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巻き込まれモブは逃げ出した!  作者: くろくろ
敗北魔王は逆襲する
5/14

敗北魔王は茶番を観賞する

三人称。シリアス&ダーク回。流血注意。勇者一行がクズい。

魔王の前に立ち、勇者の剣を肩で受け止めた娘が振り返る。

血の気のない真っ青な頬は黄褐色、魔王の側近であった騎士団長と同じようにつぶされて空洞になり、片方しか残っていない瞳は黒。ざんばらに刈られ、不揃いの髪も黒だ。

凹凸のないのっぺりとした顔立ちは身長の低さから幼く見え、自身の血を柄にした質素なワンピースからのぞく肌の痛々しい有様がよりいっそう異様に思えた。細い指には、爪らしいものも見当たらないのは気のせいだと思いたい。


彼女は魔王と対峙している異界より魔王を倒さんと召喚された勇者・聖女・聖獣使いと同じ雰囲気を持つ、異国情緒漂う外見をしていた。しかし、三人が周囲に守られ、ほとんど身体に傷を負うことがないのに比べて傷だらけであり―――いや、故意に傷付けられているようにすら見える。


「『増幅器』!何をしている!!」


男か女かわからない聖獣使いに寄り添い、魔術を紡いでいた長身の男はそう娘を呼んだ。そこには魔王に真名を悟られないようにする意図がなく、娘が日頃からそうとしか呼ばれていないことを表していた。何故なら、娘がすぐに反応して片方しかない瞳に憎悪を乗せて魔術師を睨み付けたからだ。


「…っ!勇者様、あれ(・・)は魔族に魅入られてしまいました!このまま魔王と共に滅ぼしましょう!!」


そう叫んだのは、この場の誰よりも豪奢なドレスを身にまとった娘だった。頭に小さなティアラでも乗っていれば、王女だといわれても不自然ではない装いである。その娘は自分と旅をして来たであろう傷だらけの娘をあっさりと切り捨て、剣を相手の肩から引き抜いた勇者に力強くそう進言した。


「可哀想に…っ!せめて、人間のうちに、同郷のわたしたちの手でせめて止めを刺してあげましょう!!」


そんな悲壮感の漂う声で叫んだ純白の法衣をまとった聖女は、隣で剣を構える男に抱き付いて顔を隠す。その肩が小さく震えているところを見えれば、泣いているのかもしれない。


「…もう、ひとじゃないよ。あれ(・・)はただの『ぞうふくき』、いまは『まおうのはいか』。ゆうしゃ、そうでしょ?」


聖獣の背に乗り、そう呟くのは聖獣使いだ。長い前髪から覗く大きな瞳は娘と同じ黒なのに、強い輝きに満ち溢れている。


勇者は同郷の娘の返り血で塗れた顔を拭い、ぐっと歯を食いしばる。


「同じ世界から召喚された仲間だったのに…なんで、なんでこんなことになっちゃうんだよ」


顔をくしゃくしゃにして泣き出しそうな表情を一瞬浮かべた勇者だったが、仲間たちの声に迷いを捨てて周囲を見て頷いた。その力強さはまさに、『選ばれた勇者』である。


「これで、最期だ!!」


勇者は剣を振り上げ、下ろす速度は大振りだったからとても遅かった。勝利を確信した勝者の余裕だったのだろう。それは魔王が魔術を練るには十分な時間であり、『増幅器』と呼ばれた娘が立ちふさがるにも十分な時間だった。


魔王が練り上げたのは転移するための魔術である。親しい友が皆、勇者一行になぶり殺しにされ、唯一残った宰相に同胞たちを託した。時間稼ぎのために殿を務めた魔王は、彼らのために死ぬわけにはいかなかった。もう、力のある魔族は自分しか残されていなく、今度人間たちの襲撃を受けたら全滅してしまうからだ。


魔王は練り上がった魔術を発動した。慌てた魔術師と王女らしき娘が魔術を組み立てる速度が異常に早くても、阻止は最早不可能だろう。ボタボタと服が吸い切れなくなった自身の血が地面に染みを広げ、魔術によって残った魔力が吸い取られていく感覚にふら付いた魔王は、もう一度『増幅器』と呼ばれた娘を見やる。

彼女は同郷の勇者の腕を掴んで必死に抵抗を続けていたが、蹴り飛ばされて細い身体があっけなく吹っ飛ばされていた。そこには女に対する容赦も、同郷であり仲間だった情は一切残ってはおらず、まるでものを蹴飛ばすかのようである。


フッと、視線に気付いたかのように娘が魔王を見た。黒い瞳には魔王に対する憎悪は不思議となく、ただただ透き通った宝石のように美しく、空虚だった。よろめきながら何とか立ち上がった娘は魔王の目に何を感じたのか、満身創痍な娘が持つに不釣合いな重そうな袋を投げ付けてくる。攻撃の一種だったのかと躊躇する間もなく、魔王はそれをごく普通に受け取ってしまった。


「それは!?」

「『増幅器』!何故、それを!!」


悲鳴のような声は、魔術師と王女のような娘から上がった。聖獣使いは不思議そうに、法衣をまとう聖女は男の胸から顔を上げることなく、勇者は剣を再び大きく振り上げて『増幅器』と呼ばれる娘を睨み付けていた。

ただ、『増幅器』と呼ばれた娘だけが、この場で場違いな笑顔を浮かべている。そう、彼女は魔王に向かって笑い、かつては仲間であり今はあっさりと自分を殺そうとする者たちを見て嗤った。


「ざまぁみろ」


勇者の剣は振り下ろされ、魔王の全身に娘の血が飛び散った。娘の命そのものを浴び、魔王は転移する。ぐにゃりと歪む世界の中、崩れ落ちる娘に手を伸ばした魔王は―――。


「だいじょうぶ?」


崩れ落ちた娘によく似た、しかしずっともっと幼く見える子どもに見下ろされるのを最後に意識を失った。


「きゃあぁぁぁっ!!これ血!?血のり!?リアルすぎる…って、こすぷれおにいちゃん!だいじょうぶ!!??」


最期に見た憎悪しか浮かべない娘とは違い、その娘はやたらと騒がしい。しかし、魔力も血液も年齢すら大幅に削ってしまって傷付いてボロボロだった魔王の表情は少しだけ、ほんの少しだけ穏やかだった。


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