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 頭の中は真っ白だ。楓に抱きしめられ何も考えられずにいる。辛うじて声が出たものの、楓の名前を呼ぶに留まった。


「お前、何考えてるんだよ」


 えっ⁉︎あれ、私怒られてるのか。


「鳳学のクリスマスパーティーに参加してると聞いて心配して来てみたら呆けた顔で現れて」


 楓は心配して、ついつい私を抱きしめたのか。なんだか、お母さんみたいだ。一瞬でも恋愛イベントだと期待した私が恥ずかしい。楓はなんだかんだ言って私を気遣ってくれるから冷静に考えれば、分かる事だ。


 私はアホな事を考えた恥ずかしさと、抱きしめられた気恥ずかしさで顔が熱い。楓に気取られないように、顔を彼の胸に埋めながら今日の出来事を話す。彼は初め驚きはしたものの、良かったなとか相変わらず姉さんは強引だなぁなど私の話に相槌をする。司が椿さんの指示で、妖艶な笑みをした件を話すと抱きしめられた腕が緩み、楓は私から離れる。私がどうかしたのか問うと楓は大きな溜息をついた。


「全く姉さんも司もやってくれるなぁ……」

「どうかしたの?」

「気にしないでくれ。何でもないから」


 楓はなんだか悔しそうにしている。多分、椿さんは彼の背中を押そうとしていたのだろう。だけど、司の妖艶な笑みが楓になぜ必要だったか全くわからない。


「それと椿さんから帰るまでが遠足だって言われて、ドレスのまま帰らされたのだけど意味がわからなくて」


 私の話を聞くや否や楓は苦笑いを浮かべる。


「……あの人、どこまで気付いてるんだか」


 ポソッと呟いた楓を不思議に見ていると、彼と目があった。楓は寒さでやや頬を赤くしている。


「麗華、姉さんの思惑を読めずクリスマスパーティーに付いていけ無くて悪い」

「まあ、仕方ないよ。この時期は色々ありますから。本当だったら今頃、私も楓と似た様なものだったし」


 楓は意外と面倒見がいいから責任を感じているみたいだ。


「 まあ、悪い事ばかりでは無かったから」


 落としてしまった手提げ袋を拾い上げる。楓は中身が気になるようで、中身を教えてやると私らしいと笑った。寒空の下、長い間いたので身体の芯まで冷え切っている。私は悴む手に息を吹きかけ、彼に部屋に寄って行くか問い掛ける。


「お茶でも飲んで行く?」

「遠慮しておくよ」


 楓は明日も予定があるようだ。車を待たせているからそろそろ帰ると、楓は踵を返したが突然立ち止まり振り返る。


「麗華、そのドレス凄く似合ってるな」


 私は楓の一言で、舞い上がる気持ちを抑えられず大声で礼を言った。そう言えば楓にはドレス姿は見せていなかったか。椿さんがこれを見越してドレスで帰れと言ったのなら、彼女に私が楓ラブだと気づかれているのだろうか。だとしたら、なんだか怖い。


「……どこまで、気づかれているの?」

「何か言ったか?」

「何でもないよ。楓、大変だろうけど明日も頑張ってね」

「ああ」


 私のクリスマスパーティーはこうして終了した。






 あれから二日経ったが、私は絶賛悶絶中だ。楓と会った日、部屋に戻り冷静になった私は抱きしめられた事を思い出し枕を抱えてジタバタと悶絶していた。それが尾を引き今だに思い出しては赤面している訳だ。何をやっているんだか。これでは、新学期に普通に振る舞えるか心配だ。


 今日はクリスマスだし、抱きしめられた夜を肴に一杯と言いたいが未成年なのでシャンメリーで一杯やろう。ニヤけたり赤面したり大忙しな私は部屋の掃除を済ませてクリスマスの準備を進める。準備が整ったところで、ドアを叩く音が聞こえた。誰だろう?ーーそういえば、自分用に購入したクリスマスプレゼントが今日届く予定だったか。


「はいはい。今出まーす」


 るんるん気分でドアを開けると、見知らぬイケメンがって配達員さんイケメン過ぎるやろ!


「姉さん、久しぶり」

「はい?」


 私にこんなイケメンな配達員さんの弟はいない。実の弟はいるけど間違っても私より背が高くてクールな黒髪王子系配達員さんではない。どちらかと言えば、可愛い系年下男子だ。


「どちらさま?」

「姉さん、もしかして俺のことが分からないの?」

「えっ⁉︎あの、もしかしてシュウくん?」

「そうだけど」


 な、何てこった。私と二つ歳が離れた弟、蛇窟修吾は当然攻略対象なのだが甘えん坊でとてもイージーな攻略対象だ。ゲームの中ではヒロインが誰とも進展がないまま三年目を迎えると新入生として現れて、すでにラブ指数がお高めでお手軽に攻略出来てしまう。誰とも進展しないまま卒業エンドを回避するための、制作側からの言わば救済キャラがシュウくんなんだけど……。成長期が早すぎてこれでは、救済キャラにはなり得ないだろ。


「男子三日会わざれば刮目して見よとは言うけど、いつの間にお姉ちゃんより背も伸びたしカッコよくなったね。誰だか本当に分からないかったよ」


 シュウくんは、なんだかおばさん臭いと無表情で私を一瞥する。


「それより、廊下寒いから中に入れてくれない」


 私は謝罪して慌てて部屋に入れると、折りたたみ式のちゃぶ台を広げてお茶を出す。


「お姉ちゃん、一つ聴きたい事があるのだけどいいかな」

「何?」

「シュウくんがなんでお姉ちゃんの荷物を持っているのかな?」

「これ?配達員が寮の入口で入り方が分からなくて困っていたから代わりに受け取って置いた」

「そ、そっか……」


 お礼をして、荷物を引き取る。


「トキメキハイスクール〜君といた輝き〜って何?」

「えっ⁉︎」


 何にしてんの通販サイト⁉︎ゲームソフトって記載だけでいいのにタイトルまでしっかり書いちゃって!恥ずかしいから佐藤くんのバイト先で購入するの控えたのに、一番知られたくない身内にバレた。


「え、ええっと……」

「まあ、いいや。姉さん、取り敢えずここ座って」


 私はトキメキハイスクールを抱えた腕を引っ張られる。


「あ、あのシュウくん?」


 シュウくんの太腿の間に挟まれ、抱きすくめられ形で座らされる。その後、シュウくんの顎が私の頭上に乗っかる。


「全然、家に帰って来なかったから心配した」


 シュウくんは顎で私の頭をグリグリする。……ちょっと痛い。


「ご、ごめんね。なんか帰りづらいくて」

「父さんだって姉さんを嫌って怒った訳じゃないし、そろそろ帰ってきてもいいんじゃない?」


 そんなの怒られた私が一番分かっているのだけど、どうしても踏ん切りがつかず今日までズルズル来てしまっている。


「姉さん、冬休みは帰ってくるんでしょ」

「まだ、気持ちの整理がつかなくて……」

「ふーん」


 それっきり、シュウくんはこれ以上この話題には触れて来なかった。その後は、クリスマスを一緒に過ごした。何故か抱きすくめられたまま、トキメキハイスクールをプレイさせられた。姉さんはこう言うの好きなんだとか意外と面白いねとか横槍を入れられながら、羞恥プレイに耐え夜は深まっていく。


「シュウくん、もう遅いしそろそろ帰ったら?」

「姉さんは家に帰る気ないんでしょ。だったら、俺も冬休み中はこっちにいるよ」


 なんでそうなるのかな?お姉ちゃんにはシュウくんの言ってる意味が分からないよ。そもそも、シュウくんがヒロインを好きになる理由も家では麗華が我儘を拗らせて、両親の愛情をあまり受けられず育ったから優しくされると簡単に靡いちゃうチョロ過ぎる理由だったよね。たとえヒロインに選ばれなかったとしても、今後変な女に捕まらないよういっぱい構ったのに最後まで懐かなかったじゃん。


「なんで今更……」

「ごめん。俺、小さい頃から姉さんの事が大好きで将来は姉さんと結婚するなんてアホな事考えて、司さんと婚約するって聞いた時ショックでさぁ。姉さんいなくなってから色々考えて」

「えっ⁉︎ちょっと待ってよ。シュウくん、小さ頃も私を避けてなかった?」

「あれは、なんて言うか気恥ずかしくて……」


 つまり、シュウくんの初恋の相手が私で照れくさいから私が構うと照れて逃げてしまったと。爆弾発言の後、そんなよう事を頬を赤く染め照れくさそう説明するシュウくんに、なんかお姉ちゃん嬉しくて涙が出てしまいそうだよ。


「ちょっと、姉さん何泣いてるの」

「今まで嫌われてるものだとばかり思っていたから嬉しくて」


 シュウくんは嫌う訳ないだろと優しく頭をなでてくれた。シュウくんは、凄く優しい子に育ってくれてお姉ちゃんは嬉しいよ。


 だけど、姉弟はこんな恋人みたいな甘ったるいスキンシップはお姉ちゃんはしないと思います!

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