追い詰められたモブは逃げ出した!
異世界転移・転生のランキングにしばらく載っていたのでお礼の品。恋愛成分を足して、場面が想像しづらいと意見をもらったので改善…しましたが、失敗(汗)。すみません。
「おいしかった!ありがとう、アヅちゃん」
「いいのよ。母様も晶ちゃんが『おいしかった』と聞けば喜ぶもの。私も、父様から死守したかいがあるわ」
「え…?」
親友が自身の父親と母親手製のフロランタンを取り合ったという事実に私はとても驚きました。親友の父親はとっても無口で厳か雰囲気を持つ方ですので、娘とそんなじゃれ合いをするようには思えなかったのです。意外にも、和気藹々としているのですね。
「ははっ、佐藤のうちはおもしろいねぇ」
友人は爽やかにそう笑って、プリンのみっちり詰まっていた、今は空の弁当箱を片付けています。彼女がフタを開けたとき目を剥いたのは私だけで、二人は平然としていましたがそこは普通のことなのでしょうか。ここのところ、常識が破壊され続けていて線引きがむずかしいです。
「あなたの家族もだいぶおもしろいじゃないの。お父様、何をしてお弁当箱いっぱいのプリンなんてすばらしい『おしおき』を受ける羽目になったの?」
「うん?うちの父がだだをこねる社長を引き摺って出張に向かわざる得なくてね。その前に母を補充したらしい」
「なるほど。お母様は完全なとばちりね」
憐れむような視線を向ける親友ほど頭が良いとは思っていないのですが、出張と『おしおき』の因果関係がわからず困惑するばかりです。しかも、プリン。親友は嬉々として『こういうお弁当を食べたい!』と叫んでいたので、これはもうご褒美でしょう。私もうらやましいです。
困惑している私を見た友人は、もう一つのおかずとおにぎりが詰まっていた普通の弁当箱も片付けて、正しく意味を理解したらしい親友と顔を見合わせて微笑み合う。
「出水は意味がわからなくてもいいよ」
「そうそう。清らかなままでいて?」
「えぇ…」
不満そうな声を出しますが、友人二人はニコニコするだけです。仲間はずれ、ひどい!
「出水が急に年上の幼馴染みと付き合うようになったからどうなっているのかと思ってたけど、普段と変わらないようでよかった」
「あはは…」
リューのことは、友人ももちろん知っています。彼女の父親と同じ会社に勤めていて、なおかつ年の離れた兄が同じ上司の下で働いている関係からというのもあります。
しかし、驚きましたね。彼女にとっては『昨日は普通』だった私ですが、実はもう何ヶ月も別の世界にいたのです。本当に私たちは、召喚された日に戻って来て翌日違和感のないように過ごせているのですね。
おかげで、友人にとっては急な話しだったのでしょう。ですが、私にとってはだいぶ濃い日々を送ってからの彼からの告白でした。さみしい生活の中、何度も思い出した存在で、逃げ出すための助けまで準備しておいてくれて、更に迎えにまで来てくれたのです。もともとコスプレ趣味も含めて好きでしたので、より一層…えぇ、何というか、すすすす。
「急に付き合う必要がある、何かしらマズい状況に持っていかれたのかと思ったよ」
「フフフ、単純にヘタレているだけよ」
「アヅちゃん……」
ヘタレではありませんよ。ところで友人は、彼が何をしたと思っていたのでしょうか?
「あら?ヘタレ以外にいいようがあるのかしら?ねぇ、聞いて下さる?晶ちゃんの彼、出逢って笑顔を見た瞬間に」
「ちょっと、まってえぇぇぇぇ!?」
「え~、何々?聞かせて聞かせて」
「イズミさん!!」
ガラッ
「何で呼び出しても来てくれ」
「佐藤が久々に来たと思ったらいい情報を持って来てくれたね!」
「オレがクラ」
「フフ、心配していると思って」
「子に頼んででんご」
「ええぇぇぇっ!?リューって、そんな前から?聞いたことなかったし、気付かなかったよ!!」
「シカトとか」
「なんで気付かないんだろ?あたしも兄貴も、彼の態度があからさま過ぎてすぐに気付いたよ」
「そうそう。晶ちゃんが好意的な態度を取ると、すぐに真っ赤になるもの」
「そのくせ、自分は色気垂れ流しで無自覚に誘惑しているし」
「目の前で無自覚にイチャイチャされて、本当に困ったわ」
「おつかれー」
「本当。スキンシップが過剰なのよ。ごく当たり前に手を繋ぐし、至近距離で見つめ合うし、抱き締めたり抱き返したりするし。それ以上のことをしていない方が、おかしいような気になったわ」
「刷り込みか」
「刷り込みね」
「それにしたって、なんであんなにすぐに真っ赤になるんだか。こっちの方が赤面したいくらいだよ」
「そうよね。その間なんて、晶ちゃんが『大切な幼馴染だと思ってる』といっただけで真っ赤な顔でうれしそうにしていたわ」
「いたたまれないなぁ」
「本当にね」
「赤面はともかく、他の男に目がいかないように牽制はしていたよね」
「わかりやすかったわ。『ずっと看病してもらった』ってことを楯にそばにいて、危険から守ってあげつつ自分のカッコ良さを見せ付けて、なおかつ家族にも好印象を持たれるように動いていたのだから」
「確か、幼馴染だって聞いたけど気が長いな」
「長期決戦の方が得意らしいわ」
「身近な優しくて真面目なお兄さんが、そばにいてくれてずっと守ってくれたら好きになるよね。しかも、よそ見なんて一切しないし、女の扱いがスマートに見えるのにときおり見せる照れてる顔!ギャップ萌えだよ」
「あら、あなたもそういうのが好きなの?」
「いや、どちらかといえば照れたり恥ずかしがったり喜んだりする出水を見ている方が楽しい」
「あぁ、わかるわ。そうよね」
「ついでにいえば、男側の行動は聞いても…なぁ?」
「聞いても…ねぇ?」
「うちの父も伯父にいわせてみれば刷り込みはするわ、餌付けはするわで大概だし」
「私の父様も部下の方々曰く計算なしの天然だけど、刷り込みしたり餌付けされたりと大概よ?」
「ろくな男がいないな」
「ろくな男の人がいないわね」
溜息を吐く二人は、ほぼ同時にこちらを見てニヤリと笑いました。悪い顔をしています!
「やっぱり、出水の話が聞いてみたいな。はじめて会ったときや、どういう経緯で好きになったのか」
「私も詳しく知りたいわ。いくら二人と過ごした時間が長くても、ずっと一緒なわけじゃないもの。例えばそうね、夕飯時に普通に出水家でご飯を食べるようになったわけとか、彼が『友だちの家に泊まってます』という伝言だけでお母様に信用されているようになった経緯とか」
「すごいな!普通なら、その幼馴染みの彼の家に泊まったと誤解しそうなのに。一人暮らしだと兄貴から聞いたけど」
片や爽やかな女の子、片や儚げ美少女。ですが、ニヤニヤと悪巧みをするかのような笑顔がコワいです!何か、いろいろとしゃべらされそうですよ。
母特製のおかずが詰まっていたお弁当箱を持って、じりじりと後退します。ふ、ふふん!異世界で培った技術を思い知るがいいのですよ!
「逃げるが勝ち!」
「「あっ」」
呆気に取られる二人を置いて、踵を返して逃げ出します。逃げ足の速さには定評がありますよ!
「うわっ!?」
「すみません、ジャマでした!」
お昼に使わせてもらっている空き教室のドアを開けたままそこに立っていた男子生徒をはじき飛ばして、廊下を全力疾走します。ぶつかった人、事後報告ですがジャマでしたよ、すみません!
「晶ちゃん、鍛えられたのね」
「あぁ、件のカレシに?すごいな、男子を軽く吹っ飛ばしたよ。不意打ちとはいえ、あれはすごい。吹っ飛ばされた男子は情けないけど」
「そうね。さっきから何やら騒いでたけど、当人の晶ちゃんは完全に眼中になかったもの。本当、呼び出しをムシされたり、モテてモテて高笑いが止まらなかった者の末路としては虚しいものよ」
「佐藤、男子泣いてるよ?」
「勝手に泣かせておきましょう。自分が呼び出してやったんだから、来て当然という態度が気に食わないのよ。これに、自分ではなくて他人に伝言をさせるのもね」
「へぇ?同じクラスだと思ったけど、違ったんだ?そうだよねぇ、同じクラスなら普通に教室で話し掛ければいいもんね。それに、あたしたちが昼を食べに行くのも見てただろうし。あれ?もしかして、自分に合わせるのが当然だと思ってる?さすが、モテモテなだけあるねー。女をバカにしてる」
「フフフ、仕方ないわよ。モテてモテてしかたないのだから」
「まあ、出水は違うけど。ステキなカレシがいるからね」
「相手はいないけど、私たちも違うわよ」
「「ねぇー」」




