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『かこまれたちきゅう 第12話』
私にはお友達がいます。とっても仲よしです。
女の子同士ですが、いきなり胸を揉まれたりします。
私は恥ずかしいから嫌だと言っているのですが、全然聞き入れてくれません。
そのお友達は、ちょっと変わった子なのです。
きっと、私の豊満な胸が羨ましくて、揉んで吸い取ろうとしているのだと思います。
それはともかく、宇宙人たちは今日も、私の前に現れました。
私を妻にしようと、毎度毎度、目の前でバトルを繰り広げます。
嗚呼、また私のせいで、この人たちが争ってしまうのね。
そう思って罪悪感に打ちひしがれながらも、止めに入ることはできません。
あまりにも激しい戦いだからです。
止めに入った時点で、私自身が吹き飛ばされてしまいます。
宇宙人のエリートである三人が息をもつかせぬ早業で戦い続けている光景を、私は黙って眺めることしかできませんでした。
視線だけで三人の姿を追います。
やっぱり、サラードさんはカッコいいです。
拳や足を繰り出しすたびに長髪が風になびいてダイナミックに弧を描く様子は、まるでアニメの世界みたいに思えました。
ですが、宇宙人同士の戦いがそう簡単に終わるはずもありません。
レオンさんは、やたらめったらに自慢の筋肉を活かした力技で相手をねじ伏せる構え。
そしてルナさんは、裾の長い着物を振り乱し、優雅な舞いを踊るかのように華麗なる動作で戦っています。
一対一の戦いではなく、三人がそれぞれ残りのふたりを相手にし、同時に撃退しようと考えているのです。
相手のうちひとりだけに集中すれば、残されたもうひとりがフリーとなり、不意打ちを食らってしまう可能性がありますから。
そんな宇宙人たちの戦いを見つめる中、いきなり私の背後から新たなる刺客が現れました。
「えいっ!」
「あんっ!」
いえ、刺客でもなんでもありません。それは私のお友達――由々香でした。
背後から音もなく忍び寄り、胸を揉んできたのです。
「ちょっと、ゆゆちー、やめてよっ!」
「いいじゃんか! 減るもんじゃあるまいし! げへへへへ!」
「ああ、もう、ゆゆちーってば、相変わらず変態~!」
と、こんなバカなことをしている場合ではありませんでした。
目の前ではサラードさんたち宇宙人三人の戦いが続いています。
ゆゆちーに胸を揉まれながらも、激しい攻防が繰り広げられているのを目で追っていると――。
不意に、胸を揉まれる感触が消えました。ゆゆちーが私から手を離したのです。
「あの人……」
「えっ?」
「あの人、カッコいい……!」
そう言ったゆゆちーは、目をハートマークにしていました。
とてもわかりやすく、ひと目惚れしてしまったようです。
そんなゆゆちーの視線の先にいるのは、長髪をさらりと揺らすイケメン、サラードさんでした。
レオンさんにひと目惚れなんてありえませんし、ルナさんは女性なのですから、当たり前ですよね。
「ちょっとあんた! あのカッコいい人、あたしに紹介しなさいよ!」
「紹介って言われても……」
私自身も、名前以外に知っていることなんてありません。
とりあえず、名前だけは教えておきました。
ただ、私を妻にしようとしているなんてことは話していません。恥ずかしいですし。
「サラードさんかぁ……」
真っ赤な顔でつぶやいたと思ったら、すぐにゆゆちーは行動に移していました。
目にも留まらぬスピードで、サラードさんに抱きついていったのです。
「な……っ!?」
「にゅふふふふふ!」
いきなり飛び出してきた女の子に抱きつかれ、サラードさんは困惑していました。
ゆゆちーは変態なので、自ら体をこすりつけて誘惑し始めます。
ほとんど膨らんでいない胸では、色仕掛けにもならないと思うのですが……。
それでも、まだ策はあるとでも言いたげに、ゆゆちーはさらなる行動に出ます。
なんと、サラードさんの唇を奪ったのです!
ぶちゅうううう~っと、思いっきり音を立てながら!
とはいえ、ゆゆちーの攻勢もここまででした。
一瞬目を丸くしてはいたものの、レオンさんやルナさんも、サラードさんと戦っている真っ最中だったのですから、それは当然の結末だったと言えるのかもしれません。
「き……貴様! 邪魔すんじゃねぇ~!」
「な……なんてことを! 破廉恥ですわ~!」
レオンさんとルナさんがそれぞれに叫び声を上げ、ゆゆちーを蹴り飛ばしたのです。
「あ~~~れ~~~~~!」
マンガみたいにクルクルと回転しながら、空の彼方まで吹っ飛んでいったゆゆちーは、そのままキラリンと光ってお星様になってしまいました。
さようなら、ゆゆちー。
合掌します。
もっとも、打たれ強いゆゆちーのことだから、死んではいないと思いますが。
「くそっ! 変な邪魔が入って興ざめした! 今日のところは帰ることにするぜ!」
「わたくしも、そう致しますわ! まったく、おかしな人もいたものですわね!」
日没を待たずして、レオンさんとルナさんが去っていきます。
それに続いて、サラードさんも……と思ったのですが、サラードさんは私にゆっくりと近づいてきました。
すごくフラフラとした、覚束ない足取りで。
「サラードさん、どうしたんですか?」
「キミという者がありながら、僕はあんな汚らわしい女に唇を奪われてしまった……」
「サラードさん……」
私を妻にしたいというのは、神に仕立て上げるのが目的だとばかり思っていたのですが。
どうやらサラードさんは、本気で私のことを想ってくれていたみたいです。
「気にしなくてもいいですよ、あれは私のお友達ですから。ふふっ、ちょっぴり妬けちゃいますけどね」
「でも僕は耐えられないよ……。あんな女の汚い唇がくっついていただなんて……。だからキミのその綺麗な唇で、僕の汚れてしまった口を浄化してほしい」
「え……?」
それって……私にキスしてほしいってことなのでしょうか?
ゆゆちーとのキスが、本当にすっごく嫌だっただけかもしれませんが……。
とってもカッコいいサラードさんが相手なら、初めてのキスを捧げてもいいかも、といった思いがなかったわけではありません。
ですが、ここでキスしてしまうのは少々問題があります。
なぜなら私は、キスをするのは絶対に旦那さんだけと決めているからです。
私を妻にしようとしているのですから、サラードさんが他のふたりの宇宙人に勝ったあとなら問題ないと言えますが、今はまだダメなのです。
それなのに、私は拒絶することができませんでした。
サラードさんの凛々しいお顔が迫ってきます。
ぱっと見だけなら女性にも思えるほど、白くてすべすべした肌――。
バサッと音がしそうなほど、長いまつ毛――。
すーっと筋の通った、形のいい鼻――。
ツヤツヤとして柔らかそうな唇――。
甘い吐息の吐き出されるその唇が、私の唇に近づいてきます。
あと三センチ、二センチ、一センチ――。
ああ、ここでファーストキスを奪われてしまうのね……。
私は覚悟して目をつぶったのですが。
柔らかな感触は、いつまで経っても伝わってきませんでした。
目を開けてみると、サラードさんの姿がありません。辺りはすっかり、薄暗くなっていました。
「あ……。日没で強制転送されちゃったのね……」
私は唇に指を当て、しばらくのあいだ呆然と立ち尽くすのでした。
ところで。
ゆゆちーによって心を乱してしまったサラードさんでしたが、そのせいで思いも寄らない危機が訪れてしまいます。
サラードさんが所属するアンドロメディアンは、地球を取り囲んでいる部隊の中では一番近い場所――月の裏側に潜んでいるのですが。
その部隊の隊長さんが、突然なんの前触れもなく倒れてしまったのです。
原因はサラードさんの心の揺らぎにありました。
エリート宇宙人三人は強い戦士である反面、精神的な動揺が仲間にまで影響を及ぼしてしまうという弊害があるのです。
自分のことを可愛がってくれた隊長さんが倒れたのは、サラードさんにとってすごくショックな出来事でした。
その事実を知ったサラードさんの心は、さらに揺らいでいくことになります。
揺らぎスパイラルです。
サラードさんがどうなってしまうのか、そして私との関係はどうなっていくのか……。
それはもちろん、次回以降、乞うご期待です!




