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 私は制服に袖を通すと、髪を横で束ねる。準備が整ったので、楓を呼びに向かう。楓はすでに支度が整っているようで、リビングで呑気にゲームをしている。


 今日は佐藤くんのレギュラー選抜の練習試合だ。私が応援しても迷惑がられないか心配だが、友達だから大丈夫だよね。一応、応援しに行くと連絡もしてあるし。


 試合はうちの高校のグラウンドで行われる。現地に着くと、佐藤くんがウォーミングアップをしている最中だ。彼のポジションはフォワード、攻撃の要だ。今日の試合ではスタメン入りしており、レギュラー候補だと言っていいだろう。


 何かに夢中な男子は素敵だと思う。佐藤くんと目が合ったので、取り敢えず手を振っておく。はにかみながら、手を振り返す彼も素敵だ。ウォーミングアップ終了後、なぜか佐藤くんを囲むように円陣が組まれもみくちゃにされていた。見た事がない円陣なので、楓に聞いたらそうではないらしい。


「楓、円陣じゃないならなんだろうね」

「鈍感」

「私の事?私ほど敏感な女子はいないわよ」


 私がプンスカしていると、楓がそっと私を背に隠す。あれ?これ前にも似たパターンがなかったか。


「楓、応援に来てくれたのか?」


 爽やかイケメンボイス天凰寺司さん登場。しかも、なんか勘違いしている。


 ーーまさか、対戦校は私立鳳凰院ほうおういん学園(笑)か⁉︎略して鳳学は自分の通っていた高校だけど現実に存在するとなると話は別だ。名前がださい。どっかの指定文化財みたいだ。


 ゲームだから許される名前って、やぱりあると思う。嬉々として通う生徒を見て、私は居た堪れない気持ちになったのは記憶に新しい。まあ、私の名前も大概だけど……。


「いや、今日は佐藤のレギュラーを賭けた試合を応援しにきたんだ」


 キラキラオーラを身に纏い、空気を読まない楓さん。馬鹿なの?そこは、嘘でも天凰寺を応援しにきたって言うところでしょうが。


「……そうか」


 うわぁ、天凰寺さんが凹んでるじゃないですか。


「今日は佐藤の応援だけど、司が試合に出るのも知っていたから見にきたんだよ。目立った応援はしないけど、頑張れよ」


 楓さんのツンデレここに極まる。楓はツンデレ属性ではないけど、これはありじゃないですか。ねえ、天凰寺さん?


 天凰寺を見ると、キラキラオーラ(大)を身に纏って満面の笑みである。分かりやすい喜びようだ。


「楓、ありがとうな」彼が自チームに戻って行く。天凰寺がなんだか可愛く見える。しかし、対戦校が鳳学だとは思わなかった。知っていたなら応援は一人で行っていた。天凰寺はゲームの設定でもサッカー部員だ。当然、楓と行けば何かしら関わる可能性がある。それに、天凰寺がいるならヤツもいるはず。


「神白くんも、見にきてたんだ」


 やっぱり、居ました。勇者、橘!彼女は楓とたわいもない会話を始める。楓は相変わらず雑な相槌をしている。私は出来るだけ、目を合わせないようにーー橘さんめちゃめちゃこっち見てるし。


「ねえ、レイレイさん。少し話せないかなぁ?」


 楓もその場にいるし、無茶な事は言われないだろうと了承する。しかし、女の子同士の話があるからと橘さんと少し離れた場所で話すことに。


 大丈夫かと楓に聞かれたが、大丈夫だよと返しておいた。本当は全然大丈夫じゃないです。


「レイレイさん、花火大会は神白くんと一緒だったよね?」


 やっぱり、見られていたか。


「椿さんの代役で、協賛席で挨拶回りしたんだ。本当は、楓も司くんと一緒に花火見たかったみたいなんだけどごめんね」

「そうなんだ。私はてっきりレイレイさんが誘ったものだとばかり」

「私は元々行く気がなかったから、楓にお土産を頼んでたくらいだいよ。私も椿さんに頼まれたから行っただけだもの。楓は今日だったて司くんが試合に出るから応援しに来たみたいだよ。偶々、私の高校と試合だったから一緒に来ただけだし」

「そっか、なんだか疑ってごめんなさい」

「いいよ、気にしてないから。それより、もう直ぐ試合が始まるみたいだよ」


 悪い事だと思ってはいるが、この場を切り抜けるために少しばかり嘘をついてしまった。なんか、凄く緊張した。暑さからくる汗とはまた違う汗が出る。橘さんは良くも悪くもゲームのまま真っ直ぐな性格だから、ストレートにモノを言うので恐ろしい。彼女とは、出来るだけ関わりたくない。そして、彼女は楓の隣を陣取り一緒に応援する事になった。


 私は楓に心の中で謝りつつ、二人からそっと距離を置いた。楓が睨んでいたので、あとで謝ろうと思う。許せ楓、お前の死は無駄にはしない!


 さて、試合はというと鳳学が勝つと思うだろう。だか、ゲームみたいに易々と勝てるほど世の中は甘くはない。3対0でうちの高校が勝ったからな。佐藤くんも大活躍だからな。


 天は二物を与えずとはよく言ったものだ。イケメンで金持ちで頭が良くてスポーツ万能⁉︎そんな人間いてたまるか。私なんか金持ちの家の娘ってだけしかステータスないけど、はっきり言ってそれだけでも恵まれた才能だと私は思う。怯えらても、友達がいなくても将来は保証されているんだから。


 まずい、ダークサイドに堕ちかけてるな。ついつい、前世の卑屈な私が覚醒しかけた。これは、いけない。今は佐藤くんの活躍を素直に喜ぼう。


「蛇窟さん、応援ありがとう」

「迷惑じゃなかった?」

「いや、全然。でも、お陰様で皆んなからとっちめられたけどね」

「えっ⁉︎」

「なんでもないよ。こっちの話しだから」

「大活躍だったな佐藤」

「神白も応援サンキュー」

「楓、天凰寺達の方は良かったの?」


 どうやら、橘さんは天凰寺のとこへ行ったみたいで楓もこちらに合流できたみたいだ。ただし、お前の所為で酷い目にあったとチョップの洗礼を受けた。こればっかりは本当に反省してるが、次も似たような状況なら私は同じ事をすると思。


「あの、小さい子は二人の知り合い?」

「私は無関係です」

「俺は無関係でいたい……」


 楓さんが遠い目をしている。


「神白にも苦手なものがあるんだな」と佐藤くんは微笑する。


「それより、佐藤くん。最後のクロスは凄かったよ。まさか、パスをもらってからのドリブルでの突破力もさることながら、あの絶妙なクロスは感動ものだよ」

「あれは、本当に偶然左サイドが空いてたから行けただけだよ。それより、蛇窟さんはサッカー詳しいんだね」

「こいつバスケも意外と知ってたしな」

「どうせ、応援するなら少しは予備知識がないといけないかなと」


 感心する佐藤くん。ごめんよ、マンガで得た知識です。後、テニスと自転車もイケる口です……なんて、流石に言えない。


 その後、佐藤くんと少し話しをしてお別れをした。


「ねえ、楓さん」

「なんだい麗華さん」

「天凰寺さんのポジションってゴールキーパーだったかしら」

「……それ本気で言ってるのか?司は入部当初からゴールキーパーをやっていたんだがな」


 呆れ顔の楓は、仮にも元婚約者なんだからそれぐらい知っておけよと付け加えて教えてくれた。うむ、ゲームの設定と少し違う。彼はゲームだと鳳学のエースストライカーのはず。間違っても守護神ではない。

 

「楓、少し天凰寺のところ行ってきてあげたら?」

「何で?」

「練習試合とは言え、3点も入れられたら凹むやろう」

「あいつは、そんなタマじゃないって」


「いいから行け」と渋る楓の背を押した。あとは、彼らの会話を適当にBL風にアテレコして楽しむだけだ。


 そう思ったのもつかの間、楓はすぐに戻ってきた。聞けば橘さんにぐいぐい会話に入ってこられて、面倒になったとか。楓の根性なしめ!もう少し私を楽しませて欲しいものだ。


 こうして、私の望まぬハラハラドキドキの夏休みは終了を迎えた。


 8月31日の朝、楓と椿さんにお世話になりましたとお礼を言って寮に戻った。久々しぶりの自室は何だか懐かし。くつろげる場所があるというのは、良いものだ。


 明日から新学期、なんとしても友達が一人ぐらい欲しいものだ。





 9月1日朝の全校集会。残暑厳しく空調が整備された体育館でも、やはり全生徒が集まるので蒸している。外はうるさいほどの蝉時雨だ。暑さのせいもあり、先生達のはからいでいつもより全校集会は早めに終わった。


 私は教室に戻り、席に座る。


 何故だ⁉︎クラスメイトが私の髪の色に反応してくれない。せめて一人ぐらい何か言ってきてもいいじゃないか。そしたら、一夏のアバンチュールを体験しちゃったみたいなこと言ってやるのに。これでパンチの効いた冗談で友達になろう作戦は成功するはずだ。


 まだ、時間はある。バッチこいや!と意気込んでいたものの、相手からは何の返答もなくホームルームが始まった。


 新学期早々、担任の先生が疲弊しているように見えるのは気のせいだろうか。


「今日は、まず転校生を紹介する」


 教室がざわめく。転校生は、教室に入ると緊張する様子もなく飄々と先生の隣に立った。







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