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 鳳学に私を慕ってくれた人達がいた。数は少ないけどとても嬉しい。呆然としていた私の周りは気づけば男子生徒に取り囲まれている。なぜに?そう思って周りを見渡すと、心配そうに横で見ている西園寺。


「麗華さん、大丈夫?あのコらに何か言われたのか」


 皆んなに私の名前が聞かれないよう、小声で話す西園寺。


「大丈夫、大丈夫!なんて言うか、この学校では怖がられる存在の蛇窟麗華を慕ってくれる人がいるのに衝撃を受けただけだから」

「ーーそうだったのか。俺はてっきり天凰寺絡みだと思って、バスケ部の連中を掻き集めて来たんだけど、要らぬ心配だったみたいでよかったよ。あのコらに絡まれてる旨を神白先輩に伝えたら、大丈夫よなんて笑顔で言うからいつもの悪ノリかと慌ててしまって……」


 なるほど、つまり椿さんは最初からあのコらが私を慕っているの知っていたのだろう。彼女を見ると、先程の女生徒達が嬉しそうに頭を下げて御礼を言っているようだ。これはつまる所、椿さんからのサプライズと言う訳だ。


 私は緩んだ口元を正し、取り敢えず今のこの状況をなんとかせねばと考える。いかんせん目立ってしまうのだ。イケメン揃いでは無いが、男子生徒複数に囲まれる私は見る人が見たら正に逆ハーレムだ。


「レイレイさん、夏休み以来ですが代マネ有難うございました」


 部員の一人が、私にお礼を言うと他の部員達も一斉にお礼を言い出す。


「いやいや、そんな大した事してないから」

「でも、ハーフタイムでレイレイさんが神白さんを励ます姿や、神白さんが『失ったモノを取り戻しに行って来る』と言って試合に臨んだ姿が意味は分からなかったですけど、凄くかっこよくて感動して……」

「ちょっ、ちょっと待って!アレ見てたの?」


 私の質問に部員一同がハイ!と返事をする。ーー最悪だ。恥ずかし過ぎる。その後、バスケ部内でレイレイと楓ごっこが今でも流行っているとか正直知りたくなかった。西園寺は最初は濁していたが、問い詰めると白状し彼もやっていたのが判明した。


 何だかんだど彼らと雑談して、話す事が無くなった彼らが散り散りになった後には、逆ハーレム対策などすっかり忘れていた。ふと周りを見渡せば、皆んなの視線が痛い。ちなみに、西園寺は気を効かせて残ってくれている。


「やあやあ、レイレイはモテモテだねぇ」


 そう言って、椿さんが現れたのはしばらくしてからの事だった。


「モテモテなんかじゃないですよ」

「でも、少しは分かって貰えたかな?レイレイは自分が思っている以上に人に好かれている事を」

「こんなやり方で気づかせようなんて意地悪ですよ」

「でも、言葉にしたところで信じないでしょ」


 ーーごもっともです。


「レイレイは、もう少し周りを見るべきだとお義姉さんは思うのだよ。そうすれば直ぐにでも素敵な彼氏が出来るから」

「お姉さんの仰る通りだと思いますけど、彼氏は当分いらないです」


 私が楓を諦めるまでは、別の恋なんて出来ない。いや、したくない!


 そんな、お説教なのか恋愛指南なのか判らない会話を繰り広げていると「レイレイさん、ちょといいですか?」と会話に割って入る人物が。


「橘さん⁉︎」


 彼女は相変わらず空気読めてない感が半端ない。それに司を放ったらかしにして何やってるんだ。と、思ったら司は何か嬉しそうにケーキ取り分けて貰っているし。


「レイレイに何かようかな?」


 椿さんの声のトーンがなんだか低め。ちょっと、怒ってませんか?


「神白先輩には関係の無い話です」椿さんにはっきりモノを言う橘さんはやはり勇者だ。じゃなくて、私に何の要だろうか。司も送り出したし、西園寺は椿さんのエスコート役な訳で私に用など無いはず。


「そうはいかないよ。私がレイレイと楽しくお話してるのに邪魔するなんて野暮じゃないかな?それにあっちを放ったらかして来る程の事なら、尚更レイレイを心配するのは当たり前じゃないかなぁ。私にもレイレイを巻き込んだ責任がある訳だしね」


 一応、椿さんも責任を感じてくれているのか。なんて呑気な事を考えていると、西園寺はおたおたしながら私に耳打ちする。


「止めた方がいいだろうか?」

「下手に男が割って入ると、余計に揉めるから見守るのが吉」


 西園寺に小声で、アドバイスをしておく。


「さすがにノリが軽くないか?しかも、麗華さんのことで揉めてるのに……」

「椿さんに任せておけば大丈夫かと」


 私の読みが正しければ、椿さんなら彼女を上手く言いくるめて追っ払うだろう。


「では、レイレイさんを少しお借りします」


 まじか⁉︎私と西園寺がコソコソと密談している間に話がまとまったらしい。椿さんを見ると、ペロッと舌を出してゴメンと言う。負けた⁉︎あの椿さんが……。勇者橘、なんて恐ろし子。


 そして、パーティー会場を抜けて外で会話をする羽目になった。


「レイレイさんは、司くんとはいつから仲良くなったんですか?」

「ええっと、向こうは気付かなかったみたいだけど、幼馴染だったんだよ。今回はお姉さんーーじゃなくて椿さんに招待されてクリスマスパーティーに参加する流れになってね。知り合いがいないのもあって彼女の計らいで司が私のエスコート役に」

「そうだったんですか……」


 だから、司を奪った訳ではないよ。


「でも、あんな顔で話す司くんを私は知りません。それに最近の司くんとは距離を感じてたんです。だけど、レイレイさんの前では距離がない様に感じます」


 橘さんはさっきから怒ってるようだけど、感情的にならないよう必死で抑えてるのか敬語で話している。彼女の話から察するに、司は私の言い付けを守っていた。でも、あれ?私とは凄く距離近いけど、司には恋愛感情を持たない相手には距離を取れって言っていた訳だし、私は姉的な存在で恋愛感情は湧かないと言っていたはずだ。なんか、混乱してきた。


「橘さん、それ私の所為だ。司の女性に対する気遣いに勘違いするコが多いから、恋愛感情を持てないコには無闇矢鱈に距離を縮めないよ注意をしたんだ」

「じゃあ、司くんはレイレイさんに恋愛感情があるって言いたいんですか?」

「いや、私と司は姉弟みたいなものだからお互いそう言った感情はないよ」

「でも、レイレイさんが現れてから神白くんも居なくなってしまったし、司くんも様子がおかしかったんですよ」


 いやいや、それは私の所為ではないでしょう。でも、このまま橘さんのペースで行ったら司との仲を取り持てみたいな流れになりそうだ。それはそれで、面倒だ。


 私は乙女ゲームの世界に転生してから最近になってつくづく思う事がある。それは、乙女ゲームのヒロインって案外肉食系女子じゃないかと。攻略対象達にはそれぞれ悩みや問題があって、わざわざ首を突っ込み解決し最終的には恋仲へ発展させる。もちろん、ヒロインは人を魅了する何かがあるのは間違いないだろうけど、そんな力技を現実にやる人がいたら、それは超が付くほどの肉食系だと私は思う。彼女に椿さんだって言い負けている訳だし、ここのまま彼女のペースで話を進めるのはあまりよろしくない。ならば、此処は一つ爆弾を落とすか。


「楓は確かに私の所為かも知れないけど、司は私の所為ではないよ」

「どう言う事ですか?」

「橘さんは、司の婚約破棄騒動の真実を知ってる?あれは蛇窟麗華の指示で橘さんを虐めていたから司が憤慨した。そんな、流れだったよね」


 橘さんは怪訝な顔で頷く。やっぱり、彼女もことの真相を知らないみたいだ。


「あれ、実は彼女が虐めに関与していた事実は一切ないの。調査を始めた司達に追い込まれ生徒の一人が『蛇窟麗華の指示だ』と言いだし、これ幸いと皆口々に彼女の所為にしたのがことの発端」

「どうして、そんな嘘を」

「簡単な話だよ。悪評高い蛇窟家の人間だったら虐めの一つや二つしてるだろう。だったら、全て蛇窟麗華の所為にしてしまえばいい。そうして彼女は虐めをしている生徒のスケープゴートにされた」


 橘さんは最初こそ驚きはしたが、黙って私の話を聞き続けている。


「その後は簡単。司が動いている事実に焦った教師達が、彼女になんとか丸く収められないか頼み込みそれを了承。それで、やってもいない罪を被り転校した」

「やってもいない罪を被るなんて可笑しいですよ」


 確かに一言やっていないと言えば、私は婚約破棄も転校もしなくて済んだ。


「現実は厳しくてね。橘さんを虐めていた生徒が多かったから、何かしら司が制裁をすれば学園は大混乱してしまう。それに蛇窟麗華が虐めの関与を否定しても、司はどちらにしろ矛を収める事なんて出来ないだろうから彼女の取れる行動は限られてくる」

「だからって、小の虫を殺して大の虫を助けるなんてやり方……」

「そうだね。彼女はもっと色々考えるべきだったのかも知れない。だけど、その時の彼女にとっては最善だと思っていた。正直、司との婚約だってどうでもよかったし、この学園にいても皆んなから怖がられて避けられていたから、どうせならこれを機に転校して心機一転と考えたの」

「だからって、そんな自分の身を削るやり方……」

「でもね、その甲斐あって今では司とも和解出来たんだよ。だからって、復縁はしないけどね」

「どうしてですか?」

「麗華にとって司は弟みたいなものだから、恋愛感情はないよ。もっとも、司にとって麗華は出来の悪い姉みたいな存在らしいけどね」


 そう言って私がおどけて見せると、橘さんは何かに気づいたかのか、目を見開き私を見つめる。


「姉?弟?それってさっき……」


 橘さんは、まじまじと私の顔を見る。


「もしかして、レイレイさんは蛇窟麗華さんなんですか?」

「正解!」


 私は彼女の顔を真っ直ぐ見つめ頷いた。

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