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7.旅に誘われる

毎回亀投稿ですみませんっ

「ユーリ様! ユーリ様! 記憶喪失なんて僕初めてみましたよ~ 」


目を輝かせたクロードがマリオンの肩をがしっと押さえると、笑顔をユーリに向けた。

マリオンは体を硬直させたままクロードの為すがままになっている。


「クロード……少し落ち着け 」

「まったく、クロードはちょっと変わったものをみつけると直ぐに目の色を変えるんですから…… 」

「えっ! も、ものですかっ!? ってちょっ――― 」


ミカルとアルは呆れたような態度を見せるが決して二人に近寄ろうとはしない。

いや、目の色が変わったクロードに……というべきだろうか。

マリオンが二人に助けを求めるように視線を向けたが、二人にはサッと目線をはずされている。


「だって記憶喪失なんだよっ! 魔術師としては気になって当たり前だよ! 」


暴走しているのだろうかと思うほどの笑顔を振りまきながらガクガクと肩を揺さぶるクロードに二人は一歩下がった。


「ちょ、ちょっと助けてく――― 」


揺さぶられているマリオンを見かねたのか、ユーリが眉を顰めて口を開いた。


「クロード、マリオンさんの肩を壊す気なの? 離してあげて 」

「えーーーだってユーリ様! 記憶喪失なんですよ! 」

「うん、でもそんなに揺さぶらなくてもいいでしょう? 」


優しく諭すユーリだったが暴走したクロードには意味がないようだった。


「だってだって! ユーリ様、珍しい症例なんです! だから僕の実験室に連れていこ―――― 」

「クロード………離せ 」


一瞬にしてユーリの周りの空気が冷たいものに変わった。

寒さに身を震わした原因は足元にあった。

どうやらユーリから発せられた冷気によって、足元の草に霜がおりたのだ、

流石というべきなのだろうか。氷魔法が得意なユーリはやはり王族なのかもしれない。

ユーリの言葉にクロードはパッと手を離すと両手を挙げて肩を竦めた。


「はいはい。わかりましたよ。ユーリ様も大人気ないんだからっ 」

「俺は―――あっ! わ、私はまだ十歳だよ 」

「取り繕わなくてもいいじゃないですか。普段”俺”デショ 」

「うるさいっ! 」


二人のやり取りが小気味良かった為、つい笑ってしまった。


「お二人は仲が良いんですね 」


笑顔のマリオンにユーリは目の周りを薄っすらと赤くして頷いた。


「ええ。皆、私によくしてくれてます。それにしてもマリオンさん――― 」

「あ、私のことはマリオンと呼んで下さい。さん付けされるとのはちょっと…… 」


ユーリの言葉を遮って頭を下げたマリオンにユーリは「わかりました 」と首を傾げて微笑んだ。


「それでは、マリオン。あなたは記憶がないということですし、どうでしょうか? 私達に着いて来ては 」


唐突な申し出に今度はマリオンが首を傾げる番だった。


「ええと……どういう意味でしょうか? 」

「それは私が説明いたしましょう 」


そういって無表情イケメンのアルベルトが前に出てきた。


「私達はリードガルフ王の王命により各地を旅しているところです。十歳の王子を連れこんな少人数で……と思われるかもしれませんが、王子はこのとおり魔法が得意ですし、私たち三人は色々と得意なことがあるのでそこは割愛しますね 」


マリオンが無言で頷くと、それに満足したようにアルも頷く。


「では続けます。王命というのも、戦が終わってまだ五年であるリードガルフはそこそこ安定はしてきておりますが、まだまだ不安要素が残っているのは先程の村人達をみても分かるかと。そしてそういう村人を調査したりするのが我々の役目です。まぁ村人の調査。というより村の周囲の調査が主なんですけどね 」

「はぁ…… 」

「つまりね、僕たちは戦で荒れちゃった土地の水脈とか気脈を安定させて、ついでに村人達に認めてもらえたらラッキ~……的な旅をしてるわけなんだよ~ 」


頭に疑問符が浮かんでいたマリオンだったが、クロードの簡単な説明で理解できた。

何故か負けた気がしたが、気にしないことにしておこう。


「わかりました、とにかく国の為に旅をされてるってことですよね? 」

「そういうことになりますね 」


そういってマリオンの肩に手を乗せたのはミカルだった。


「そこで、この旅にあなたも一緒に同行してはどうか……というのが、ユーリ様が仰りたかったことです 」

「は、はぁ……。で、でも私は記憶もないですし、ご一緒するのはご迷惑なんじゃ…… 」


ミカルは肩に置いた手を外すと口元に持っていき苦笑を零す。


「そういうあなただからユーリ様は一緒にと仰られているのです。ああみえてユーリ様の人を見る目はあるのですよ 」

「おい! ミカルも”ああ見えて”は失礼だろ! 」

「おや、口調が普段に戻られていますよ 」


再び苦笑したミカルにユーリはそっぽを向くとマリオンの前に立った。


「あの……会ったばかりで不審に思われるかもしれませんが、アルギス領はこれから先に必ず訪れるところです。いくつかの領を回ってからになりますが是非一緒に……いきませんか? 」


そう言って微笑んでマリオンの手をとったユーリにマリオンは戸惑いを隠せなかった。

どう考えてもこんな不審者と旅をしてくれるなんて人が良すぎる。むしろ何も出来ない自分はお荷物になるだろうに。

いや、でももしかしたら実はそうやって良い人の振りをして騙しているのかもしれない。

そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていた。


「――――人間に助けて頂けるなんて思っても見なかったんです 」


目を伏せたユーリの言葉にマリオンは目を見開いた。


「リードガルフはまだ出来たばかりの国で、エルフの王というのは人間にはなかなか認めてもらえていないのが現実です。ですから、あなたが助けに入ってくれた時驚きもありましたが、父上が人間と共に国を作ろうと力を注いできたことが無駄じゃなかったとわかって嬉しかったんです 」


ユーリは再びマリオンをみつめると再度笑顔を見せた。

その笑顔があまりにも綺麗で。その青い瞳がとっても透き通っていて、目が離せなかった。

真摯なまなざしに、いつの間にか首を縦に振っていたと気づいたのは少し経った頃だ。

過去だろうこの世界で頼れるものが何一つなかったマリオンにとって、彼らは救いの神に等しい。

そして一人で旅をしたこともないマリオンにとって彼らの申し出は願ってもないものだった。

どうしてこんなに良くしてくれるのか、正直いまも納得はできてない。だって人が困っていたら助けるなんて、クレド村では当たり前のことだ。

普通のことをしただけで、自分を気に掛けてくれた彼らに胸がギュッと痛んで仕方なかった。


「あの……。本当に一緒にいってもいいのでしょうか? 」


マリオンの瞳は少し潤んでいたが、誰にも気づかれないように直ぐに下を向いた。

不安げな声が出ていたのだろう。


「ええ、ユーリ様が仰ってるんです……良いに決まってます。それに、これからは旅の仲間になるのですから、私達もあなたのことをマリオンと呼ばせてもらいますね 」


アルのことばに頷くとクロードがマリオンの頭を撫でた。


「僕たちのことも気軽にアル、ミカル、クロードってよんでね 」

「はい! アルさん、ミカルさん、クロードさん。よろしくお願いします 」

「じゃあ、私のこともユーリって呼び捨て―――― 」

「無理です 」


即答したマリオンにユーリが心底がっかりした顔を見せる。


「あたりまえでしょう。ユーリ様、あなたは仮にも王子なのですよ 」

「うむ。ユーリ様はご自分の立場を分かってらっしゃらないんだ。気にすることはないからねマリオン 」

「そうそう。僕らが”様”って呼んでるのに、マリオンが呼び捨てできるわけないデショ 」


それぞれ庇ってくれた三人にユーリは口を尖らせていたが、しぶしぶ頷いた後でマリオンには微笑んでくれた。


「ユーリ様………あの、私ユーリ様みたいに魔法出来ません。剣は少し出来ますが…… 」


目を伏せて頭を下げたマリオンに、周りは黙って見つめている。


「何の役にも立たないかもしれませんが、出来ることはします! だから、よろしくお願いします。もちろんアルギス領まででかまいませんので是非ご同行させてください 」


頭を上げて暫く経っても周りが静かで何の反応もないことにマリオンは不安を覚える。

恐る恐る頭を上げると皆一様に驚いたような目でマリオンを見つめていた。


「あ、あの…… 」


不安気なマリオンの声にハッとしたイケメン三人は、お互い顔を見合わせるとマリオンの頭をそれぞれ撫でてきた。

突然のことに困惑したものの、その撫で方が父親や自警団の村人からされるような優しい感じがした為、素直に甘受した。


「うん、ユーリ様の気持ちは僕たちも理解してたはずだけどこれはね~ 」


笑顔でマリオンの頭をぐりぐりと撫でてくるクロードにミカルも頷いた。


「ああ、確かに。マリオンはすごいな 」

「ええ。あなたの言葉には本当に驚かされます。エルフに頭を下げる人間なんて…… 」


アルの言葉で先程ユーリが言っていたことを思い出した。この時代ではエルフと人間はまだそんなに仲が良くないのだ。

こんなに良い人達が理解されていないなんて悲しいことだと思った。


「マリオン、私達のほうこそよろしくお願いします 」

「ユーリ様……はい! 」


やっぱり女の子にしか見えないくらい綺麗な顔をしたユーリの言葉にマリオンは笑顔で頷いた。

本当に可愛い笑顔に、やっぱりこんな妹が欲しいなんて思ってしまう。

そんなマリオンの考えに気づくはずもなく、ユーリは首を傾げるとマリオンの手を握り締める。


「よかったです。俺――、いや私……マリオンみたいな兄が欲しかったんです 」


マリオンの笑顔が一瞬にして固まったのをユーリは気づいていない。

言葉の出ないマリオンに、ユーリは嬉し気に言葉を続けている。


「私は兄弟がいないですし、アル達は昔からあんな感じなのでどちらかというと兄というより父親みたいな感じなんです。だから嬉しいです 」

「ユーリ様、私達が父親なんて……少し年が上過ぎませんか? 」

「僕らが父親なんてまだまだ先の話ですよ~。それに、僕にはまだかわいい妻はいません~ 」


ミカルとクロードがそういうとユーリは苦笑して謝った。


「すまない。それだけ頼りにしているんだ 」

「ユーリ様っっっ―――そんなに私達のことをっっっ!!! 」


アルだけは感極まって唇を戦慄かせていた。


「うん、アルは――母親にみえなくもないけどね~ 」

「クロード……死ね。”縛れ、水の鎖” 」


そう言ってアルはクロードにむけて魔法を発動した。が、クロードの属性は氷以外の全属性だった。


「ごめんねアル~”解けろ、水の鎖”。僕は魔術師なんだから簡単な魔法じゃ無理だよ~ 」

「知ってますよっ! 」


舌打ちをしてアルはクロードの頭を叩くとそっぽを向いた。

そんなやり取りをミカルとユーリは笑っていたが、マリオンは相変わらず固まっていた。


(兄………? 兄っていったっ!? えーーと、えーーとっ? もしかしてとは思ったけどやっぱり私、男と思われてる――――よね。ハハハ……… )


「マリオン……? 大丈夫ですか……やはり先程から具合が悪いんじゃ―― 」

「えっ! あ、あの……大丈夫……ですよ? 」

「そう…ですか? 」


”兄”といわれた衝撃から立ち直れなかったが、なんとか取り繕った笑顔を浮べた。


(し、仕方ないか………、だってこんな格好だもんね。うん……でもなんだろう。自分で蒔いた種とはいえ乙女心はズタボロになってる気がするっ )


心の中で涙を呑んだマリオンにユーリは首を傾げた。

その首を傾げる仕草は狙ってやっているのだろうか……本当に可愛すぎる。


「ほら~ユーリ様~、マリオン~。先に行っちゃうよー 」


クロード達はどうやら先に歩き出していたようだ。


「では、私達もいきましょう 」


そういって走り出したユーリに大きく返事をすると、マリオンも彼らを追って走り出した。



やっと旅にでるようです

恋愛要素がまだまだ出てこないのですががんばります


ブクマ教、本日もありがとうございますっ


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