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キラキラ合戦を抜け出した私は楓に呼び出され喫茶店で何故勝手に帰ったかとお説教だった。と言っても彼は別に本気で怒っているわけではなく、シュウくんとあの後どうなったかの報告を兼ねての呼び出しだ。
気になる会話の内容は、普段の学校で私についての話がメインだった。一通り話を聞いてみれば当たり障りのない事ばかり、揉めるかもと危惧していた私はどうやら心配し過ぎだったらしい。ふと、綾ちゃんが指摘した事を思い出しす。私は押しに弱い。髪を指でクルクルと絡めとりながら、これもその結果かと溜息をつく。
「悩み事か?」
「綾ちゃんに言われて気が付いたけど、私はどうも押しに弱いみたい」
「今更、気が付いたのか」
前から知っていたような口振りの彼に、私はムッとする。
「姉さん曰く、押せば簡単に傾くチョロい子だそうだ」
椿さんの私のイメージ駄目過ぎるだろう。もしかして、周りからもそう見られているのか。
「それって椿さんだけだよね。一応、お嬢様だし皆んなからはそう思われていないよね」
「クラスの連中にもそう思われているぞ」
--泣きたい。楓の話だと無茶な頼みはしないものの、頼めば大概はやってくれる人と云うのが私らしい。
もう、なんだろうね。これからチョロい子改善週間でも設けようかな。楓にそう提案すると、誰も困っていないから正す必要があるか聞かれた。
「やっぱり、断る勇気が大事かなと」
シスコンのシュウくんの、イチャイチャスキンシップを断る勇気とかね。
「シュウの事か?だったら、話はつけたから大丈夫だろう」
「何が?」
「急に学校に押しかけて、お前には迷惑かけるつもりは無いって」
いやいや、学校に来ないとかそんな話ではなくて、イチャイチャが無くならないと意味が無い。私にはシュウくんを傷つけずに断る方法など思いつかない。まあ、学校が始まれば会う機会も減るだろうから、時間が解決してくれるかもしれない。これ以上悩んでも仕方がないか。
軽い現実逃避をしつつ、喫茶店を出て楓と別れ寮に帰る。
「あ、姉さん。お帰り」なんて、シュウくんがお出迎えです。何でいるかなんて、聞くのは野暮だけど一応問いただすと姉さんに会いたかったからだと笑顔で回答。うむ、予想通り。
私はいつも通りシュウくんの膝元へ座る。弁解はしていおくが、抵抗は毎回している。
「当分姉さんと会えないから、寂しくさせるけどごめん」
彼がそう話を切り出す。全然、寂しくないですよ。寧ろ少しホッとしている私がいる。だけど、すぐさま彼は2月14日には逢いに行くから時間を空けておいてと言われた。
「2月14日って何かあるの?」
なんとなく惚けておく。わかってますよ。わかってますとも。バレンタインデーでしょ。
「バレンタインデーだよ。丁度、休みだからその日はどこか二人で出かけようよ」
「そっか、バレンタインデーか。皆んなにもチョコを買わないとなあ」
前世では、小さな会社だったからチョコを多くの人に配っていた。別に義理だし私から貰っても嬉しくないと思うが、お世話になっている意味も込めて渡すものだからそれなりに良いものをデパ地下で買った。出費だって馬鹿にはならない。10代の頃は……思い出したくもない。私にとってのバレンタインデーのイメージはあまりよろしくない。転生してもバレンタインデーは見て見ぬふりで誰にも渡さなかった。楓と司にも渡す機会は無かった。あいつら、何処ぞのアイドル並みに沢山貰っていたからね。
「姉さん、俺は買ったものより愛情たっぷりの手作りチョコがいいけど」
「手作りなんて、そんないいものではないと思うよ。私が作るのなんて、そこまで美味しくないだろし」
「それでも、手作りがいいよ」
あまりにもいい笑顔で、言いよるから私は了承してしまう。流石に、チョコは作るのが不慣れななので時間が欲しいとお出かけは断った。シュウくんは残念そうにしていたが、私の愛情たっぷりの手作りチョコが貰えるならと納得してくれた。
--楓にもチョコを渡そうかな。今年はそこまで貰えそうに無いだろうから私が渡しても迷惑にはならないだろう。
「姉さん、何を考えてるの?」
「皆んなにも手作りチョコを渡そうかと思って」
シュウくんは少し不服そうだが、せっかく皆んなと仲良くなれたお礼だからと言えば納得してくれた。
まあ、どんなチョコを作るかは決まってる。板チョコを買って湯煎して型に入れてトッピング。愛情もへったくれもない平凡な手作りチョコ。実のところ苦手でも何でもない単純作業なんだが、知らない者からすれば手作りなんて仰々しい。だが、お陰でシュウくんとのデートは断れたので有難い。
--来週ぐらいに材料でも買いに行くか。
年を重ねると時間が経つのが早いと言うけれどまさにそれ!肉体的には十代なんだけどなぁ。などと悲観的になりつつ私は溜息を零す。
まだ、大丈夫。まだ、時間がある。なんてのんびり構えていたら、あっという間にバレンタインデー。私みたいなダメ人間には良くあるパータンだろう。まあ、材料だけは揃えて置いたから、まだマシか。
私は久々に実家に帰省した。寮にもキッチンはあるけど、流石に人目を憚れるので実家で作る事にした。私はキッチンでダラダラと材料を広げ出す。お母さんなんかは、あらあらと好奇な目で私を見ていたが、勘ぐるのはやめて欲しい。
一度、面倒だと思うとどうにもエンジンが掛からない。おまけにチョコを湯煎していると、後ろから私の腰に手を回したシュウくんが興味深々で溶けていくチョコを見ている。「いい匂いだね。愛情を感じるなあ」なんてキラキラオーラ全開で、なんとも続編ヒーローらしいのだがやる相手が違うと思う。私は集中できないので、やんわりと追っ払う。
後は、ハートのシリコントレーにチョコを流していきカラースプレーを振りかけて冷やせば終わり。後はこれを大量生産してラッピングして終わるけど--買った方が早い気がするのは私だけだろうか。
こんな考えが干からびているのか?楓の言葉を思い出す。いやいや、干からびてないから。頭の中はお花畑ですから。ちゃんと、恋愛してますからスイーツですから!自分で自分の考えを否定したのはいいけど、楓が好きなのだと再認識させると悶絶してしまう。
ともあれ、私の手作りチョコは完成した。シュウくんには特別に大きめのハートに上からホワイトのチョコペンでラブと英語でデカデカと書いてあげたチョコを作成。楓には皆と同じ大量生産チョコだが、甘さ控え目にして置いた。
私は楓に渡す特別なチョコに悟られたくない想いと気付いて欲しいと言う願望を忍ばせている。作り終わったチョコを見つめ、そんな浅ましい自分に自己嫌悪しつつ一つ溜息。--本当に何やってるんだろうか。
一日かけて作ったチョコをシュウくんに渡そうと、キッチンを出るとお父さんが怖い顔して立っている。
「お母さんから聞いたが、チョコを作っていたらしが誰に渡すんだ」
少し間を置いて、しどろもどろに彼氏に渡すのか聞かれる。「やだなー。シュウくんとクラスメイトに渡すんだよ」そう言ってお父さんに目を向けると、眉間にあった皺は薄くなっていた。ついでにチョコも渡して置いた。後から、母に聞いたのだが私が帰省すると聞いて予定をずらして早めに帰ってきたのだそうだ。
私達家族は、あの一件以来お互いに歩み寄る努力をしているのだろう。少しづつだがいい方に向かっている。ただ、前世の私は年齢=彼氏いない歴なのだが、渡す相手がいない事を心配されたが、今の私はそうではないらしい。なんだか新鮮味があった。私はチョコを渡す時、笑顔でお父さんがいい人紹介してくれると嬉しいよと付け加えておく。少し間を置き、眉間に目一杯皺をよせ了承してくれた。お父さんには申し訳ないないが、これで行き遅れになる事もあるまい。
ちなみにシュウくんにチョコを渡したら熱い抱擁とホワイトデーのデートが確定した。さて、明日は楓にチョコをどうやって渡そうか……。




