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4.美少女エルフとの出会い その1

「えっと……えっと、私ツリーハウスから落ちたよね? 」


痛む体を引きずりながらもなんとか立ち上がると、側にあった木にもたれ掛かる。

肩で大きく息を吐くと再び周囲を見回した。

目の前の森はありふれた森だが、見慣れたクレド村の周囲の森とはやはり違う。


「ここどこ…。ルイザ……、父上……、母上…… 」


見知らぬ場所での心細さから、つい頼りになる親友と両親を呼んだが、返事をするものは誰もいない。

分かりきっていたことだが、もしかして…という気持ちもあった。けれど誰からも応えは返ってこない。

知らない場所、知り合いも、頼る者もいないという事実にマリオンは怖くて堪らなかった。


「…うぅくっ……、ひっく…… 」


右手で口を押さえても嗚咽が漏れてしまう。


(泣くな、泣くな。泣いても何も変わらない…… )


しかし涙はとめどなく零れ落ちた。




どれくらい経ったのか、暫くしてやっと涙が止まった。

左手で涙を拭おうとした時、そこでようやく自分が何かを握っていることに気づく。


「これって……ルイザから貰ったリボン……。私、ずっと握ってたんだ…… 」


ゆっくりと手を開くと、強く握りしめていたせいかリボンには皺が付いてしまっていた。

それでも相変わらず白くて綺麗なリボンは、荒れていたマリオンの心を慰めてくれているようだった。

胸の前で再びリボンを強く握ると、目を閉じて大きく息を吐く。


「――――よしっ! 」


パチンと頬を叩いて弱りきった心に活を入れる。

リボンを三つ編みされた髪に解けないように結び、深く息を吸い込んだ。

勢いをつけて立ち上がると確認するように両手を動かす。その後で、足も動かしてみるが、どうやら幸い手足に問題はないらしい。ただ背中は相変わらず痛みが続いている。

まぁ屋根から落ちて死ななかったし、身体を動かせるということは打ち身程度だろうと考えた。


「身体は大丈夫だ。まずは村へ向かうしかないよね 」


自分に言い聞かせるように呟くと目の前に存在する村へと足を向ける。

ゆっくりと近づきながら村とその周りに目を配る。遠目から見てもどこにでもある村と対して変わらず、外塀を見る限りクレド村と似たような感じだった。

しかし見覚えのない場所だからと、警戒を忘れずに村の入り口へ歩を進めた。


「うるせぇんだよ! このクソガキがっ! 」


突然、怒声が耳をつんざいた。声のした方へ目を向けると、村の入り口から少し離れた場所で二人の男が立っている。

そのうちの一人がなにやら声を上げているようだった。


「どうして村へ入ってはいけないんですか? 」


男達に囲まれて見えていなかったが、二人の間にもう一人いるようだ。

よくよく見ると確かに男達の身体の影から、小さい体がちらりと見えた。


「はっ! この村はエルフお断りなんだよ。余所者ってだけでもムカつくのに、それが気持ちの悪いエルフときた! とっとと消えろ! 」

「……ほら、お嬢ちゃん。こいつが本気になる前に帰ったほうがいいぞ~ 」


エルフに対して嫌悪感を隠そうともしない男の横で、もう一人の男がからかう様にエルフの子供に立ち去るように促している。

どうやら、エルフの少女が男達―― といっても明らかに片方だけだったが ――から一方的に怒鳴られているようだった。


「このリードガルフでは、エルフが人間の村に立ち入ることは禁止されていないはずですが 」


冷静な物言いをするそのエルフは、首をかしげて男達を見上げている。

立っている場所からだと後姿しか見えなかったのだが、そのかわいらしい仕草に「きっと顔もかわいいんだろうなぁ 」などと現状の空気にそぐわないことを考えてしまう。

そんなマリオンとは裏腹に、一人の男は冷静に返すエルフの言動が癇に障ったのかますます声を荒げ、そのまま少女の襟首を掴み上げた。


「うるせえ!! 国がどうだろうが、この村では関係ねえんだよ。薄気味の悪いエルフの癖にっ! 」

「おい! そこまでしなくても――― 」


もう一人の制止を無視した男に強く突き飛ばされ、少女の体はそのまま後ろに尻餅をつく格好で倒れた。


「―――ちょっと、あなた達は子供に何をしてるんですかっ! こんな小さい子に……、いい大人が恥ずかしいとは思わないのかっ 」


男のあまりの行動に、少女を庇うように男達と少女の間に自らの体を滑り込ませると、そのまま男達を睨んだ。

急に現れたマリオンに一瞬呆気に取られた様子の男達だったが、すぐに気を取り直したようで負けじとマリオンを睨んできた。


「おいおい…兄ちゃんよ。関係ねえ奴が間に入ってくるんじゃねえよ。 痛い目見たくなかったら消えな。綺麗な顔、台無しにしてやろうか? 」


男装をしている為か男と間違われたようだがそんなことはどうでもいい。

男の言葉を無視し、尻餅をついたままでいるエルフの少女の側に屈み込む。


「大丈夫? 怪我してない? 」


そう言って少女の手を取ると、立ち上がって少女の体を引き起こした。


「あ、ありがとうございます 」

「ううん。怪我してないみたいでよかっ――――!! 」


そこでようやく少女の顔を見たマリオンは声を失った。

目の前の少女……、いや紛うことなき美少女エルフがマリオンの前に立っていた。


(か、かわいい!!! 天使かっ……いや、エルフだけど…… )


目を見開いたマリオンの様子がおかしかったのか、困った顔をしたような少女は肩で切りそろえた銀の髪を揺らしながら首を傾げると、その青い瞳でマリオンを見上げている。


「おい! 何コソコソ話してやがんだっ! 」


男の言葉と後ろから肩を掴まれたことで、思い出したように明後日の方向に飛びかけていた意識を慌てて戻す。


「――あなたは、下がっていて… 」


少女に微笑むと、マリオンは男の手を嫌そうに振り払った。男の顔は怒りで赤くなり歪んで見える。


「勝手に人の体に触らないでくれます? 気分のいい物じゃないので 」


明らかに少女との対応に差があると感じたのだろう、男の顔がますます赤くなった。


「おい、落ち着けって。こんなやつらもうほっとけって。お前らも、この村から立ち去ってくれ 」


もう一人の男が、傍らの男の腕を掴みマリオンと少女に言うが、男はそれを無視する。

怒りで目を見開いた男がそのまま詰め寄り服を掴もうと腕を伸ばしてきたが、マリオンは掴まれる前に素早く避け、そのまま帯剣に手をかけた。

剣に手を掛けたことで、ピリッとした空気が辺りに流れる。

伸ばしていた手を一旦下げた男が、懐から何かを取り出そうと手を入れたその時だった。


「“穿て、氷の矢” 」


突然紡がれた魔法の言葉に、マリオンの身体が反応するよりも早く、背後から横を通り過ぎた氷の矢が男の足元に突き刺さった。

氷は地面につきささると、あっというまに氷が広がっていく。


「うわああああああああぁぁぁ!! 」


男の叫び声に目を向けると、今にも掴みかかろうとしていた男の足元は凍りつき、片足が氷に包まれていた。

その足元には凍りついたナイフが落ちている。


「いてえええーーーーーー!!! 足がいてえよぉ。誰かっ、助けてくれえーーー 」


もう片方の男が、凍りついた足を何とかしようとするがどうにもならない。

マリオンは急いで魔法を行使した少女を振り返り、そのままじっと見つめると首を横に振った。

少女はそんなマリオンをみて再び首を傾げたが、小さくため息をつくと口だけ動かす。

すると、男の足を捉えていた氷は見る見るうちに溶け、腰を抜かした男達が青い顔をして目を見開いていた。


「ば、化け物だーーーーー!!!! 」


あれほど勢いよく怒鳴っていた男が這う這うの体で村へと逃げ出すと、もう片方の男も真っ青な顔のまま「許してくれ 」と囁き、そのまま踵を返していった。


「………あの、助けてくれてありがとうございました 」


不意に掛けられた声に、ハッとして少女を見つめる。

眉尻を落とし不安げに声を発した少女にマリオンは小さく息を吐くと、憂いを払うように微笑みかけた。


「あなたが大丈夫そうで良かった。でも、魔法が使えるならわざわざ間に入らなくても良かったね。むしろ邪魔しちゃったみたいだし… 」

「いいえ! ………いいえ。………あの、本当にありがとうございます。助けに入ってもらえただけで嬉しかったです 」


そう言って瞳を伏せて微笑む少女にマリオンは見惚れてしまう。

銀色の髪に青い瞳を持つエルフの少女に、何故だか自分の頬が熱くなるのを感じた。



あれ?少年じゃなくて美少女が出てきた。

おかしい………次こそはっ!


ブクマありがとうございます。神様がふえた…(感激


3/21 サブタイトルに文字を入れました。

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