巻き込まれモブは聞いていた(聖獣使い編)
獣ハーレム聖獣使い。
「また、男たちに競わせて自分を取り合わせているな」
「聖女といい勇者といい、何故あのような俗物たちを侍らせて悦に浸れるのか私には理解出来ないです」
「どうも皆、見目が麗しく権力者だという。勇者と聖女に群がる男女とも、私には美醜どころか区別もつかないからわからないが」
「それより、聖獣使い様ですよ!あの方はすばらしい!!」
「あぁ!神という存在は証明されていないから信用出来なかったが、今回だけは教会の吹聴して回る神という存在に感謝してやってもいいぐらいだ。とても気分がいい!!」
「えぇ、魔王が滅ぼされると弱くなるものの、いつまでも殲滅出来ない魔獣らをどうするかずっと我々は考えていましたが、聖獣使い様のケースを文章化して提出すれば頭の固い城の上層部も研究に資金を回してくれますね」
「資金など崇高な研究の前では些細なことだがな。まぁ、ありがたく使ってやろう」
研究肌の人たちって、どうしてこう各方面にケンカ売っているのでしょうか。あと、お金は大事です!
「魔族の中でも知能がない獣共を名義上”魔獣”と呼んでいますけど、別物というのば我々の見解ですのに考えることを放棄した人たちは、『不吉だ』やら『周囲を危険に晒すのか』やら、やたらとうるさかったですからね。終いには、『魔獣を使おうとするなど、魔族に魅入られたのか』などとバカげたことまでいい出す始末。本当、低能は困りますよね。国の上層部がそれですから、この国は他の国に比べて魔術が遅れているのですよ」
弟子さんは丁寧な口調なくせに辛辣です。
「あぁ、証拠も何も魔族が使役しているのだから、何らかの方法を使っているのはわかるだろうに。あいつらは目が悪いのか、それとも頭が悪いのか?」
いえいえ、魔族が使役しているイコール魔族と別物という結論に至った過程はどうしたのですか。もし、上司イコール魔族で、魔獣が部下だった場合はいうこと聞いても不思議はないと思うのですが。
えっと、天才は理解出来て当然だから、わざわざ頭の悪い一般人には説明するだけムダだということですか?説明して下さいよ。
「聖獣使い様が、この国を守護する聖獣様に気に入られたのが僥倖でしたね。あれのおかげで、『魔族に魅入られた』などという、バカバカしいことをいわれるムダな時間がなくなったのですから、感謝していますよ」
「その分、研究に時間が回せるからな。聖獣使い様も、我々の研究に協力的だ。魔獣の群生地にも、嬉々としてついて来てくれるからとても助かる」
「仲間にした聖獣様をはじめ、魔獣たちが聖獣使い様だけではなくて我々も一緒に運んでくれるので、機材を運ぶのも楽でそれも助かりますよね!」
運んでもらった機材はしかし、設置してくれる魔術師がいないために別の人手が必要なのは、彼らは気にしていないようですね。何せ、魔術師一同は聖獣使い様にモフられに来る魔獣たちの観察に忙しいからです。
そんなことを何故知っているか?間によくわからない装置(重い)をヒィヒィいいながら運んで、設置しているのが———何故か、魔獣に運んでもらえないのに作業させられる私だからです!せめて息が整うまで休ませて下さい!!
「聖獣使い様ご自身も、他に類を見ない能力だけが魅力ではなく、物静かな性格で、とても素直でお優しい方ですからね。本当に、我々は運が良いです。勇者が第一王女の生母である王妃側の陣営に、聖女が第一王子生母である側室側の陣営に組み込まれて、後は見向きをしなかったからこその幸運ですからね」
「知っているか?城の連中は、外面とうわべの言葉だけで勇者と聖女が『勇敢で性根が優しく』『心身共に美しく』『歴代最高の力を持った』存在だと吹聴して回っているらしいぞ。前回は八〇〇年前に召喚の義が行われたとはいえ、勇者も聖女も存在は稀有だがいなかったわけではない。能力も『最も強い』だけであって、以前に召喚された者たちが持っていたのと同様だった。しかし、聖獣使い様の能力は他に類を見ないものだったのだぞ!誰が召喚された中で優れているか、それでわかろうものだろう」
あー、召喚されて一番最初に検査したのが魔術師たちだったからいろいろな能力のことを知っているみたいです。RPGみたいに他人のステータスを見ることが出来るから召喚された四人に魔族が混じってないか確認するために召喚の義にも大量に参列していました。…召喚するためだけにも確かに必要だったようですが、単純に彼らは自分の好奇心を満たしたいだけで参列していただけのような気もしますが。つまり、召喚勇者・聖女も珍獣扱いです!
それにしても、『聖獣使い様』という役目を持つ人ははじめて召喚されたのですね。人数が多くて驚いていたのも、納得です。
「前髪で隠しておられる大きな黒い瞳は神秘的ですし、小柄な身体でのんびりと気ままに動くさまはまるで聖獣様の御子のようですね」
あぁ、聖獣様は巨大ネコ様ですからね。いや、トラ……?その割には、最近見る姿はずんぐりしてきたような気がしますが、きっと気のせいですよ。
「浅慮にして手足を振り回して滑稽な姿をさらすよりも、ゆっくり吟味してから動くさまは好感が持てるのは事実だ」
「そんなことおっしゃって、先生は頑なに聖獣使い様自身をお褒めになりませんね」
「…あのような、純粋無垢な生きものに、邪な思いを向けるわけなかろう。第一、聖獣使い様は男だ」
別に、容姿を褒めたところで邪にはならないように思えるのですが、どうやら勇者様・聖女様関連のあれこれを聞いていてこういった言葉に不信感を抱いてしまっているようです。他の方にはキツいものいいですが、聖獣使い様は別格なようですね。弟子さんもニコニコしています。
「あれ?聖獣様、どちらに行かれるのですか?」
のっそりとやって来たのは、真っ白地に黄土色の縞々を持つ巨大ネコ様もとい、聖獣様ですね。聖獣様がやって来た方角は魔術師管轄の薬草畑がある区域で、やたらと木々が不気味に多い茂っている場所だ。不気味な代わりに静かで、聖獣使い様のお気に入りの休憩所です。きっと今も、魔獣たちと遊び疲れて眠ってしまわれたのかもしれません。
弟子さんの問いに答える術のない聖獣様は、一瞥しただけで静かな金色の瞳は何も語りかけてはくれないようです。ちょっと悔しそうですね、弟子さん。
「私も聖獣使い様のように、聖獣様や魔獣たちと意思の疎通をしてみたいものです!」
聖獣使い様は、聖獣たちのいいたいことを、何となく雰囲気的に察することが出来るようですよ。
悔しそうにしている弟子さんとは違い、先生の方は聖獣様の考えていることが想像付いたのでしょう。聖獣様がほしいものを的確に判断したらしい彼は、近くにいたものにそれを持ってくるように命じます。
「そこのお前」
「…はい?」
って、私ですか!?
「あの、私は再々々提示されている督促状(一山)を持ってきただけですよ。しかも、『書類が揃うまで戻って来るな』ともいわれ」
「手が空いているな。だったら聖獣使い様用のブランケットをお持ちして聖獣様にお渡ししろ。あと、聖獣使い様は起きたら紅茶をお召し上がりになるはずだ。その時間に間に合うように準備をしておけ。それから、そのときに摘まめるものも準備することを忘れるな。今の時間なら、軽食の方がいいだろう。…そこまでいえば、その空っぽの頭でもわかるな?」
「先生、中身が詰まっていなければ、覚えることは不可能ではありませんか?」
「聖獣使い様にかかわることだ。それくらい覚えられて当然だろう」
「い、いえ、ですから私は…」
「ガウッ!!」
「きゃあぁぁぁ!!??」
言葉を遮られた挙句にいろいろ細かく注文を付けられただけでなく、何故かひどいことまでいわれている。断ろうと口を開けば、聖獣様に催促するように吠えられて悲鳴を上げながら魔術師に与えられた棟へと飛び込んだ。
「大切な聖獣使い様にお出しするものですのに、あのような者に任せて大丈夫でしょうか?同じく召喚されたのに、無能力で弾かれたことを根に持って、お優しい聖獣使い様に害を与えないでしょうか?」
「そうすれば、堂々と攻撃できるというものだ。もしくは、その罰として身柄を預かるというのも手だろう」
「と、いいますと?」
「何、勇者や聖女、聖獣使い様と同じ世界の人間が、我々と同じ構造をしているか見てみたいとは思っていてな。勇者や聖女ではこういった要望は上層部につぶされてしまうからちょうどいい」
「いてもいなくても、いい存在ですからね。あれは」
「それに……あれだけ、ステータスを読み取れなかったことも、気にかかる」