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旅立ち

 少年には大きな夢がある。

 それは世界をまたにかける大冒険家になるというものだ。


 幼い頃、父から読み聞かされた絵本の冒険物語、少年はその絵本の冒険家に憧れた。無限大ともいえる巨大な世界を自由に生きる、まだ誰も見たこともない秘境を見つけ、秘宝の数々をその手に掴んでいく。

 物語の主人公は誰よりも自由に生きながら、偉業の数々を成し遂げていく。


 その生き方は少年の中で目標になった。


 だが現実は違った。


「毎日毎日なんで畑の水やりをやらなくちゃいけないんだ!」


 不満顔を浮かべる少年ーーカイリの現実がそこにはあった。

 黒髪に黒い瞳、背は150センチと発展途上中、細い体に地味な灰色の作業着と長靴を履き込み、魔法のじょうろを片手に、土から飛び出た茎や葉に水を与えていく。

 魔法の力で見た目以上に水をため込むことができるこのじょうろで広い畑の端から端まで水を与えていくのが彼の日課である。5歳の頃から手伝いをやり始めて今では14歳となる、長い経験からその手際も大人に劣らずで素早い手際で仕事を終えていく。


「俺は、野菜を育てるために生まれたわけじゃねぇえってのによ!あぁもうやってらんね」

 カイリは鬱憤を吐くと、じょうろを足元へ放った。

 力なく背から大地へ倒れ込み、炎天下の空を目を細めて見上げた。

 小さな島に生まれ、そこで農家を営んでいるのが彼の家である。

 幼い頃から抱いた夢は限り無く現状より遠い場所にあった。


「まず島に生まれたのが間違いだな、んで次に間違いなのが親父がくそだせぇ農家ってこと。両親ともに農民で魔術の才能は皆無、んじゃ息子の俺が魔法を使えねぇのも当然だよな!」


 ブツブツと文句を垂れながら地面の上で日向ぼっこをするカイリの耳へ遠くから土を踏みしめる音が響く、めんどくさそうに首だけを音の方へ向けるとカイリの顔はより一層気だるく歪んだ。視界の先には一人の大人の女性と小さな女の子が二人いた。


「こらカイ!またサボって!しかも道具まで粗末にして!」


 女性ーーカイリの母アリアルは地に寝そべる息子を遠目に見ながら叱咤を飛ばした。年は30後半、14歳の息子がいるにしては若く、綺麗と呼べる顔立ちと線の細い体つき、目付きは鋭く一重であり、息子カイリと似た黒い瞳をしている。長い黒髪に日除けの麦わら帽子を乗せ、作業着に長靴を履いている。


「あんたももう、14なんだからしっかりしな!ましてや長男、妹のリズやリムに恥ずかしいところは見せないで!」


 アリアムの後ろを着いてくるように小さな子供ーーリズとリムは白い長髪を振り乱しながら兄へ無邪気な視線を飛ばした。


「お兄ちゃんが寝てるー」

「兄貴がさぼってるー」


 リズとリムは6歳で双子の女の子である。長い白髪とやや赤みが掛かった瞳を持ち、マシュマロのように透き通った肌が特徴だ。その容姿と双子のキャラが相まって島で一番可愛がられている二人である。そんな人気者がカイリの妹である。


「うるせー!これが現実なんだってリズリムに教えてんだよー、やりがいのないダサい仕事それが農家なんだってことをな!」


  投げやりで言葉を放った直後、カイリは額に冷や汗を流した。その訳は嫌な気配を感じたため、やってしまった、そんな感情を浮かべながらカイリは上半身を急いで起こし気配の先ーー背後へと視線を向けた。


 そこには激昂を浮かべる男がいた、白髪にやや赤みがかった瞳を持つ男、全身に筋肉の鎧を引っ提げたそれは腕を組み怒りの瞳をカイリに突き刺していた。男の名はカイム、カイリの父親である。

 

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