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2.回想 その2

弟達と別れると早速村の中心へと足を向ける。途中、気持ちの良い風が頬を撫でていく。

その風は少し湿り気を帯びていて、もう少ししたら雨が降りそうだなと考えながら足を進める。

心なしかいつもより足が速く感じるにはわけがあった。修行に向かう時と違い、今向かっている場所へ行く時はいつも心が弾んでしまう。

クレド村はのんびりした所―― つまり田舎 ――なのだか、その村の中で一際賑わっているのがマリオンの向かっている『アリソン商会』だ。

村人の生活雑貨から旅人向けの商品まで、多種多様なものを取り扱っているこの商会はリードガルフに支店を何店舗も持つ有名な店で、ここにあるのは『クレド村支店』である。

本店はここから十日ばかり離れた王都にあるのだが、アリソン商会は商売に熱心な為か、週に一度は仕入れが入る。

楽しみの少ない田舎で、少しではあるが常に目新しいものを見ることが出来るアリソン商会はクレド村の娯楽の一つと言ってよい。

マリオンとて例外ではなく、常に新し物を見るのは楽しくて仕方ないが、今回の目的はそれとは別だった。

アリソン商会は村の中心部にあり、詰め所からは少し距離があるのだが、心弾んで足取りも更に軽かったのか、目指す店にはあっという間に着いた。

店から離れた所で、店の軒下に約束していた人物を見つけると、いつものように手を振って合図をした。


「もう! やっときたわね。遅いよ、マリオン 」

「ごめんごめん。でも、修行してから来るつもりだったんだから予定よりはだいぶ早いでしょ 」

「修行なんてやめちゃえばいいのに。いつまでもそんな格好してないでもう少しお洒落に気を使ったら? 」


そう言ってテーブルに頬杖つきながら、マリオンの格好を上から下までゆっくり見たのは親友のルイザだ。

毎週決まった曜日に二人でお茶をする約束をしているのだが、如何せん彼女はマリオンの格好に厳しい。

マリオンは苦笑しながらも、テーブルを挟みルイザの前のいつもの椅子にさっと腰を下ろした。

そしてこれまたいつものように既に用意されていたカップを手に取ると、慣れた様子でお茶を注ぐ。


「ほんと、マリオンって損してるわ。すっごくかわいい顔してるのに、どうして毎回そんな形をしているわけ? まぁ今の格好で見ると『ウワーステキ、アノ殿方 』って言われちゃうだろうけどね 」 

「…… 」


毎度痛いところを突いてくる親友である。

いつも修行をした後この店にくるマリオンの格好は何処からどう見ても修行服…いや男装だ。

修行があるのだからスカートなんて動きにくいと何度も説明しているのだが、ルイザは毎度同じことを言う。

マリオンとてスカートは嫌いじゃない。寧ろ女の子なので可愛い格好は好きだ。大好きだ。

しかし、スカートだとやはり修行で動きにくい上、汚れが気になってしまう。それを考えてしまうと、結局毎回男装になるのだ。


因みに本人を目の前に言いたい放題言ってくれる、そんな彼女はというと金髪碧眼のエルフの美少女だ。

ルイザはふんわりとしたスカートを好んでいて、自分を魅せる服をお洒落に着こなしたその姿も相まって、村の誰からも美人だと言われている。

しかもスタイル抜群ときていて、更には性格もサッパリしている為、男女問わず人気者なのだ。


そんな彼女に『すっごくかわいい』なんて言われても正直信用できない。

村の幼馴染の男の子達から聞いた話によると、女友達の『かわいい』は性格込みらしい。

つまり顔は普通か、もしくはそんなに顔はよくないけれどどちらも性格は『かわいい』ということなのだそうだ。

だから引く手数多で、尚且つ自他共に認める美人な親友に『かわいい』といわれてもマリオンは話半分、適当に相槌を打つのがいつものことだった。


「ルイザだけだよ。かわいいなんていってくれるの。でもありがとう 」

「…本気で言ってるんですけど? その真っ直ぐで黒い髪も、綺麗な菫色の瞳も、邪魔にならない胸もうらやましいのに 」

「胸のことはほっといて。というか、私はルイザの金髪碧眼が断然羨ましいんですけど? 村の男の子達なんていつもルイザ見てるよ。ついでにいうとその胸も羨ましいけど 」


大きくため息をついて本音を漏らすと、何故かルイザは目を見開き、ふいと横を向き手を口に当てる。


「え? この子馬鹿なの? 私はもちろん美人だからわかってるけど、あなたも一緒に見られてるって気づいてないの? ほんと馬鹿なの? 」


何かブツブツ言っているようだがマリオンは首を傾げてお茶をすすった。


「何をブツブツ言ってるの? それにしても、今日のリボンかわいいね。いままで見たことなかったけど新しいの? 」


ルイザがおかしいのはいつものことなのでそこは放置するとして、思い出したように口を開くと、ハーフアップにしている親友の髪によく似合っている赤いリボンに目をやった。

金髪で色の白い彼女に、その赤いリボンが良く映えている。

しかもそのリボンはそこいら辺で手に入るようなただのリボンではなくて、透かし模様が入った珍しいリボンだった。


「でしょ! ほら、うちの一族って一応この国では大きめ目な商会開いてるじゃない? 」


大き目って、それは謙遜しすぎだろうと思う。

むしろリードガルフ一の商会と言っても過言ではないのだが、ルイザは気にせず続けている。


「あ。それでね、商会の仕入れ担当って叔父様なんだけど、その叔父様が私にくれたんだよ。しかもほら、見て見て… 」


そういってマリオンの前に差し出したのは、ルイザと同じ形だか色が真っ白なリボンだ。

色が白ということもあって、透かし模様がとても繊細でマリオンはついため息をついてしまった。


「………うわぁ……、すっごく綺麗だね 」

「これ、叔父様が良かったらマリオンにって。いや、ほんとマリオンさえ良かったら…なんだけどね 」


そう言って渡されたリボンの素敵具合に慌ててしまい、そのままルイザに返した。


「ちょ、ちょっと! ダメだよ。お世話になってるのはむしろこっちだし、それにこんな綺麗なリボン、高そうで貰えないよ 」


慌てるマリオンに苦笑しながら、ルイザはもう一度マリオンの手にリボンを握らせた。


「ほんと気にしないで貰って。実はね、このリボン… 」


ルイザはマリオンの手にあったリボンの裏を指差した。


「ここ見て。ほら、このリボンの端っこにあるでしょ 」

「ん…? えーと『イーサン・アリソン』…、ってルイザの叔父様じゃない? どうしてここに名前のタグがあるの? 」


リボンの裏にあるタグを指でなぞりながらルイザを見ると、ルイザは頬杖をついて嘆息した。


「……今ね、王都の本店とか、大きめの店舗でこのリボンを売り出し中なわけよ。『愛しい人の名前と共にいつまでも』って煽り文句でね 」

「えーと、叔父様って奥様いらっしゃったよね? 」

「いるいる。で、叔父様ったら『売り物はどんどん身に着けてお客さんに見せるべき! 』とか言っちゃって、叔母様に大量のリボンを送ったわけよ 」

「大量のリボン… 」

「そう、大量のね…。叔母様も困るほどの量だったらしいわ。だから、よかったら貰ってくれって…」


ルイザは自分のリボンを外して裏を見せてくれる。確かに同じ名前のタグが同じようについている。


「叔父様良い人なんだけど、叔母様への愛がとどまるところをしらないというか… 」

「エルフだしね… 」

「そうなのよ! エルフだから自分の愛する人には色々してあげたいっていう気持ちが人様より強い、ってのもわかるんだけどね。それにしても、という程だったらしいわ 」

「そういう理由でね~ 」

「だから、叔父様と叔母様の平和な夫婦生活の為……、ついでにアリソン商会の新商品の宣伝の為に、これ貰って! 」


何処までも商魂逞しい親友が上目遣いで拝んでいる。親友は自分の長所を知った上でこうやっているので、知らない人がみたらイチコロだろうなと思わず苦笑が零れた。

でもまぁ、そういうことなら遠慮なく貰ってもいいかな、なんて思ってしまった。

リボンを手にとってじっくりと眺めると、やっぱり透かし模様が綺麗だと感嘆した。

実は一目見たときから気に入っていたのだ。マリオンはリボンを雲の隙間から漏れた太陽の光に透かすと目を細めた。




ブクマありがとうございます。あなたは神様ですか?


3/18 文章訂正済 長文だったので分割しました

3/21 言い回しがおかしいところを修正しました。

    サブタイトルに文字を入れました。

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