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オチのある短編集

神さまの事情

   神さまの事情(初出誌版)


 ふと、神さまは思った。たまには人間に奇跡を見せてやらねばなるまい。

 そして下界に耳をすませた。都会の雑踏は聞くに耐えなかった。神殿や教会などはあからさますぎるような気がした。必然的に神さまの耳は静かな草原に向いた。

 草原には丘と池があった。その中間の平地で、乙女が祈っていた。両手を合わせ、目を閉じ、黙している。神さまは乙女の心の声を聞いた。

(いい男と出会えますように)

 乙女は心のなかで、たしかにそう唱えていた。

 なんだ、そんなことか、と神さまは思った。すぐにイケメンに変装して会いに行っても良かったが、ここのところ女神が口うるさい。神さまは自分で浮名を流すのを諦めて、近くに手頃な男がいないか目を配った。

 はたして、ちょうどいいイケメンがいた。なんと彼女のすぐ後ろ、丘の上である。乙女は祈ることなんかやめてすぐに振り返ればいい。そこに手頃なイケメンがいるのだから。イケメンもイケメンで、遠くの景色ばかり見ている。すぐそこに乙女がいるというのに。

 神さまだってもどかしい気持ちになることがある。そこで風を吹かせてやることにした。いわゆるゴッドブレスというやつだ。

 神さまは爽やかな香りのするドロップを口に含むと、大きく息を吸い込んだ。フウウウゥゥゥーッと一息、草原に風を吹かせた。神さまの目論見では、それで乙女が振り返って顔を上げるはずだった。

 しかしゴッドブレスは勢いが強すぎた。しまった、と神さまは思ったが、もう後の祭り。イケメンは風にあおられ、丘をゴロンゴロンと転がり、ついにはボチャンと池に落ちた。けっこうな水しぶきが上がったが、乙女は風の勢いと轟音にうずくまり、それに気づかなかった。

「嫌な風」

 風がやむと乙女はそう言って立ち上がり、丘を登っていった。イケメンの方は池から這い出すと、気まずそうに人目をさけて反対側に歩き去った。

 神さまはすこし考えていたが、「ま、いっか」と呟いて、顔を上げた。下界から天界に視線を戻すと、目の前に女神がいた。恐い顔をしてる。

「な、なんだ、浮気などしていないぞ」

 神さまはいきなりそう弁解した。

「また浮気などしたら、ぶち殺すところですよ」

 女神はそう言って続けた。

「あなたはいつも余計なことばかりして、さっきの二人は今日、出会う予定だったんですよ! 変な風を吹かせるのはやめてください」

「そうだったのか、今度は気をつけるよ」

「今度はありません!」

 そう言うと、女神は神さまからドロップを取り上げた。

 神さまは思った。ああ、ドロップも取り上げられてしまった。カミナリを出す杖も癇癪で折られてしまったし、予言を伝えるテレパシー装置も取り上げられて、これでは神の奇跡が起こせないではないか。




(本誌編集者による注意書き。上記で物語はおしまいです。下記の補足部分は作者によるものですが読後感を著しく損なう可能性があります。故人の意を汲んで掲載を敢行しましたが、ここまでの内容で満足された方は読まないことを強くお勧めします)


【補足1】近代になって、神さまの奇跡はなかなか見られなくなりました。仕方ありません、こういった事情があるのです。しかし神さまは私たちのことを忘れてしまったわけではありません。今も静かに見守ってくださっています。ときどき、もどかしい思いをしながら。


【補足2】出会えなかった二人のことが気にかかった心優しい方もいるかと存じます。ご心配なく、運命の二人はどれだけ時間がかかってもいつかは出会えるものなのです。そして離れ離れのときが長ければ長いほど、出会いの喜びはいっそう深いものになります。それが遠い来世であっても。ああ、だから運命の人と出会えても喜びは人それぞれなのですね。わたしも今、気が付きました。


【補足3】作中、女神がぶち殺すと穏やかならぬ発言をしましたが、浮気性の男などぶち殺すほかにありません。わたしは神さまがお許しになる殺人もあると考えます。


【補足4】あーあ、ついにやっちゃいました。でもスッキリですね。この方法、たいへんグッド、オススメします。それでは来世でお会いしましょう。みなさま、アデュー、さようなら!

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