敗北魔王は「ざまぁ」を眺める
魔女殿が「ざまぁ」をはじめるようですよ。
「あっけないものね」
「そうはいっても、健闘した方だとは思うぞ。そもそも、晶がオレの名前を呼んで招き入れてくれたから前の聖女が張った結界を中から破壊出来たんだ」
「いつの間に『リューにぃちゃん』から『リュー』呼びになったか聞きたいけど、本当にそれだけかしら?召喚勇者たちを矢面に出せば、どうにかなると思っているのが透けて見えていたわよ」
「もともと魔王を倒すために召喚したのだから、前線に出すのは当然だろう。…あと、聞かれても答えないからな」
魔王は魔女に警戒している。仲間なのに。
「勇者(笑)だけが、そのために召喚されて来たわけじゃないのだけどね?あらあら、かくれんぼしていた性女様?厩にある一室の鍵を壊して中でナニをしていたんでしたっけ?私、見たくもないものを見せ付けられて大変気分が悪いのですよ。お相手は騎士見習いだから、一緒に厩にいても不審に思われないからちょうどいい隠れ場所でしたね。部屋の持ち主も不在、馬番も不在でさぞ、過ごしやすかったでしょう」
かつて玉座だった場所から見下ろした魔女は、わざとらしく口元に手を当ててパチパチと瞬きして大げさに驚いてみせる。
「あら、騒がしい。そんな金切り声をあげなくても私は聞きたくもないのだけど聞こえるわよ。周囲の忠告も聞こえないあなたと一緒にしないでほしいわね。ほら、あなたが騒ぐから、隣の婚約者様はとてもこわい顔をしているわ。第一王子でしたっけ?あら、違うの?身分が第一王子ではないということかしら、それとも性女様の婚約者ではないということかしら?フフフっ、なぁに?」
魅力的な笑みを浮かべた魔女は、小首を傾げて下で声を張り上げる王族の青年を見下ろす。完全に蚊帳の外の魔王は、遠い目をしながら黙ってそこに立っているだけだった。
「ふぅん、そうなの。召喚陣から出て来た娘だから、聖女だと思って優遇していたのね。みんなが口をそろえて『優しい』といっていて、その清らかで愛らしい笑顔に騙されて判断を間違えたと。王族として役目を果たしている自分が間違えることがないのだから、魔族が使う【魅了】に掛かってしまったということなのね?つまり、その娘は魔族だと?へぇ、可哀想に」
同情的な態度の魔女に、彼女の儚げで美しい容姿に現れた瞬間から魅了されていた王族の青年は脈があるのだと勘違いして立て板に水の如く、口説き文句を垂れ流しはじめる。魔王の命により、前列は召喚された三人とそのパーティメンバーと王族とが並んでいるのだが、もともと召喚に反対していた一部の大臣や貴族ではない下働きたちは列の後ろの方で彼に白い目を向けていた。温度差の激しさに、魔王はさらに遠い目になる。
魔女の方はといえば、自分を称える言葉はそれこそ聞き飽きているため、聴いているだけで耳が腐りそうだと迷惑に思いながら視線から王族の青年を外す。ついでに、彼自慢のねちっこい美声も意識の外へと追いやっておいた。
「あら性女様、よろめかれてどうしたのかしら?床にみじめに這いつくばって。誰か、抱き留めてくれたらいいのに。ねぇ、公爵家の嫡子様?あなた今、わざと大げさに避けましたよね。あなたに抱き留めてほしくてよろめく振りをする、健気な女性を見捨てるなんて紳士のすることではありませんね。使用人に手を出して孕ませた挙句に飽きたら捨てて、政略結婚をされる駒がいないからと縁すら結ばなかった娘を『引き取る』という名目で実際には拉致って来たお父様とそっくりですわ。ほら、勇者様の傍で転がっている件の異母妹様の方がよっぽど潔いわね。第一王子の護衛騎士様、何をいきり立っているのかしら。こんな大勢の前で、性女様の腕をひねり上げるなんて。彼女は戦わされるために召喚されたことを忘れて肉欲を満たすことしか考えていないだけの可哀想な女性ですわよ。全身が武器なようなあなたと違って、繊細なんです。頭にまで筋肉が回っていて、少々の小細工であっさり性女様と寝たのはあなたにはその痛みはわからないでしょうけど。あら?王様どうかなされたの?えぇ、性女様は、『性女』という名にふさわしい行いをしていたのですよ。もとより、ここに来てしばらくしてから王妃様が遣わした貴族男性と恋人になってうれしはずしの『ハジメて』を迎えられたのですもの。『聖女』としての役割はこなせなくても、きちんと王妃様の願い通りに彼女は第一王子の勢力を削いでいたのですけど御存知ない?」
「うわぁ、軒並み男共が項垂れた」
男が立っていた場所が今、空間になっている。ornになっている男たちはきっと、聖女と関係を持っていた、もしくはこれから持とうとしていた者たちなのだろう。あとは、魔女の口撃を受けた者たちか。魔王は他人事のように慄いていた。
「…は?何をいっているのだ、この小娘は。我は魔王。貴様と馴れ合うつもりはない」
「『は?何いってんのこいつ。オレは魔王なんだから、お前みたいな顔だけ清楚気取ってるビッチとなんかヤんねーぞ。だいたいオレには晶という超絶に可愛いよ』」
「やめろ!?」
「…チッ」
「舌打ち!?」
魔王がカッコつけて『魔王モード』で対応している横で、彼の内面を代弁していた魔女は舌打ちした。そして、魔王を代弁しているからかだいぶ露骨な表現をして、そのせいで魔王本人は若干素に戻ってしまっている。おかげで、威厳なんてものは霧散した。
「ところで、あの聖女はどうしたんだ?急に『ぎゃくはーたっせい』とか『かくしるーと』とか『かくしきゃら』とかいってんだが。まるっきり、あれじゃ電波だろう」
「魔王殿が現世に馴染んでて何よりね。ただ、見るからに『悪の大魔王』な姿でそのセリフはちょっとシュールよ」
「ほっといてくれ」
魔王のもとへと駆け寄ろうとして結界にぶち当たって進めない聖女は、何やら自分の不幸をないことないこと訴えている。涙目で潤んだ大きな瞳はひどく庇護欲と加虐欲を刺激するものだったが、魔王のそちらの関心は全て別の人間に向けられているので、何度もめげずに結界にぶつかって来る聖女に恐れ慄くだけであった。結界をさらに幾重にも張り直しているところに、それに対する恐怖心が現れている。
「何か、『私を守るために結界を張ってくれてありがとう!』といわれているが、後ろからの攻撃に対して聖女は無防備になっているのだが」
「背後にいる元恋人たちが攻撃する可能性は露程、彼女の頭にはないのかもしれないわね。恋愛脳だと、きっと人生が楽しいでしょうね」
「ところで、オレは誰から聖女を守っていると思われているのだろうか」
「私から」
「…えっ?」
言外に『ムリだろう』という言葉を含ませた魔王の『えっ…?』だった。彼は自分の結界が、魔女の精神口撃から誰かを守れ程に優秀とは微塵も思っていないのだ。
「聖獣使い様(黒歴史)、どうかしたのかしら?せっかく魔王殿があなたのために魔術を駆使して聖獣や魔獣たちの言葉がわかるようにしてくれたのにうれしくないの?いつものように抱き着いて頬ずりすればいいじゃないの。ほら、みんな聖獣使い様(黒歴史)のこと『いいにおい』で『やわらかく』て『おいしそう』で『だいすき』といっているでしょう?女の子だったら『こうはいあいて』にしてもらえたのに、それだけは残念ね。彼らは人間相手でも異種婚が出来るみたいだから、魔術で女性に変えてもらえば『ずっといっしょ』でいられるかもしれないわね。彼らのおなかの中でも、『ずっといっしょ』には変わりはないでしょう?ほらほら、みんなあなたが大好きで頭や顔や身体をペロペロ舐めているわ」
「すでに失神しているのだが」
「獣だから、愛情が重いのね」
「…それが原因で失神したわけではないと思うぞ」
愛情だと信じていたら、食欲だった。しかも、うっすら貞操の危機でもある。
「魔術師たちが、あなたが使った術式の解析のために術の掛かった魔獣を攻撃しはじめて一部で戦いが勃発しているわ。大丈夫なの、魔獣もあなたの配下ではない?」
「タグが付いていないから、誰かが所有しているわけではないと思う。野生種は筋が硬くて雑味が強いから、あまり食べれたものじゃない。どうせなら、うちの外相が所有しているあれと同じ型を譲ってもらって晶と三人で今度食べるか」
「食事の話しをしているのではなくて」
「パトロン殿にも土産としてステーキカットにして渡す予定だが?」
「そこを不満に思っていってるわけじゃないわよ!!」
魔獣はどうやら、魔族にとっては人間にとっての家畜などの動物と同じ存在のようだ。だから、魔王を倒しても魔獣が減らないのだという事実が暴露されたのだが、先程の魔女との戦闘で力を消費していた魔術師たちは魔獣によって戦闘不能となっていて聞いてはいなかった。
「あれは、よく門に配置されている種だな」
「番犬代わりね」
「あれは狩猟用、それは草食種を追わせるためのもので」
「つまり、獰猛なのね」
どうも、獰猛なものばかりらしい。気を失った聖獣使いが聖獣らに引っ張り合われているが、誰も気にしていなかった。
「聖獣使い(黒歴史)の血を舐めたわ」
「血が出るまで噛んでるのか」
「一斉に聖獣使い(黒歴史)を離したわね」
「叩き付けられてる」
「『クソマズ!』って、血をペッペしてるわね、聖獣は」
「聖獣のくせに口悪いな」
逐一実況する魔女と魔王は若干、飽きてきているのもしれなかったが、ついにメインディッシュが目を覚ましたようだ。嬉々とした声で、魔女は目覚めの挨拶をする。
「あら、勇者様(笑)。やっとお目覚めね」
「寝てればよかったのに」
満面の笑みを浮かべる魔女を見て、魔王だけは同情的な眼差しを向けてしまう。チートでだいぶ頑丈になっているらしい勇者は、どうやら魔女に口でボコられる運命らしい。
まだその横で転がっている女騎士と同じように気絶したままか、深窓の令嬢のように魔女の口撃を受けて早々に失神してしまえばマシだろうが、たぶんチートのせいでろくに戦闘不能になることなく、ひたすらボコボコにされるだろう。宿敵の未来に小指の先程に不憫さを感じつつ、魔王はやり取りを見守ることにした。魔王の方は、すでに物理的にボコった後だから、多少精神に余裕があるのだ。
「フムフム、直訳すると私は魔王の愛人で他にも複数女がいると?」
「正妻はどうした」
「晶ちゃ」
「ゲスな妄想に晶を出すな」
「私はいいのかしら?」
ソッと視線を逸らした魔王は、きちんと魔女に謝罪した。頭に血が上って思わずムシする形になったが、幼馴染みでもあるこの魔女だって魔王にとっても大切な友人である。
しかしこの二人、論点が微妙にズレているのだが、幸いなことに誰もそれを指摘することはなかった。
「ふぅん、そんな不誠実な男に誑かされて力と身体を使われるくらいなら自分の方に付けと?城を落としたことは不問にしてやるから、愛人になれ?ハッ!」
「魔女殿魔女殿、そこまで露骨にはいっていない」
吐き捨てる魔女に小声で注意する魔王。日本という異世界の島国の国民として常識的なことをいっている彼だが、これでもこの世界の魔王である。だが、勇者の言葉に隠された相手の下心については訂正する気はないようだ。
「中古品で緩くなってる敵の捕虜だから好き勝手出来ると思ってるのが透け見えてるわね」
「…オレはなにもきいてない」
離れた元玉座とはいえ、正面に立っていれば勇者のスケベ面が見えてしまう。魔女だけが湾曲に解釈しているわけではないという証拠に、勇者に心酔していたはずの伯爵家の双子姫や侍女の一部が正気に返って嫌悪の眼差しを向けていた。勇者に直接会う機会のない下働きは、もうずっと前から冷たい目をしている。
真横で自分のことなのにえげつないことを平気でいっている魔女に、耳を塞ぐことがカッコ付けているために出来ない魔王は遠い目のまま現実逃避した。
何故、処女なのにこんな耳年増なのか聞きたくもない。ほんの少し前、偶然に目撃した真剣な顔をした己の異世界での庇護者と真っ赤な顔で手を握られたまま硬直する初心な魔女を見ただけに。
「へぇ、お優しいことね。正妃である第一王女様に懇願してくれるなんて。今にも殺されそうな視線で睨まれているけど…フフフっ、痴話喧嘩?見せ付けてくれるわね」
「ここがどこだかわかっていないのか?魔女殿を『愛人にして情報を引き出して、最終的にはメロメロにして国防に使う』といっているが、そんなことを堂々と宣言していいのか。しかも、さらにだいぶ外道なことを付け加えて王女の同意を得ようとしているな」
「あらあら。話の中で私はずいぶんとひどい使われ方をしているわね。いやだわ、にく」
「本当にやめて下さい!」
「私がいっているのではないのだけども」
だからって、他人事のように話されるのも精神がゴリゴリ削られるのでやめてほしいところだ。本気で、しかも丁寧ないわれ方をしたので、魔女はこれ以上自分な『悲惨な未来』を語ることはなかったが、平和で幸せでお互いのことしか目に入っていない勇者と第一王女に向ける周囲の視線が厳しさを増していることには楽しそうに笑っていた。
「だいたい、すごい自信だな。男としての魅力がそこまであると思っているのか?」
「王女様(哀)にも突っ込まれているわね。でも、『主人公』である自分は『チーレム勇者』だから、どんな女もメロメロに出来るって豪語しているわ」
「『ちーれむ』…うまそうだな」
「チーカマじゃないわよ」
魔王なのに、庶民的なものが好きな彼は自身の庇護者が持たせてくれた弁当に思いを馳せた。
「晶ちゃんもそうだけど、二人そろって何で酒飲みみたいなものが好きなのよ?」
「以前、晶の母上が作ってくれた春巻きが美味でな。どうも、一品足りなかったようで急きょ冷蔵庫にあるもので作ったそうだ。たまたま遊びに行っていたオレも相伴に預かったのだが、余っていた春巻きの皮にチーカマとアボカドペースト、ケチャップを巻いた簡単なものだったがなかなか侮れないぞ」
「なんという組み合わせ…っ!何で呼んでくれなかったのよ!!」
「夕飯時だったもので」
魔女に対しては一般常識に照らし合わせたことをいっているが、何故そんな時間に魔王が平然と遊びに行っているのかは謎だ。ただ、だいぶ馴染んでいるようである。さすが、彼女の母親に魔術なしで『娘さんは親友のお家で泊りがけで勉強してますよ』といっただけで信用されるだけの信頼を受けている魔王だ。魔王のくせに。
「晶ちゃんのお父様に嫌われて、『娘をお前になんかやるかー!!』って殴られればいいのに!!」
「おそろしい呪いの言葉を吐かないでくれ!?」
切実な叫びを上げる魔王は、まずは父親が娘以上に溺愛している母親を味方に付けるという小癪な手を使っているのだった。魔王としては、『戦略的行動』といい張っているが、単純にヘタレなだけである。天敵の勇者よりも、大企業の営業職に就く彼女の父親の方が魔王にとってはおそろしい相手である。
「晶ちゃんに見向きもされなかったのに、よくもそんな壮大な勘違いが出来るものね」
「そうだな!晶は見る目があるから!!」
魔女は一瞬魔王を見て、ソッと目を逸らした。無言で。
「どういうい」
「あぁ!王女様(哀)が納得しそうだわ!『人じゃなくて、玩具ならいい』なんて、心が広い王女様(哀)ですわね!」
「聞けよ」
「抱き合って、ぶちゅ~とヤルところがすごいわね!…で・も」
魔王の言葉をムシしつつ、魔術を展開する魔女。何事かと騒ぐのは勇者と第一王女だけであり、蚊帳の外で別の騒ぎを起こしている聖女一行以外は召喚された人物たちの上辺が剥げたせいで内部闘争になりそうだった。責任の押し付け合いと、三人の召喚者を使っていい思いをしていた一部をやり玉に挙げようとしていたのだ。
そんな各々が醜い争いをしているのを見遣った魔女は、ニタリと人の悪い笑みを浮かべて視線を集めるべく声を張り上げた。
「さぁ、これが召喚国の内部ですわ!」
無詠唱で別の異世界の魔術を発動した魔女は、展開された魔術の向こう側へと声を掛けた。ざわざわと複数の気配を感じて天井を見上げた国の上層部は絶叫する。
「はーい。皆様、この周辺地域の国々の方が、いっそがしい時間を割いて実況を見てくれていたのですよ~ほら、拍手拍手」
「目を剥いているし、誰もしないだろうな」
「仕方ないですねぇ。では私が紹介します。あちらはこの国に麦や米を輸出してくれている国で、あちらは野菜を輸出してくれている国ですね。こちらは港を貸してくれて、ついでに魚介類を輸出してくれている国で、そちらは宝石と魔石を加工した魔道具が有名な国で第一王女様の輿入れ先でしたよね?」
「かろうじて畜産物はあるが、国内で消費する分だけで輸出に回せないから外貨を稼ぐことは出来ていないようだ。自給自足出来ないで輸入に頼っているなど、上は何を考えているのだ?」
「全部、魔王のせいにしているわよ☆」
「うっわ、腹立たしい」
魔王が不機嫌になったのは、魔女の口調のせいではない。念のため。
「我が国では、地産地消でほぼ食料は自国で消費しているが、代わりに魔石と宝石を発掘して輸出してそれなりに稼いでいるぞ。発掘するのに魔族は丈夫なのだからちょうどいい」
「…それね、攻め込まれた理由は」
「そうか」
「まぁ、あなたたちの悪事もこれまでね。これ、国全土に放送しているから、国民たちも皆聞いているわよ!」
「こちらに戻って来てから各国に根回しして、結界ぶっ壊して内部調査して、放送用の魔術式を仕込んで…長かった」
「別にいいでしょ。魔力はそれなりに削ったけど、大して時間はかかっていないわよ」
「そうだが」
「逃げようとしても、もう国のあちらこちらに他国の少数新鋭が入り込んでいるわ。国境にも軍が待機している」
「不可侵協定?この国が国境軍に秘密裏に武器を大量に流していることに気付かない程、他国は愚鈍ではなかったようだぞ。尤も、国の中枢から離れるごとに町や村は疲弊していて、とても戦える状態ではなさそうだったがな」
「関所によっては、他国の軍に懇願してそのまま通したそうよ。『中央の腐敗を正し、我々を救ってほしい』と。志願した兵も多いそうね。彼らは勇者たちが魔王を倒した後に、他国に侵略戦争を仕掛ける駒にされることを知っていたのかしらね?あれほど枯れ果てた場所にいる人々に、何といって鼓舞して戦わせるつもりだったのか聞いてみたいわ」
「すでに悪の根源である我を倒した後に、どんな口上を垂れるのか興味あるな」
「フフフ」
「フハハハハ」
「ところで魔王殿。これって全国放送なのだけど」
「すごいな、魔女殿」
「あなたの魔力を使っているから、私はさほどすごくはないのだけど。魔術式しか作っていないからね。それはそうと、晶ちゃんはどこにいるのかしら?」
「あぁ、以前にサボごほんげふんしているとき、冒険者のまねごとをしていてな。そのときに作った旅団を任せていた人間の友人に頼んで、晶を保護および護送してもらっている」
「『血霧の旅団』ね」
「霧だ、霧!なんで物騒な名前になっているんだ!後方支援も非戦闘員もいたから、もっとのんびりした集団だったんだよ!!」
「あなたのいう非戦闘員は、オークを単騎でブチのめすぐらい非力なのね。それで、晶ちゃんは国内は出たと判断してもいいのかしら?」
「…………」
「…………」
「…………」
「魔術でいまさらモザイクかけても遅いわよ」
「うわあぁぁぁぁ!!」