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3.回想 その3

リボンをじっくりと眺めていると、思い出したようにルイザが口を開いた。


「あ。それからそのリボンの売り文句なんだけどね…『離れた二人がいつでも側にいられるように』なのよね。で、恋人同士とか夫婦、それに片思いの人にあげましょうっていう感じで売り出してるの 」

「ある意味恋愛成就のお守りな感じなんだね 」

「うん。でも別にうちは恋愛が成就するなんて言ってないんだけどね~ 」


やっぱりアリソン商会は商売が上手だと思う。

確かに恋愛成就なんて言ってはないけど、恋人や夫婦向けに売り出して、そのカップルが御揃いのリボンを身に着けているのをみたら周りはおや? と思うはず。

『あれをつけてるから仲がいいのかな? もしかしたらあのリボンって…』なんて考える人間も出てくるだろう。

商売人の思う壺なのだろうけど、気休めでもなんでも片思いの恋をしている人にとっては、そのリボンは恋愛成就のお守りにしかみえない。

自分だって好きな人や彼氏がいたら、自分が送った何かを好きな人が身につけてくれるのは絶対嬉しいと思う。

ほんとアリソン商会恐るべしである。


「まぁこれは既に叔父様の名前がついちゃってるから、他人からみたら価値なんてないのよね~物はすごくいいのに 」

「確かに使わないには惜しすぎるクオリティだもんね。最初見たとき、この素敵具合に驚いたもの 」

「でしょ! それにほら、マリオンってまだ彼氏もいないし、好きな人もいないでしょ? だからマリオンさえ良かったらって…って最初に言ったのよ 」

「って何気に失礼な。ルイザだって彼氏いないでしょ! 」


恋人がいない二人は顔を見合わせると、何故かきまづい雰囲気になってお互い目を逸らした。

しかし、いつまでもこうはしていられないので素直に頂くことにする。


「じゃ、じゃあ頂くことにします。どうせ私には…いやいや、二人共彼氏も好きな人もいないしね~ 」


半ばやけくそのように自虐的に答えてみるとルイザはにっこりと笑っている。


「ウフフフ。気にしちゃ駄目デス 」


笑顔のルイザの目が笑っていないのが怖かったが、再び顔を見合わせた時、お互い我慢できず噴出した。


「「あははははは! 」」

「あっ! マリオンだ! 」


噴出してしまった笑いを遮るように、まだ幼さが残る声が二人の会話を割ると、店舗から声の主がパタパタと近づいて来た。


「こんにちは、クレル。今日も可愛いわね~ 」


ルイザの弟であるクレルは姉と同じく金髪碧眼のエルフで、まるで天使かと頬擦りしたくなるほど愛らしい顔立ちをしている。将来は確実にイケメン間違いなしである。


「可愛いって男にいうもんじゃないぜ! で、レナードは? レナードはもう家に帰ったのか? 」

「レナードなら詰め所で水を浴びたら一旦帰るって言ってたよ 」


クレルはレナードと同い年で仲がすごく良い。まるで自分達のようだなぁ、なんて思いながらマリオンは弟にやるように頭を撫でた。


「や、やめろよ! 俺を弟……レナードみたいに扱うのはやめろっていってるだろ 」


七歳にしてはしっかりした物言いで払われた手を残念に眺めていると、クレルの背後にいつの間にかルイザが立っていた。

拳を握っていてもやっぱり美人なんだなーと思っていると、その拳は迷うことなくクレルの頭に真っ直ぐ下ろされた。


「―――っってえーーーーー!! いってぇな、このブス姉貴! 」

「ブスじゃないので、痛くも痒くもありませーーーん! って、いうかいつも言ってるでしょ! マリオンは年上! ついでだけどここの領主様のご令嬢なのよ! 」


ついでじゃなくても一応令嬢なのだが、そこを突っ込むとこちらに色々回ってきそうなので黙って二人を見守ることにした。


「うっせーーな! 分かってるけど、俺はいつかマリオンを嫁に迎えるんだから、今から呼び捨てにしててもいいだろうがっ! しかもこんな小さな村の領主令嬢よりアリソン商会の支店の店主のほうがどう見ても金持ちだろ! 」


十個も下の可愛いエルフの男の子に好意を寄せられるのは嬉しいのだが、姉弟そろって失礼である。


「ばっかね~~。マリオンは気立てが良くて可愛いんだから、十も年下のあんたなんてお呼びじゃないわよ。でも、アリソン商会の嫁に来た時については否定しないけど 」


貧乏領なのでお金については全く否定できないのが悔しいところだが、それよりも引っかかる発言があった。

『気立てが良くて可愛い』である。これが、『可愛いくて気立てが良い』ならな引っかかることもなかった。

しかし、これではやはり男の子達が言っていた所謂『性格が可愛い』という意味なのは本当だったようだ。

自分が総じて美形のエルフであるルイザより劣っているのは理解していたが、性格が可愛い、と言われるとやっぱりちょっと悲しかった。


「貧乏領で悪かったね…呼び捨ては別にかまわないけど、年下に興味はないんでごめんね~クレル 」


ちょっと意地悪く言ったのは八つ当たりではない。たぶん。


「はい、失恋決定! あんた顔は悪くないんだから、年にあった違う子みつけなさい~ 」

「うううう…姉貴の馬鹿! 」

「馬鹿じゃないので、痛くも痒くもありませーーーん。頭の良し悪しでいったら私のほうが断然いいし。子供は年上の話に入ってこないでください 」


姉弟二人の喧嘩は見慣れているので気にならないが、今回のルイザはいささかクレルをいじめすぎのような気もする。

そんなクレルはというと、顔を下に向け拳を握り締めて体を小さく震わせている。

ああ、これは面倒なことになるからそろそろ止めようか、なんて思っているとクレルが顔を真っ赤にして叫んだ。


「うるせーー! 姉貴だって美人って言ってるわりに彼氏の一人や二人いねえだろ! マリオンもマリオンだ! 年下って馬鹿にしてっ――――こんなもん! 」


怒りのまま叫んだクレルはマリオンから白いリボンを奪うと、店の裏手にある大きな木―― 昔ルイザと自分が一緒につくった秘密基地であるツリーハウス ――へとのぼっていった。


「こら! 何してるの! そのツリーハウスはこの間から入っちゃダメって言ったでしょう! 」


ルイザも負けじと怒鳴りながら危険な場所に足を踏み入れた弟を叱り飛ばす。


「うるせーよ!! 姉貴には関係ないだろっ。どうせ、俺なんかガキなんだか――――うわぁああ! 」


反抗しながらツリーハウスの床を後ずさりしていたクレルの叫び声に、マリオンの体が反応した。

十年くらい前につくったツリーハウスの床や手すりは、風雨に晒され一部が腐っていた為、修理するまで立ち入りを禁止されていたのだが、怒りに任せて危険な場所に行ったクレルは、よりによってその腐った部分を踏み抜いたのだった。

木にかけられた梯子を文字通り素早く上ったマリオンは、今にも落ちそうなクレルの腕をとると思い切り引っ張りあげた。


「こらっ! クレル! いくらなんでも入っていいところと駄目な所の区別はつくでしょ! 死にたいの!? 」


ついきつく咎めてしまったが、本当に落ちたら死んでしまうかもしれないのだ。

マリオンの言葉を聞き、クレルは口を歪めるとそのまま項垂れた。

肩を震わせながら涙を落としたクレルをぎゅっと抱きしめて囁いた。


「ねぇクレル。クレルは私にとってレナードと同じくらい大事なんだからね……ルイザだってクレルに何かあったら泣いちゃうよ 」


いつの間にか小雨が降り出していた。

ツリーハウスの足元では、真っ青な顔色で瞳に涙を溜めているルイザの姿があった。


「ごっ…ごめ、えん……な、さぁいぃ…… 」


しゃくり上げながら謝るクレルの頭を撫でると、下のルイザに向かって声をかける。


「ルイザ! クレルは一人じゃ降りられないだろうし、雨だから私だけで下ろすのは難しいと思う。すぐに男の人を呼んできて 」

「わ、わかったわっ!! 」


ルイザを見送った後、もう一度クレルの頭を撫でた。

そうしている内に下が騒がしくなり、商会で雇われている村人が急いで梯子を上がってきた。


「マリオン様! クレル坊ちゃんをこちらへ… 」

「えぇ。お願いするわ 」


クレルはマリオンから離れる瞬間、体を強張らせたが男の手を取るとそのまま下へと連れて行かれた。


「マリオーーーン! あなたも危ないから、早く降りてきて 」


下から叫ぶルイザに返事をしながら、梯子に足をかけ何段か下りた時、クレルが踏み抜いた床の手前にリボンが落ちているのに気づいた。


「うわ~忘れるとこだった。ルイザちょっと待ってリボン取ったらすぐに下りるから 」

「リボンなんて何本もあるんだから、修理したあとで拾えばいいじゃない 」

「そうなんだけど、でもこれ気に入ってるんだ。大丈夫だからちょっと待ってて 」


マリオンは再びツリーハウスに上がると床に落ちたリボンを右手で拾い上げた。

幸い屋根のあるところだったので雨には濡れてなかったようだ。


(うん、やっぱり綺麗だな~。帰ったら着替えて着けてみよう )


そんな風に考えながら先程と同じように梯子に足をかけたところで、このまま手に持って下りると折角のリボンが雨で濡れてしまうかも…と思い至る。

じゃあ、とりあえず懐にでも入れておこうと反対の手に持ち替えたその時だった。


バキン――――!


足元で鈍い音が響いたかと思うと、自分の体が一気に浮遊感に襲われる。

梯子の踏み板まで傷んでいたとは思わなかった。


(落ちる――――! )


そう思ったのも束の間、恐怖でギュッと目を瞑ってしまった。為す術もないまま体は重力に引っ張られていく。

建物の屋根程の高さから落ちるのだから無事ではないだろうとか、雨でリボンが濡れてしまうだとか、絶対母上に怒られてしまうだろうなとか。

そんなどうでもいいことばかりが、脳裏をよぎっていった。


「マリオン!!  」


ドサッという音と共に、背中と後頭部に痛みを感じた。

どこか遠くのほうで誰かが何か叫んでいるのがわかったが、マリオンはそのまま意識を手放した。


―――――――


そして次に目が覚めた時、痛みと草土の匂いと青い空を感じ、ついでに知らない森と村がマリオンの目の前に存在していた。


やっとプロローグに追いつきました。

次回からやっと少年を出せそうです。


3/18 文章訂正済 長文のため分割しました。

3/21 言い回しがおかしいところを修正しました。

    サブタイトルに文字を入れました。

7/ 7 文章訂正しました(記載ミス)

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