6.現状に気づく
仕事の為、更新がかなり亀になってすみません。
内容とあらすじがかみ合わなくなったため、あらすじを訂正しました。
「えーと………、驚くところがそっちですか…… 」
ユーリはじっとマリオンを見つめたあと顔を背けると、手を口に当て肩を震わせている。そして我慢出来なくなったように笑い声をあげた。
「あっ、そうか! す、すみません! 王子殿下に失礼なことを… 」
マリオンは自分がユーリを女の子と勘違いしていたと暗に……いや、大々的に叫んでしまった不敬に気づき、慌てて膝をつくと頭を下げて謝罪をする。
ユーリはというと、ひとしきり笑うと落ち着かせるように大きく息を吸い、マリオンの側に膝をついた。
「こちらこそ笑ってしまってすみません。さぁ…顔を上げて立ってください 」
そう言ってユーリはマリオンの手を引き上げると、はにかんだ笑顔で見上げていた。
(やっぱりかわいい……はっ! いけないいけない! 王子殿下にしつれ……あれ? )
そこでようやくマリオンは気づいた……というか思い出した。
いくら世俗に疎くなりがちな田舎に住んでいるからといって王族のことを全く知らないわけではない。
国王陛下には確かにユーリアスという息子が一人いると聞いたことがある。そこはまぁいいとしよう。
しかしマリオンのペラペラに薄い記憶では、王子の年齢は百三十歳というかなりの高齢となっている。
いくらリードガルフという国がエルフの王が治める国であるとしても、目の前の少年はどこをどうみても百三十歳には見えない。
いや実際エルフは人間の三倍以上長生きをするらしいのだが、十八歳で成人するとそこから緩やかに年をとるとルイザから聞いていた。
ということは、いくらなんでも目の前の少年が王子殿下だというのはおかしい。どう見ても弟と同じくらいか、少し上の”少年”にしか見えないのだ。
騙されているのだろうか、と一瞬不安が脳裏を過ぎった。
しかしイケメンエルフの様子や、少年の綺麗な瞳を見ても嘘をついているようには見えない。
「あの……王子殿下は御幾つでしょうか? 」
恐る恐る尋ねるマリオンにユーリは首を傾げるとにっこりと笑った。
「私……ですか? 私は先月十歳になりました 」
「十歳…… 」
「そういう君は幾つなんだい? 」
二人の会話に急に入ってきたのはクロードだった。
「わ、私ですか? 私はもうすぐ十八になります 」
「へぇ~、僕は二十四だよ 」
「の割に、まったく落ち着いてないのは何故ですか? 」
無表情さの中にも無言の圧力を掛けてくるアルにクロードは困ったような顔をして笑った。
「やだな~アル。僕はいつもこれだよ。だからこれで落ち着いているんだよ。ね、ミカル 」
「私に話を振って話を誤魔化すのはやめたほうがいいよ 」
「えーーー。酷いな~~アルもミカルも。僕たち仲良し幼馴染三人組でしょー? ユーリ様もなんとか言ってくださいよ~ 」
そんな三人のやり取りにユーリとマリオンは顔を見合わせてふき出した。
「そういえばユーリ様。こちらの村のことなのですが… 」
思い出したようにアルがユーリに声を掛けるとそれに答えるように笑みを消したユーリにマリオンはドキリとした。
彼が………、天使のような少年が、唯の少年ではないのだと理解した。
「どうやらこの村はまだエルフについての誤解や偏見があるようですね 」
アルの言葉にユーリが大きくため息をついた。
「そうか……この村はセルリーアン領の中でも前ドルガー王国の別荘があったところだから……他よりも偏見が強く残っているのかも知れない 」
眉根を寄せたユーリ達の会話に、マリオンは自分が驚いた表情をしていたことに気づかなかった。
(今、セルリーアン領って……、ドルガー王国って言ったよね? )
この目の前の村が、西方にあるアルギス領とは真逆に位置するセルリーアン領だと知り驚きを隠せない。
そして何故、百年以上前に滅んだ国の名前が今ここで出てきたのかも理解できなかった。
「仕方ないですよユーリ様。戦が終わってまだ五年しか経っていません。元々こちらはドルガー王とは近しい土地ですから、思想的にもそれが顕著なのでしょう 」
「だよね~。いくら僕たちがこうやって現状をみて悪いところを改善しても、彼らからしたら気持ち悪いエルフだもんね 」
ミカルとクロードは顔を見合わせると肩をすくめた。
「ユーリ様。先日正常に戻した水脈も安定していますし、もうこちらの土地を離れても良いかと 」
アルのことばにユーリは目を閉じ、小さく息を吐くと頷くと、マリオンに目を向けた。
「どうかしたんですか? すごく顔色が悪いです 」
ユーリに言われるまで気づかなかったが、どうやら驚きのあまり息を止めていたらしい。
息を短く吸って目を閉じると、すぐに開いた。
「―――あのっ。……あの、おかしいことを聞いてるかもしれませんが今は何年でしょうか? 」
マリオンの言葉にイケメン達は不思議そうに顔を見合わせている。
当たり前だろう、急にそんなことを聞けば誰だって訝しむはずだ。
けれどユーリだけはマリオンは静かに見つめている。
「今は、リードガルフ建国から五年です。世界暦では一〇一三年ですね 」
「一〇一三…… 」
愕然としたマリオンの足に力が入らなくなってしまう。そのまましゃがみ込むと頭を抱えた。
「マリオンさん?大丈夫ですか? 具合が悪いのですか? 」
心配そうに周りをうろうろするユーリに、顔を伏せたまま首を振ると「大丈夫です 」とだけ答えた。
自分の住んでいる時代から一二〇年も前の時代にいるとは考えられない。いや、考えたくない。
しかし目の前にいるのが王子殿下が本物で、今が過去だとすると計算は合う。一二〇年後に彼は一三〇歳なのだ。
それに符号することはいくつかあった。
先程の村人がエルフを毛嫌いしていたのも戦後間もないというなら理解できる。
だっていまやエルフは、どこの領地でもなくてはならない存在なのだ。
長命な彼らの知識や経験を、惜しむことなく与えてくれるエルフを嫌うなんてまずありえない。
ルイザやクレルのアリソン商会も村にかなりの貢献をしてくれているし、村人から愛されている彼らの人となりを知っているマリオンにとってはあの村人の態度は考えられない。
あとはユーリの使った氷の魔法だ。エルフは全体的に魔法が得意であるからリードガルフは別名魔法大国と呼ばれている。
そしてその魔法大国の王族が得意とする魔法が、氷と光の魔法だということは国民の誰もが知っているのだ。
自分の置かれている状況を徐々にだが理解してきたマリオンの瞳に涙が浮かぶ。
顔を隠したまま涙を拭い飲み込むと、大きく息をついて立ち上がった。
(考えてもしかたない。来たって事はまた帰れるよね。うんきっと帰れる………とりあえずクレド村へ行ってみよう )
「すみません。大丈夫です。ちょっと立ちくらみがしただけです 」
そういって無理やり笑ったマリオンに、深く追求をしてこない彼らは本物の紳士なのだと感じる。
そんな彼らに自分の現状を話すなんてありえない。きっと頭がおかしいと思われるのが関の山だ。
ならば、どうやったら自分がここにいてもおかしくない理由になるか、を考えればいいのだ。
「マリオンさん。そういえば、あなたはどうしてこちらの村へ? 」
急に発せられた質問にマリオンは動揺を隠せずつい俯いてしまった。
それもそのはずだ。自分の現状をなんとか理解しようとしているマリオンにとって、今一番聞かれたら困る質問をされたのだ。
自分がいたクレド村とセルリーアン領は真逆にある場所で、しかもドルガー王国との戦が終わってまだ五年。
どう考えても自分の理解の範疇を超えている。
しかし何かしらを答えないわけにはいかないだろう。
「あの…、それが…どうしてかわからないんです… 」
マリオンは負けた。
自分の知恵と知識のなさに負け、結局素直にわからないと答えてしまった。
「気がついたらここにいて…、そしたら王子殿下がいて…… 」
「まさか記憶喪失ってやつなの? 」
興味深そうにまじまじと見つめるクロードに目を見開いた。
(それだ!!! )
「記憶喪失……。そうかもしれません。この場所にまったく記憶がないんです。覚えているのは名前とアルギス領に住んでたことだけで… 」
恐る恐る彼らを伺うと、ユーリは驚きを隠せないように目を見開き、アルとミカルは顔を見合わせ、クロードは………何故か目を輝かせていた。
ブクマありがとうございます。
神よーブクマ教に栄光をー