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【短編集】 心情ガラス細工

【心情ガラス細工】 1個目 〜春、空々〜

作者: 小太刀 夕

【心情ガラス細工】1個目 〜春、空々〜


春だった。


2度も受験に失敗し、2次募集の試験を受けた。合格発表の当日に制服の採寸、教科書販売。次の日には、携帯と通学カバンを買い、残り1週間もない春休みを準備に費やした。


それが今までの人生で、1番空っぽな春だった。



みんなが卒業式で泣いている頃、みんなが春休みで浮かれている頃、僕は担任の先生と毎日何十回も面接練習をした。


別に面接は大丈夫。問題は僕が傷付けまくった内申だ。


遅刻、早退、欠席、成績。見た目は大人しくて真面目、でも中身はダメ人間。それが僕だ。


やりたいことも、興味のあることも、本当に何もない僕は、兄と同じ学校を、前期、後期受けて結局落ちた。


もう、働くか。そう思って親に相談すれば、公立のちゃんとした学校に通えとのこと。

ついこの間まで、「お前が高校生になれるわけないだろ。」と、怒鳴り散らしていたくせに。


2次募集をやっていたのは、有名な不良高校。あとは、僕の学力じゃ無理な学校だけ。


もちろん、選択肢はひとつしかない。

いや、定時制や、通信制の学校もあったけど、親は昼間ちゃんとした高校と言ってきた。


だから、この公立の不良高校に志願した。


受かったはいいけど、通学に1時間半だ。

朝何時に起きれば良いんだ?



やることも、考えることもたくさんあった。

だけど、この春は、空っぽだ。


僕には何もない。透明で、空に溶けそうだ。



明日はもう入学式。高校生活への不安は正直言ってほぼない。


ただ今は、この空虚をうめたくてしょうがないんだ。




母が「せっかく今年は桜が綺麗なんだから、見てきたら」って言うから、なんとなく桜祭りに行ってみた。



確かに、桜は綺麗に咲き誇っていた。

でも、人が多くて花見どころではない。


もう帰ろう。来た道をUターンする。


そういえばこの辺は桜がないな。

ぐるっと丸く植えてある桜の円は、少しだけかけていた。


この小さな枯れ木は、桜だろうか。

僕は円のかけた部分の木を見た。


太い幹が綺麗に切れていて、その上から細っこい枝か数本伸びている。


その枝には、一輪の桜。


なんとなく綺麗だと思った。



そういえば、小学校の国語の教科書にこんな話が載っていた。


染め物の話で、桜から色をとる時は、あの綺麗な花の方ではなくて、枝からとるらしい。


詳しくは忘れたが、桜は内側から綺麗な花を一生懸命咲かせようと頑張ってるんだって。


咲いた後は、また綺麗に咲けるように1年間その時まで準備をする。



だから、桜は綺麗だと、書いてあった。



この桜は、切られてしまった後でも、綺麗に花を咲かせるために、枝を伸ばし、蕾をつけ、この日を待っていたんだろうか。


たった、一輪でも。綺麗に咲くように。



こんなに弱々しい枝なのに、僕よりずっとたくましいんだな。



僕も枝を伸ばせるだろうか。

花をつけられるように、一生懸命になれるだろうか。たった一輪のためでも。


来年、この枝に花が増えるように、自分も成長できているだろうか。


初小説。


受験失敗談は、

ノンフィクション。


桜の話は、毎年思い出します。

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