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 季節外れの転校生。家庭の事情なのかはたまた問題を起こしたのかそれはわからない。


「って、楓が何でうちの学校に転校してきるのよ」

「いや、ここはうちのグールプが経営している学校だが」

「そう言う事ではなくて、なんでいるかって話なんですけど」

「お前に会いにきた」

「今すごくいい笑顔でキザったらしく言ってますけど、確実に私を揶揄いに来ただけでしょ」

「よく、わかったな。まあ、積もる話もあるだろうが、先生がホームルームを始められずに困っているからまた後でな」


 楓はそこで話を切ると、自分の席に着く。


「楓さん、そこは大野くんの席だけど」


 私の席は真ん中の廊下側、右隣は壁で左隣は大野くんがいるはず。


「前にここの席にいたヤツならあそこにいるぞ」


 楓の視界の先に、窓側の一番後ろで大野くんが苦笑いを浮かべる。


「マジっすか⁉︎」


 楓といい椿さんといい、やる事が滅茶苦茶だ。やっぱり、兄弟なんだと今更ながら思ってしまう。私は終始楓のペースに巻きこまれっぱなしだ。授業中も教科書がないとかそんな理由で席もくっつけて教科書を見せている。


「転校までしてわざわざ私に会いに来るなんて、私に惚れてるな?」なんて聞いたら本気のチョップを貰いそうなのでやめておく。


 昼休みになると、楓の周りは賑やかになる。これがイケメンのなせる技なのだろうか。いや、断じて認めぬ!私だってやれば出来る子なんだからね。


「おい、麗華。人の話を聞いているのか?」

「ごめん、考えごとしてた。で、何?」

「火龍の皇鱗の確率っていくつだっけ?」

「頭部破壊で3%で捕獲で2%、あとは落し物で1%かな」


 私がゲーム好きな事に周りは驚いていたが、気がつけば昼休みが終わるまでゲーム談議に花を咲かせた。それから、私が楓に揶揄われたり雑に扱われたおかげか1週間も経たずして、女の子とちょくちょく会話をするようになった。


 姉さん、事件です。私に友達ができました。名前は林綾はやしあやさん。癖のない容姿と性格の普通の女の子です。楓のおかげだと思うと癪だが、気が向いたらお礼でも言っておくか。


「レイレイ、神白くん、おはよう」

「おはよう、綾ちゃん」

「おう」


 この感じは、本当に久しぶりだ。クラスに馴染めたんだと実感する。だけど、私のあだ名がレイレイで浸透しているのは解せぬ。おおかた楓さんが広めたのだろう。


「もう、9月も終わりなのに全然涼しくならないね」


 綾ちゃんは手で顔をパタパタ仰ぎ、薄っすらと額に汗をかいている。


「綾ちゃん、教室は空調設備があるからまだましだよね」

「でも、1限目からいきなり体育だからキツイよ」

「綾ちゃんは暑いの苦手?」

「苦手な方かな。レイレイも神白くんもあまり汗をかかないよね」


 ゲームの仕様です!なんて言えない。特に楓はスポーツをしている時以外、汗をかいているところを見たことがない。


「言われてみればそうかも。でも、暑いのはかわりないけどね」


 などと当たり障りのないトークをする。これこれ、久しぶりのこの感じ。友達って最高!


「麗華、さっきから何ニヤついてるんだ。気持ち悪い」

「別にいいじゃない」

「初めての友達が嬉し過ぎて顔に出たってところか」

「な、なんで分かるの」

「お前みたいな単純なヤツの気持ちはすぐに分かるさ」


 マジか⁉︎私、そんなに背中が煤けてるの。


「レイレイ、友達いなかったの?」

「麗華は、小中高とずっと友達いなかったからな」

「私の家ってそれなりに有名だし、顔だってキツイから話しかけたら皆んな怯えるから友達出来なくて」


 現に転校先でもこの有様だからと付け加えて話すと綾ちゃんが驚いている。


「違うよ。レイレイってお嬢様だし美人だから皆んな何話していいか分からなかっただけだよ。レイレイのこと好みだって言う男子結構いるよ」

「えっ⁉︎綾ちゃん、それは都市伝説ではなくて?」

「違うよ!本当だよ」

「マジっすか。ちょっと大野くんとその仲間達カモン!」


 大野くんと3人の男子は、すごく面倒くさそうな感じで私のもとに来てくれた。これまた楓のせいだが、クラスメイトの大半は私の扱いが雑になっている。


「蛇窟さん、どうした?」

「大野くん達に聞きたいことがあるの」

「私、イケてる部類なの?」

「はあ?」

「だから、私が美人で付き合えるなら付き合いたいかって話よ」

「…………」

「黙ってないで答えてよ。思春期特有の照れとかいらないし、私にとっては凄く大切なことなの。だから、お願いたします」


 渋々ではあったが、大野くんが答えてくれた。彼の話だと私はそこそこイケてるらしい。残りの3人にも聞いたが同じ返答だった。私は堪らず、よっしゃあ!と叫ぶと楓のきつめのチョップを喰らった。


「イタッ!ちょっと何するのよ」

「麗華、落ち着け」

「これが落ちついていられるか!私は今まで怯えらて、小中高もこんな感じなら流石に容姿にも問題あるって思うじゃない。それが、蓋を開けてみればどうよ。お嬢様で美人だから話かけずらいだけだったんだよ。大野くんなんか、私のこと凄く可愛くて付き合いたいって言ってくれてるし、今までの私なんだったんだよってなるじゃん。自分の価値観壊すような衝撃の事実に、興奮しない人なんていないよ」


 私が熱弁していると、二度目のキツめのチョップの後、両手でブニッとほっぺを潰された。


「いいから落ちつけ!お前が変なこと言うから、大野のやつ下向いてプルプルしてるじゃないか。あとなぁ、先生がホームルーム始められなくて困ってるから大人しくしような!」


 私は楓に分かりましたと返事をして、先生に謝ると大人しく席に着いた。でも仕方がない事だと思う。


 乙女ゲームの蛇窟麗華は、ヒロインの対極みたいな位置にあった。ヒロインが全面的に可愛いを押し出したキャラで、麗華は美人ではあるものの少しキツめな容姿だった。私は16歳の時、改めて容姿を確認したことがあるが自分ではまあまあイケてるのではと思っていた。しかし、あまりにも怯えられ続けると、この世界ではこの容姿は嫌悪されるタイプなのかと本気で勘違いだってするだろう。


 後で楓に怯えられていた理由を確認したら、どうもセレブの集まり言えの過剰な反応だったらしい。だったら、夏休みの間に教えてくれれば良かったもののと思うのだが、そこは椿さんに面白いからと口止めされていたみたいだ。ラスボス様は、本当に酷い方だ。


「綾ちゃん、人って不思議なものだよね」


 昼休みになっても私のテンションはあがりっぱなしだ。


「何が?」

「一つ夢が叶うと、また一つ夢ができてしまう。人の欲望ってヤツは際限がなくていけない」

「レイレイは何か夢ができたの?」

「友達が欲しいって夢が叶ったから、次は彼氏が欲しくなっちゃった」


 隣で昼ご飯を食べている楓がむせている。変なところにご飯をつまらせたのだろうか。


「私は今、人生に3回あると言うモテ期だと思うの。もしかしたら、過去にあったかもしれないし、それともこれからあるかもしれない。だけど、必ずしも今回みたいに気づける保証はどこにもないと思うの。今回このモテ期を利用して、学生時代にしか味わえないラブラブかつプラトニックで胸キュンな恋愛をしてみたいと思うの」


 どうかなと綾ちゃんに伺うと、意外な返答をされる。


「えっ⁉︎凄く仲が良いのに、レイレイと神白くんは付き合っていないの?」


 盛大に楓がむせている。気管支にご飯をつまらせたのか?楓のヤツ、本当に大丈夫か。


「違うよ。確かに仲は良い方だけど、唯の幼馴染だよ」

「ごめんなさい。私、てっきり二人が付き合っているものだとばかり」

「気にしなくてもいいよ。前も勘違いされたことあるし。いくら私がイケてても、楓と釣り合う程の容姿ではないからね。付き合うとかまず無いと思うよ」


「そうなんだ」と綾ちゃんは少し不服そうにしている。


「レイレイはどんな人がタイプなの?」

「顔は普通でいいけど、一緒にいて気をつかわなくていい人って言うのが理想かな」


 私の理想の彼氏は、意外とハードルが高いと思う。ソースは前世の私。


「そもそも、麗華が気を遣っている事があるのか?」と楓が割って入る。


「楓、ガールズトークを盗み聞きするなんて無粋よ」

「今の会話のどこにガールズさがあるんだ。俺には血に飢えた狼が獲物を探す決意をしている様にしか見えないが」

「失礼な。せめて、肉食系だと言ってよね」


 いつもだったら、ここから色々反論するのだが校内アナウンスが唐突に会話を中断する。


『2年6組蛇窟麗華さん。至急校長室までお越しください』


「麗華、何かしたのか?」

「特に思い当たる節はないけど、強いて言えば楓の寮の視察ぐらいかな。何にしろ、ちょっと行ってくるよ」


 私は校長室に向かうとドアをノックして入った。


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