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宇宙改変ブロガー 姫鷺”神”蜜愛  作者: 沙φ亜竜
第5章 蜜愛、引きこもる。
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-2-

 今日も喫茶店にて、宇宙人たちが熱い会議を繰り広げていた。

 彼らのテーブルには当然のように、各々が注文した品が並んでいる。

 沙羅双樹の前にはコーヒー、獅子春人の前にはクリームソーダ、そして瑠璃月の前にはドラム缶プリン。


 ドラム缶といっても、実際に業務用として使われるようなものではなく、一応テーブルの上に乗っかるサイズとなっている。

 それでも十リットルは軽く超えるくらいの容量があるに違いない。

 存在感ありすぎだ。


 というかこの喫茶店、いったいどんな大盛り自慢の店なのだろうか。


「ドラム缶プリンって……いったいどうやって作ったんだろう……」

「っていうか、こんなに大量なの、本当に食べる気かよ!?」


 男性陣が圧倒される中、瑠璃月本人は涼しい顔でプリンを食べ進める。

 ……と言うべきか、飲み進めると言うべきか。

 大きなスプーンですくってはいるが、口の中に流し込んでいるようなものだった。


「美味しいですわよ?」


 座ったままでは無理なため、瑠璃月は椅子から立ち上がってドラム缶をのぞき込む感じの格好でパクついている。


「うえっ……! 見てるこっちのほうが吐きそうだぜ!」

「吐くならドラム缶の中に……」

「そんなことをしたら、殺しますわよ?」


 まぁ、なんというか。

 現状は全然会議とは呼べない、単なる大食い選手権であった。

 参加者は一名のみだが。




 しばらくして、ドラム缶の上側三分の一くらいのプリンをたいらげたところで、瑠璃月が席に腰を落ち着ける。

 一気に食べ尽くすことまではできなかったようだ。

 底のほうのプリンはどうやって食べるつもりなのだろう、といったツッコミはこの際、入れないでおくとして。

 これでようやく会議の幕が開くことになる……かと思いきや。


「少々、おトイレに……」


 瑠璃月が口を押さえ、青い顔で席を立つ。


「なんだよ、やっぱり無理してたんじゃねぇか!」

「そうみたいだね」


 苦笑いを浮かべるしかない男性陣だった。




 仕切り直して、今度こそ会議スタート。

 議題はもちろん、『ゴッド』こと、蜜愛について。

 まーちゃんが現れたせいで、状況はかなり悪くなっていると言える。

 小説の更新が止まってしまっているからだ。


 蜜愛がブログにアップする小説によって、宇宙の改変が行われてしまう。

 ならば、小説がアップされないことは、むしろ改変が起こらずに平穏とも言えるのではないか。

 そんなふうに安易に考えがちだが、実際には悪影響しか及ぼさない可能性が高い。


 確かに蜜愛の小説による改変は起こらなくなるのだが、更新されないと宇宙全体にわたって揺らぎが生じてしまう。

 つまりは、無意識に蜜愛が小説内にイメージしている現在の正しい宇宙の状態――無数の宇宙人部隊が侵略のために地球を取り囲みながらも、お互いの力の強さゆえにこう着状態が続いている、という事実すらも揺らぐ危険性があるのだ。


 蜜愛のイメージしている世界は、辺境の惑星にしか過ぎないはずの地球とその周辺の環境だけで、宇宙全体から見ればごく一部でしかないのは確かなのだが。

 たとえそうであっても、それが全宇宙に対して与える影響の大きさは決して無視できない。

 なぜなら、地球を取り囲む無数の部隊は、様々な星系からやってきているからだ。


 単なる侵略部隊、と軽く捉える見方もあるが、ほんの些細なほころびが引き金となって大きな事象へと発展してしまうのも、ままあることだろう。

 そんなわけで蜜愛のブログ小説の停止は、地球を取り巻く宇宙人たちの部隊にとって、決して軽んずることのできない事案となっていた。


「俺としては、放っておけばいいと思うんだがな」

「そうもいかないよ。懸念されているような大きな事象は、もしかしたら起こらないかもしれないけど。逆に更新の凍結によって、僕たち自身の時間が止まってしまう可能性だってある」

「どうなるかは、まさに神のみぞ知る、といったところですわね」

「いや、今回の場合、神さえも知らないと言うべきかもしれないね」

「だがよ、それならいったい、どうすればいいんだ?」

「う~ん……」


 答えが出るはずもない。

 しかも悪い状況は、蜜愛の小説更新が止まってしまっていることだけに留まらない。


 蜜愛がどうやら体調を崩しているらしいことは感知しているのだが、宇宙人たちは積極的に接触する手段を持ち合わせていなかった。

 また、家の中にまで侵入していくという方法も使えない。

 たとえ宇宙人同士で激しく戦う力があろうと、テレポートしたり壁をすり抜けたりといった便利な能力はないのだ。


 微妙な能力は持ち合わせているのか、この宇宙人たちは蜜愛の携帯電話の番号を知っていたりする。

 だからといって、今の蜜愛が出るはずもない。

 実際に瑠璃月が何度かかけてはいるものの、未登録だからなのか、気分が沈んでいるからなのか、出る気配はなかった。


 宇宙人たちとしては、どうにかして小説を更新させるように促したいところだが、蜜愛に直接会うことができなければどうしようもない。

 さらに悪いことに、今の蜜愛は体調だけでなく精神的にも弱っている。

 友人であるゆゆとの溝が原因だ。


 仮に体調がよくなったとしても、気分が乗らなければ、小説の更新もなされないだろう。

 下手をすれば、このままブログをやめてしまうといったことも考えられる。


 凍結どころか、ブログ自体を削除してしまったら、宇宙はどうなってしまうのか。

 内容を修正しても変わらなかったことを考慮すれば、直接的な問題はないかもしれない。

 しかし、そうなった時点で未来は完全になくなってしまうとも言える。永遠に更新されることがなくなってしまうのだから。


 問題は山積。対処法すら見つからない。

 三人とも頭をフル回転させて解決するための案を次々と提示してはいるが、どれも決定打にならない。

 それどころか、必ずどこかに問題点が生じてしまう。


 会議は平行線のまま、そしてなんの成果も得られないまま、なし崩し的に終了を迎えてしまった。

 ……なお、そのあと瑠璃月はしっかりとドラム缶プリンを完食した、ということだけ追記しておこう。




 もしなにも悪いことが起こらないのであれば、それに越したことはない。

 そんな願望にも似た思いを抱いていた三人だったが。

 状況は悪化の一途を遂げていく。


 実際にいくつかの宇宙人部隊が消えてしまったのだ。


 詳細はわかっていない。

 ただ、待機している侵略部隊からの通信を聞く限りでは、力の弱い部隊から順に消えているような感じだった。

 地球を取り囲んでいる部隊はそれこそ無数にある。

 とはいえ、いつ自分たちも消えてしまうか、わかったものではない。

 もはや一刻の猶予もないのだ。


「くそっ! どうすりゃいいんだ!?」

「焦ってもどうにもなりませんわよ? まずは落ち着いて糖分の補給でも……」

「てめぇは糖分取りすぎだ! 絶対に贅肉だらけだろ!」

「なんですって!? わたくしのナイスバディーを、ご覧に入れましょうか!?」

「はははは、瑠璃月さん、こんなところで脱ごうとしないでよ」


 三人がいるのは言うまでもなく、いつもの喫茶店。

 瑠璃月が注文したメニューは、珍しく普通サイズの抹茶アイスだけだった。

 意外と、前回プリンを食べ過ぎたことを後悔しているのかもしれない。


「お前ら、こんなときでも騒がしいな」


 そんな彼らのもとに、性懲りもなくまーちゃんが姿を現した。

 だがその顔は、元気どころか生気すらも感じられないほど、やつれまくっている。


「おいおい、どうしちまったんだ?」

「…………うっ」


 真っ赤な顔で懸命に耐えてはいるようだったが、やがて堪えきれなくなったのだろう、まーちゃんは大声を上げて泣き出してしまった。


 しばらくして泣き止んだまーちゃんは、その理由を切々と語り始めた。

 まーちゃんたちの部隊も、今起こっている異変を確認していたらしい。

 それも、ごく身近な場所で……。

 周辺に待機していた部隊が消えていったのだ。


 自分たちとほぼ互角と思われる部隊が次々と消滅していき、今ではもう、近い距離に待機している部隊はまったくいない状態となってしまった。

 次に消えるとしたら、おそらくは自分たちの部隊だ。

 そういった予測が立てられているのだという。


「アタイ、消えたくなんかないのだ! うわぁ~~~~ん!」


 再び泣き声を響かせ始めたまーちゃんに、獅子春人はどうしたらいいのかわからず、ひたすら慌てふためくばかり。

 沙羅双樹も苦笑を浮かべるのみで、なにもできはしなかった。

 こういう場合、男というのは無力だ。


 瑠璃月も動揺してはいた。

 ともあれ、ここで自分まで落ち着きを失くしては、まーちゃんに余計な不安を与える結果にしかならない。


 こうして自分たちの目の前に現れたのは、自らの部隊では手の打ちようがなく、どうにもできない状況だからに違いない。

 完全に敵対視している自分たちを――殺そうとまでしたことのある自分たちを、恥も外聞もなく頼ってきている。


 自分勝手だと非難されるかもしれない。

 にもかかわらず、もはや頼れるのはここだけしかない、と考えて出向いてきたのだろう。

 瑠璃月はそっと、まーちゃんを抱きしめた。


「大丈夫、わたくしたちがついていますわよ」


 根拠などなかった。

 それでも、自分たちがどうにかしなければならない、という思いだけは湧き上がっきていた。


 瑠璃月は強い決意を込めた鋭い視線を、獅子春人と沙羅双樹に送る。

 ふたりとも、黙って頷いた。

 宇宙人たちの気持ちは今、ひとつに重なった。


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