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放課後となり、いつもどおり日課のようになっている散歩へと出かけた蜜愛。
今日は珍しく少し遠出をして、隣町の公園まで繰り出していた。
噴水や芝生、花で飾られた時計など、住宅地の中にある児童公園とは明らかに違った雰囲気に包まれた、敷地面積も広めの公園だ。
ベンチや街灯なんかも設置されていて、夜ともなればカップルがいちゃいちゃする姿も見られる、そんな場所となっている。
もちろん今はまだ日の傾き方も浅い時間帯のため、周囲に響くのは子供たちの明るい声がメインだったりするのだが。
さて、遠出をした蜜愛ではあったが、いつもの宇宙人三人組はこんな場所でもしっかりと現れる。
「ほんと、偶然ですね~!」
「うん、そうだね」
いつまで、こんな挨拶で会話がスタートする状況が続くのやら。
蜜愛のことだから、ずっとこのままという可能性も高い……どころか、確実にそうなると断言してもいいくらいだろう。
宇宙人たちは、当然ながら警戒している。
前日にアップされた小説に書かれていた、新たな刺客のことを。
単なるフィクションでしかない小説ではあっても、蜜愛のブログにアップされた場合、実際に宇宙が改変されて現実となる。
これまでの経験上、それはおそらく間違いない。
完全に小説のとおりになっているとは言いきれない部分もあるが、それでも刺客が来ることはほぼ決定済みと思っていい。
しかも今回、刺客は宇宙人たちだけでなく、『私』をも巻き込むとはっきりと示されていた。
そのため、沙羅双樹たちはいつもの喫茶店にて蜜愛をガードする算段を立てた。
どのタイミングで刺客が現れるかはわからない。
だが、まずは蜜愛本人ではなく、沙羅双樹たち三人に接触してくるに違いない。
そこで蜜愛の存在を認識し、巻き込んでいく形になるだろう。
小説の文章からそういった予測はできたものの、だからといって刺客と蜜愛を会わせない、という選択肢はありえなかった。
仮に宇宙人たちがしばらく蜜愛との接触を絶ったとしても、いずれはつながりを持ってしまうはずだ。
ならば、なるべく自分たちと一緒にいたほうが、まだ安全を確保だと考えられる。
そこで宇宙人たちは蜜愛の気配を探し、ここまでやってきた。
蜜愛の散歩コースは、完全に気紛れによって決まる。
獅子春人に言わせれば、毎回同じコースにしとけよ! といった感じだが。
イメージを膨らませるための散歩なのだから、周囲の景色が変わるのは必須の要素と言っても過言ではない。
そんなわけで、喫茶店での会議を終えたあとは、微かに感じる気配を追いながら、結構必死になって蜜愛の姿を探していたというのが真相だったりする。
宇宙人たちが『ゴッド』と呼んで特別視し、ブログによって宇宙規模での改変を起こしている可能性まであるとはいえ、基本的に蜜愛は普通の女子高生に過ぎない。
何度も接触していることもあり、微かな気配をたどることに慣れてきてはいるが、それでも蜜愛を探し出すために意外と苦労しているのだ。
そんなこととは露とも知らず、蜜愛は偶然の出会いに相好を崩している。
「あっ、そうだ。蜜愛さん、今日学校でおかしなこととか、起こらなかった?」
「いえ、とくには……。ゆゆちーが宿題を忘れて廊下に立たされたりはしてましたけど」
「はぁ!? なんだよそりゃ! 意味わかんねぇな!」
「う~ん、うちの学校の先生って、結構そういうことをするんですよね~」
「お前らがバカすぎるからなんじゃねぇのか?」
「そ……そんなことないですよ~。……たぶん」
「ふふっ。ですが、ゆゆさんとゴッド――いえ、蜜愛さんって、すごく仲がよろしいですわよね」
「うん、僕もそう思う。一緒にいるとき、いつも楽しそうにしてるよね」
「え~? そりゃあ、中学一年のときから三年以上ずっと一緒だし、確かに仲はいいと思いますけど、いきなり胸を揉んできたりするし、私をバカにすることも多いし……。もうちょっと優しく接してくれてもいいのに、って思うんですよね~」
「ふふっ、仲がいいからこそ、遠慮のない言動ができる、ということですわよ」
「……その説でいくと、レオさんと瑠璃月さんも仲よしってことになりますよね?」
「それは違う!」「それは違いますわ!」
蜜愛の指摘に、息ピッタリな反応のふたり。
「こんないけ好かねぇ女なんかと、仲がいいわけねぇだろ!?」「こんな野蛮人なんかと、仲がいいわけないでしょう!?」
続けられた言葉も、ほぼピッタリ重なっていた。
「はいはい、わかりました」
「おいっ! わかってねぇだろ!?」「蜜愛さん! ふざけないでくださいませ!」
息巻いて必死に否定してくるふたりに、蜜愛と沙羅双樹は生温かい視線を伴った笑顔を向けるのだった。
と、不意に。
地面が消し飛んだ。
「???」
意味がわからず呆然とする蜜愛は、沙羅双樹に抱きかかえられ、宙を舞っていた。
同じように獅子春人と瑠璃月も飛びすさり、別の場所へと着地する。
消し飛んだ地面は無残にもえぐり取られ、直径も深さも数メートルはあろうかという大穴が開いていた。
土煙がもうもうと舞い上がるその向こうから、声が響いてくる。
「ふっ、よく避けたな、お前ら!」
やがて土煙は薄れ、声の主が姿を現した。
そこに立っていたのは――。
「女の子?」
そう、推定年齢八歳程度と思われる、赤いランドセルがとてもよく似合いそうな、小さな女の子だった。
とはいえ、先ほどのセリフをかんがみるに、地面を吹き飛ばしたのは紛れもなくこの女の子だ。
油断できる状況ではない。
などとはまったく考えない能天気娘、それが姫鷺蜜愛という女子高生で。
「か……可愛い~~~~っ!」
女の子の姿を見るなり、警戒心のかけらもない黄色い声を上げていた。
その子がすぐそばにいたら、間違いなく抱きつき、頬ずりなんかもしていたことだろう。
「可愛い言うな! アタイは最強のファイターだじょ!」
「うわっ! アタイだって! だじょ、だって! あ~んもう、可愛すぎて萌え死んぢゃう~~~~!」
蜜愛は、胸の前で手のひらの根もと辺りを合わせ、ブリッコポーズで腰をくねくねと気色悪く揺らしていた。
もしこの場にゆゆがいたら、確実に鋭いツッコミを入れているはずだ。
……いや、一緒になって萌えまくっているかもしれないが。
「バカ野郎! さっきの攻撃を見てなかったのか!? あいつ……強いぞ!」
「うん、そうだね……」
一方の男性陣ふたりは、じっとりとした汗を垂らしていた。
女の子は余裕の表情で両腕を組み、蜜愛よりも膨らみの少ない小さな胸をこれでもかと言わんばかりに張っている。
「アタイは魔雅烈斗! 字はこう書く!」
なぜかわざわざ和紙に筆で書かれた力強い文字を見せながら叫ぶ女の子。
「……暴走族みたいね」
とは、蜜愛の感想だ。
さすがに可愛さに目を奪われている状態からは脱しているものの、強いと言われても緊張感はなく、随分と余裕があるようだ。
相手がどう考えても強そうに見えないのだから、それも当然と言えなくもないのだが。
「とりあえず、まーちゃんと呼びたまえ! アタイは強いんだじょ! お前ら全員、泣かしてやるのだ!」
和紙を投げ捨てた魔雅烈斗――いや、まーちゃんは、ビシッと人差し指を蜜愛たちのいるほうへ向けて宣言する。
と同時に、まーちゃんを中心として、風なのかオーラなのか判別のつかない渦が発生し、周囲の土やホコリなどを巻き上げていく。
ここまで来れば、いかに危機意識の足りない蜜愛であっても「ヤバイ」という感覚が芽生えてくる。
蜜愛、沙羅双樹、獅子春人の三人は、動くこともできず、まーちゃんを睨み返すのみ。
そして残ったひとり、瑠璃月はというと……。
「はい、お疲れ様」
ゴンッ!
いつの間にやらまーちゃんの背後へと回り、脳天から稲妻のごとくゲンコツを落としていた。
「びーーーーーっ!」
まーちゃんの声は一瞬にして泣き声へと変わる。
マンガのように大量の涙を噴出させ、甲高い音で繰り出される泣き声は、超音波攻撃かとも思えるほどだった。
「ちくしょ~~っ! 覚えてろ~~! デスティニーダイアリーは、絶対にアタイがいただくのだ~~!」
そんな涙まじりの捨てゼリフを吐いて、嵐のような女の子はあっさりと退散していく。
「デスティニーダイアリー……?」
それにより、蜜愛だけでなく宇宙人たち三人の頭上にも、疑問符が浮かぶ結果となるのだった。




