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宇宙改変ブロガー 姫鷺”神”蜜愛  作者: 沙φ亜竜
第3章 蜜愛、狙われる。
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-1-

 清々しい朝の通学風景。

 そこに、軽やかな足取りで歩く蜜愛の姿があった。


 筆が進んで満足のいく内容の小説をブログにアップできた翌朝は、いつでもこんなふうに気分がよくなる。

 反対に悩みまくったりすると朝からどんよりしてしまうのだが。

 元来大雑把な性格の蜜愛だから苦悩することなどほとんどないし、たとえ心が曇っていても、たいていはすぐに日本晴れ状態へと戻る。

 それは蜜愛の性格ゆえでもあるが、毎日のように一緒にいる友人、ゆゆがいるおかげとも言えるだろう。


 今日も今日とて、ゆゆが現れる。

 いつものように、蜜愛の背後に迫る。

 だが……。

 普段とは違い、いきなり胸を揉み始めたりはしなかった。


「ん? あれ? ゆゆちー、おはよう~」


 基本的にぬぼーっと歩く、別な言い方をすれば鈍い蜜愛が、背後から近づくゆゆの存在に気づいて振り向き、挨拶を送るなど、これまでには絶対に見られない光景だった。

 一方、挨拶されたほうのゆゆは、やはりいつもとは違ったオーラを放っていた。


 底抜けに明るい元気いっぱい花丸印の女の子。

 それが凛々原ゆゆを的確に表すイメージと言えるのだが。

 今日は友人に対して胸揉み行為に出ることもなく、黄色い声を響かせることすらない。


 効果音をつけるなら、ゆらり、といった感じだろうか。

 やけにゆったりとした動作で、振り向いて立ち止まった蜜愛へと歩み寄ってくる。


「ゆゆ……ちー?」


 首をかしげる蜜愛。

 その首に、静かにゆゆの両手が伸ばされていく。


「ふぇ……?」

「あんた……殺す!」

「ふええええっ!?」


 蜜愛のかしげられていた首は、ゆゆの白くて細い両手によって締め上げられ、まっすぐになっていた。


「ぐぐぐ、ぐるじい……! ゆゆちー、どうして……?」

「なによ、あの小説! 思いっきりあたしじゃないの! 変態ってなんだ! それに、誰が汚らわしいのよ! しかも、あだ名そのままって! ……ミッツ、殺す!」

「ぎゃう、やめて~、どこか別の世界に行っちゃう~~!」

「お前なんか、どこへでも行ってしまえ!」


 そう言いながらも、殺人犯にまではなりたくなかったのだろう、ゆゆは蜜愛の首から手を離した。


「げほっ、げほっ! ゆゆちー、ひどいよ~!」

「ひどいのはどっちよ!」

「でも、ほぼ事実だと思うけど……」

「創作小説に事実を書くな!」

「なによ~。沙羅さんのこと、気に入ってるみたいだったから、キスまでさせてあげたのに~」

「扱いがひどいって言ってんの! あたしの口は汚くて、あんたの口は綺麗って、どういうことだ!」

「え~? だって、事実……」

「事実じゃない! だいたいあんたのほうこそ、口臭すごいじゃないの!」

「ええ~~? そんなことないでしょ~? ひどいなぁ、もう。ただちょっと、歯みがきするのを数日くらい忘れてるだけだし~」

「冗談のつもりだったのに、ほんとにひどそう!」


 なんだかんだと、結局は普段と変わらず、騒がしくなっていくふたりだった。

 当然ながら今いる道には通学中の学生の姿も多く、視線を向けられたりはしているのだが。

 こんなふたりの様子はそれこそいつもどおりなので、誰も気してはいないようだ。


「そういえばさ、最後のアレはなによ?」

「えっ? ああ~、隊長さんが倒れたって話?」

「そうそう。それも事実だっていうの?」

「なんとなく、思いつきで追加しただけだよ~。事実かどうか以前に、沙羅さんたちが宇宙人だなんて、そんなバカな話からしてありえないでしょ~?」

「でもさ、たとえば故郷の親戚が倒れたとか、そういった話を聞いたのかな~って思って」

「そんなことないよ~。次回への引きって、必要なものでしょ? だから追加してみたってだけだよ」


 そのなにげない追加によって、宇宙人たちを大いに悩ませることになっているとは、蜜愛はまったくもって気づいていなかった。

 と、蜜愛が不意に、きょろきょろと周りを見回し始める。


「ミッツ、どしたの?」

「うん……あのね、なにか変な視線みたいなのを感じた気がして……」


 蜜愛は不安げに声のトーンを落としながらも、周囲に視線を巡らせ続けていた。

 ゆゆも注意して確認してみるが、通学途中の学生たちがいる以外、とくに変わった様子は見当たらない。


「考えてみたらあんた、すごく鈍いんだから、視線なんて感じられるわけないじゃん!」

「そ……そうかなぁ……?」

「そうだって! そもそもこうやって大声で喋ってたら、ちらちら見られたりもするってもんでしょ!」

「う~ん……でも、そういう視線とは違った気がするんだけど……」

「それこそ、鈍いミッツなんかにわかるわけないじゃないの!」

「なるほど……それもそうね」


 ここで納得してしまう蜜愛もどうかとは思うが。

 ともかくふたりは、気のせいだったと結論づけ、さらに会話を続けていった。


「そうだ。コメントもすごいの来てたよね!」

「えっ? どんなの? 私、書いたあとすぐ寝ちゃうから、コメントの確認は放課後になってからなの~」

「朝読んだりはしないの?」

「だって朝って時間ないじゃない? 起きるのって、どうしてもギリギリになっちゃうし~」


 その言葉に、ゆゆは大きく頷き納得顔。

 どうやらそのあたりは、ゆゆも同類のようだ。


「それで、すごいコメントってのは~?」

「ほら、宇宙王子さんよ! あの人のコメント、『唇を奪われなくてよかったです! でも痛姫様、サラードとかいう奴のことを好きなんですか?』って感じだったよ? コメントっていうか、質問だけど」

「え~? なにそれ~。小説の中の『私』は、私自身とは違うのに~」

「まぁ、わからなくもないけど、頭の中でごっちゃになってるんじゃない? どうでもいいけど、コメント多いよね、あの人」

「毎回楽しみにしてくれてるみたい。コメントまでもらえるのって、やっぱり嬉しいよ」

「それにしたって、のめり込みすぎじゃない? むしろ、『痛姫様』に恋してるくらいの勢いかも。もしかしたら、ヤバい人かもしれないよ?」

「そんなふうに言ったら悪いよ~」

「でもさ……」


 そこで突然、真面目な表情に変わるゆゆ。


「実際のところ、どうなの?」

「えっ? なにが?」


 蜜愛はキョトンと目を丸くする。

 ゆゆはそんな蜜愛に、ずいっと顔を近づける。


「沙羅さんのこと、好きなの?」

「いや、カッコいい人だな~とは思うけど、べつに好きとか、そんなのは全然……」


 友人からの不意打ちの質問に少々呆然としてはいたものの、焦ったり恥ずかしがったりといった様子もなく、平然とした答えが返された。

 ふ~っと、ゆゆは息を吐き出す。


「そっか、よかった。宇宙王子さんじゃないけど、あの小説を見たら勘違いしちゃうわよ。あたしだって、あんたが沙羅さんを好きなんじゃないかって思って、気が気じゃなかったんだから」

「あれ? ゆゆちー、本気なんだ」

「わ……悪いっ!?」

「ううん、いいけど」


 真っ赤になっているゆゆを、蜜愛はほのぼのとした目で見つめていた。

 ただ、すぐに反撃を受けることになる。


「えいっ!」

「えっ!? ちょっと……あんっ!」


 ゆゆが蜜愛の胸を揉み始めたのだ。

 これはふたりにとって、毎朝の恒例行事のようなもの。

 ゆゆがそう考えているかは不明だが、ようやくここでその恒例行事が実行されることになった。


「なにせ小説を見る限り、あたしはミッツの豊満な胸を羨ましく思ってるらしいからね! 吸い取ってやる!」

「そこ、根に持ってるの!? っていうか、やめて~! 吸い取られたら、なくなっちゃう~! かろうじてBカップなのに~!」

「そんなあってもなくても変わらないもの、なくなってしまえ!」

「イヤぁ~~~! なくなったら、ほんとに板胸になっちゃう~~~~!」


 朝の通学路にはやっぱり今日も、女子高生の騒がしい声が響き渡っていた。

 とはいえ、それもすぐに消え去ってしまう。

 周囲には通学中の生徒の姿が見えなくなっていて、お約束どおり予鈴のチャイム音が聞こえてきたからだ。


 そんなわけで、ふたりはまたしても、学校まで全速力で走る羽目になるのだった。


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