魔王に捕まったモブは逃げられなかった!
聖獣使い様(黒歴史)のその後と恋愛成…分?
「晶!」
「あっ、リュー。お仕事お疲れ様」
整った顔がパァッと華やいだと思ったら、リューはそのままハグしてきます。ここ、日本ですよっ!?
「会いたかった…」
掠れた甘くて低い声が降って来て、私を抱き締めたまま頭のてっぺんにキスしてきます。本当にここ、日本ですって!?しかも、下校中の皆さんの視線が痛い!
「晶は?晶はオレと会いたかった?」
「昨日も会ったし、それにその前は…」
「晶…会いたくなかったのか?」
強い拘束を解いて、至近距離から見下ろしてくる整った顔はくもっています。あぁ、眉が下がってまるで捨てられそうな仔犬のようではありませんかっ!
彼に悲しい思いをさせるくらいなら、私が『恥ずかしい』なんてどうってことありません!
「わわわ、わたしも」
「晶…」
とろんとした目で微笑んだリューは、いろいろと垂れ流した状態になりました。あれです、色気とか甘さとか色気とか色気とか。はっきりいいましょう。色気過多です!!何がしたいんですか!?
「あぁ…晶とずっと一緒にいたい。前みたいに一緒に旅がしたい。そうすれば、頼ってもらえるのに…そうだ、向こうにかえろ」
「シャラープ!!お黙りなさい」
ぱしーん!!
「い゛!?何も頬を張らなくてもいいだろ!!」」
「あっ、アヅちゃん」
「何をいってるのかしら、このヤンデレ予備軍!何、何なの、実家に戻ったら監禁でもするつもり?」
「あれは職場だ!」
「え…、そこ?」
「職場に連泊していたの、あなた。完全な仕事中毒者じゃないの」
「あ!じゃあ、私は仕事のお手伝いすればいいの?頑張るよ!」
「頑張り屋さんね。でも、たぶん彼はそういう意味で呼びたいわけじゃないと思うわ」
えぇ、まあそれはわかっていますよ。でも、魔王はどんな仕事をしているのでしょうか。…世界征服だったらどうしましょう。
「旅かぁ…いいよね。三人でエルクさんたちと旅したの。二人とも、強くてカッコ良かったね。また行きたいな」
「いつでも行こう!」
「私の方もいつでも大丈夫よ。まかせなさい!」
「あっ、待って。私もせめて護身ぐらい出来るようになるよ」
昨日の夜、異世界から帰って来たあと何故かはじまった父による護身術講座で免許皆伝をもらうまでは待ってほしいのです。父は半泣きでしたが、もしかして娘が異世界に巻き込まれ召喚されたことを知っているとか…?あの召喚されたこと三人の周囲は普段通りでしたので、私も普通に見えていると思っていたのですが…。
母は微笑ましそうに見てましたけど、どういうことでしょう?
「晶ちゃん、そんなに気負わないでも大丈夫よ」
「そうだ。オレたちがいれば、危険はないから安心して観光をすればいい」
「どこへ行く?海のそばの国でも山に囲まれた国でも、どこでもいいわよ」
「火山でも、宝石の発掘現場でも、珍しい動物のいる森でもいいぞ」
「それ、あなたの生国でしょう!?やめて、私の親友を攫わないでちょうだい!!」
「人聞きの悪いことをいうなよ!?」
「大丈夫か、お前の友だち」
「あれくらい、まだヤンデレのうちに入らないって!」
「入ったら、大体もう手遅れだろうな。現実では」
「警察沙汰だよね!」
「いや…本当に違うから勘弁してくれ」
友人兄妹が遠巻きで、なんかおっかないことをいってます。そして、異世界の魔王なのに国家権力にたじろぐリュー。カオスですね!あと、何故みんな平然と私の状況を受け入れているのですかっ!?先程からずっと、リューにホールドされたままなのですが、全く誰も指摘してくれません。あっ、耳にキスはやめてくだ…。
「や…どうぶつ、やっ!」
「はいはい、大丈夫ですよー。ここにはいないので、平気ですー」
「あきらも、めっ!だ」
「いやー、私は大丈夫ですので。リューもアヅちゃんもいますし」
「オレとはなれたら、だめ。ずっといっしょって、いった」
「『ずっと』とは、いってませんよ。ネコの横を通るときは『一緒』とはいいましたけど」
「うそ?あきら、オレにうそついたの?」
「嘘というわけでは…うーん」
「ともだちはずっといっしょ。だからあきらとオレ、ずっといっしょだよ」
それ、聖獣様や魔獣たちにもいってませんでしたか?彼らと同じ『友だち』というカテゴリーに入れられるのはコワくていやなのですが…。大体、私は聖獣様方に嫌われていたので、むこうもイヤでしょう。
「あいつら、うそついた。ずっといっしょっていってたのに、ほんしんぜんぶじゃなかった。オレのこと、みんなでころがしてあそんだ。ともだちだとおもってたのに、にんげんといっしょだ。でも、あきらはちがう」
いえ、私も人間なのですが。
「あいつら、あきらが『つよい』ののつがいだからコワいっていってた。だから、いかくしてたって。あきらはにんげんでも、あいつらとおなじものでもない。オレのともだち」
「えぇー!?」
何だか衝撃の事実を聞きましたよ!
「威嚇されていたのですか!?」
「突っ込みどころはそこでいいの?」
「それでこそ、晶ちゃんよ」
「人相手に『つがい』発言はどうかと思うが、もしかしなくても『つよいの』とは」
「何故、オレから距離を取る」
友人のお兄さんが、リューからじりじりと距離を取っています。真顔です。
「イヌだかネコだか鳥だか知らないけど、小動物がイヤがるくらい匂いが着くってどういうこと?」
「付き合いはじめたのは昨日だろ?付き合う前から不健全なことをしてたのか、お前は」
「ヒトを性犯罪者のように見て…っ」
「晶ちゃんの名誉のためにいうけど、ハグくらいよ?だってヘタレですもの」
「「納得」」
「オイコラ待て」
兄妹が声を揃えて納得すれば、リューは凄みます。ただし、その顔は真っ赤です。それにまだ、ホールドが解けません。あの、恥ずかしいのなら離してほしいのですが…。
「なんでオレが離さないといけないんだっ!離すなら、そいつだろう!!」
「オレ、あきらのともだち。だからいい」
「よくないだろ!誰基準の『いい』だ!だいたい、何でお前みたいのがオレの晶と一緒にいるんだっ」
あぅっ、『オレの』だなんて恥ずかしいです。照れながら、私は昼休みに元聖獣使い様と遭遇したときのことを説明しました。
「ネコが空いてた窓から入って来ていたみたいで、廊下で硬直していたので通るついでに壁役として側について歩いただけだよ」
「あぁ!お昼休みかぁ」
「逃げ出した後ね」
親友と友人がニヤニヤしています!ちょっ、戦略的撤退ですよ、あれは!
「あれ?でも、オリエンテーションのときに、ネコにエサをあげようとして担任と副担に止められてなかったっけ?」
「晶ちゃんから聞いたわ。そういうことをするんだから、ネコ好きだと思っていたけど違うのかしら?」
「普通は好きでもなきゃ、授業中にはやらないと思うけど。オリエンテーションでも授業は授業だからね」
「それにしても、マイペースね…ちょっと、いいたいことがあるならそのケンカ買うわよ?」
「何もいってないのに、すでにケンカ腰」
無言のまま親友を見ていたリューは、何故か臨戦態勢の彼女に睨まれました。親友はマイペースというわけではなくて、仕事でなかなか学校に来られないだけです。でも、成績は常に上位に食い込んでいるそうですよ。だからこそ、欠席が多くても補習とテストだけで免除されるらしいのですけどね。
「あきら、オレといるのいや?」
「お前、自分が晶に何をしたのか覚えていないのか」
ずっと掴まれたままだった腕を元聖獣使い様から奪い返してくれたリューは、そういって睨み付けます。ホールドしたまま身体の位置を変えて、元聖獣使い様から私をかばうように立ち塞がりました。
そういえば、こうして盾になってくれた人は異世界の召喚した国にいた頃にはいませんでした。みんな、召喚された勇者様たち三人を大切にしていましたからね。
とはいっても、恨んでいるかといえば…今はちょっとわかりません。確かに逃げ出すときはガマンが出来ずに爆発しましたし、あのままいれば無事で過ごすことは出来なさそうでしたし、ブラック企業過ぎて腹が立ちましたし、はっきりいって大事にされている三人が本当はうらやましかったですし…。
ですが、三人に直接何かをされたわけではないのですよね。三人が何かしらいったのは確かですが、間接的過ぎてここで私が手を出したらそっちの方が後悔しそうです。なんというか、勝手に裏でいろいろした召喚国の人たちと同じになりそうでイヤなのですよ。
それに召喚された時の理不尽は、リューと親友が他の国を巻き込んで解消してくれましたのでもう平気です。自分でも思いますが、単純ですね、私って。
「リュー、ありがとう。私のために怒ってくれて」
「晶…。こいつらがしたことは、あんな罰程度で許されることじゃないぞ」
「ちょっと待って。死ぬほどコワい目に遭えば戻れるっていってなかったっけ?」
あちらの世界で合流直後に聞いたことを思い出して問い掛ければ、リューと親友はそれはそれは輝く笑顔で私を見ます。無言です。無言のまま私達は見つめ合い、詳細は教えてくれません。…コワいので、詳細は聞かないでおきましょうか。
幸いなことにしゃべることはなかったですが、お昼頃に勇者様が早退するまで同じように召喚されていた三人はクラスにいたみたいですので、心身ともに無事だったのでしょう。『死ぬほど』といっても、実際には死なないくらいの『コワい目』に遭えばこちらに戻れたみたいですね。ただ、聖女様がホームルームが終わると早々に一人で帰ってしまわれたところを見れば、多少の疲れはあったのかもしれません。そうじゃないと…イヤだ、二人のくもりのない笑顔が今はコワいだけです!!
「もう、十分コワい目に遭ったみたいだからわざわざ更に追撃するつもりはないよ」
「晶ちゃんは優しいのね」
「晶…」
いえいえ、親友は感動しているみたいですが、本当は召喚国の人たちと同じになりたくないだけですから優しいわけではないですよ。
リューはリューで、だいぶ不服なようです。暴れ足りなかったのでしょうか。あの放送を見ていた限りでは、十分だったと思いましたけど。お世話になっていた商隊の人たちがやんややんやいっている中で観賞していたのですが、『自分たちが最強』だと豪語していた近衛騎士様たちも、『魔力を扱えない者は役立たず』と平気でいっていた魔術師様たちも、たった一人で迎え撃ったのですよ?しかも、何故か素手で。最初は激昂していた近衛騎士様たちでしたが、だんだん蒼褪めてきて最終的にはみんな仲良く吹っ飛ばされていました。ちなみに魔術師様たちは、リーチが長い魔術を扱う関係なのか足技を掛けられて更に蹴り飛ばされていましたよ。
私たちを召喚するのに手を貸した女神様は、親友がいうには親友の母方の従弟が二度と粗相しないようにしつけてくれるそうです。なので、それに関しても私の衛生上もう気にしないことにします。それにしても『粗相』って、ペット的な意味ではなくて、今回の異世界人召喚のことですよね?ねぇ、何でその良い笑顔を深めるの。いろいろ想像してしまってコワいのですが。
「うう~ん。ま、まぁ、いいかな」
「いいのか?」
「そんなに吃って。まだ納得していないならいってもいいのよ。晶ちゃん自ら復讐したいのなら、私たちはいくらでも手を貸すから遠慮しないで」
いえ、単純に自分がした想像に怯えていただけです。だから、元聖獣使い様をそう睨まないで下さい!
友人は傍観姿勢で助け船を出してくれるつもりはないようですし、その兄はフレーメン反応を起こしています。何があったのでしょうか。しかし、今はリューと親友が元聖獣使い様に何かしら断罪をしそうなので放っておくことにします。ひとまず、過剰な断罪は私の精神の安定のために回避します!
「大丈夫、大丈夫だから!そそそ、そうだ!これから親睦を深めるために、前から行こって話していたカフェに行こうよ」
「オレ、こいつと親睦を深めたくないな」
「同意するわ」
「えええええ、でも!ほら、はっちゃんとお兄さんも一緒に行こうよ!」
友人とその兄も巻き込ませてもらいます!せっかく仕事を終えて妹を迎えに来たところなのに、お兄さんすみません。
「ちなみに、どこのカフェ?」
「鳥カフェ」
ネコは親友の借りている屋敷にたくさんいるので今更ですし、どんなイヌもリューがいれば触りたい放題なのでここはあえての鳥カフェなのです。ふわっふわな羽毛を、めいいっぱいモフります!
「………」
「あれ、せいじゅ…じゃなくて。どうしたの?鳥も好きだったよね?」
どうしたのでしょうか。元聖獣使い様は真っ青になっています。おかしいですね、向こうの世界では聖獣様の次くらいに鳥の魔獣と一緒にいたと記憶しているのですが。気付けば、もふもふの羽毛に包まれたまま嘴で毛づくろいされていて、とても暖かそうでしたよ。
元聖獣使い様の反応に困って周りを見ようとしたら、リューに再び拘束されました。何事!?
「ハハッ、晶は本当に最高だ!」
あれ、リューって満面の笑みを浮かべるほど鳥類が好きでしたっけ?
「……」
「兄貴、ネコがキツい匂いのものを嗅いだときみたいな顔になってるよ」
「…同僚の顔がとろけていて、どうしようかと…」
「放置でいいんじゃないの?」
「そうね。触らぬ魔王に破滅なし、よ」




