波の彼女は由利ちゃんと言った。
笑顔の可愛い小さな女の子で、見た目は清楚なのに意外と男勝りで、凄く良い子だ。
由利ちゃんは、俺の彼女だった。
前から3人で遊ぶことはあり、きっと由利ちゃんが難波に心惹かれたのだろう。
盗られたとか、裏切り者とか、そんなことは思わなかった。
ただ、最後は俺を頼って、俺なしではいられない難波が、俺との関係が切れるのを分かった上で由利ちゃんと付き合ったに違いないこと。
それが許せなかった。
難波は俺といれば、それでいい。
他に何が必要だというのだ。
俺は難波が好きなのだろうか?
それはきっと違う。
ただ、難波はどうしようもない駄目男で、そんな難波が頼れるのは俺だけで。
最後は頼ってくるあいつを俺はどこか心待ちにしていた。
なのにあいつが俺に頼って来ないから。
それなら、難波に気付かせてやればいいと思った。
俺がいなきゃ、駄目だって。
一人じゃ難波は生きて行けないって。
そして俺がいれば生きていけるって。
最近はどうやら難波もそれが分かったみたいだ。
俺を気配で分かるし、真っ直ぐに俺を見る。
もっと早く気付いてくれれば良いのに、難波はなかなか気付かなかった。気付くまでに一ヶ月。
狭い地下室と毛布。
水と食事は俺からの支給。
欲しい物はある程度は与え、痛いことも苦しいこともない。
そんな環境にしてようやく難波は気付いた。
俺がいれば快適でいられるって。
難波の世界は俺と難波、2人で出来上がっているって。
「おはよ、難波」
「あー、おはよ」
声をかければ、昨日渡したゲームからパッと顔をあげ、難波は挨拶を返して来る。
ピンクの頭はてっぺんが黒くなり、極度に細かった身体は少し太り、肌は白いまま。
難波の失踪を由利ちゃんは心配に思い、捜索しているらしい。
けれども、猫のように自由で知り合いの家を転々としていた難波には手掛かりもないのだ。
捜索願だってまともに調べてもらえてるかは疑問だし、難波がここにいるなんて、きっと誰も思わない。
「はい、ご飯」
「サンキュー、そこ置いといて」
再びゲームに視線を戻した難波に、俺は小さく笑った。
たぶんこれか、後ほど掲載する読めるけど書けないが最初にネットにあげた小説です。
せっかく名前出したので、これも桃山猛の本棚にありそうな小説ということで作者名は桃山猛に