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いつもの喫茶店に、いつもの宇宙人三人組が集まっていた。
沙羅双樹の前にはコーヒーが、獅子春人の前にはクリームソーダが、瑠璃月の前にはスペシャルジャンボホットケーキが置かれている。
やけに気に入ったのか、クリームソーダの上に乗っかったバニラアイスをすくい上げながら、獅子春人が問いかける。
「でけぇな、そのホットケーキ! 何枚重なってるんだ?」
「たったの十六枚ですわね。少々物足りませんが、仕方がないでしょう」
「それで足りないのかよ。お前、底なし胃袋だな……痛てっ!」
「余計なことは言うものではありませんわよ、脳みそを失くした野蛮人さん」
「それこそ余計なことじゃねぇか……」
テーブルの下でつま先蹴りを食らった獅子春人は、愚痴をこぼしながらも反撃はせず、おとなしくクリームソーダを味わう。
口に含んだ瞬間、ぱーっと笑顔になるのが、顔や体格に似合わずとても可愛らしい。
単純、とも言えるだろうが。
「それでね、今日集まってもらったのは、大変なことが起こったからなんだ」
コーヒーにも手をつけず、ずっと沈んだ表情でうつむいていた沙羅双樹が、一心不乱に食べたり飲んだりしているふたりに向かって話し始めた。
「大変なことだと?」
「うん。僕の部隊の隊長が、突然倒れたんだよ。なんの前触れもなく」
「歳だろ」
あっさりと言ってのける獅子春人。
「いやいや、おじいさんとかじゃないんだから。獅子春人も知ってるでしょ? 僕の伯父さんでもある隊長」
「お~、あいつか~。キザったらしく前髪をかき上げる、いけ好かねぇ奴だよな!」
「なるほど……。あなたが一服盛った、という可能性もありえますわね」
「ねぇよ!」
すぐに騒がしくなってしまうのを、沙羅双樹が心なしか寂しげな声で制する。
「ごめん、瑠璃月さん。茶化したりしないで、真面目に聞いてほしいんだ」
「……すみません、調子に乗りすぎましたわね」
瑠璃月は素直に頭を下げた。
しかし獅子春人は場の空気を読まず、大声を響かせる。
「ま、お前んとこの部隊長が倒れたっていうなら、俺たちにとっては好都合だな! ここは一気に制圧して、地球を独占する権利を我が部隊の手に!」
「なにを言っているんですか。これだから脳みそのない人は嫌ですわ。今は『ゴッド』の調査が先決なときですのよ?」
瑠璃月がため息まじりにトゲのある言葉を投げかけるが、獅子春人の勢いは止まらない。
「だがよ、そもそもそれぞれの部隊の力が互角で均衡が保たれているからこそ、盟約を結んで調査に乗り出すことになったんだろ? だったら均衡が破られれば、盟約なんて破棄しちまっても構わないだろ!」
「それは一対一だった場合ですわ。盟約はわたくしたちの部隊も含めて三つの部隊のあいだで締結されておりますのよ? あなた方の部隊が約束をたがえれば、わたくしたちの部隊もそちらを敵とみなすことになります。さらには、他にも無数にいる部隊が、あなた方を排除する側に回ることでしょう」
「うっ……! そうなったら俺たちは……」
「一瞬で宇宙のチリになってしまうでしょうね」
ここまで来てようやく、獅子春人は口をつぐむ。
「ともかく、伯父さんが倒れたのも大変なんだけど、一番重要なのはそれが本当に起こってしまったってことにある」
「つまり、ゴッドの小説が実際に宇宙を改変した、ということですわね」
瑠璃月の言葉に、沙羅双樹は黙ったまま頷きを返す。
すでに三人とも、前日の夜に蜜愛がブログにアップした『かこまれたちきゅう』の最新話を読んでいた。
最後に蜜愛が思いつきで追加した部分、それが現実になっているのは紛れもない事実だと考えられる。
「ゴッドの小説によって、改変は確実に行われる。それに、昨日実際にあった出来事をもとにした話のあとに書かれている部分だから、おそらくその場の思いつきで追加されたんだと思う。とすると、やっぱり推測どおり、ブログとしてアップされた段階で改変が起きている可能性が高い」
沙羅双樹は、静かな声で分析を続ける。
他のふたりも黙ってそれを聞いていた。
「今後のことも気になるけど……。でも、ごめん。僕としては伯父さんを助けたいんだ」
「わかりました。そうですわね……所詮はブログなのですから、あとからでも修正を加えることは可能なのではないでしょうか?」
瑠璃月の提案に、沙羅双樹も頷く。
蜜愛からIDとパスワードを聞き出し、宇宙人たちが自らブログを修正することも考えた。
だが、簡単に教えてもらえるとも思えないし、無理矢理聞き出すにしても、それによって生じる悪影響のほうが心配だ。
ここは蜜愛本人に修正してもらうしかない。
宇宙人たちはそう結論を出した。
すぐ実行に移すことを決め、注文した品を胃の中へと流し込んでいく。
もちろん瑠璃月は、十六枚も重なっている上、フルーツクリームがいっぱい挟まっていて、なおかつ一番上にはイチゴと生クリームでデコレーションまでされたスペシャルジャンボホットケーキを、いともあっさりとたいらげていた。
「お前……太るぞ?」
余計なことを言った獅子春人には、容赦のない蹴りがお見舞いされた。




