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朝。
清々しい朝。
蜜愛とゆゆのあいだでは、胸揉みの朝。
というわけで、毎度毎度のお約束。
「ミッツ、おっぱ~!」
「きゃうっ! ゆゆちー、おはよう~!」
なんというか、蜜愛のほうも揉まれることに慣れてきているのではなかろうか。
「おや? ミッツ、おっぱい、またしぼんだ?」
「し……しぼむわけない~!」
「ああ、そっか! あたしの胸が大きくなったから、小さく思えたんだ!」
「単なる自慢!? っていうか、まだ成長してるの!?」
「にゅふふっ! ブイッ! ブイッ! ビシソワーズ!」
「ビシソワーズ!?」
「でも同い年だし、成長が止まってないほうが、ミッツ自身の未来のためにもいいんじゃない?」
「うっ……一理あるかも……」
「ま、ミッツの胸の成長に限っては、完全に止まっちゃってるけど!」
「ちょ……っ!? どうしてよ~!?」
「そりゃあ、あたしがこうして毎朝、大きくならないように呪いをかけてるからだ!」
「きゃ~~~~っ! やめて~~~~~!」
今日もやっぱり、騒がしいふたりだった。
と、そんなふたりの前に、もっと騒がしい人物が立ち塞がる。
「ふっふっふ! また会ったな、貧乳女!」
「ひ……貧乳って言うなぁ~! っていうか、かろうじてBなんだもん! 貧しくなんかないよ! っていうか、そっちこそペッタンコじゃないの!」
必死の抵抗を試みる蜜愛。もっとも、無駄な抵抗だとは思うのだが。
それはともかく、ふたりの前に立ち塞がったのはもちろん、見た目も頭脳も小学生、その名は魔雅烈斗――通称まーちゃんに他ならない。
そんな中、蜜愛の若干貧しい乳を揉みしだいていたゆゆだが、いつの間にか手を離していた。
そして、なにやらキラキラした瞳をまーちゃんへと向けている。
「な……なによ、あの可愛らしい生き物は!? 天使!? 妖精!? はたまたジュゴン!?」
「なぜにジュゴン……? っていうか、ジュゴンって可愛らしいかな?」
「可愛らしいわよ!」
まぁ、個人の趣味にはとやかく言うまい。
実際、人魚のモデルになったとも言われるくらいだから、どちらかといえば可愛らしい部類に入ると言えなくもないわけだし。
だが……。
「それを言うなら、マナティのほうが可愛らしいよ!」
蜜愛の反論も、充分におかしなものだった。
ジュゴンだろうとマナティだろうと、天使や妖精と同列に据えられる存在では決してない。
それはともかく。
天使だか妖精だか、ゆゆいわくジュゴンだか、そんな可愛らしさをたたえた少女のもとに、魔の手が迫る。
理性を失った虚ろな目のゆゆが、荒い息を吐きながら思いっきり抱きしめようと近寄っていたのである。
ただ、そんなゆゆの腕の中に、まーちゃんの小柄な体が収まることはなかった。
「……あれ?」
近寄っていったはずのゆゆの体は、どういうわけだか地面に仰向けの状態で横たわっていた。
あとから襲いかかってくる、激しい痛み。
そこでようやく、ゆゆは自分が投げ飛ばされたことに気づく。
見た目は小学生、しかも低学年くらいと思えるほど小さな女の子。
だというのに、蜜愛より軽いとはいえ高校生である自分が、こうも易々と投げ飛ばされるとは。
にわかには信じられなかったものの、背中の痛みはそれが現実だと端的に示していた。
「あ……ぐ……っ!」
声も出せないほどの激痛によって、今さらながらにもだえ苦しむゆゆ。
「邪魔だ、デカ乳女!」
まーちゃんはそう言い捨てると、次のターゲットとして蜜愛をロックオン。
一気に間合いを詰める。
「ひっ……!」
蜜愛に、対処できるすべなどあろうはずもない。
ふところに入り込んだまーちゃんは、そのまま蜜愛を担ぎ上げようとする。
見た目からして大変そう、と思うことなかれ。
ゆゆを軽々と投げ飛ばした力を考えれば、おそらく車くらいなら持ち上げられるに違いない。
そんな予想は、ものの見事に外れてしまう。
「ぐあっ!?」
どさり、と。
鈍い音を立てて、まーちゃんは潰れた。
蜜愛の体によって押し潰されるような形で、その場に倒れ込んでしまったのだ。
「あ……大丈夫……?」
担ぎ上げられかけていた蜜愛のほうが、思わず心配の声をかける。
「くっ……この、ぬぼーっとでっかい、でくの坊女め! お前、重すぎじゃ!」
「うう、でくの坊なんて、ひどい……。そこまで大きくはないのに~。それに、重いとか言わないで~! 確かにおなかのお肉は、ちょっとだけ、たぷんたぷんしてきちゃってるけど……」
蜜愛の気分が沈み込むと、さらにまーちゃんも深く押し潰されていく。
「精神的に重いんじゃ、ボケェ!」
「えっ? 精神的に……?」
キョトンとした、その一瞬の隙を突いて、まーちゃんは蜜愛の下から這い出る。
「一旦、出直すのだ!」
こうして、嵐のように現れたうるさい少女は、嵐のごとく去っていった。
「なに? あれ……」
背中の痛みから立ち直ったゆゆが問いかけてくる。
どうにか無事だったようだ。
「昨日、沙羅さんたちと一緒にいるときにも現れたの。最強のファイターって言ってた」
「ファイター? 意味わからないけど、でも、確かに力は強かったわね」
背中をさすりながら先ほどの状況を思い返すも、ゆゆにはやはり、どうなったのかサッパリだった。
「それよりさ、ミッツを連れていこうとしてなかった?」
「う~ん、そうかも……?」
「出直すって言ってたからには、また来るはずよね。気をつけないと……」
「でも、どうやって気をつければいいのかな?」
ふたりに、答えは出せなかった。
ただひとつだけ、確実な答えがある。
それは――。
ここで無情にも鳴り響く予鈴の音。
「きゃ~、また!」
「くっ……! ミッツ、走るよ!」
「うん!」
確実な答え――それは、いつものように学校へと向かって全力疾走する羽目になる、ということだった。




