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沙羅双樹たちは、散歩に出ていた蜜愛といつものように接触した。
蜜愛は散歩コースをその日の気分で適当に決めている。
それなのに居場所がわかるのは、宇宙人たちが蜜愛の発する気配のようなものを、微かにではあるが感じ取れるからだ。
そういった部分からも、蜜愛は普通の人間とはなにか違っていると、うかがい知ることができる。
沙羅双樹に話しかけられた蜜愛は、わずかに頬を染めていた。
小説の中の話ではあるが、キスする寸前まで行った相手。
べつに異性として意識しているわけではないが、なんとなく気になってしまうものなのだろう。
友人のゆゆとは実際にキスする展開だったこともあり、勝手にあんな話にしてしまって申し訳ない、という気持ちも芽生えていたのかもしれない。
そんな蜜愛に、沙羅双樹はブログにアップした小説の修正を依頼した。
「え~? 一度書いたお話を直すのは、ちょっと……。それに、コメントだってついてますし……」
「そこをなんとか……」
案の定しぶる蜜愛に対して、沙羅双樹は必死に頭を下げる。
なかなか首を縦に振ってくれない蜜愛に郷を煮やしたのか、獅子春人は、
「けっ! こんな女、シメて力ずくで言うことを聞かせちまえばいいんだ!」
などと吐き捨ててつかみかかる構えを見せたが、すかさず瑠璃月によって蹴り飛ばされていた。
それでも、その瑠璃月までもが一緒になって、
「すみませんが、よろしくお願い致します」
と丁寧に懇願してくるようでは、蜜愛としても折れざるを得なかったのだろう。
「わかりました、修正します。最後の部分をなくせばいいんですね?」
最終的にお願いを受け入れてもらえた沙羅双樹は、喜びを顔いっぱいに浮かべ、蜜愛の両手をぎゅっと握って「ありがとう、ありがとう」と涙を流しながらお礼の言葉を繰り返し続けた。
そうやってブログを修正してもらったものの、結果として状況は好転しなかった。
最後の「ところで」以降が完全に削除され、「さて、次回はどうなるでしょうか。乞うご期待!」といった感じに書き直されているのを、宇宙人たち三人も確認していた。
にもかかわらず、沙羅双樹の部隊の隊長は倒れたままだった。
蜜愛の小説とは関係なく、偶然倒れただけだったのだろうか?
そう考えてしまうのは、時期尚早というものだ。
もしかすると、状況は変わらないどころか、悪いほうへと向かってしまっているのかもしれない。
そのあたりの作戦会議のため、宇宙人たち三人はまたしても、いつもの喫茶店に集まっていた。
「全然ダメじゃねぇか!」
怒りをあらわにしながら、クリームソーダに乗ったバニラアイスをがっつく獅子春人。
沙羅双樹は眉間にしわを寄せながらコーヒーをすすっている。
そして瑠璃月は、目の前にそそり立つスーパージャンボどら焼きタワーをうっとりと眺めていた。
単体でも前日に食べたホットケーキと同じくらいの直径があるドラ焼き。
あいだに挟まれたアンコの量たるや、はみ出した部分だけでも滝のように流れるほどだ。
しかもそれが、テーブルに置かれた大皿から重ねられて、首が痛くなるくらいまで見上げる高さに到達している。
倒れないための配慮なのか、重ねられたドラ焼き同士のあいだは、生クリームとスライスされたイチゴで埋められていて、頂上の部分も生クリームとイチゴでデコレーションされている。
「これこそ、わたくしの待ち望んでいたスイーツですわ!」
瑠璃月は心底嬉しそうに笑顔をこぼしながら、次々と口の中へと押し込んでいく。
どう考えても胃袋の何倍ものサイズに見えるそのスイーツを、苦しそうな素振りもなく食べ進める姿は、なんとも凄まじい迫力だった。
女性に対して凄まじい迫力というのも、失礼な話だが。
「まったく、見てるこっちのほうが気分悪くなっちまうぜ……」
「だったら見なければいいのですわ」
瑠璃月は口もとを隠しながら上品に噛む。
かぶりつくときには大口を開けているというのに、今さらなにを恥らう必要があるというのやら。
「それにしても……修正してもらったのに、なにも変わらなかったね……」
沙羅双樹のつぶやきで、話が本来の流れに引き戻される。
「ええ……。最初のアップ分で改変が起きる、ということみたいですわね」
やはり口もとを隠しながらの瑠璃月。
もっとも、その口の端っこには、生クリームがべっとりとくっついていたりするのだが。
「けっ! 厄介なこった!」
「今後はもっと、気をつけるべきですわね」
「そうだね。でもこのままだと、隊長が倒れているのにそれがなかったこととして進んでしまう気がする」
「放っておけばいいんじゃねぇか?」
「いや、さっき部隊のほうに連絡を取ってみたんだけど、伯父さんの容態はかなり悪いらしいんだ。修正分をもとに戻してもらって、次回以降の展開で隊長が元気になるという方向に導いていく必要があると思う」
「ちっ、面倒だな!」
「一旦お願いして直していただいたのに、今度は戻してほしいだなんて、聞き入れてもらえますかしら……」
「すまないけど、また協力してほしい」
難色を示すふたりに、沙羅双樹は素直に頭を下げた。
「……ま、仕方ねぇな」
「ええ、そうですわね」
こうして宇宙人たちは、再び蜜愛にお願いをすべく、喫茶店をあとにした。
なお、スーパージャンボどら焼きタワーの乗っていた皿が完全に空っぽになっていたのは言うまでもない。
「げぷっ……!」
「汚ねぇな!」
袖口で隠しながらも小さくゲップをしたのを見逃さなかった獅子春人が余計なツッコミを入れ、瑠璃月からの鋭い蹴りを食らっていたのもまた、言うまでもないことだろう。




