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翌日の朝。
朝、ということは当然ながら……。
「おっぱ~!」
「きゃうっ!」
このように相変わらずの光景が繰り広げられることになる。
言うまでもなく、背後から迫ってきたゆゆが蜜愛の胸を揉みしだき始めたのだ。
「おっ、こないだ吸い取ったから、Aカップにしぼんだか?」
「し……しぼむはずない~!」
「でも、この揉み心地からするとAとしか思えない……。もしかしてギリギリBって結果が出て以来、ずっと測るのを拒んでるとか……?」
「うう……、悪かったわね~! 私の夢を壊さないで~!」
願望まじりの悲痛な叫び声を上げる蜜愛だった。
「ほんとに測ってないのか。無駄なあがきを……。むしろその一回がたまたま誤差でBになっただけなんじゃない?」
ゆゆは呆れ顔。だが、蜜愛にとっては切実な問題なのだろう。
「わーわーわー、聞こえない~~~!」
両耳を押さえてわーわーとわめき散らし、現実が突きつけられるのを全力で拒む。
そのあいだも、ゆゆの両手は蜜愛の自称Bカップ、推定Aカップの胸を揉み続けていた。
「そ……そんなことより!」
ここで蜜愛は、果敢にも反撃に転じる。
「沙羅さんのこと、あれだけ本気みたいだったのに、昨日は私の散歩についてこなかったよね。どうして~?」
「ん? まぁ、そりゃあね。最初に会ったときは、ビビビッと来た感じだったけど、時間が経ったから薄れたっていうの?」
「熱しやすくて冷めやすいんだ、ゆゆちー」
「写真でも撮ってあれば、毎日思い返して情熱を燃やし続けられるかもしれないけど!」
「撮ればいいんじゃ……」
「だって、写真を撮らせてほしいなんて言うの、恥ずかしいじゃないの!」
あんなにも積極的に体を密着させて絡みついていたのに、今さらどの口で恥ずかしいなんて言うのか。
蜜愛はそう思ったものの、それを口に出して指摘したりはしなかった。
恋愛関連だけじゃなく、目の前に目標があったら猪突猛進、そういう性格だということを、蜜愛はよくわかっているからだ。
そして、深く考え込み始めたら意外と臆病風に吹かれ、まったく行動を起こせなくなるというのも、これまたよく知っていた。
「だったら私が写真を撮って、ゆゆちーに送ろうか~?」
「い……いいよ、そこまでしなくても!」
「え~? 遠慮しなくてもいいのに~」
形勢は完全に逆転。
今度は蜜愛のほうが精神的優位に立っていた。
いまだに蜜愛の胸に伸ばされたゆゆの両手はそのままで、相変わらず揉み続けていたりするのだが。
それはともかく。
写真を撮る。
そんな話をしていたから、という理由もあったのかもしれない。
ふと、微かな音が聞こえてきた。
それは、蜜愛とゆゆがいる位置からでは、ほとんど聞き取ることもできないほど小さなものだった。
実際、蜜愛はまったく気づかなかった。
しかしゆゆの耳は、しっかりとその音を捉えていた。
「今、なにか音がしなかった?」
ゆゆは声のトーンを落とし、蜜愛に耳打ちする。
「えっ? べつに、なにも……」
そう答えながらも、周囲に神経を集中させる。
人影はない。
また今日も、遅刻ギリギリになってしまっているのだ。
ほどなく予鈴も鳴るに違いない。
だが、今はそれよりも優先すべきことがある。
ゆゆはそう考えた。
「こっちだ!」
ひとり、駆け出す。
曲がり角まで勢いよく飛び込み、その先に視線を向けたところで呆然と立ち尽くした。
「誰も……いないよ?」
すぐに追いついた蜜愛が問いかけるも、ゆゆの表情は晴れなかった。
「誰かがこの角からのぞいてたの! それに、さっきの音はカメラのシャッター音だった! ケータイのカメラの音かもしれないけど、写真を撮られてたのは確かよ!」
「ええっ!?」
そんなこと、あるはずない。
とは言いきれない。
なにせ蜜愛はこれまでにも、何度か視線を感じたりしていたのだから。
「もしかして、ストーカーとかじゃないの? こないだも、視線を感じるとか言ってたよね?」
「どうなのかな……。視線は確かに感じたことがあったけど……」
「あっ、ミッツじゃなくて、あたし狙いって可能性もあるのか」
身震いするゆゆの言葉を、蜜愛は否定する。
「視線は昨日、沙羅さんたち三人と一緒にいるときにも感じたよ? そのとき、ゆゆちーはいなかったし……」
「なるほど……。だとすると、ターゲットは確実にミッツか……」
アゴに指を添え、考え込むゆゆ。
「私のこと、心配してくれるんだね」
「当たり前でしょ? 友達なんだから」
ゆゆはそう言いながら……次の瞬間には蜜愛をグーで殴っていた。
「痛たたたた、どうして叩くの~?」
「思い出したら腹が立ってきたのよ! ブログの小説に書いてたあたしのイメージは、友達だとしてもやっぱり許せん!」
「ううう~~~~、まだ根に持ってるなんて、ゆゆちー全然冷めやすくない~!」
とはいえ、熱しやすいのは間違いないようだ。
そんなふたりの耳に、さらなる音が襲いかかる。
それはもちろん、予鈴のチャイム音で――。
「走るわよ!」
「うん!」
絶妙なチームワークで瞬時に走り出していたのは、さすがというべきか、毎朝懲りもせずに同じようなことをと呆れるべきか……。




